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季節高校生

goro

月夜の雪





PM・19:30




鍵谷は今、目の前の青年に目を離せずにいた。
その青年は黒をイメージさせる銀色のリングをあちこちにつけた皮ジャンを纏い、鍵谷を守るように前に立っている。


「……………あ」
「ん?」


鍵谷は声を掛けようとする。だが、それよりも早く青年は鍵谷に振り返り、そのサングラス越しの鋭い瞳で鍵谷を睨み付けた。


その瞳に恐怖は感じない。
しかし、どうしてか。声が出ない。
沈黙してしまった鍵谷。そんな彼女に青年は、




「………似てるな」


え? と眉をひそめる鍵谷。だが青年は言うだけ言うと視線を鍵谷から外し、目の前にいる男に青年は息を吐いた。




「ぐッがァァァァ!!」


唸り声を獣のように上げる。
青年の向かいにいる男からは遠くから見ても、敵意がみなぎっているのが分かる。




「……竜崎、そいつ以上よ」
「んなことは見りゃ分かる」


青年、竜崎は笹鶴の言葉を軽く返す。
そして、服の袖。その一部分にアクセサリーとして付いていたリングを掴み、引きちぎるように服から外す。


「さっさと終わらせるぞ」


銀色に輝くリング。
竜崎はそのリングに指を通し、見ている方からでは指輪をはめたようにしか見えない。


「行くぜ、ッ!!」


竜崎はそう宣言すると一気に地面を蹴飛ばし、同様に獣のような男も地面を蹴飛ばし走り出しす。








二つの影。
それがその瞬間、同時に重なり、その直後。


















ボキッ!! と。
小さな骨をへし折る音が放たれた。




「ッ!?」


あまりの生々しさ。
鍵谷は口に手を当て吐き気を堪える。
そしてさらに、




「がァああああああああああああああ!!」


獣のような男の叫びがその場に響き渡り、それはまさに勝利の雄叫び。










かに思えた。


「いちいち騒ぐんじゃねえよ」


冷静を纏った竜崎。その足場には、ジャリ、と数個のリングが落ちている。
衝撃で取れたのか。そう思っても無理はなかった。だが、リングは竜崎が動いたと同時にズズッと地面をこすり動き出す。




よく見ると、リングの輪の部分。
そこには細い釣糸のような糸が巻かれていた。
そして、その糸は竜崎の着る服に繋がっている。




竜崎は溜め息を吐きながら、男に振り返る。








鋭い視線は、叫び続ける男の指。
真逆に折れ曲がった数本の指を見続けていた。




「ァ、ァァァ、ァァァ!!」
「いい加減にうるせぇよ」


竜崎は男に近づき、足を振り上げ蹴り放つ。
腹に激痛が走り、男は腹に手を当てながら苦しむ。


「さぁ、答えろ」


しかし、その光景に竜崎は全くとして同情しない。
さらに男の背中を踏みつけ竜崎は口に開く。






「テメェらは何を狙っている。金か? 女か? 喜びか? それとも」








内容に意味はない。
ただ、間違いを男にわざと伝え、その男の口から出る有益な情報を手にする。


じっと、竜崎は籠る力を抑えその時を待った。
そして、やっと出た男の言葉。


それは、


















「し……しき……そう………こ」


















その言葉が竜崎の耳に届いた。
瞬間に竜崎の瞳孔は見開き、それに続くように強烈な蹴りが男の顔面に炸裂した。


「…!?」
「チッ………」






男の体は後方に転がり、小さな悲鳴を上げる鍵谷。








竜崎はその地面に倒れた男に、ゆらゆら、と近づく。


息の根を止める。




そう言っているかのように思えた。




だが、












「やめて!」






竜崎の目の前に新たな影が現れた。
それは更なる強敵でもなく、仲間でもない。




気弱な細い腕、一瞬で潰れてしまうかもしれない脆弱な体。
だが、その瞳に宿る決意は弱くない。
その影、鍵谷真木は倒れる男を庇うように竜崎の前に立つ。




「……何のまねだ?」


竜崎は鋭い目付きで鍵谷を睨み付ける。
普通なら誰もが後退りを見せるだろう。
しかし、鍵谷は一歩も動かない。
怖じけずきもしない。
震える唇を堪え、鍵谷は声を出す。


「いくらなんでもやり過ぎよ。…これ以上やったらこの人死んじゃうじゃない!」
「………ああ、死ぬかもな。だが、それがどうした?」


竜崎は髪をかきながら呆れた表情で口を開く。


「第一、笹鶴が助けに来なかったらお前が死んでたんだ。それなのに何でそいつを守る」
「それは」
「酷いからか、限度を越えてるからか、人だから。……ざけんなよ、そんな何の価値もねぇ男に何があるてんだ。こいつはもう何人も無関係な野郎共を殺してんだ。そんな奴に生きる価値なんてないだろ!」
「………」
「それとも何か? 見逃せってか。また殺しをしに行ってくださいって手を振って送り出すのか? んなこと」
「……見送るつもりなんてない」
「…………あん?」


口上を遮った言葉に鍵谷を睨み付ける竜崎。




「確かに後ろの人が無関係な人たちを殺したんだと許せない」
「…………」


だけど、と鍵谷は唇を動かし言う。






「私はそんな人のためにあなたに人殺しになってほしくない」
「!?」


その瞬間。
竜崎はその言葉に耳を疑いかけた。


最初、この女は男を庇った。
何の考えもなく、ただ前に出てきた。


どうしよもない、平和な凡人。




そう思った。


だが、今。
男をではなく、敵対の言葉をぶつけた男に手を染めてほしくない。


そう言ったのだ。




そして、その瞬間に女の顔が確かに被さった。












そう、過去の少女に……。
その直後。竜崎の中で何かが切れた。


「……何だ、それ」
「え?」


その言葉に眉をひそめる鍵谷。






「……その顔……、イラつくんだよ。ムカつくんだよ。腹が立つんだよ……。フザケンじゃねえぞ、何が人殺しになってほしくないだ……」


竜崎は歯を噛み締め、胸に募る怒りが収まらない。
そして、ついには、




「テメェが、テメェがいるからアニキが今も苦しまなくちゃならないだぁ!!」
「!?」




鍵谷の目が見開く。
竜崎が口にした言葉の意味。
それが誰に対しての言葉かわからない。
だが、その言葉には並々ならぬ怒りが確かに含まれていた。




まずい…、と。
笹鶴は暴走状態の竜崎に向かって走り出す。






今、この状況ではいつ藪笠の名前が出るかわからない。
そして、その事は彼女にだけは知られてはいけない。






ごめん、と。笹鶴は竜崎の背後に走り出し、木刀を振り上げる。


その時だった。










「が、がァァァァァああああああああああああああ!!」






雄叫び。
その声とともに鍵谷の後ろにいた男が動く。


「ッ………」




咄嗟の出来事に鍵谷は反応できない。
後ろに振り返る。
その動きがまるでコマ送りのように動く。








笹鶴と竜崎、二人も動く事は出来なかった。










そして、振り返り鍵谷が見た。
それは、最後の光景。


だった。


















「四季装甲、冬」










瞬間。
その光景を打ち砕いた一つの手のひら。
そして直後に起きる。


















「雪調」










ドォン!! と。
襲いかかる男の姿は一瞬にして付近の壁に激突した。
不死身並みだった男は白目をむき、沈黙するように倒れる。






「……」


それに続くようにその場に倒れかける鍵谷の体。意識はすでになく、完全に気絶していた。
そして、そのまま鍵谷の体が地面に倒れる。
だが、その体を一つの影が受け支えた。






「春香、それに牙血」


影は静かな口調を放つ。
その一言、ただそれだけなのに威圧感がその場一体に広がる。
竜崎は震えた腕を抑え、その影の名前を口にした。








「あ、アニキ…」


藪笠芥木。
まるで小物を見るかのように藪笠は竜崎を睨み付けた。


「……………」


沈黙。
それがより威圧感を高める。
だが、


「………さっさとずらかるぞ。そろそろ察が来る」


溜め息を吐きながら藪笠はそう口にする。
その言葉に驚く竜崎と笹鶴。








気絶した鍵谷を藪笠は背中に背負い歩き出す。










そうして、月夜の夜は静かに終わった。







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