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季節高校生

goro

実践稽古?2





その急激な変化を浜崎は敏感に感じた。


さっきまでは、全くとして何も感じなかった目の前の少年。
だが、その変化……いや雰囲気か、


「…………」


どこか普段、稽古をつけてもらっている笹鶴春香に似たような感じがする。
だが、同時に好都合だと思った。
これで、心のそこにあった戸惑いがなくなった。
遠慮なく行ける。




浜崎は静かに息を吐き、そして、


「やあああああああああああ!!」


素早く、しなやかに籔笠との間合いを詰め、一直線に振りかぶった竹刀を叩き落とす。




「……………」


竹刀が迫ってくる。
籔笠は片手に持った竹刀を盾のように突きだし、その瞬間。


「ッ!?」




バタン!!と音をたて、気づけば浜崎の体は前に勢いよく倒れている。




何が起こった?




浜崎自身の自分の体に何が起こったのかわからない。
ただあるのは竹刀と竹刀が接触した感触と薄く残った背中に何かが当たった感触。


体を起き上がらせ、後ろに振り返る。そこには、


「!?」




冷たい。
まるで見下すかのような瞳がそこにある。


片手に竹刀を持ち、今だ剣道の構えすら見せない。
ただ、足元だけは剣道通りの摺り足をしている。




その事に、浜崎は嘗められている事が重々と理解した。


「ッ、やああああ!!」


直ぐ様立ち上がり籔笠に竹刀を振り下ろす。
今度は竹刀を持った片手を動かし、受け流すように一撃一撃を交わしていく。


両手など使う必要はない。


まるで、そう言われているような気がしてならない。
浜崎は声を上げながら体を限界まで動かし、その打ち合う音は数分続いた。


















「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」


音が止み、聞こえるのは浜崎の吐息ただ一つ。
一方の籔笠は全く息をつく様子はなく、ただただその冷たい瞳を向けるのみ。


浜崎は歯を噛み締め、重心に力を込める。


次で決める。




浜崎は床を片足一つで力強く飛び、声を上げ、


「小手面胴ッ!!」


バシッバシッバシュッ!!


二撃。それは確実に籔笠の持つ竹刀に防がれる形で直撃した。
だが、三撃目。一体、何が起こった。


最初、当たった感じがあった。しかし、その直後に当たっていた竹刀はすり抜け、同時に目の前にいた籔笠の姿はない。




防具を被っているなら見失うのもわかる。
視界が狭まる分、隣に避けたのを見れなかったのかもしれない。
だが、今。
籔笠もだが、防具を被ってもすらいない。


理解ができない。


数秒、浜崎の体はその驚きに固まる。




コツン。


だが、直後にきた。ほんの少しの衝撃が頭に当たる。


「……………」


浜崎は目を見開き、後ろに振り返ろうとした。
だが、その行動すら籔笠の口から放たれた言葉に遮られる。




「基礎は上々」




まるで機械が喋っているかのような声。


「飛び込みも悪くない。一撃一撃もしっかりと狙えていた」


褒めているのか…。
だが、そんな感情のこもっていない声で何を言われようが、全く嬉しくもない。


こんなくだらない話は止めだ。
浜崎は声を上げ、籔笠の口上を止めようとした。しかし、


「ただ、一手一手の集中が甘い」
「ッ!」


その言葉に浜崎の口が固まる。


「息切れから姿勢が崩れ過ぎてる。考えてやれとは言わない。ただ、まだまだ体力がない証拠だ」
「……………」
「もう一回、最初から稽古するならまずは体力からだ。……そのままだとどれだけ稽古しても延びる所かいつか落ちるぞ」
「………………」




静寂。
説教じみた声が止むにつれて静かにその場に漂う。


浜崎の頭に当てていた竹刀を下ろす籔笠。
そして、やっと初めての重い息を吐く。


さらに、その行動と共にさっきまでの冷たい瞳は普段の穏やかな瞳に戻る。


「ふぅ……まぁ、こんな所だろ」


籔笠は腰に手をつき、後ろから観戦していた笹鶴に振り返り、


「春香、これでいいのか?」
「うん、ありがとう」


笹鶴は満足そうに口元を緩めた。




これ以上は勘弁だからな、と籔笠は笹鶴の元に近づき、竹刀を渡そうとする。


「あ………」
「?」


だが、そこで籔笠は首をかしげた。
さっきまで口元を緩めていた笹鶴の顔がひきつり、青ざめている。
しかも、視線は籔笠ではなくそのまた後ろの方向。






嫌な予感。






ギギギ、という音でも出すかのように籔笠は後ろに振り返る。
そして、その光景に籔笠は一気に顔を青ざめた。






「ッ、ヒクッ………ヒクッ…」








ポタポタ、と水滴を床に落とし、しまいにその場にしゃがみ込んでしまう浜崎の姿。
籔笠は急いで浜崎に駆け寄り、


「え…あ、…いや…浜崎。お前、そんなキャラじゃ」
「グズッ!……ヒクッ!」
「あわわわ……お、おい、は、春香!!お、おま、泣いちまったじゃねえかッ!?」










やたら慌てまくる籔笠。
どう声をかけたらいいのかわからない。
すると、その時だった。


「春香さーん!一緒に遊びましょう………………………」
「…………………」
「…………………」
「ッ、ヒクッ………グズッ……」






………………………………………物凄いタイミングで来たよな。




ピンク一色の水着をつけ、髪を後ろに縛った鍵谷真木。
その後ろではパーカーを羽織った薄黄色の水着を着た島秋花の姿も。




彼女たちから見て、今の状況はどう映っているのだろう、か……。


「………………」
「………………」
「………………あ、誤解だから……だからそんな睨まれても」


島秋と鍵谷の冷たい視線が籔笠に集中する。


物凄く痛い。
特に胸が。






「籔笠」
「…はい……」
「……そこに正座」
「………………」


ズズズッ、とどこから出したのか。
鍵谷がそう言いながら指さした所に視線を向けるとそこには、うんしょ…うんしょ…、と島秋がゴツゴツした細長い岩板を運んできている。




「…………………」
「……正座」
「………あ、鍵谷」
「正座。それともサメの餌になる?」
「…………はい。正座します」


















こうして、午後の夕焼けが出る頃まで、籔笠は女子二人にダブル説教をされるはめになるのだった。







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