季節高校生
実践稽古?1
別荘の裏手。
地面が削られ、ちょうどそこには茂みに隠れたコンテナみたいな空間のある場所があった。
そして、その中に、
「…………」
少年、籔笠芥木がいた。室内には散らばったネジ。何かわからない機材。スプレーにガソリンなどが置いてある。
だが、それらを無視して籔笠はただ一つの物を見ていた。
それは真っ赤な獣を連想させる。
赤いフレームが本体を守るべく周りに装着され、その大きさは大型に匹敵する。
真っ赤な赤き閃光を漂わせそうな一台のバイク。
籔笠はその一台を眺め、顔をしかめた。
そしてその顔がどこか哀しみを漂わす。
「中身は結構新品にしたのよ」
その時、背後から笹鶴の声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには腰に手をつけ歩いてくる笹鶴春香の姿がある。
「もう、先々一人で行くんだから」
「ああ、悪かった」
籔笠はそっとその一台に触れる。
まるで久し振りにあったことに挨拶をするように。
笹鶴はそんな光景に薄く笑い、
「普通の最大時速は大体100キロ。全体は頑丈な鉄で仕上げてあるから」
「……鉄って、ん?普通は?」
その言葉に眉をひそめる籔笠。
「ちょっと仕掛けがしてあるのよ」
それに対し子供のようにいたずらめいた笑みを見せる笹鶴。
籔笠はムッとしながらバイクの周りを観察する。
少しは興味があるのだろう。
顔をしかめながらある程度、バイクのフレームを見る。
そこで不意に籔笠は尋ねた。
「でも、これ何かゴツくない」
「だって重さ200キロぐらいだもん」
…………………………………
すっ、と観察を止めた籔笠はそこらに落ちていたハンマーを持ち上げる。そしてそのまま躊躇なく笹鶴に近づき、その頭に。
「ストップ!ストップッ!?」
ガシッと白羽取りで降り下ろされたハンマーを受け止める笹鶴。
籔笠は眉間にシワを寄せながら口を開く。
「普通に考えておかしいだろ。つか限度を考えろ」
「だ、大丈夫、大丈夫ッ。余分なパーツ外したら50ぐらい減るからッ!?」
なんも、解決してねぇだろうがッ!!と、
ゴン!!と、その直後。
そんな音が地下に鳴り響いた。
「全く……………」
溜め息を吐きながら、一階の道場にたちよる籔笠。
すると、道場から、シュッ、シュッ、と音が聞こえてくる。
視線を道場内に向けるとそこには一人竹刀を降り続ける浜崎の姿があった。
そして、別に気になるつもりもないが海の方から鍵谷たちのはしゃぎ声が聞こえてくる。
籔笠は小さく息を吐き、靴を脱いで道場内に足を踏み入れる。
「お前は遊ばないのか?」
「…………私は練習に来たのよ?遊ぶために来たわけじゃないわよ」
浜崎は素振りを止め、汗を胴着の袖で拭いさる。黒の胴着は肩辺りから背中まで汗で濡れており、余程素振りに力を入れていたんだろう。
籔笠はそんな浜崎に苦笑しながら、道場内の隅に歩き、そこで腰を下ろした。
そして、入口からは頭を抑えやや拗ねぎみの笹鶴が入ってくる。
浜崎はそんな笹鶴に首をかしげながら口を開く。
「春香先生。そろそろ教えてくれませんか?」
「ん?」
「今回すごい人が教えてくれるって言ってましたよね。誰なんですか?」
すごい人?はたから聞いていた籔笠は眉をひそめ、一方の笹鶴はというと、
「ん?ああ。それなら、あそこ」
「あそこ?」
笹鶴がそう言いながら指を差し、浜崎もその指の方向に視線を動かす。
そして、その指の先には。
籔笠芥木が…。
「………………」
「………………」
……………………………………?
数秒の沈黙。だが、反論は直ぐに出た。
「春香先生。冗談も大概にしてください」
「春香。お前、何勝手なこと」
眉間にシワを作る両者は同時に口を開く。しかし、笹鶴にいたっては、
「いいじゃない。たまには」
「春香先生!」
自身に向けられた言葉じゃないことに声をあげる浜崎。
期待していた分、怒りが大きかったんだろう。
浜崎は笹鶴に近づき、さらに声を上げようとする。だが、
「玲奈」
「ッ!?」
突如、さっきまでの和らいだ声と全く違う、真剣な声に声をつまらせる浜崎。
視線をゆっくり上げるとそこには、
「………一回騙されたと思ってやってみなさい」
口元を緩める、真剣な笹鶴の表情があった。
笹鶴の指示通り、浜崎は竹刀を片手に目の前に立つ竹刀を持った籔笠を見ていた。
胴着にすら着替えない籔笠に少々イラつきがあったが落ち着くべく、小さく息を吐く。
「…………」
籔笠は集中力を高める浜崎を見て、溜め息を吐きながら後ろに立つ笹鶴を睨み付ける。
「お前、最初から計画してやがったな」
「まぁまぁ、後で何かおごるから。それよりも………………籔笠。秋でお願い」
「………」
その言葉に口上を詰まらせる籔笠。
「………いいのか?」
「ええ。後、よかったら指摘もしてあげて」
厳しい言葉だと思った。だが、これが今回一人の少女、浜崎玲奈を教えるに辺り、欠かせないことなのだろう。
知っているからこそ確信できる。
そして、籔笠は思った。
彼女は、どこまでいってもその優しさを変えることはない、と。
口元を緩め腰に手を当て浜崎を視線を向けた籔笠は、一度目を伏せ、小さく息を吸い、
「…………はぁ」
深く息を吐く。
そして、その目をゆっくりと開けながら、
「四季装甲、秋」
籔笠はその言葉を、
「清風」
冷たい瞳を開け、口にする。
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