季節高校生

goro

予定



警察署での事情聴取を終えて、日にちが経ち現在、曜日は火曜日。










「あやしい」


島秋花はそう呟く。
場所は教室。
そして、島秋の向かいに座るのは、


「……………な、…何のことかなぁ……?」


絶賛、追い詰まれ中の鍵谷真木。顔には冷や汗が浮かんでいる。


ここ最近、あっちゃこっちと顔色を変えていた彼女。
島秋も今の彼女の顔色が以前のあのぶちギレ状態から普段通りに戻っていることにはよかったと思っている。
が、


「何のこと、ってこの4日間の休みのことだよ!家に行っても遊びに行ってるって藍さんは言うし、月曜日なんか警察所に行くから休みって、真木ちゃんそれはいくら何でもあやしいよ!」
「ぅぐ…………」


完璧な正論です。
言い訳を考えかけていたのが瞬殺で潰された。
後ずさりそうになる鍵谷。
そんな鍵谷に止めとばかりに側で聞いていた浜崎が口を開く。


「そうよね。アンタはともかく籔笠も、っていうのはちょっと怪しすぎるわよね。それと、真木。アンタちょっと顔がにやけてるし」
「えッ!?」
「嘘よ。というか、何か良いことでもあったわけ?警察何かに捕まったっていうのに」
「ッ!?な、何もないよ!何も!!…………って捕まってないから、私!!」


しばし、思考が止まりかけたが直ぐに浜崎の言葉に食らいつく鍵谷。
と、そんな賑やかな中、


「おーす……」




眠たげな表情を浮かべる籔笠が入ってくる。
若干、髪の毛が逆立っている。


「あ、籔笠くん。おはよう!」
「んー、おはよう」


島秋に軽く挨拶を送ると籔笠は席につくと同時に爆睡体制を取ろうとした。


その直後。
















ゴォォン!!というバカデカイ音が鳴り響く。


「……………」
「……………」


島秋と鍵谷が茫然と固まる。そして、






「………………」




後ろに体を反らし、寝ぼけた表情が一気に驚いた表情に変わっている籔笠。


目の前には一本の長細い棒が机に向かって叩きつけられている。
まぁ、棒という表現より正確に言えば。








竹刀。








そして。
その持ち手はというと、


「は、浜崎………」
「………ちっ」


舌打ちをする浜崎。
眉間にシワを寄せながら浜崎は言う。






「籔笠。今日、ちょっと付き合いなさい」








…………………………………。


しばらく教室が静かになる。




のちに、


「……………おい、何ケースか竹刀用意しろ。今日こそ籔笠を殺る」
「いやいや、野球部からバット貰ってきたほうがいいだろ」


不穏な男子どもの声が………。




籔笠は青ざめながら、一応諦めつつ、


「…………拒否権は?」
「全く微塵もこれっぽっちもない」




こうして、籔笠の朝が始まった。


















そして、時間は経ち、現在は夕方。






今朝からの話はまた別の話に持っていくとして、今はと言うと、




「花。何で着いてきてるの?」
「それをいうなら真木ちゃんもだよ」


鍵谷と島秋は今まさに追跡調査を行っていた。
もちろん、追跡対象は彼女たちから少し離れた所にいる籔笠たちだ。


鍵谷はムスッとした表情を浮かべている。
一方、島秋はというと、


「……………それにしても、玲奈ちゃんたち、まるでデートみたいだね」
「っコホ!?」


突然の島秋の呟きに咳き込む鍵谷。
島秋はそんな鍵谷にさりげなく尋ねる。


「ねぇねぇ、真木ちゃん。この前の休みのあいだ真木ちゃん何してたの?」
「え!?な、何が」
「もしかして…………籔笠と……」
「ああ!!玲奈たち行っちゃうよ、追わないと!」
「真木ちゃん!ずるい!!」


二人は騒ぎながらも籔笠たちの後を追った。














歩くこと、三十分。
籔笠は目の前に建つ建物にしばし沈黙した。


花凪剣道場。


立て札に大きく書かれた小学校の体育館ほどの広さはあるだろう。
しかし、籔笠にいたってはそこは気にならず、


「いやー、まさか浜崎が剣道とは」
「何か不満?」


眉間を寄せる浜崎に籔笠は、別に、と軽くあしらう。


「…それより何でまた俺な訳?剣道には興味ないぞ」


そもそも、今回浜崎の目的がよくわからない。こんな所に、親密な関係でもない彼女が連れてくる意味がわからない。


「私もアンタなんかに興味なんてもってほしくないわよ」


浜崎は返答始めから不定を口にする。しかし、そのあと、


「……ただ、…何て言うか、先生がね。…アンタに会いたいって」
「は?」


籔笠が、その遠回しのような言い方に首をかしげる。
と、その直後。
閉まっていたはずの引き扉が開き、そこから、






ビュッ!!










一太刀。
寸前の所で太刀をかわした籔笠。


「………ッ!?」


距離をとり、籔笠は若干冷や汗をかきながら尋ねる。










「…………いくら何でもやりすぎだぞ」




片手に竹刀を持ち、今にも殺す気まんまんの人物。




「春香」




髪を一くくりにした女性。
笹鶴春香。
その顔には以前の和らいだ表情などなく、


「やりすぎね……。よくもその口が言えた事、フンッ!」
「あっ、あぶねえ!!」


籔笠は瞬時にくる一太刀を避け、また同じく、また同じく、避け続ける。


「浜崎!!おま、お前はめやがったな!」
「仕方がないでしょ。春香先生がどうしてもアンタと殺りたいって」
「おい!!今殺りたいって何か別の殺るに聞こえたぞ!!」


叫ぶ籔笠の声を軽くあしらう浜崎。だが、浜崎はそんなことよりも気になることがあった。それは、


(籔笠の奴、春香先生のを全部かわしてる……)


浜崎にとって、笹鶴春香は最強に等しい人物だ。






個人指導を受け持ち、段は四段。
毎回挑んでは軽く捻られる。
しかし、今。
そんな笹鶴春香の振りをかわし続ける籔笠。
浜崎はそれが不思議でならなかった。


そうしている間にいつしか両者息切れに陥っていた。




「はぁ、はぁ、全くしぶといわね。はぁ、はぁ、」
「はぁ、はぁ、悪かったな……、しぶとくて」


睨み合う籔笠と笹鶴。
だが、まるで次が最後だと笹鶴は竹刀を後ろに構える。
相手に剣筋を隠し、一撃を放つ。


「…………」


籔笠はその構えを一目すると、突然自身の両腕をだらんと下ろした。


諦めた。


浜崎がそう思った直後。


「ッ!?」




全身に浴びた。
まるで何かに当てられた錯覚を感じた。
浜崎は震えだす腕を掴み、その発生源に視線を向ける。


「…………」


籔笠だ。
直ぐにわかった。
ダランとさせた腕、それと対極して伺える顔。




一瞬で終わらせる。




そう言うかのような眼差し。


浜崎は喉につまる唾液を飲み込み、その両者の対決に目を離せずにいた。










と、その直後。












クチュン!!


















そのあまりにも合わない音に場の空気は一変する。
籔笠はどこか呆れた表情をしていたが、笹鶴はというと、


「誰?そこにいるの」


竹刀を声のした方向に突き向ける。
剣先は入口付近。


笹鶴は後数秒して出てこなければ突進するつもりだった。
だが、




「…………あ、あのー、お久し振りで」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」




全身が拒否反応を出したらしく。
笹鶴はその声の主、鍵谷真木に悲鳴を上げてしまった。
そして、鍵谷の直ぐ隣で、ひょこっと島秋は顔を出し、


「あははは………こんばんわー」


苦笑いを浮かべながら笹鶴に挨拶を送った。


















時刻はあれから数分後。籔笠らは剣道場の広間に座っていた。


「まさか春香さんが餌食になるとは」
「籔笠がさぁ……、ハメたんだよ…」
「それはその……御愁傷様です」




浜崎、笹鶴、島秋の三人が固まり、二人の女子高校生は一人の道場師範をいたわっている。


「…………何でアソコだけ変な空気になってるの?」
「知らん」


一方では首をかしげる鍵谷と少しふてくされている籔笠が座っていた。
一時的な応急措置だ。


よほど強力だったみたいだ。


………鍵谷真木の料理が。






まぁまぁ、と笹鶴の背中をさすっていた浜崎。
すると、ふと疑問を浮かべる。




「ん?でも何で春香先生が真木の料理を食うはめに」


その言葉に笹鶴は、間髪入れずに答える。






「だって籔笠泊めてグハッ!?」




直後、笹鶴の頭に竹刀が直撃する。
やったのは籔笠。
しかし、既に間に合わず、




「……………そういうこと…」
「……………だから真木ちゃん…」




二人の視線が鍵谷に集中する。
慌てた所でもうどうしょうもない。


「あ、………それより籔笠…アンタ警察には行ったの?」
「……………お前、ワザとだろ」


次は石で行くか?と籔笠は笹鶴に尋ね、笹鶴は丁重にお断りした。
















「………まぁ、いいわ。籔笠を殺れなかったのは悔しいけど」
「おい」


笹鶴は、してやったりといった表情を浮かべていた。
一方で、鍵谷はミジンコになるかのように縮こまっている。あの後、散々聞かれたのだろう。








全く……、と島秋と浜崎が溜め息を吐く。




と、そんな彼女らを見ていた笹鶴が思い付いたとばかりに口を開く。


「玲奈。ついでだから真木ちゃんと花ちゃんも誘っちゃいましょ」
「「「え?」」」


浜崎に続き島秋、鍵谷と三人が首をかしげる。


「だから、今度の休みの泊まりがけ稽古のことよ。ついでだから真木ちゃんたちも誘っちゃいましょ」
「え………本当に言ってるんで」
「うん、ホント!だからどう、真木ちゃん…とそれから、は……花ちゃんも。遊ぶつもりでいいから!」


ダメだぁ……、と額に手をかける浜崎を無視して尋ねる笹鶴。
話を聞いていた二人は一旦は悩むも直ぐに、


「行きます!!」
「そのー、よろしくお願いします」
「うん!」


返事が良好!と、笹鶴は満足そうに笑みをつくる。
一方、浜崎が固まっていた。






ご愁傷様。
籔笠は手を合わせ浜崎に拝む。


















だが、


「何、自分は関係ないって顔してるの?アンタも来るのよ」


ふいにそんな言葉が聞こえてきた。




……………………………………は?


「はああああああああああッ!?何で」
「荷物係り!家事係り!見張り係り!練習台係!アンタにピッタシじゃない」


平然と口にする笹鶴。
既に彼女の頭の中では役割が決まっているらしい。が、


「ふ、ふざけんな!!!」


まぁ、普通ならこうなるだろう。
籔笠は断固反対と言おうとした。










しかし、次に聞こえてきた言葉に、


「……それに、アンタのアレも後ちょっとで出来るし」
「!?」


目を見開き、驚いた表情を浮かべる籔笠。
笹鶴はそんな目の前で見せられた表情に口元を緩め、


「別に日常生活で使ってもバチはあたらないと思うわよ」
「……………」




籔笠が目を細めながら笹鶴を見る。
しかし、のちに籔笠は息を吐き、






「わかったよ。全く物好きだよ。お前」
「ふふ、まぁーね」
「「「?」」」






かやの外にいた鍵谷たちはその時、籔笠たちが何を話しているのか。




知るよしもなかった。













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