季節高校生
二泊三日の三日目・3
時間は経ち、現在午後6時。
「本当に大丈夫なんですか?」
「う、うん……大丈夫…」
鍵谷に介抱されながら歩く笹鶴。
その隣ではどこか満足げな顔の籔笠の姿もある。
あの後、1時間ちょいで目は覚めたのだが、どうにも余程威力があったらしく、笹鶴は今さっき歩けるほどになり、その光景を見た籔笠は絶対に鍵谷に料理を作らせないようにしようと決意する。
そして、何とか別れの挨拶をしながら笹鶴は帰って行った。
どこかもの凄く可愛そうな後ろ姿だったが、籔笠にとってはいい気味だと薄く笑うのだった。
笹鶴の姿が見えなくなるまで見届け、見えなくなったのを確認する二人は、
「じゃあ行くか」
「うん………」
付き添いで鍵谷の家に向かった。
昨日の事件の件で明日、警察署に足を運ばせなくてはいけなくなった二人。
籔笠はその時に母親がわりの鍵谷 藍と一緒に行ったほうがいいと鍵谷に言い、事情を藍に説明するべく、鍵谷の家に向かったいたのだ。
「まぁ、別にお前にそんな深く聞く事もないだろうし、藍さんと一緒に行けば何とかなるだろ」
「?何で?」
「いや、だって藍さん。話上手だし、何か逆らえないって雰囲気とかあるだろ」
「…………確かに、あ、でも籔笠は」
「俺は一人でも大丈夫だから」
「…………」
そう笑いながら言う籔笠。
だが、どこかその表情が他人を近づかせないようにしている。
そんなふうに見えてならなかった。
夕日が落ち空が暗くなり出した頃には鍵谷の家に到着する直ぐ側まで来ていた。
あれから一言も喋らずただひたすら歩くだけだった。
鍵谷は顔を暗くさせポツポツと歩く。
と、そんな時、
「あ、そうだ。鍵谷」
「な、何ッ!?」
突然の声に振り向いた直後。
顔面に何かが直撃した。
痛くはなかった。
と、いうよりふわふわとしていた。
「ッな、何するのよってん?何これ?」
怒りながら顔に当たった物を手に取り視線を落とす鍵谷。
そして、そこにあった物は。
ピンク色のウサギの人形。
「遊園地。楽しめなかったから、その詫びだ」
照れ臭いのか鍵谷に背を向けながらそう言う籔笠。
実際は少しでも空気がなごめばと思い買ったのだ。
鍵谷からしたらもの凄く、バレバレなのだが。
「…………なんか上手く誤魔化したような」
「………な、何のことかだか……」
目を泳がせ動揺を見せる籔笠。
ムッ、として鍵谷は籔笠を睨み付ける。
まるでいつも二人の空気に戻ったみたいだ。
鍵谷はどこかほっとした表情を浮かべ、いつの間にか口元は綻んでいた。
「ここでいいよ」
玄関前に着き、鍵谷はそこで籔笠を制止した。
「後は私から藍さんに話すから、送ってくれてありがとう」
そうか、と小さく笑う籔笠。
そんな籔笠に鍵谷も同じように笑う。
そして、
「籔笠」
「ん…………………」
「………や、やっぱり何でもない」
バッと体を振り返らせ、顔を隠す鍵谷。
頬が熱くなったことを何とか隠そうとしたのだ。鍵谷は背を向けながら籔笠を気にしつつ、やっぱり勇気が出ず、
「じ、じゃあ、またね」
パタパタと家の中に入って行ってしまった。
勝手に尋ねられ、勝手に置き去り。
籔笠は苦笑いを浮かべながら家の中から微かに聞こえてくる鍵谷の声にそっと口を緩ませた。
「じゃあ、またな……」
そして籔笠は一人、暗い帰り道を歩くのだった。
鍵谷が家路についてから時間が経ち夜の9時。
「ふふ」
室内から小さな声が聞こえる。
「ふふふ」
どこか嬉しげな声で時に鼻歌さえも聞こえてくる。
そして、その人物は、
「ふふふん、ふふん、ふふん、ふふん」
貰ったウサギ人形を抱き締める鍵谷だ。
しかもあまりの浮かれぶりに密かに耳をたてていた藍に気づかないしまつ。
藍は小さく笑いながら、片手には携帯が持たれ耳に当てながら唇を動かす。
「真木、ご機嫌よ。あなたのプレゼントで」
『…そうか、そりゃあよかった』
電話の相手は籔笠だ。
その声は少しうわずっている。
「まぁ、明日は私がついていくにして、籔笠くん。真木を助けてくれてありがとう」
『……………』
「一応、係員の人たちには口止めしとくように頼んだけど。真木も、多分あなただって知ったら感謝すると」
『……感謝される事なんてなにもしてない。アイツを危険に合わせちまった。俺は何も良いことなんとしてないし、悪かったな』
「……大丈夫よ、真木はあれぐらいで泣いたりなんかしない子だから」
どこかダメな方向ばかり話す籔笠。
だが、藍自身、籔笠にはとても感謝していた。
だからこそ、
「………本当にありがとう」
籔笠にもわかって欲しかった。
自分は何も悪いことはしていないと。
私たちは感謝していると。
『……………』
無言が続き、プッツ、と通話は切れた。
何も話さなかった籔笠の態度はどこか切なく、そして孤独を感じた。
藍は携帯を直し、天井を見上げながら呟く。
「……あなたはまだ、自分を許していないのね………」
過去を思い出す。
その出来事を知るものは数人しかいない。
籔笠芥木。
その出来事が彼の人生を変え、のちに自身に降りかかる事など。
「ふふ……」
今の鍵谷には知るよしもなかった。
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