季節高校生
二泊三日の二日目・3
敷地内の中で唯一巨大な屋敷。
その中でも最上階。その一室で額に傷がある男は息を吐いた。
「それにしてもそろそろ教えてくれねえか、嬢ちゃん」
「………答えるつもり、ないから」
そう答えたのは鍵谷だ。近くにはついさっきまで話していた女の子がいる。
あの時、鍵谷の言葉を発した直後。
女の子に駆けつけてきた母親が突如現れた巨体の大男に殴られ気を失いさらにその大男に、ついてこい、とそう言われここまで来た。
「困るな、後お前だけなんだよ。あてがあるんだろ?」
「だからないって言ってるでしょ!!」
震える女の子を守るように抱き締め鍵谷は男を睨み付ける。
しかし、どうやって守る。
男と女では体格差がありすぎる。
どうする。
気を緩ませないよう歯噛みし、警戒をさらに強める。
だが、
「全く、強気な嬢ちゃんだ。まぁ結果的に呼んで正解だったな」
「な、何が」
「お嬢ちゃんの彼氏。うまいこと引っ掛かって来るだろうなぁ」
「!?」
その言葉に対し鍵谷の緊張が抜けた。
男はそれを見逃さなかった。
抱かれていた女の子を引っ張り出し、そのあいた鍵谷の懐に拳を殴り付けた。
「ッかハ…ァ………」
強烈な打撃に肺に溜まった酸素が吐き出され、その瞬間。
鍵谷の意識が落ちた。
「ここか………」
巨大な屋敷の目の前に籔笠は立ち止まる。
手には茶色のバックが握られている。
周囲に人の姿はなく、どうやら入園した人らは大方捕まったのだろう。
開いた扉を進むとギシギシと音が鳴る、怖さをより際立たせる仕掛けらしい。
ゆっくりと足を動かしながら進む。
と、その時、
「…………」
行く先の床に一枚の布が落ちていた。
見覚えのあるその布はここに来るさいに一人の少女が使っていたハンカチ。
鍵谷真木の私物だ。
「………さすがに今回ばかりは無理かもな」
籔笠は足を進め、そして。
ハンカチに手をかける。
「ッ!!」
その直後だった。死角を利用してその巨体を隠していた大男が両腕を振り上げ籔笠を襲う。
いくら大の大人でもその極太な手に絞められれば手が出ない。
それが小柄な高校生ならなおさらだ。
振り上げた手が後数センチで籔笠に当たる。巨体の大男の口元が緩んだ。
その一瞬だった。
「ッガァ!?」
突如、視線から籔笠の姿が消えた。
それに変わり小さな手が現れ、巨大な顔面を掴みそのまま一直線に床に叩き落とされた。
もがこうと腕をばたつかせるがその瞬間に激痛が走る。握り潰す。
まるでそうしようかのような痛みだ。
「おい、クズ豚」
その声に大男は痛みに堪えながら目を開ける。
だが、瞬時にそれは後悔に変わった。
瞳孔をバックりと見開き、その目に写る全てを殺す。
そう、それは……。
人間では無いものような存在が見据えていた。
「余計な事は言うな、質問だけに答えろ」
「っな、なにッガァァァァァアッ!!」
メキィ、と激痛と共に頭蓋骨から嫌な音が鳴るのがわかる。
「………鍵谷に危害を加えたか?」
「ァダ、ッダレの!」
「お前らが拉致った女に一瞬でも手をかけたか?答えろよ」
「シ、シラねェ!!」
「お前じゃなくてもいい、他の奴がアイツに手をかけたなら言え。加減してやってるんだ、これ以上は」
「ア、アニキだ!俺は何もしてない!!ホントだ!嘘なんか」
「………後、一つ。他の一般人は」
「そ、そこのかか角を曲がった所に」
「ああ、わかった」
顔を掴んでいた手の力がゆっくりと抜けていく。大男の顔が激痛からの開放に笑みになる。
「じゃあ、砕け散ってろ」
バキィ、というその音が室内から鈍く鳴った。
悶えていた極太の腕が死んだように床に落ちる。
意識を刈られた大男は知らない。
それが自身の腹部、心臓や肺を守る一骨から放たれたものだと。
カタ、カタ、カタ。
その足音に額の傷の男は振り返と、そこには一人の少年が立っていた。
前髪で表情が見えない。
だが、その少年の手には茶色いバックが握られている。
男は笑いながら手ついた汚れを拭き取り、近づいてくる。
この時まではまだ冷静を保てた。
だが、近づいてくるにつれ見えてくる。
赤い、まだ新しい汚れ。
血痕。
「        」
視界がそれを捉えられた瞬間、冷静という言葉は砕け散った。
そして、直後に。
「ガアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ボギィ、バギャバキ、と。
破裂のような音と絶叫。延々に続くかのようなその光景。
恐怖が現実へと変わった。
「鍵谷!鍵谷!!」
その声にうっすらと鍵谷は目を覚ました。
口元には微かに切れた痕が残り血が固まっていた。
今だぼやける視界で目の前を見つめる鍵谷。
そしてそこに写ったのは一人の少年の顔。
籔笠芥木だ。
「や、籔笠?」
「…………」
鍵谷の声に顔を喜ばせるが直ぐにその顔は哀しい表情になる。
籔笠は手を上げ少女の頬に触れる。
「………悪かった」
「…何が?籔笠は何も」
「悪かった」
籔笠は鍵谷をそっと抱き寄せた。
鼓動が一気にはね上がる。鍵谷は顔を赤くさせつき離そうと籔笠の腕に触れた。
「ッ………」
だが、つき離せなかった。
震えていた。
普段の彼からは想像できないぐらい、彼は震えていた。
まるで悲しみを忘れられず手放したくない、子どものようだった。
もう大丈夫だから……、鍵谷はそう伝える。
でも、それでも、籔笠は。
決して彼女を離すことはなかった。
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