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季節高校生

goro

二泊三日の一日目







時刻は下校時刻の夕焼けが地上を照らす午後五時。






「よぉ、来てたか」


片手に買い物の袋を掲げ籔笠は公園の広場に駆け寄る。
そこには一人の少女、鍵谷真木が立っていた。
さらに足元には旅行にでも行くかのような大きな荷物袋が置いてある。


「………いくらなんでも大きすぎじゃ」
「う、うるさい!!藍さんが、い、色々積めてくれたの!」


顔を赤くさせそう言う鍵谷。
どうやら普段の彼女に戻ったらしい。




気をつかった意味もうなくね?と籔笠は小さく息を吐き、




「まぁ………行くか」
「ぅ、うん………」






二人は公園を後にし、籔笠の住む家へ歩き出した。
















数分後、夕焼けが沈む前に籔笠の家に到着する。
しかし、ついたその数分にして。




「私が作る!」
「いや、パスで」
「なっ!?」




籔笠と鍵谷は台所にて、言い合いという喧嘩を勃発させていた。


はたから見たら、普段どおりの光景に見える。
だが、今回。


籔笠にとってはそれを遥かに凌駕するものだった。




そして、その理由は、今朝の電話相手。


鍵谷 藍との会話による物だった。








『あ、そう言えば籔笠くん』
「はい?」
『一応、………忠告はしとくわよ』
「……?」
『…真木の手料理は絶対に食べちゃダメよ』
「え、何を言って」
『真木、普段はまともなんだけどまた母親に似たというか……………』
「いや、そこで黙られても。……もったいぶらずに言ってもらえますか?」
『………真木ちゃんは手料理の時だけ』
「時だけ」




『味覚がおかしくなるの』








…………………………………。


「てそれだ?」
『馬鹿らしいと思うでしょ。でも真木ちゃん味覚オンチで味見して出すから、私は吐いたわ。何回か……』
「(……何かアイツと藍さんの接点を見つけた気がしてならねぇ…)」
『何か言った、籔笠くん?』
「いえ、何も。それよりも、それってつまり」
『つまり?』
「俺、危なくね?」
『うん、危ないわね』


















「ま、まぁ!狭いけどくつろいでていいから!」


何とか、言いくるめることに成功した。
籔笠は命の危機を回避したことに汗を拭き取り、頬を膨らませながら、調理場から離れていく鍵谷に苦笑いを浮かべる。




ふと、壁にかけられた時計を見ると時計の針は六時を指していた。


籔笠はやや急ぎで夕食を準備に移る。










「綺麗な川……」


その頃、鍵谷はガラス張りの窓を開け、リビングの塀から下に流れる人一人が通れるぐらいの小さな川を眺めていた。
籔笠の部屋は二階にあり上からやっと見えるといった物だった。


来たときは裏が茂みに隠され見えず、そのお陰かその流れる川にはゴミどころか透けて底が見えるほどに清みきっていた。






高校生の男の夕食とは思えない程に以外に豪勢なものが出た。


鍵谷は押入れから出されたテーブルに並ぶ料理にしばし見とれてしまった。


「そうめん、天ぷら、野菜炒め。まぁ、こんなんでお前の腹も満たされるだろ?」
「っ、ちょっとそれどういう意味よ」
「いや、藍さんが大食いだからって」
「………また、藍さんはいつもいつも…」


拳をわなわなと震わせる鍵谷。


一方で籔笠はそんな彼女を気にすることなく、天ぷらを頬張っている。




鍵谷は息を吐き、そっと野菜炒めに箸を伸ばす。


「…何か毒味するみたいな動きだよな、お前」
「……アンタから見て私ってどう見られてるわけ?」






野菜炒めの具材を箸で取り、上品に口に持っていく鍵谷。
上品な動きをする行動に自分自身、合っていないと思う。






そして、やっと一口。
口の中で咀嚼してよくよく味わう。


「……………」
「ん、口に合わなかったか?」


眉を潜め尋ねる籔笠。
それに対し鍵谷は、










「うまい……。おいしい…」








口に手をやり驚く鍵谷。それは普段見せない素直な彼女の姿だった。










と、思った。


「後、籔笠の癖に何で私のよりもおいしいの!?」
「お前、ほんと台無しだよな。色々……」












途中から鍵谷の食べるペースは速さを増し、数分で完食となった。


食事を終え、二人して行儀悪く後ろに体を倒す。


「ごちそうさま……」
「どういたしまして…」




籔笠は一息つくと体を起こし、立ち上がった。


「…………あ、籔笠」
「ん、どうした?」
「…………」


体を起こし、何やらウズウズとする鍵谷。
それに対し籔笠は、


「……トイレならあっちに」
「違う!!アンタの頭のネジでも取れてるんじゃない!」
「…すげぇ言いようだよな。ほんと…」


呆れ果てる籔笠。
すると、そんな籔笠の前にあるものが突きつけられる。


見るとそれは一枚の紙切れ。






そこには子供向けなのか可愛らしい文字で『ペアチケット』と書かれていた。


「…………これ、藍さんがアンタと一緒に行ってきたらって…」
「?これって……ああ、町外れの遊園地のか?たしか新しく出来てた聞いたような…、何で藍さんこんなの持ってるわけ?」
「…多分、遊園地側の知り合いに貰ったんだと思う。藍さん友人とか多いから」


ああ…何となくわかる、と籔笠はチケットに書かれた日にちと壁にかけられたカレンダーを交互に見る。


そして、






「……明日でも行くか?」
「え、……いいの?」
「ああ、別に用事ないしな」


口元を緩める籔笠。
一方、その言葉を聞いた鍵谷はまるで力が抜けたように体を再び倒し、




「はぁ……、よかった。………」




独り言に口にする鍵谷。


何が?と首を傾げる籔笠だった。


















「ぜ、絶対に覗かないでよ!」
「いや、だから分かったって」


洗面所から顔だけを出し忠告を促す鍵谷。
籔笠は食器を洗いながら深く息を吐く。








洗面所から浴室を見渡すと、どうやら一人専用らしく、入るにしてもやはり一人が限界だと思った。
着ている服や下着を脱ぎ、持ち合わせた荷物袋にを詰める鍵谷。
初めてでもあり鍵谷自身、顔に熱がこもるのがわかる。






浴室に入り、シャワーを出す。


やや初めは冷たいものの次第に温かい水が鍵谷の頭から流れ落ちる。




「ふぅ…………」




鍵谷は持ってきたタオルに石鹸を擦り付け、泡立ててから体を洗っていく。


やはり何かと疲れが溜まっていたからか、早く湯船に浸かりたいと思ってしまう。
鼻唄を歌いながら体と頭を洗う鍵谷。




そして、ついにゆっくり体についた泡をシャワーで洗い落とし、湯船に入ろうとした。










直後。
ガタッ!と音がした。


「え…」


















食器を洗い終え、一息つきテレビを見ていた籔笠。


洗面所から鼻唄が聞こえてくるのを聞き、無事に機嫌が直った、と深く息をついた。




時計を見ると九時。


テレビではニュース報道が映っている。






銀行強盗で盗まれた札束と犯人グループが今だ見つかっていない。といった内容だ。




籔笠は小さく欠伸をして、そろそろ布団でもひくかと、立ち上がった。


















「うにゃあああああああああああ!!」




悲鳴が直後。
洗面所から響き渡った。


「お、おい!!」


籔笠は急いで洗面所に駆け寄る。
だが、そこで洗面所から飛び出した何かと激突した。


一瞬のことに後ろに倒れそうになったが、何とか踏みとどまれた。が、そこで籔笠は驚愕した。




「か、かか鍵谷!?」
「ね、ねねねねぇええぇええ!!?」


涙を流しながら泣きじゃくる形で抱きつく鍵谷。


後ろを見ると、そこには小さなネズミがタタタッ、と洗面所から玄関に走っていくのが見えた。




どうやらネズミが苦手らしい。




しばし籔笠は考え、それは分かった。
が、それよりも…。




「お、おい、もういないから!」
「ぅう!ぅ……ほんと?」
「あ、ああ、ほんとほんと」
「グズッ………ッ……」
「だから、落ち着いて聞いてくれよ」
「え?」
「俺は、その、見なかったことにするから」
「?」
「回れば後ろで向こう行くから」
「…………」


鍵谷が段々と落ち着き始めている。


「だから、その………」
「……………」


鍵谷は無言で下を向いた。
手にはタオルが握られており、他に体には水滴がついている。
そして、ある意味で籔笠と密着しているわけであり。
簡単にいえば……。










もう、手遅れ。












「ッ!!?」
「ッ、おい!?…!?ってちょっと待て色々待て!?何でハンマーなんて持って、ストップストップストップ!!!洒落にならないから投げるなあああ!!!」
















廊下の一部破損。




ベランダにもたれ掛かり疲れはてる籔笠。
中では鍵谷が寝る準備をしていた。


「………籔笠」




鍵谷の声に籔笠はゆっくりと振り返る。


「その……ごめんなさい」
「…………こっちこそ、悪かった」




違った意味での気まずさが籔笠と鍵谷の間に渦巻く。




ベランダから戻ってきた籔笠は押入れから何かを探し、鍵谷は申し訳ないような表情で尋ねる。


「ね、ねぇ、本当にいいの?」
「一緒に寝るわけにはいかねえだろ」
「ぅぅ、まぁそうなんだけど……」






鍵谷に一つしかない布団を貸した籔笠は体に被せる掛け布団を押入れから取りだし再びベランダへと足を進め、


「俺はベランダで寝るから」
「ベランダ!?…風邪引くじゃ………」
「そんなわけねえだろ。こんな暑いのに、それに外の方が以外に涼しいんだよ」


んじゃ、おやすみ。と籔笠は手を振り、ベランダへと行ってしまった。


確かに人一人ぐらいなら寝れるぐらいのスペースはある。
だが、やはり泊まらしてもらっている身で家主をベランダに寝かせるのは気が引ける。




布団に潜り、どうするか考える鍵谷。
だが、次第に睡魔が来て。




鍵谷は夢の中に落ちるのだった。


























どれだけ経ったのだろう。
つい寝てしまった鍵谷はぼんやりとした目でベランダを見た。










そこには、こちらを見る籔笠の姿が見えた。


鍵谷は今だ寝ぼけた状態で尋ねる。


「籔笠……」
「……………」
「…………どうして………そんな悲しい顔して……るの……」










その問いに驚く籔笠。
しかし、籔笠が口を動かす前に鍵谷は再び眠る。










そうして、一日目が終わった。







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