季節高校生

goro

辛いと思っていても・3





時刻は八時二十分。




「……………こないね」
「…………こないわね」


島秋、浜崎は教室のドアを見つめながら呟く。
そして、横目でちらっと視線を向けると、




「…………………」




現在絶賛へこみ中の籔笠が座り込んでいた。
あまりの責任感に頭が入る物も入らず、今回の小テストはまず赤点だとか。






「あー、玲奈ちゃん。真木ちゃんに電話とかした?」
「一応は……でも多分没収されてると思う」
「……だよね」




深く溜め息を吐く浜崎と鍵谷。
そうして、




「お前ら、静かにしろ」


清近 明音が本日の担当の教師先生らしい。
教師が来たことにより皆が席につく。
清近はそれらを確認すると視線があった浜崎と島秋を見てから、籔笠と隣の開いた席を見てやや気まずくなった。


と、




「遅れてすみません」




ガラガラ、と力ない音とともに少女が入ってきた。
手には本が握られていて、いかにも勉強できます、といった印象が強かった。
まぁ、それが余計に遺憾を感じてならないのだが、




「……………あ、あの」


籔笠は顔を上げ、隣に座る少女にそっと話しかけ、


「鍵谷さ」
「何?」










ようとした自身に物凄く後悔した。






少女は笑っている。
確かに何の迷いもなく、そう。






般若のように。


「……………」


「私を地獄のドン底に落とした籔笠くん。どうしたの?」
「すみませんでした!!」




籔笠は顔を伏せ、深く謝った。
しかし、鍵谷からの返事は無く。












思い空気のまま時間とともにテストが始まった。
















わからない。
というかこの緊迫感が辛い。


籔笠は今だ一問も解けずにいた。
横目で鍵谷の様子さえうかが得ずにいた。
というか見たら即アウトだ。




どうしよう、と頭を抱える籔笠。
その直後。






ガダッ!と音と共に鍵谷が立ち上がった。
ビクッ、と体を震わせる籔笠。
しかし、鍵谷は一切こちらを見ることなく担当である清近に向かって歩いていく。


清近自身、恨まれることをした覚えが少しもないといえばないわけがない。
やや、ビビりつつ息を飲む。




「先生」
「な、何?」


鍵谷は清近の顔を見て、ニコッと笑いながら、




「もう全部埋めたんで退室します」


バシン!!とテスト用紙をを教卓に叩きつけ。




それだけだった。
ガラガラ、とドアの閉める音ととも出ていった鍵谷。
皆が数秒後に一斉に息を吐いた。




そして、




「「「「「籔笠」」」」」
「!?」


ものすごく視線が痛い。


やっとの緊迫感から解放されたと思った矢先、これとき。
俄然、落ち込みそうになる籔笠。
そんな籔笠に清近は近づき、




「籔笠………」
「明音先生」




…………………………………。


「まぁ、バチだと思って頑張れ」
「お前ら、嫌いだ!!」


直後。
籔笠は教室を飛び出していった。


















「…………鍵谷さん」
「…………」


実習室。
テスト中は退室者の待機室となっている。




籔笠は椅子に座り、鍵谷は窓から空を眺めていた。


「…………」
「…………」




沈黙が続く。
すると、


「ねぇ、籔笠?」


くんずけはもういいんだと、内心安心する籔笠。
「な、何」
「空ってきれいだね」


きれいってどんだけ締め出されてたんだ!?


あまりにも合わない言動と行動。
それだけで鍵谷 藍の恐怖がどれだけのものか分かる。
考えただけでゾッとする。






籔笠は目を閉じ、一度心を静め、そして。






「……………あー、もしもし」
「?」


その言葉に鍵谷は振り返ると、そこには携帯を手に籔笠が誰かと話していた。


そう、そういう態度なの、と。


鍵谷はフルフルと震えた拳を握りつつ、だが。


(…………アホらし……)


拳から力を抜き、再び空を眺める。
せっかくの平和な日常。
目の前の奴と相手して潰したくない。
鍵谷は小さく息を吐いた。


と、どうやら電話を終えたらしい。
籔笠は携帯を直すと、何やら苦々しい表情で、


「鍵谷」
「……何よ」








つい反射的に答えてしまった。
鍵谷は苦い表情で、しかし籔笠の言葉を待つ。




…………………………………。




だが、いくら待っても返事がこない。
余計にストレスがたまり、怒号を飛ばしそう。






とした、その直後。




「……今日から、三泊二日。俺んちな」










………………………………はい?。












キンコンカン、と終わりのチャイムが聞こえてくる。


籔笠は気まずいのか、そそくさと出口に向かい歩き出す。


「ち、ちょっと!」
「んじゃ、待ち合わせは前の待ち合わせだった公園、五時に」




そう言って籔笠は行ってしまった。




「………なんなのよ」


鍵谷は茫然とした表情で息を吐き、早く教室に戻ろう、と足を動かす。


ふと、そこで鍵谷は思う。






(あれ?三泊二日。三泊って明日から土日だから、えっとだから…………………………)




言ってしまえば泊まり。




しかも、籔笠と一緒の。




誰にも邪魔されない。








………………………………………。
















直後、ボン!!と顔全体を真っ赤にさせ、




「ふええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?!」










その後、授業中。
思考停止となった鍵谷を見て男女の生徒たちから、何をした、と殺気こもった視線を籔笠はおくられるはめになった。









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