季節高校生

goro

辛いと思っていても・2









昼の二時。
今ごろなら家でゆっくりとくつろげていた。




はずなのに!!


「あー………島秋」
「な、何?」
「俺、何か悪いことしたのか?」
「え、いや、籔笠くんは何もしてないと」
「だよな。…それなのに暴れたから連帯責任って、明音先生が一番暴れてたし、あの時行かなくても俺道連れに」


直後。


「アア!!うるさい!!せっかく解けそうだったのに、アンタのせいで忘れちゃったじゃない!!」
「知るかボケ!!っかお前のせいで俺まで課題しやげるはめになったじゃねえか!!」


喧嘩勃発となる鍵谷と籔笠。
苦笑いを浮かべる島秋。




今、籔笠たちは島秋の家に来ていた。


「クーラーどう?」
「あ、効いてる効いてる。ありがとう、花」
「なぁ、島秋。そういえば親父さんは」
「お父さん今ちょっと同僚の人と食べにいってるの」


やや、気まづく笑う島秋。
あの事件から数日がたち、島秋正木は無事で退院した。
しかし、まだ怪我が全部完治したわけではなく、週一に診察を受けにいってるらしい。


家で安静にしてられねえのかねぇ、と飽きれる籔笠。


「花、お願い!教えて!!」
「ははは……」


まぁ、目の前で道連れにしたあげくに人様に教えをこおうとしてる奴よりはマシなのだが。




籔笠は頭をかきながら、諦めムードで課題にペンを走らせた。


















そうして二時間が経ち、


「島秋……大丈夫か?」
「………だ、大丈夫」


既に疲れはて肩を落とす島秋。


目の前では涙目で課題に噛みつかんとする鍵谷の姿が。


「うぅ……」
「………島秋のお陰で半分までは行けたのか……っか島秋が全部やったと同じじゃ」
「うぅうるさい!!そう言うアンタはでき」
「ちょうど今、終わった」


うぅ、と口ごもる鍵谷。
確かに勉強はそんなに優秀とはいえない籔笠だが、本気を出せば、実は意外にできる籔笠。


あまりにも悲惨な現状に考えこみ、そこで籔笠は尋ねる。


















「そういえば、何で藍さんに相談しねえんだ?」


















ピシッ(鍵谷)……………………………………。
ピタッ(島秋)……………………………………。


………………………………え?




その一瞬、今までの空気が冷たく凍りついた。




「おい、お前ら」
「ささ、さぁやろ花!」
「う、うん!そうだね真木ちゃん!」


疲れが吹き飛んだように動き出す二人。
何がなんだかわからない籔笠はふと時計に視線を向けた。


時刻は六時。


そろそろ切り時だな、と思ったその時、


「ん?」


ブー、ブー、と、
ズボンに閉まっていた携帯の振動に籔笠は携帯を取り出し開いてみた。
画面には着信画面が出ており、籔笠は通話ボタンを押し、


「あ、はい。もしもし」


邪魔だろう、と携帯を持ったまま席を外し、玄関に行ってしまった。


「誰と話してるんだろ?」
「さぁ?」




島秋と鍵谷は首を傾げるも再び課題に向かいペンを走らす。


だが、微かに玄関から籔笠の声が聞こえてくる。


鍵谷はやや、気になり耳をすまし、そして。














「いや、今それの巻き沿いで課題やらされてるんですが……。アイツに勉強させるように言ってもらわねえと俺まで被害が来るんで」






その瞬間。
バン!!と足音をたて、


「や、籔笠!!」
「ッ!?な、何だ、いきなり!?」


通話を切った携帯を持ちながら、驚く籔笠。
見ると、いきなり現れた鍵谷の顔は真っ青になっている。




「あ、ああの………や、籔笠………今、誰と」


体をガクガクと震わせながら慎重に尋ねる鍵谷。そして、一方でやや硬直ぎみの籔笠は携帯の着信履歴を見せながら、


「いや、藍さんに。夕食でも一緒にどうか、って……」




ほら、と携帯画面を見せる籔笠。
着信履歴には島秋 藍という名前が表示されている。




そして、それを見た鍵谷は力なくしゃがみこみ、












「……ぅぅ、ううう」
「は?」




直後。












「うううわぁぁぁぁぁぁん!!籔笠の馬鹿ァァァァァ!!」
「ッ!!?」


盛大に涙を流しながら泣き叫ぶ鍵谷。


「は、はぁ!?な、なな何、泣いてんだよ!?」


慌てるまくる籔笠。
すると、その声に駆けつけた島秋は鍵谷をなだめるべく抱き締め、籔笠に対しては、






「籔笠くん、ちょっとやりすぎだよ!!」
「いや、何が!?」


















翌日。


昨日、島秋の付き添いで一緒に家に帰っていった鍵谷は学校を休んだ。




そして、籔笠は今。
清近 明音に呼び出され、指導室に来ている。


「籔笠、いくら何でもやりすぎだと先生は思うぞ」
「………………それ、島秋にも言われた」


あれから島秋に会うと何故か凄く痛々しい視線を向けられてしまう。
籔笠自身、何もしたつもりはないのだが、どうやら鍵谷 藍に知られてしまったのがいけなかったらしい。


「明音先生。俺、ただ藍さんに鍵谷の事を言っただけなんですが、それが何でこんなことになるんですか?」
「………………………」


籔笠の質問に対し黙りこむ清近。


何やら苦々しい表情になっている。


息を吐きながら立ち上がった清近は、窓を眺め、


「籔笠。少し昔話をしよう」
「…は?」


まぁ聞け、と明音は続け、


「昔、ある所にそれはそれは可愛らしいポニーテールの女子高校生がいました」
「……………」
「そして、もう一人。超努力派のピチピチボディーの女子高校生もいました。彼女たちはとてもとても仲良い友達どうしでした」
「明音先生」
「だから、まぁ聞けと」
「ポニーテールって、自分のこと評価しすぎでッガ!?」




直後。
バシッ!!と、籔笠の眉間にチョークが炸裂した。


「ふー、……ある日、ポニーテールの彼女は赤点すれすれといった窮地にたたされていました。そして、努力派の彼女に勉強を教えてもらうよう、頼み込みました」
「…………」
「しかし、その時。彼女は知りませんでした。それが地獄の始まりだとは……」
「ん?地獄?」


籔笠が首を傾げると、清近は、ああ、と言って近くにあった椅子に腰をおろした。




「藍は努力派だった」
「あれ、もうさっきのシナリオは止めたんで」
「藍はまず、食事を部屋に用意するんだ」
「おい、無視かよ」
「聞け。こっちも思い出すだけで体の震えが止まらないんだ」


ふと見ると清近の腕が微かに震えていた。
それほどまでにこの話をするのが嫌だったのだろう。




「最初は気のきいたことしてくれるんだな、って思ったよ。思ったんだよ。だってそう思うよな普通!!」
「いや、俺に聞くなよ!?」


半分涙目で尋ねた清近は、悪かった、と言って涙を拭き取り、


「でも……違ったんだ」
「違った?」
「ああ……………藍の奴。少しずつ分かるところから教えてはくれる。くれるんだよ。……でも、段々と教えるレベルが上がっていって……」




そこで清近は言葉を切り、深く深呼吸をしてから息を吐き。
そして、








「丸々56時間。………調教された」
「!??」
「最初に用意した食事は逃げる隙を無くすための策略で、お手洗いっていったら小さな単語ぎっしりの手帳を渡され、帰ってきたら即小テスト。しかも間違ったら倍の課題地獄!!」
「……あ……あ…」
「あの時は土日の次の日がテストだったから二日で逃げ出せたけど……テスト後は死んだよ、私」




壁にもたれかかり、再び涙目になる清近。
恐怖が体に染み付いているんだろう。




「……………じゃあ、鍵谷が休んでるのは…」
「昨日、学校に電話が来たんだ」




回想。






「あ、もしもし。久しぶりだな藍」
『ええ、久しぶりね明音。でも今はそれどころじゃないの』
「え?」
『明音。そろそろ抜き打ちテストとかあるわよね?』
「ああ、まぁあるけど」
『よかったら、いつやるのか教えてくれないかしら?』
「え、いや、いくら何でもそれは」


















『出して!!お願い!藍さんお願いだから出してぇぇぇ!!』










「……………………………………」
『悪かったわね、明音。真木ちゃんの事で苦労をかけて』
「あ、あの、藍」
『で、いつやるの?』












回想終了。


「…幸い、三日後。抜き打ちテストがあるから、まぁ生徒たちには教えてないけど……その日まで休むって」


ズーン!!と、
思い沈黙が漂う。


「籔笠」
「…………」
「テスト終わったら何でも鍵谷の言うことを聞いてあげなさい。それぐらいしてもバチは当たらないから。っかしてあげて!!はっきり言って私は二日ですら死ぬ勢いだったから!!」
「……………はい」














その日、
籔笠は頭を抱えながら過ごし、
その次のまたその次の日も頭に勉強が入らなかった。




そして、










三日後がやってくるのだった。









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