話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

季節高校生

goro

終わる夜







「そっちはどうだった?」


携帯を手にそう尋ねる籔笠。
対話の相手は鍵谷真木だ。




あれから一時間が経ち、今だ行方をくらました島秋を見つけられていない。


『ダメ、どれだけ探しても見つからないの』


そうか、と籔笠は小さく息を吐く。
携帯のほうからは鍵谷の荒い息が聞こえてくる。
鍵谷も必死に島秋を探して走り続けていたのだろう。




空を見上げながら小さく息をつき、


「鍵谷、浜崎に電話してくれるか?」
『え、何で』


その言葉に疑問を投げ掛けようとする鍵谷。だがそれを遮り、




「島秋のいる所は大体検討がついた」




その瞬間、鍵谷の驚いた声が聞こえてきた。
しかし、そんな鍵谷にかかわらず籔笠は慎重に口を動かす。




「ただちょっとばかし警察の手もいりそうだから」
『け、警察……って…ちょっと、まさか』


鍵谷の声が一瞬にして暗くなる。
今回の島秋の行動の原因は恐らくあの警察だと名乗った男が言った一言。




「ああ、……何とか島秋だけでも助けるから警察呼んどいてくれよ」


そう言って携帯を切ろうとしする籔笠。
だが、


『籔笠』
「?」


やけに大人しい声に籔笠は切る手を止めた。




また騒ぐと思い通話を切ろうとした籔笠だったが、それが一転して違った反応だった。




沈黙が暫く続く。






そして、




『……………怪我、しないで……』




その声はとても弱々しかった。
何となく鍵谷の気持ちが理解できた。




悔しさ。




無力さ。








わかった、と言って籔笠は携帯を切る。






そして、籔笠は携帯をポケットに戻すと、視線の先にある廃墟となったビルを見上げ、












「怪我なんて……するわけねえだろ」


















廃墟したビルの奥の奥。
そこは食堂だったのだろう。
折り畳み式のテーブルが片隅に置かれ、広々とした広場に数十人の人影が集まっていた。
そして、その集まりの中心にいた男は避けたような笑みを浮かべ、






「よぉ、嬢ちゃん」




目の前から歩いてくる少女、島秋 花を向かえ入れた。


総勢十二人の男たち、その口元には笑みが見える。


「………」
「おいおい、そんな怖い顔するなよ」




中心たるリーダーらしき男は立ち上がり、両手を開きながら島秋に近づく。




しかし、島秋は、


「こないで」


服の中からある物を男に向けた。


鈍く光る包丁。


男は嘲笑うように島秋から距離を取る。


「おいおい、物騒な物をお持ちだなぁ嬢」
「私の質問に答えて」
「あん?」


男が眉を潜める。




荒い息を吐く島秋。
確かめなくてはならない。
父である島秋正木には母の死は事故による物だと聞いていた。


だが、真実は違った。






警察と名乗った男の一言。


知りたい。










もう一度、深く息を吐く。
そして、






「島秋 加織、この名前、知ってるの?」






その瞬間。
息が詰まるような緊張感が島秋にのし掛かる。






「…ああ、島秋 加織ね」


男は顎に手を当て、思い出したと言わんばかりに口を動かす。


「知ってる知ってる。そう言えば嬢ちゃんも島秋って名字だったよなぁ?」
「……そんなことはどうでもいい、…答えて!」


怒号を放つ島秋。


うんうん、と男そんな島秋に上下に頭を振りながら口元を緩ませ、


そして。


















「一年前に殺したあの正義感溢れるどうしようもない女だろ?」
「……………え」






その瞬間。
島秋の頭が真っ白になった。




「まぁ、正確にいえば前のリーダーだった男に殺されたんだけどな。ありゃ、見物だったぜ。散々いたぶられて、あげくのはてに血吐きまくって死んだんだからなぁ」


舌を出し、垂れた唾液を舐め男は愉快に笑い、


「そう言えば、そっくりだな、あの女と」


男は島秋にゆっくりと近づいて行く。


















『花は私に似てるのよ』


母の声。


ずっと昔、聞いたその声は島秋にとってかけがえの無いものだった。






大切だった。


好きだった。






ずっと…………………














家族三人でいたかった。














「ぅぅアアアアアッ!!」


島秋は包丁を振りかざし、男に降り下ろそうとする。
しかし、男は軽く降り下ろされた包丁を避けると、その包丁を持つ腕を捕まえ、


「そう焦るなよ」
「ッ!」


手を振り払おうとする島秋。
だが、それよりも早く男はその腕を引っ張り、


「ニヒィ!!」


ドォン!!と広場出口に腕ごと島秋を叩きつけた。


「ッが!……」




手に握っていた包丁が床に転がり落ちる。


荒い息を吐き、痛みにうずくまる島秋。
そんな島秋を、男は床に落ちた包丁を手にとり、


「おい、立てよ」
「アッ!?」


髪を無理やり掴み、島秋を前向きにさせ直後。


ズバッ!
無惨に胸元の服が切り裂かれた。
島秋の胸元から下着や、肌が露になる。


「…………ァ…」
「いい体だぜ、本当に」


男は舌で唇を舐めつつ、倒れる島秋の上に馬乗りになりその手が島秋の体に触れようとする。














だが、


「…………いや、これじゃあ面白くねえな」


男は島秋から離れ、そして、


















「おい、お前ら。好きにしていいぞ」






その言葉と同時に十人の男たちが島秋に歩み寄り、リーダーの男は背を向けながら元いた位置に向かい歩き出す。


男たちは笑いながら一歩一歩、島秋に近づいて行く。


















島秋はうっすらとした目で、迫りくる男たちを見る。




思うように体が動かない。
叫びたくても叫べない。














瞳から大粒の涙が溢れだす。












何もない。






………。












悔しい。
悲しい。






辛いよ………。






何もできない島秋の頭に皆の顔が浮かび上がる。










真木ちゃん。




玲奈ちゃん。




お母さん。


お父さん。














そして、




籔笠………………く………………ん。


















………。


















「お前らみたいなクズが、島秋に触るなよ」




ボキッバキ、と
複数の鈍い音が鳴り響く。


島秋はその声にゆっくりと目を開く。




いるはずの無い。




そのはずなのに、


ありえないはずなのに、






ゆっくりと抱き上げられる島秋はぐしゃぐしゃの涙まみれの顔で、






島秋は唇を動かす。




「籔笠……くぅ…ん…」
「……………島秋」


籔笠の声が震えている。


近くにいる。
側にいる。
だけど、


「に、逃げ……て……籔笠………く」
「何で逃げないといけないんだ?」
「……それ……わ…」
「鍵谷と浜崎を…お前の友達を待たしてるんだ」


ゆっくりと、籔笠は近くの壁に島秋を寝かせ、




「お前は頑張った……だからゆっくり休め」




その言葉を最後に、島秋の意識は眠りについた。


















「……何な、で言、わなかった…」


リーダーだった男の声が震え上がっている。
顔色が真っ青になり、側にいた二人の男たちも同じように顔色が染まっている。








二人の男たちは今、起きたことがわからなかった。




目の前で起きた事が何なのかわからない。




普通の人間がすることじゃない。


それだけはわかった。
いや、それだけしかわからなかった。
















「スコーピオン」


籔笠は島秋を寝かすと、ゆっくりと振り返り歩き出す。


床には人間が倒れている。




だが、
人間たちの腕や足はありえない方向に曲がっていた。


籔笠はリーダーの男に尋ねる。


「お前、俺の事が分かるのか?」
「ッ……ァ……」
「…………そうか、お前、あの時に逃げた残党か」




籔笠は口元を緩ませ、一歩。
また一歩。




「まぁ、そうだよな。あの時のスコーピオンにいた大体は今頃刑務所だもんな」


残っていた二人の男たちは、籔笠から距離を取ろうと足を動かす。












そう、動かした。














その瞬間。
バキィ!!




と、強烈な音が二つ鳴り響いた。
そして、男たちは無言のまま地に倒れた。


「あ、ああアアアアアッ!?」
「残党が一年たってリーダー。笑えるな」




籔笠は笑いながら倒れる男たちの側にいた。
そして、再び歩き出す。














男は、籔笠が近づくたびに後ろに下がる。


「何で…………何で…………!」


しかし、籔笠が男の前に来る時には。




男の逃げ道はなかった。


「……、くる……くるな…来るなアア!!」
「……………」


息を吐き、静寂な空間の中で籔笠は口を開く。


「………スコーピオンも…島秋も、全部は俺の責任だ」
「……な、なに言ってッ」


その瞬間。
男の声が止まる。






死ぬ。
殺される。




恐怖、絶望、無。




それらすべてが頭の中に一斉に弾けた。




「命だけは、残してやる」


籔笠はそこで、唇を一度閉じた。


そして、一言。


















「四季…装甲………」


















声が聞こえた。




『花、起きて』


………真木ちゃん。




『花、授業終わったわよ』




……………玲奈ちゃん。












『島秋………』










………籔笠………くん。
















「……っ」


島秋はゆっくりと目を開けた。


視線の先には月が写し出された川が見える。


「ん、起きたか?」


ふと、声が聞こえた。
籔笠芥木の声だ。


そして、そこで島秋は今、籔笠に背負って貰っていることに気づいた。


「や……籔笠…く」
「多分、アイツら鍵谷たちが呼んだ警察に捕まってんだろうな」
「………………そう」




島秋は、籔笠の言葉を聞き口を閉じた。




嬉しい。
だが、同時に悔しい。




籔笠の背中に顔をうずめる島秋。




静寂が続く。


籔笠は場の空気を変えようと、島秋に話しかける。




「……………お前のお袋さん、綺麗な人だよな」
「……………」
「…………島秋も綺麗だけどな」
「………………」




籔笠の呟きに対し、島秋は反応を示さない。




……無理だよな、と籔笠は呟き肩をすくめた。














そして、静寂なまま一刻一刻と過ぎた。


その時。






「……島秋、俺の質問、よかったらちょっと聞いてくれるか?」


今までと違った声で籔笠は口を開いた。


声が弱々しい、と島秋は思った。


「……………何?」


ありがとう、と籔笠は答える。


「……………もし……もしも…」
「……………うん」
「………お前のお袋さんを助けれたのに助けれなかった奴がいたら…」
「え……」


その瞬間、驚く島秋。


しかし、籔笠は口を閉じることはせず、


「…………島秋は、どうしたい?」












フッ、と冷たい風が籔笠と島秋の横を通り過ぎる。












島秋はゆっくりと小さく、息を吐き、
そうして、答えた。






「…………何も、しないよ」
「…………」
「……だって、もう……分かってるから…」




ぎゅ、と島秋は籔笠の体を抱き締める。


















「…そんなことしたって、辛いだけだもん…」












島秋の腕の震えと、耳元から聞こえてくる震えた声が籔笠の足を止めた。後悔、が籔笠の心に突き刺さる。








「……………ごめん、島秋」


籔笠は小さな声で謝り。








「帰ろう、…………鍵谷たちが待ってる……」












籔笠と島秋は、共に鍵谷と浜崎のいる居場所に帰っていった。


















「こいつはどうなってるんだ……おい」


三十歳過ぎの男は部下に対してそう尋ねた。


男の名前は、あずま 次代じだい




警察の中で警部にあたる人物だ。




救急車とパトカーが廃墟のビルの周辺に集まっている。通報により完全装備をし、突入した警察だったが駆けつけた時、そこはまさに地獄絵図だった。


「全員、腕やら足やらの骨が折られていて、さらにリーダーだった男に至っては片腕片足の骨が粉々に砕かれてるそうです」
「……………」
「それに、全員揃って骨を折った奴の顔を覚えていない、と」




どうなってるんだ、と東は息を吐いた。
通報で駆けつけたらこの有り様、さらに通報によれば高校生二人が危ないと聞いていたが、高校生どころか子供の姿すらない。
そして、一番に厄介な問題が、




「い、嫌だ………助けて何でするから!!お願いだからぁ!!」






暴れ狂う男。
調べでリーダーだということはわかった。
が、


「ありゃ、精神科行きは決定だな」


ハァ、と重い息を吐く東。
その時。




「………アイツ」
「ん?どうした坂川?」


部下の一人である坂川さかがわ ひろが何かを呟いたのに気づいた。


しかし、坂川は何でもないと言って離れて行ってしまった。














坂川はあの病院での一人の少年の言葉を思い出す。




『お前もスコーピオンと同様に消してやるよ』










坂川は歯噛みし、そして呟く。


「籔笠芥木………」
























春の終わり。
静かな夜が終わった。







「季節高校生」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「その他」の人気作品

コメント

コメントを書く