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季節高校生

goro

動き出す心















絶望。




幼い頃にお母さんを亡くし、その悲しみを隠しながらお父さんと生きてきた。


お父さんだけが私のたった一人の繋がり。






とても、大切な……。








………………………










時間は午後九時。


今だ寒々しい冷えた夜の緊急病棟。


通路は暗く、唯一、光るのは手術中とかかれた照明がある集中治療室。






そして、集中治療室の扉から少し離れた所に複数の人影がある。


「花……」


鍵谷真木、浜崎玲奈、そして顔をふせ一言も口を開かない島秋花だ。


さらに、向かいには籔笠芥木が壁に背をつき島秋を見ていた。












知らせは直ぐに届いた。
事件は籔笠が島秋正木と別れてから数分後。




島秋正木は、自宅前で突如向かってきた車に衝突した。
咄嗟の判断で、娘である島秋花を突き飛ばし、彼女は軽い擦り傷で済んだ。
だが、その代償はとてつもなく大きかった。












運ばれてから一時間は経つ。


今だ手術中とかかれた照明は消えない。










皆が島秋正木の無事を願う。






そんな中、




「お取り込み中にすまない」


その声と共に、通路奥からコツコツと音をたて、誰かが歩いきた。


そちらに視線を向けると、そこには一人の中年男が立っている。
男は胸ポケットから手帳らしき物を取り出し、


「警察だ」


警察手帳を皆に見せながら、男は島秋の前で足を止めた。




「……島秋 花さんだね」




男は手帳を開き、今の彼女の状態など関係ないと言わんばかりに話しかけようとする。


「ち、ちょっと!まさか今の状態で事情聴取するつもりじゃないわよね!」




浜崎は島秋を守るように前に立ち男に抗議する。だが、男の顔にはこれといって変化はなく、平然とした表情で浜崎を睨み付け、


「………退いてくれないか?仕事の邪魔だ」


その言葉に苛立ちを覚えた浜崎。
だが、


「ふざけないでよ!!」


その反応よりも早く、鍵谷は男に詰め寄り怒りを露にした。


「いくら刑事だからって、人の気持ちを何だと思ってるの!」




大切な人を亡くした苦しみ。
それが今、直ぐ目の前まで来ている。




その気持ちを知っているからこそ、こんな横暴な言葉が許せない。


鍵谷は男を睨み付け、さらに言葉を口にしようとした。








「君は確か、鍵谷真木、さんだったね」
「!?」




だが、突如。
その言葉に口を閉ざしてしまった。


「そっちは浜崎玲奈」
「!?」




男は浜崎を睨み、手帳を一枚めくり、


「君みたいなお嬢様がこんな所にいるとは、私にはそちらのほうが疑問に思うよ」
「………」


浜崎は眉間を寄せながら、頬には密かに汗が流れ出していた。




さっきまでの立場が逆転した。






「悪いが君たち見たいな子供の相手をしているつもりはない」


男は息を吐き、今度こそ島秋に尋ねる。


「君が知っていることを教えてくれないか」
「……………」
「車の特徴、運転していた男の顔、何でもいい」
「……………」
「父親の仇をとりたくないか?」
「………………」












静寂がその場にこだます。




島秋はいくら問いかけられても一行に口を開かない。


目の前で父親が跳ねられ、さらには母親を亡くしてる。
そして、今その父親の命すらどうなるかわからない。


少女にとってこれ程の痛みはない。






これ以上の問いかけは少女の精神を苦しめる。






そんなことは誰もがわかっていた。


そして、だからこそ意識させてはならなかった。












だが、










「君の母親、島秋 加織さんの死にも繋がる………と言ってもダメかな?」
「!!」




その瞬間、島秋の肩がビクッと大きく動いた。


















母親の死……

















特徴……




男………犯人………母親父親母親母親母親母親!!












「あ…………あぁ………ぁ……ッ!!」




定まらない声が島秋の口から発せられる。
ガタガタ、と体を震え出させ頭を押さえ出す島秋。


「は、花!!」
「落ち着いて!大丈夫だから、気をしっかり!」




鍵谷と浜崎が急いで島秋を抱き締め、落ち着かせようと動く。










…駄目だな、と男は息を吐いた。
そして、島秋に一言も無くただ振り返り歩き出す。




無駄なことはしない。














まるでそう言っているかのような後ろ姿。


















だが、直後。


ドオン!!、と。
その場を一瞬に沈めるほどの音が放たれた。






「な、何!?」


鍵谷たちはその音に直ぐ様、振り返る。






そして、その視線の先には、








「……な、何のつもりだ……」
「……………」


男の目の前に立ち、右拳を壁に叩きつけ、行く手を阻む。








籔笠芥木の姿があった。


















「……別にアンタが間違ったことをしている訳じゃない」


籔笠は拳を壁から放し、一歩。


「…アンタが捕まえようとしているスコーピオンを捕まえたければ使えばいい」


ポケットから古びた手帳を取り出し、籔笠は男に向かって無造作に投げつけ、さらに一歩。






「だけどな………」
「……ッ!?」
「これ以上、俺の周りで俺に関わるやつを苦しめるなら」
















籔笠は男の胸ぐらを乱雑に掴み上げ、






「お前もスコーピオンと同様に消してやるよ」




直後。
その場にいた皆が一瞬の殺気で凍りついた。
それは今までいたこの場に突如現れた。






そう、いてはならない何かが現れた。






まるで、そういったものだった。


















「警察を、あまり舐めるなよ」


それが男の去り際の言葉だった。


あれから、数分が経つ。








「おい、島秋と浜崎は?」


皆の分の缶ジュースを買って戻ってきた籔笠は、そこに座っていた鍵谷に尋ね、手にあった飲み物を渡した。


「お手洗いだって」


そう答えた鍵谷はそれを受けとると、まだ飲む気になれないのか両手で持ったまま顔を伏せる。


籔笠は一息つき、後の飲み物を横に起きながら鍵谷の隣に座った。














「ねぇ、籔笠………」
「………何だよ」


籔笠は天井を見上げながら、缶ジュースの蓋を開ける。




「………大切な人が目の前からいなくなる、って……どう思う?」
「……………」
「…………私はお母さんを亡くしてるんだ。……って藍さんから聞いてるんでしょ?」
「…………ああ」


やっぱり…、と鍵谷は小さく笑い、




「私には藍さんもいるし、みんながいるから……気持ちが折れることはないと思う……」
「……………鍵谷」
「だけど………」


鍵谷は両手にもつ缶ジュースを見つめながら、慎重に言葉を考え、


「…………花にはお父さんしかいないんだよ。どれだけ、私たちのまえで笑顔を振る舞ってても、花には……」




…そう言って口を紡ぐ鍵谷。


籔笠は島秋の家に行った時の島秋花の顔を思い出す。


いつも、笑顔を振る舞い。








一番に気を使ってくれ。


















こんな俺にも、気を使ってくれている。










「…………だ」
「え……?」
「辛いに決まってんだろ……」




籔笠は目に手を載せ、そう言ったきり口を開けなくなった。


鍵谷もそんな籔笠に合わすように喋らなくなった。










そして、一、二分と時間が経つ中。




「あれ、花は?」


手洗いから帰ってきた浜崎の言葉に籔笠と鍵谷は顔を上げた。




「え、何言ってるの?玲奈と一緒じゃ」
「いや、花は先に行くって言って…」


浜崎の声がわずらう。
嫌な予感が三人の中に抱いた。






精神的に危機的状態にも関わらず、行方を眩ました島秋。
















まさか、と籔笠は呟く。












もし、島秋があの時。
車を運転していた男を見ていたら。


















もし、そいつの顔に見覚えがあるとしたら。


















もし、そいつの居場所を知っていたとしたら。














その瞬間。
籔笠は歯噛みし、


「クッソ!!」


直後、走り出そうと足に力を入れた。
だが、


「ちょっと待って!!」
「ッ!?」


そんな籔笠の腕を浜崎は掴む。
間髪いれづに怒号を飛ばしそうと振り返る籔笠だったが、


「お願い。私は警察に電話するから、もし花を見つけたらちゃんと電話して」
「ッ…………」
「玲奈!わ、私も」
「ダメよ。真木は花の家に行って花を探してきて。居なかったらその場付近を見て回って!」
「……ッ」


そう言われ、口を紡ぐ鍵谷。
しかし、心境は納得がいかないといった物だった。




だが、浜崎も思いつきで言っているわけではない。
今、この中で一番に冷静さを保っているのは浜崎だ。




「籔笠……」


浜崎は鍵谷から籔笠に視線を向ける。


そして。
この時、籔笠は気づいた。
浜崎に捕まれている手が震えている。




どれだけ、冷静な表情をしていても不安で仕方がない。
だが、その心を押し殺し。


籔笠に伝えようとしたている。




その気持ちが伝わってくる。






「浜崎」
「え?」


籔笠はもう片方の手で浜崎の手にそっと添える。




「心配するな。島秋は絶対に見つけてくる」
「籔笠……」
「鍵谷も、心配するな」
「…………」




籔笠は口元を緩ませ、浜崎の手をそっと離させ、


「じゃあ、行って」
「待って、籔笠」


突如、鍵谷が籔笠を呼び止めた。


背を向ける顔だけを鍵谷に向ける籔笠。






「…………ッ」




顔を伏せ、押し黙る鍵谷。
震える手をぎゅっと片手で掴み、祈るように胸に手を置き、


そして、












「………花のこと、お願い」
「……………わかってるよ」
籔笠は小さく口元を緩ませると背を向けながら歩き出す。


















そして、籔笠は最後に聞こえるか聞こえないか、といった声で、


「…ついでにもう一つも終わらしてくる」




その言葉を残し籔笠は走り出す。


友を助けるために…。






全てを終らすために…。











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