季節高校生

goro

デート? 4



第九話 デート? 4




「……映画館?」


藪笠はその言葉に目を丸くした。
思いもよらなかった言葉に驚きが顔に出ている。
一方で島秋は、


「うん、映画館………………だめかな?」


頬の赤らめに加えての上目使い。
島秋自身、自分の顔がどうなっているかわかっていないだろう。
そして、はっきり言うに……………断るに断れなかった。












『劇場版 食料理人サラ』


現在公開中!! と、張り出しがされている。
藪笠の目の前に立て掛けられたそれを見つめ、一瞬、何してるんだろうと嘆きかけた。


島秋の指名から、共に近くの映画館に訪れた二人。
曜日だけに来ている人の数が多い。
そして、今から見る映画の対象年齢11歳。プラス一時間半上映だ。


「…………」


興味が無い物を観ることは、何分と時間的に暇だ。
もうヤケクソぎみに茫然と立ち尽くす藪笠。
と、そこに二人分のチケットを買いに行った島秋が帰ってきた。


「何してるの、藪笠君?」


首を傾げる島秋。その手には二人分の飲み物が乗ったボードが掴まれている。
片腕にはビニール袋が通され、中には映画館当たり前のグッズ商品が入っている。
藪笠は顔を向け、指で張り出された紙を指さす。
面白いのか………これ? と、顔で尋ねている。


「……う、うん……面白いよ。それに……おいしそうだし」


言葉に連れて、声が小さくなっていく彼女。
というより、今の発言で料理に引かれたことが聞き取れた。
藪笠は苦笑いを浮かべつつ、頭をかき、




「まぁ、いいか。それじゃ、行くぞ」




そう言って、彼女の持つボードを代わりに持ち、劇場に向かう藪笠。
島秋は目を見開かせつつ顔を赤らめ、先に行く彼の跡を追うのだった。












劇場の上映内。
中に入ると、そこには沢山の親子連れが前席に座っていた。
そして、何故か後席だけが空いており、


「……っと」


藪笠と島秋は、その空いて後席の二つに腰を下ろした。
前席からは子供の笑い声や泣き声が聞こえてくる。対象年齢が低かった分、幼い子供たちが集まったのだろう。
何も考えず、じっとそんな彼らの様子を眺めている。
と、そこで上映が始まった。








どうやら、主人公のサラという少女が挫折しながらも料理の腕を磨きあげる、といったストーリーらしい。
藪笠は肘をつきながら欠伸を手で押さえる。
映画が上映されてから今ちょうど一時間が経った。
残り時間から話は後半へと進んでおり、ある程度観た藪笠の感想からしては、まぁまぁだというものだった。


(何かこの頃のアニメって大人向けが多いよな……)


最初は小学生が見るようなアニメなんて、と思っていたが、観ていくと小学生には無理だろうという言語がちらほらと聞こえ、後半からはちょっと過激なラブシーンといった物さえ出てきだした。


(もうそういう系でも出さないと視聴率とれないのか?)


映画を観るというよりも、分析に近い。
段々と飽きてきたのか、藪笠の表情が眠たげな物へと変わってきた。
その時だった。


「ッ!?」


ポテッ、と島秋の頭が不意に藪笠の肩にもたれ掛かる。
突然のことから、動揺し慌てて視線を向ける。


「お、おい…島秋」
「すぅ……………すぅ………………」


え? ……………………………………寝息?
見ると、そこには幸せそうな表情で眠る島秋の顔があった。その顔を見ていると、動揺した自身が恥ずかしく感じてしまう。
ガックリ、と一人落ち込む藪笠だったが、そこであることに気づく。


今から上映が終わる…その時間。
島秋の髪からシャンプーの甘い匂いが漂い、それに付け加え、枕代わりとしては気持ちが良かったのか藪笠の肩に頬を擦り付ける。




この状態は何かとまずい。
色々と危険すぎる。


顔を引きつらせる藪笠は、硬直したかのように映画が終わるまで固まることしか出来なかった。














映画が終わり、時間は五時。
夕陽が空をオレンジ色に染めている。


「うーん……」


河原を歩く島秋は、固まった体を背伸び等して伸ばしていた。
後ろでは、げんなりとした藪笠の姿がある。


「……面白かったね、藪笠君」
「……あ、…ああ」


面白かったというが、寝てただろ。
突っ込みかけた言葉を呑み込むほど、藪笠は疲れていた。
肩を落とすほどの疲れ、その理由は映画館にあった。




あの後、やっと上映が終わり緊張感から解放された藪笠。
早めに島秋を起こそうと思った。
上映内の明かりがつき、行動しようとした、その直後。


「!?」


前席、子供たちとは違う、親御の方々からの視線が集中していた。
そして、その顔は何と言うか、微笑みにも見えた。




こうして、逃げるように急いで寝ぼけた島秋を連れて映画館を後にした藪笠。
夕暮れの空を見つめ、色々と疲れた一日だったとしみじみ思う。
やっと帰れるな…、と溜め息をつく藪笠。


「あ、藪笠君」


と、不意に島秋がクルリと藪笠に振り返る。


「ん?」
「………………今日……ありがとう、藪笠君」


…………………………………ん?
いきなりのことに頭の回転が追い付かない。
怪訝な表情を見せる藪笠。


「……え…何が?」
「もぅ……………何がって、デートのことだよ……」
「ああ……その事か……」


やっと納得する藪笠。
そして、その返答は…、






「……デートっていうか道連れだろ。ただの」






あれ、根に持ってる!? と冷や汗をかく島秋。
しかし、それは当たり前のことだ。
何せ食べ物目当てにデートに誘われ、さらに胃の限界ですというまで食べさせられたのだ。


「ご、ごめんなさい………」
「…………………まぁ、いいけど」


そう言って肩をすかす藪笠。
島秋は視線を動かし、そんな彼の様子を見つめる。




夕日が背景のように見え、そこに立つ一人の少年。
その顔だちといい、仕草といい、何かわからない気持ちが徐々に高まってくる。
島秋は顔を伏せ、そのまま呟くように、




「(…でも……………私も、初めてだったから、ちょっとはドキドキしたんだよ?)」
「え?」


藪笠がその小声に反応する。
島秋は目を見開かせ、同時に今何を言っていたのか自身でもわからずにいた。
対して小さかったためよく聞こえなかった言葉を尋ねようとする藪笠。
しかし、その口を開く前に、


「じ、じゃあ、また学校で!!」




ダダダダッ、と島秋は一瞬にして走り去っていった。
手を伸ばしたまま、藪笠は茫然と一人ただ立ち尽くすしか出来なかった。






そして、その後日。
同級生との追い駆けっこが待っていることを藪笠はまだ知らない………。





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