季節高校生
美術
四月二十二日
二時間目、美術
藪笠のクラスは今、美術の風景作画を行っている。
皆が作画に集中し、少しの話声があるも難なく授業は行われている。
そんな中。
「………………」
「………………」
共に硬直する藪笠と鍵谷。
二人の視線の先にはアクリル絵の具で描くようの紙板があり、表面には絵の具で芸術が描かれている。
そう、芸術。
全く風景とは呼べない激物というなの芸術が。
「………………ッ」
藪笠の描いた物は、川を描いたつもりなのだろうが何故か赤と黒が支配した地獄絵図。
「……………ぅぅ」
一方、鍵谷はというと、全く風景とはかけはなれ何を描いているのかさえわからないぐらいの桃色で画面が染められた芸術ができていた。
どちらも深刻なほどの芸術である。
藪笠と鍵谷は顔を暗くさせた状態で目を合わせる。
「なぁ」
「何?」
「これどうする?」
「………どうするって…」
「俺は最善の策をやった、結果がこれだ」
「……………」
藪笠と鍵谷は同時に溜め息を吐いた。
こく一刻と時間が過ぎ、休み時間へと近づいていく。
このままでは二人そろって放課後の居残り決定だ。
しかも美術の教師は、何故か本当に美術の先生なんですか? と尋ねたいぐらいのフランケンシュタイン教師。
さらにネチネチとした性格も加わっている。
……………………………………いや、もう無理だな。
最善の策を考えようとしたが、手遅れという物を回復する技術がない。
ガックリと肩を落とした藪笠。
続いて鍵谷も同じようにガックリと肩を落とした。
そして、残り時間五分。
藪笠はガタッと立ち上がると板を持ち上げ、鍵谷も同じように板を持ち立ち上がる。
居残りを覚悟に藪笠たちは、フランケン教師に描いた絵を提出しようとした。
だが、その時。
ズルッと。
「え!?」
「なっ!?」
ドォン!! と室内に二つの倒れる音が響き渡る。
床に落ちていた桃色の絵の具に鍵谷が足を滑らせ、藪笠の襟首を掴む形で巻き込みながら勢いよく倒れたのだ。
「いっつ…お前、いきな………り………」
「ご、ごめ………」
先に目を開けた藪笠と次に目を開けた鍵谷、二人はそろって硬直してしまう。
何故なら、お互いの顔が後数センチ。
吐息が交わり、唇が後少しといった状態だった。
「………………」
「………………」
頬を真っ赤にさせる藪笠と鍵谷。
と、そんな光景に呆れたのかフランケン教師が、ゴホンと咳払いを上げる。
はっ、と藪笠と鍵谷は体を動かし密着状態から離れる。
そして、何事もなく同時に紙板を提出したのち、席に戻るのだった。
放課後、下駄箱前。
「「あ」」
偶然とかち合った藪笠と鍵谷。
藪笠の頬には絆創膏が貼ってあり、それは二時間目終了後に男子たちに襲われたさいにできた物だ。
一方、鍵谷は顔を真っ赤にさせ、うつむいている。
浜崎に続き女子たちに質問攻めされたのが、藪笠に会ったことで効いてきたみたいだ。
「……………」
藪笠は、美術で提出した絵のことを思い出す。
あの後、フランケン教師に板を渡した、突如に何故か号泣し出したのだ。
どうやら倒れた拍子に板と板が重なり合い、色の重なりが絵を芸術なのかそうでないのか、といった絵に変わったらしく、とても美しかった、とフランケン教師は泣きながら言っていた。
事実、本当にそうなのかと疑ってしまうが、それでも結果的に助かった事には変わりない。
ただ、問題があるとすれば。
この気まずい雰囲気だけだった。
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