双対魔導の逸脱者(ディヴィエイター)

goro

双対の始まり



第一話 双対の始まり


季節は春。
新入生たちが学園に次第に馴染んできた頃…。


「どうして何ですかッ!?」


学園の職員室にて、一人の女子生徒――雪先沙織は担任教師に対し大声を上げる。
今の時間は、昼休みということもあり職員室には各科目の教師たちも自分たちのデスクの上で昼食タイムに突入中なのだが、当の本人は全く気にする素振りすら見せない。


「そうは言っても仕方がないだろ、雪先」
「だってだって! 私がこの学園に来たのは、それをするためにっ」
「ないものは仕方がない、諦めろ。なに、お前はまだ一年だ。あーだこーだ言ってたとしても、学園生活をやっていればいずれ興味も」


と、教師のうんちく話が始まり出す始末だ。
一瞬は黙って話を聞いていた雪先だったが、次第に顔を伏せ、体を震わせながら下ろしていた手を強く握り締める。
そして、教師の長話が終わったと同時に、雪先は最初の開口で言った言葉を再度と大声で叫ぶ。


「だからッ……何で、演劇部が無いんですか―――っ!!」


ギィィ――――――ンン!!! と透き通ったような雪先の叫びが職員室からその外の廊下にまで高く響き渡る。
結果、当然のごとく彼女は担任教師の手によってその場か外の廊下へと追い出されることになってしまった。
バシャン!! と締められる職員室のドア。
廊下にうずくまりながら、若干涙目になる雪先は一人うなだれた声を漏らす。
すると、その時、




「ぁ、あのぅ……」




雪先の頭上に、突然とそんな弱々しい声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこにいたのはその声に沿ったような小柄な体つきをした、どこか可憐とした人形のような顔つきの女子生徒が立っている。
誰? と首を傾げる雪先。
対する、そんな彼女の前に立つ女子生徒―――――ルトワ=エルナは大きく深呼吸を取りながら、勢いよく頭を下げ、声を上げる。






「わ、私と一緒にっ、魔法部に入部してくれませんかっ!!」






……え? と呆然と固まる中、突然と申し込まれた部活勧誘。
目を点とさせる雪先沙織と恥ずかしそうに顔を両手で隠すルトワ=エルナ。
これが魔術を使う者達が集う学園、セイヴァリアン魔術学園での二人の初めての出会いでもあった。






その世界は魔術が発達した近未来。古より伝わってきた魔法はその時代の流れに沿って魔術へと変革され、いつしか魔術を専門とする魔術学園が各国に広まることになった。


アメリカ、フランス、ロシア、中国、日本といった支部にしか魔術学園は存在しない中、日本支部には魔法が魔術へと姿を変えた頃に創立され、その世界にとって初めて作られた魔術師たちを導く学園、セイヴァリアン学園が存在していた。
大都市である東京の中心部に顕然と建つその校舎には三学年の生徒たちが日々、魔術しになるべく努力に力を注ぎながら過ごしている。 




魔術に力を注いでいるというが、授業内容はというと魔術制御の知識や対人戦に要した実践といった基本的な部分のものが多い。
だが、どの魔術学園でも変わらない一つの決まりがあった。


それは、新しく入ってきた新入生たちが入学早々に選択しなくてはならない二つの科目。


魔道具を使用する魔術武装科と、使い魔を使役する魔術使役科だ。


武装科を選択した生徒たちは対人戦での魔道具による魔術詠唱の勉強から始まり、また使役科を選択した生徒たちは皆一体と使い魔を支給されることから始まる。
そして、武装科では初心者が扱いやすい用にチューニングされた簡潔型魔道具を支給される。
 雪先沙織もまたそんな武装科をした一年生であり、腰には棒状の形態をした簡潔型魔道具、クルシャルパーがホルダーに仕舞われているのだったが……。


彼女にとって、武装科と使役科、どちらを選択してもよかった。
何故なら、彼女がこの学園に入学したのは別に立派な魔術師になりたい為でも、武装を学びたい為でもない。
雪先の目的は、この学園に入学したであろう中学生時代の演劇部の先輩に再会し、またこのセイヴァリアン学園に存在していた演劇部に入部する事だったのだ。






だが、雪先沙織が入学した時には―――――――既に演劇部や先輩の姿はなく、あったという痕跡一つ、塵も存在していなかったのだ。
そして、その理由が何であるのか。
それを知った時、平穏だった学園生活が一変することを、入学仕立ての雪先は知るよしもなかった……。






◆ ◆ ◆






セイヴァリアン学園での体育の時間。
 皆が授業に取り組み、終了のチャイムによって体育教師から終了の掛け声が言い渡される。生徒たちは皆、汗水を垂らしながら更衣室に行く中、一人の男子生徒―――――焔月火鷹は一人更衣室ではなく、そこか少し離れた中庭に向かって足を動かしていた。
 桜の木が生る、綺麗な景色で彩られた中庭。
 ただ、その中庭のベンチ端に置かれたゴミ箱の中に、


「…………………」


火鷹が更衣室に置いていたはずの学生服が、無残にも投げ込まれていた。
体操服に着替えた後、確かに更衣室に置いていたはずの服にはいくつもの靴痕が残されており、中にはハサミで切り裂かれた部分もある。
だが、火鷹はそんな制服をゴミ箱から取り出し、靴痕を手で何度かはらいながら抱え込む。


そんな中、彼の背後に小さな足跡が聞こえてくる。
火鷹は静かに振り返りながら、視線を下へと向ける。そして、そこにいる黄金こがね色をした毛並みを持つ一匹の子狐に対し、声を掛ける。


「遅れて悪かったな、フラル……行こうか」


焔月火鷹の使役する使い魔、子狐フラルだ。
 そして、同時にその使い魔がこの卑劣な虐めの元凶でもあった。


その理由は、狡い、姑息だ、インチキだ、と言った不満から来る物でもあった。
だが、それでも焔月はフラルを手放すことが出来なかった。何故なら、彼が手にした使い魔はこの学園で召喚したものではなく、今は無き父―――――いや、ヴァルスシステムの創設者である焔月鮮平ほむらづき せんだいが残した形見なのだから…。




セイヴァリアン学園には二つの科目がある。
それは武装科と使役科であり、またそれによって彼らの手にする物も違ってくる。
例えば武装科と違い、使役科ではその個人の力量に応じた、使い魔を召喚することから始まる。
特別製の魔法陣によって召喚される使い魔は様々であり、昆虫類や哺乳類、その他にも色々な個体が召喚されていくのだが、そんな使い魔たちにはあるシステムが初めに組み込まれている。


それが、ヴァルスシステム。
 使役する魔術師の成長に応じて、力、技能、進化といった成長を発揮する近未来のシステムだった。




 昼休みの時間帯になった。
 各校舎の教室や廊下では同級生の集まりが出来上がり、楽しげな学園生活を送っている。
だが、対する火鷹は手にコンビニで買ってきたサンドイッチとお茶の入ったペットボトル、肩にフラルを乗せ、一人誰もいない階段を上っていた。
 彼が目指すのは最上階までの階段を上りきった先にある屋上であり、そこが彼にとって平穏に過ごせる憩いの居場所でもあった。


 幸い外の天気も晴れていた。外に出て濡れる心配はない。
 階段を上りきった火鷹は自分の頬向かって可愛らしく頬ずりをしてくるフラリの頭をそっと撫でつつ、屋上へと繋がる扉を開く。
空から差し込まれる太陽の光が視界を一瞬塞ぐも次第に慣れてくる。
 火鷹はゆっくりと瞳を開き、前を見つめる――――――――そこ、




「……ぁ」




屋上の広場、その真ん中で一人立つ女子生徒がいた。いや、性格には一人では無い。一人と一匹だ。
彼女の周りを泳ぐように浮く手のひらサイズの子イルカ。
そして、火鷹の存在に気づいた女子生徒―――――妼峰ひつみねアゲハ。


それは偶然の出会いだった。
呆然と立ち尽くす焔月火鷹と少し驚くも小さく笑みを浮かべる妼峰アゲハ。この二人の出会いが定められた運命を書き換えていくことになるとは…
この時の火鷹にとっては知るよしもなかった。













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