魔導書作りのエストリア
異世界からやって来た魔法使い
第九話 異世界からやって来た魔法使い。
さっきのまでのドタバタが落ち着き、しばらくと時間が過ぎた頃。
ーーー街中の、とある飲食店にて、
「いただきます!!」
モグモグモグ、バクバクバク、もぎゅもぎゅ!!
 ……と、オストリアたちの眼前で、今まさにものすごい勢いでテーブルに置かれた料理の数々が食べられていく。
そして、それを現在進行形でやってのけているのがこの、異世界からやって来たと口にした魔法使いの少女、
「っはぁ〜、やっぱりご飯は大事ですね!」
藍色の髪を持つ、アチルだった。
「それで? 俺の妹に一体何の用があったのか、本当のところを聞かせてくれるんだよな?」
オストリアは眉間にシワを寄せながら、そう彼女に尋ねる。
一応、これでも命の恩人ということもあってか直ぐに捕まえようという気は起きなかった。
同じ席に座る同僚たちもまたそれに対しては同意見だ。
しかし、それでも話によっては直ぐにでも動ける、そんな警戒態勢は怠ってはいなかったのだが、
「本当のところと言われましても、本当に魔道書を完成させてほしいっていうだけなんでよ?」
口にあった食べ物を飲み込み、そう語るアチルは、あどけない様子で可愛らしく笑みを浮かべる。
だが、その言葉自体がオストリアには信じられなかった。
何故なら、兄である彼自身が妹のことを十分にわかっていたからだ。
「言っちゃあ悪いが俺の妹は今まで一度たりとも魔道書を完成させた覚えがねえ。そんな奴に頼んだって、ロクなことには」
だがーーー
「はい。それが、単なる知識不足なら、私も無理に頼もうとなんてしませんでしたよ?」
「っ!?」
「貴方の妹さんの、その事情を知っているからこそ、私は彼女に頼もうと決めたんですから」
その意味ありげな言葉がアチルの口から出た直後、オストリアの顔をここ一番に険しいものになる。
だがら対するアチルは、そんな睨みに対しても臆することなく薄っすらと笑みを浮かべる。
まるで何もかも見透かしているかのように……、
「おいおい、それ以上俺の部下で遊ばないでくれ」
しかし、そんな二人の会話を側にいた年長者であるグラッチが中断させる。
それは、このまま話を続けさせるのは不味いと判断したからの行動だった。
「はい、わかりました」
「………」
素直に返事を返すアチル。その一方で未だ睨みをやめないオストリア。
だが、隣に座るグラッチの視線もあり、オストリアは渋々喉奥まで出掛かった言葉を飲み込むのであった。
それは、いつもは冷静な彼にしては本当に珍しい事だった。
「はぁ…」
ムスッとした様子の落ちついたオストリアに安堵の溜息を漏らすグラッチは、そこで改めてアチルに向き直りーーーーー彼女に真意を尋ねる。
「それで? アンタはつまり、オストリアの妹に本を作って欲しい。そのために近づいたってわけなんだな?」
「はい」
「なるほど。それで? その本っていうのはどんな本なんだ?」
だが、その瞳は険しく、また生易しい雰囲気を帯びてはいなかった。
何故なら、魔導書の中にはーーー、
「この街に危害を加える、そんな危険な物だったとしたら、俺たちは承諾なんてできないぞ?」
この世に危険を蔓延させる、禁書扱いとなる魔導書も存在しているからだ。
アチルとグラッチ。
二人の間に重い空気が漂う。
それは何者も口を挟み込めない、そんな混沌とした空気だった。
ーーーーしかし、アチルはそんな状況の中で、
「そうですね。……全部話せるわけじゃないんですけど、まとめて言うなら…私の………大切な友人を助けてほしい、その為に彼女の力をお借りたいんです」
「友人?」
「はい。…………私の、何よりも大事な大事な友人です。……私は彼女に絡みつく運命を解放させてあげたい。……私は、そんな魔導書をずっと探しているんです」
その言葉の結果に、何故エストリアが関わってくるのかがわからない。
ただ、弱気な笑みを浮かべるアチルの顔を見たグラッチは、しばらく黙り込んだ後、はぁ…と重い溜息を漏らした。
そして、
「わかった。なら、今回はその話乗ってもいい」
「っ、グラッチさん!?」
「ただし、その条件がある」
隣で慌てるオストリアをよそに、グラッチはアチルにある一つの条件を出した。
それはーーーーー、
時間が経ち、夕方。
兄であるオストリアに一喝してやろうと思っていたエストリアだったのだが、
「兄さん? その人誰?」
珍しく機嫌が悪いオストリアの隣には、そこに立つ藍色の髪を靡かせる女性がニッコリとした様子で微笑んでいた。
そして、
「暴虐無人の」
「初めまして、私の名前はアチルです。今日からこの家にご厄介になることになりました」
オストリアの言葉を無視して、そう挨拶を交わすアチル。
「あ、…は、初めまして…」
と、促され頭を下げるエストリア。
……………だが、
「はぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
こうして、その日一番のエストリアの悲鳴が木霊のであった。
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