魔導書作りのエストリア

goro

新しいマジックアイテムは魔法ペンです!





第五話 新しいマジックアイテムは魔法ペンです!




<a href="//18348.mitemin.net/i256852/" target="_blank"><img src="//18348.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i256852/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>




清々しい程の青空が広がる朝。
エストリアはその日、兄に連れられある店に訪れていた。
というのも、昨日の一件を深く追求しない代わりにという兄オストリアからの土下座に若干顔を引きつらせながらも付いて来た次第なのだが、


「ねぇ、兄さん。ここって何屋さん?」
「ん? 何屋さんって、ただの古びた中古屋だけど」


そう――――オストリアが連れて来た、その店というのが人の通りもない路地通りの奥にひっそりと建った中古屋だったのだ。
って、


「え? 何なの? もしかして、また私をからかってるの? 私、最近中々魔導書作りが進歩しないから、結構なほどに鬱憤が溜まってるんだけど? ねぇ、今ここで爆発させてもいいの?」
「いやいや、別にからかってるわけじゃないって。後、進展も何も全然上がってないか‥‥‥‥よし、わかった。わかったから、その腰のベルトから取り出そうとしてる瓶を直せ」


店内だというのに、今まさに兄弟喧嘩を勃発させようとするエストリアとオストリア。
だが、そんな時だった。


「やかましいよ~、全く」


のんびりとした女性の声と共に店内奥から人影がゆっくりと歩き、近づいてくる。
平然とした様子のオストリアと、対して突然の声に肩をビクッかせるエストリア。だが、そんな彼女が視線を向けた、その先には、




「ここは子供の遊び場じゃないんだから」




ボサボザした短髪が特徴的な、一件変哲のない私服姿。
鼻上に埃を乗せた一人の女性が首を傾げながら、その姿を現す。そして、彼女ーーーーテェコノは頭をかきながら、




「って、あれ? オストリアじゃない? 珍しいね~」




こうして彼女達は出会ってしまった。
―――――それが、後に起こる中古屋での悲劇の幕開けに繋がるとは、この時誰も思いもしなかったのである。








中古屋の店主、テェコノ。
彼女は歳は兄オストリアとそう変わらず、その容姿は綺麗な分類に入るほどに美女だった。それは通りを歩いているだけでナンパされてもおかしくないほどであり、人の目を引きつけるものを確かに持っていた。
ただ、一つ―――――ある趣味さえ持っていなければ、




「捨てられていたモノを拾って‥‥う、売ってる!?」




そう、彼女の趣味。
それはゴミ荒らし。
街の人々が捨てたものをこっそり見つけ、入るものを掻っ攫っては直して売るというのが、彼女のやり方なのだ。
だが、そんな噂も知らず知らずと既に街全体に広がってしまい、今では男だけでなく一緒に暮らす住民ですら声をかけてくれる者がいなくなってしまったのだった。
―――――と、そんな話を聞かされたエストリアは、


「それって、自業自得ですよね?」


店の奥、居間で茶をすすりながら、遠慮もなく核心を突く。
グハッ!? と、見えない槍で突かれたように胸に手を当てるテェコノは隣に座るオストリアに助けの視線を向けるも、その兄はというと知らんぷりと、そっぽ向いて逃げた。


「それに、いくら捨てられていた物だからといってもそれを勝手に持って帰るというのはどうかと思います。仮にもしそれで訴えられたら大変なことになりますし、それから」
「オストリア!? 助けて! この子無茶苦茶容赦ないよ!?」


テェコノの願いも空しく、それから数分と説教を受けるはめになるのであった。








「で、今日は何の用で来たのよ」


グズっ、と涙潤ませるテェコノ。
やり過ぎだ、と妹を軽く叱りつつ、オストリアはようやくここに来た目的の一つを話し始める。


「悪いな、テェコノ。今日はちょっとコイツに買ってやりたい物があって此処に来たんだ」
「ズズッ‥‥‥買う、って何を?」
「あんまりそこらじゃ売ってない物だな。‥‥‥‥『ラブェルクスの魔法ペン』ここなら良い値で置いてあるだろうと思って探しに来たんだよ」


ペチって来たのとか、あるだろ? とそう言って笑うオストリアに対し、嫌々しく表情を歪めるテェコノ。
『ラブェルクスの魔法ペン』
聞きなれないその言葉だ。
と、そんな二人の間で、ひょい、と首を傾げるエストリアがやや控えめに手を上げ、質問を出した。


「あの……魔法ペンって何ですか?」


そもそも魔法ペンという言葉自体、エストリアは知らなかった。
魔法を使えるこの世界では、あまりに聞き慣れた言葉と思われるそれだが、実は余り知られていないマジックアイテムの一つでもある。
というのも、普通に生活している魔法使いたちの目には入ることもなく、


「魔法ペンっていうのは、魔力を関して自在に魔法文字を描くシーックレットアイテムでね〜。まぁ、今それを使っているのは都市管轄を担う上の人たちなんだけどね〜」


そう言って、視線をちらりとオストリアに向けるテェコノ。
とうのエストリアはペンの存在に夢中なのか気にする素振りを見せていなかったが、オストリアは小さく咳払いを加え、本題へと戻る。


「それで、魔法ペンはあるのか?」
「ふふっ、全く。昔から変わらないね、君は」
「っ、ほっとけ」


そう仲睦まじく会話するテェコノとオストリア。
親い仲であるからこそ、その周囲には暖かな空気が漂っていた。
が、その端ではエストリアが若干眉を潜ませ、


「ほら、妹さんが拗ねてるよ〜」
「っ!? すす、拗ねてないです!!」


必死に抗議するエストリアを尻目にテェコノは店の奥へと戻っていく。そして、数分すると彼女は小さな箱を手に戻って来た。


「あったよ」


オストリアとエストリアが見つめる中、蓋を開けたそこには、新品と言われても不思議のない二本のペンが収められていた。


「二種類のペン?」
「これはラブェルクスシリーズの一つ、双対の魔法ペン、チェイル・アートだよ〜」
「双対?」
「まぁ、君たちみたいなものだね〜」


エストリアとオストリア。
妹と兄。
テェコノは口元を緩ませながら、魔法ペンの一つを妹に。もう一つを兄にへと手渡す。
何で、俺に? と言おうとしたオストリアだったが、そんな兄を押しのけ、エストリアが子供のように目をキラキラとさせながら前へと乗り出す。


「あ、あの! 書いてみてもいいですか!!」
「うん、いいよ〜」


やった!! と早速エストリアは手持ちのメモ帳にペンを走らせる。
いつもは大人しめな印象の彼女も、今日に限っては子供らしい雰囲気を漂わせていた。








少し離れた所で、イスに腰掛けるオストリアとテェコノ。オストリアは手渡されたペンを見つめながら、ボソリと呟く。


「古そうだけど、これ大丈夫なんだろうな?」
「そっちから来たくせに、それを言うのかな〜?」


不服そうに頬を膨らませるテェコノにオストリアは小さく笑った。
そして、突然とその表情を一変させる。
それは、兄の顔ではなく、街を守る警備兵の顔へと、




「それで、薬の本星のこと、何かわかったか?」


テェコノは、町の住民から避けられていると言った。
だが、それとは別に彼女には別の顔があったのだ。それは街の裏を知り尽くした情報屋。
それが彼女のもう一つの顔だった。


「うんん。どうにも尻尾を簡単に掴ませてくれないみたいだね」
「‥‥そうか」
「ただ、どうもこの街の住人も、絡んでるらしいよ? だって、そうじゃないと、この街に何日も身を隠せるわけがないもん。そっちだってそれぐらいわかってるんだろう〜?」
「………ああ」


その情報は既に上は掴んでいた。
そして、その奴らが調合師を探していることも‥。
ペンを片手に、はしゃぐ妹の姿を見つめるオストリア。
そんな彼に対し、テェコノは、




「魔法ペン、二つともタダであげるよ」




その言葉に驚くオストリアに対し、テェコノは口元を緩ませながら言う。


「妹さんを守ってあげるために、今日魔法ペンを探しに来たんでしょ?」


確信めいたその言葉は、まるで何もかも見据えているような言い草だった。


「お前、どこまで知ってるんだ?」
「さーてね、どこまででしょう〜」


そう言って、いつもの調子で話をはぐらかすテェコノ。してやられたら用に不機嫌になるオストリアに彼女は笑顔を浮かべた。
それが、彼と彼女の関係性なのだった。










「で……そろそろなんだけど」








テェコノは指をさしながら、


「あれ、どうする?」
「だただ、たすけでぇーーーーーーっ!!!」


エストリアが宙に描いた魔法陣によって、訳のわからない触手のような蔓に巻き付けられていた。
しかも、体の輪郭を的確につくかのように、巻きつき方が色々とアレだ。
‥‥‥‥色々とマズイ!


「オストリアの妹さんも、おもしーっ!?」


追伸、被害がテェコノにも及びました。




いゃあーーーー!! やめっ!? ちょ、そこはだめっ!もう、なんで最近こんなノッヒャ!?きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!! っ!? ぁ!? っ‥!!
‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥
‥‥




「成長種のロマンチョ、生物の汚れ。垢や汗、その他もろもろを吸い取って成長し、最後に綺麗な花を咲かす。また吸い取る際に、独特なフェロモンを出し、それに当てられた物は数時間は悶絶する‥‥‥‥らしい」


パタン、と植物本を閉じるオストリアは呆れた様子で視線を床、そこに倒れ、頬を赤らめながら体をピクピクさせる二人を見つめる。


「解毒の説明、いるか?」
「「ぜ、ぜひぃ」」


解毒薬の調合に、また無駄な時間を費やすオストリアなのであった。













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