異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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幽玄の守り人・後





幽玄の守り人・後


ざわつく心が同時にあるものを響かせる。
意識の奥底に眠っていた――――――内に放流する記憶を交差させながら、


『お姉ちゃん、まだ?』
『 み ま、 だですか?』
『何言ってるの、私たちは姉妹でしょ?』
『なに って んですか? 私たちは  み まの かたですよ』


酷似した言葉が、聞こえる。
酷似した笑顔が、見えてくる。
そして――――――――――――彼女は願っていた、その酷似が…いつまでも重なり合ってほしいと。




だが、記憶はそこでブツりと途切れた。
昔の記憶を完全に取り戻せたわけではなかった。
ただ、そんな中でも、最後に残る彼女の顔だけは覚えていた。
体にいくつもの傷を負いながら、それでも前へと進んだ一人の少女。
その手には血に染まった複数枚のカードが強く掴み込まれていた。
そして、何かを叫ぶ存在に対し、彼女は笑いながら言った。




『私は…神様の事がっ、大好きなんですからッ……!』




と‥‥‥。














ルーサーたちの目の前に現われた白髪の少女、ラトゥル。その強大な存在と対峙した、次の瞬間だった。


「ッ!!!!」


瞬きをする間もなくして、ルーサーの体は美咲の隣を突き抜け後方に吹き飛ばされた。
それはラトゥルの背後にいた下部の存在。この時代とはかけ離れた田舎侍のような衣装にした男の突進によって起きた事象だった。
だが、一般人である美咲にとってはその事すら未だ頭が追いつけずにいた。
隣に立っていたルーサーがいなくなった。
ただ、それしか理解が追いついていなかったのだ。
美咲は数秒遅れてルーサーがいなくなったことに気づき、後ろに振り返ろうする。
直後。


「ねぇ、お姉さん」
「っ!?」


冷たい声と同時に、ヒンヤリとした感覚が全身を蹂躙した。
突然と現われた異様な悪寒は彼女の体を激しく震わせる中、美咲は視線を前へと戻す。
するとそこには、にっこりと微笑むラトゥルの姿があった。




愛らしいように、幼さを残した表情。
だが、その瞳はまるで何もかも見透かすような絶対の眼差しを持ち、また、その瞳はまるで何者も見下すかのような冷たい眼光を秘めていた。
そして、ラトゥルは怯える美咲に尋ねる。


「シクアとの生活はどうだった?」
「……っ…ぇ」
「シクアと生まれてからずっといて、シクアとお話したり、遊んで貰ったりして、楽しかった? 幸せだった?」
「…な……なにっ…いって…」
「何って、シクアの事だよ?」


怯える美咲を嘲笑うように、ラトゥルは口元を笑みに変えながら、


「貴方が勘違いしている、おね」


そのーーーーーー次の瞬間だった。




「ダング・グラウンドッ!」




強烈な振動波が美咲のいた地面を揺るがせ、同時に彼女の意識を一瞬でかぎ取る。
気を失い、力なく地面に倒れる美咲。
対する、ラトゥルは攻撃を事前に予期し、後ろへと跳び回避していた。
さらに加えて、そんな彼女の隣へと遅れるようにルーサーに向かっていたはずの侍が戻ってきた。
ラトゥルは不服な表情を浮かばせながら、


「どうしたの? ……もしかして逃げて来ちゃった?」
『いや、ただ距離を取っただけだ』
「………そう、なら問題はないね」


平然と会話を交わすラトゥルと侍。
だが、その最中。彼女たちが向ける視線の先に爆炎の渦が巻き上がり、炎が盛大に空高くへと吹き上がる。
そして、一瞬にして炎が四散した、その地点に立つ、彼が口を開く。




「くだらねぇ事をソイツに吹き込むんじゃねえよ」




赤い羽織に身を纏うルーサーが骨刀を手に地面を蹴飛ばす。
そして、強大な存在へと颯爽した。












羽嶋刀火は刀を構え、地面から這い出てくる骸骨たちを見据える。
ローブの男が手を前に突き出すと、カラクリ人形のごとく再び土から復活するように骸骨たちは生み出されていく。
壊しては復活する。
増援の連鎖が止まらない。


「ペケ、ちょっと力を貸して」


だが、至って冷静な羽嶋がそう言葉を発した、その直後。
彼女が被るマリンキャップに取り付けられていた黒丸の飾りをしたストラップがモゾモゾと動き出した。
その黒の塊は、スライムのようにうねりながら宙を泳ぎ、彼女の持つ刀の直ぐ側まできた地点で形状を液体に変える。
黒い塊は落ちるように刀の刀身に垂れ落ち、刀身の鉄色が黒色へと変色を見せていく。
その最中にも、骸骨たちは大軍を作るように迫りつつある。
美野里は何とか体を起こし、反撃の構えを作ろうとした。


だが、その時だった。
美野里の耳に―――――歌のような詩が聞こえて来た。




『それは御伽・これは約束・あれは運命………幾代の思いを込める現在・新しき道を作るための未来・紡がれた過去の為に』




羽嶋は刀を構え、告げる。
薄らとした光りが刀身を灯し、周囲に冷気が漂わせる。
外見は冷たいものだった。
だが、その行為に冷酷はない。
そこにある現実を正すための決まりある、行いなのだから――――――


『だから、帰還せよ』


そして、ゆっくりと呼吸を整え……羽嶋は閉じていた瞳をひっそりと開かき、言霊を共に力を斬り放つ。




『聖なる運命の・道へとッ!!!』




羽嶋が横一線に刀を振り放った、瞬間。
刀身から飛び出した光の一閃は骸骨たちの体を切り裂き、そして、すり抜けた。
斬られたはずなのに、骸骨の体には何も起きていない。
困惑した表情でその状況を見つめる美野里。
だが、対する羽嶋は刀を静かに下ろしながら、


「恨むなら、あの世で恨みなさい」


その言葉を送った、その一時の間に骸骨たちの動きを止まり、その骨々をバラバラに崩れ落ち、灰となったそれは地面に流れるようにして落ちていった。
羽嶋の放った一撃によって軍は一瞬に落ち、壊してもまた復活する、その流れ自体をも終息させた。




「あ、アンタ……一体…」


未だローブの男がいるにも関わらず、そう尋ねる美野里に羽嶋は体を向けながら自身の紹介を始める。


「私の名前は羽嶋刀火です。って、そのセリフはこっちのセリフです」


えっ、と声を出す美野里に羽嶋はジト目を向けながら、言葉を尋ね返す。


「なんで夜でもないのに、霊たちにたかられてるんですか?」
「れ、……霊?」


その言葉は更に疑問を募らせ、困惑した表情を浮かばせる美野里は視線を足下に溜まった灰へと向ける。
まるで執着するように、寄りかかってきた骸骨たち。
その全てが霊の仕業だと、羽嶋が言った。


「これが……霊…?」


怪物なら知っている。だが、幽霊といった存在に未だ遭遇したことのない美野里には、信じるに信じられなかった。
どう言葉を発せばいいのかわからず、黙り込んでしまう美野里。
だが、その一方で羽嶋はそんな彼女を意味深しげに見つめていた。
それは今起きていた現状についても、そうだが、


(なんでこの霊たちは彼女にこんなにも執着したの? …それにこの霊たち、普通の霊とは違う、何か変な感じがしたし、………後、一番気になるのは霊なのに、体を持ってたこと。憑依したわけでもなく…まるで誰かに与えられたような…)


考えに悩んでいた、その時だ。
骸骨たちを失ったローブの男がゆっくりと手を前へと動かす。
美野里と羽嶋は警戒を強め、武器を構えようとした。
しかし、そのローブの奥底で、


『ナ…ゼ……』


今まで一言と口を開かなかった男が喋り出す。
その醜い眼光は、一人の少女。
美野里を羨むように見つめ、――――そして、言葉を言った。






『ナ…ゼ……、ワレワレ、ヲ……スクッテクレナカッタ…ノ…デスカ………カミサマッ』
「!?」






カミサマ。
かみさま。
神様――――――――。
その言葉が呪怨のように、美野里の全身を強張らせる。


「…な、なんで‥‥‥…ま…まさかっ…」
『カミサマ…カミサマ……カミサマッ!!』


同時に美野里の脳裏に蘇る、かつての記憶が強引に呼び起こされていく。
ローブの男が探すように腕を動かし、その言葉を言い続けた。そして、それはまるで呪詛のように灰となったそれらを動かし、怨念として、それらを操る。


「ッ!? ペケ!!」


羽嶋が現状の事態気づき、動こうとした。
だが、突然と吹き荒れた灰は美野里を取り囲むように真四角の壁を作り、彼女を閉じ込めてしまう。
羽嶋は刀を振り下ろし、何度も壁を切り裂こうと試みる。
しかし、壁は異様な光と共に強靱な硬度を作り、刀の刃を通そうとはしなかった。
光を失い、闇となった空間。そんな状況の中で、美野里に対する呪いのような言葉が放たれ続ける。


『ナゼ、ワタシヲ、タスケテ』
「や、っやめて…っ、私はっ」
『オレニハ、カゾクガ、イタノニッ!! ナゼ』
「そっ、それは」
『ウソツキ、アノコタチヲ、タスケテクレルッテ、イッタノニ!!』
「っ…違う。違うの‥‥‥‥おねがい…お願いだがら‥‥…もう、やめてっ‥‥」


恨みが、憎しみが、美野里を着実と追い詰めていく。
それらが願う真意がどこにあるかはわからない。
だが、美野里にとって、その言葉はより心を強く締め付け、同時に完全に戻っていなかった記憶が呼び起こされていく。


その記憶は、かつていた場所、慕ってくれた者達。
そして、かつていた、――――――――タロットカードを持つ、人間の女の子との…大切な記憶。




『神様、またお眠りですか? もう、仕方がないですね』




ガクッ、と膝を落とし、表情を歪める美野里。
瞳を何度閉じようとも、涙が止まらない。


「やめて…、おねがいだから、……やめてっ…ぃゃ……いゃ‥‥‥いやっ!」


美野里が、そう願う。
だが、呪怨の言葉は止まらない。
聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない!! と訴えるも、揃っていなかった記憶のピースが強引納められていく。
蘇ってくる記憶が、辛く、悲しく、そして、絶望したあの時の記憶が美野里は心を叫びへと誘った。




「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」




呪怨の籠った壁に閉じ込められる。
だが、その上空に直後として、光がやってきた。
そして、意図せずそれは流星のごとく、壁を貫き、美野里へと着弾する。


「ッ!!!」


光の中、美野里の記憶は完全に蘇る。
あの時、あの異世界と思っていた場所で、何があり、何があって、この今いる世界にやってきたのか。
そして、記憶の中で一番に残っていた、タロットの称号を持つ少女との記憶を思い出す。
彼女―――――ラトのおかげで、今の美野里があるということを……。
そしてーーーーー彼女の死のおかげで、今の美野里があるということを‥‥‥。










その死闘は、呆気なく決着がついた。
地面に叩きつけられ、倒れる人影。その側には、二つにへし折られた、骨刀の姿。
そして、全身ボロボロになったルーサーの姿があった。


『下らんな。こんな半端物を相手しなくてならないとは』


侍は自身の刀を鞘に戻し、足下に落ちる骨刀を見下ろす。
重い息と共に、片足を上げ、そのまま勢いをつけ、


『貴様に刀を持つ資格はない』


粉々に、骨刀は――――踏み潰された。
その光景を目の当たりにしていたルーサーは、歯を噛みしめ、立ち上げあろうとする。
だが、その全身に突如と重圧が襲い掛かる。
ルーサーの目の前で突如と現れたラトゥルが、子供らしい仕草で、首をかしげる。


「もう終わりなの? 拍子抜けもいいところだね」
「ッグッ……ァッ!」


真面に口を開く事さえ出来ないルーサーが、痛みに悲鳴を上げる。
そんな状況の中で、ラトゥルはゆっくりとしゃがみ込みながら、独り言のように口を動かし始めた。


「ねぇ、お兄さん。それが貴方の力なの? ねぇ………違うよね? だってその力をシクアのものだもん。そんなちっぽけなものじゃないはずだよね?」


力の原初。
以前、ダーバスが言っていたその事をラトゥルは、言葉にして出す。


「だけど、仕方がないよね。だって、お兄さんは紛い物だもん。人の龍、下等な者同士が重なり合った下等で歪んだ存在、それがお兄さんだもんね。だから私、お兄さんが本当の力を発揮できていないことはずっと前から知ってたんだよ?」


龍人であることを、醜い物だと言うように、言葉にして出す。


「でも、たとえ完全だったとしても、本当の力は出せるわけがない。だって、それはシクアの力だもん。持ち主じゃない者の力を他人が使い切れるわけがないんだよ?」


見下し、あざ笑い、諭し、反論すら許さない。
ラトゥルは笑い、ルーサーに重圧を掛け続けた。その口から血を吐き、全身の骨が悲鳴を上げていようとも…。
やがて、笑いを止めたラトゥルは体をゆっくりと前へと動かし、その耳元に唇を近づけながら、


「だから、シクアに返してね」


ラトゥルは、言った。




「全部」




その小さな手が、ルーサーの頭に乗せられた。
その次の瞬間だった。
そこにあったはずのもの。
体に存在していた、全ての力。
衝光、称号、そして、セルバースト――――――――それら全てが吸い取られるように、全部抜き取られ、全身に強烈な激震の痛みがルーサーを襲う。






「ガッ! ! っあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!」






悲鳴が轟き、そして、止んだ。
ラトゥルは手のひらに溜まった光を空高く放り投げ、光は数秒と空中を彷徨うも、やがて元の居場所へと帰っていった。


「さて、と」


口元を緩ませるラトゥルは、ゆっくりと息を吐き、地面に倒れる一人の少年を見据える。
そこには、力なく倒れる少年。
色が抜けたような黒髪をした、ルーサーの姿があった。


「へぇ……まだ生きていられるんだ。あ、そうか…お兄さんは人間でもあったんだね」
「……………………」
「でも、その状態でいつまで生きていられるかな?」


クスクスと笑うラトゥルはそう言って、ルーサーから離れていく。
後ろに侍を引き連れながら、倒れる美咲の横を通り過ぎ、去ろうとしていく。
だが、そこで不意に足を止めたラトゥルは、もう一度ルーサーに振り返りながら、別れの言葉を口にした。






「それじゃあね、武装神龍……じゃないか、ちっぽけな人間さん」










続けて、ラトゥルは夕暮れが終わりそうな空を見上げながら、言う。




「あと、おかえり、シクア。……それとも、幽玄の守り人って呼んだ方がいいかな」






















骸骨たちの灰の壁に囚われていた美野里に、光が落ちた。
その衝撃は強烈な爆風を生み出す。
羽嶋が腕を前に風を遮る中、真四角の壁は粉砕し、砂煙がその地点を中心に周囲に立ち籠る。
だが、その中で、一人の少女はゆっくりと歩き出した。


髪の色は茶髪から白髪――――いや、薄らと鮮やかな色と混ざり合った神秘の光を放っている。
髪の量も少し増え、更に跳ねていた髪は長く伸び、後ろへと宙を浮いていた。




そして、彼女は――――――美野里は――――――――――シンクロアーツは目を開く。




爛々と光る衝光の力を灯した、瞳を。


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