異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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真実





第五十一話 真実






空から地上へ落ちる炎の光。
その光景は誰もが目を疑い、同時に希望を抱く心を折る引き金となった。
だが、そんな思いを知らず、炎の光は重力に従うまま地面に落ち、爆発の影響で瓦礫の山となった場所にその炎は着弾した。
そして、衝突した音に続き、大きな砂煙がその場に巻き散ることとなる。










「ルーサー……………ッ」


セルバーストという驚異的な力を発揮して挑んだルーサー。
そんな彼が打ち負けたことに未だ動揺を隠せない騎士団長アーサー。だが、そんな彼の上空には今も異様な姿を残し、変化を続ける白狼が存在する。
アーサーは険しい表情を残し、剣の柄を掴む手に力を込める。
一度、セルバーストの力で倒したと思い込んでいた白狼は魔法使いの男が呼び戻した、その直後にその体を変化させた。
肉体を生物から球体へと歪ませ、さらにはその身に高圧電流を流す魔法陣を刻み込んでいく。
変化はそこで止まらず、今もその白い皮膚は徐々に拡大しつつある。


(……………っ)


危機的な状況、自身が知らない所で今、何かが起ころうとしている。
苦悩に眉間を寄せるアーサーは、この状況に対しての対処を考え続ける。だが、不意にその考えを止め、一度冷静を取り戻すべく数分前の状況を思い返す。


上空の白狼が変化を始めた、その時。
その場にいた人々を除く中、ルーサーとルアの二人だけがその正体に動揺を露わにしていた。
そして、その直ぐ後にルーサーは大技での攻撃を放ったのだ。
その行動から見ても、悠長に事を構える時間すらないということは理解出来た。
だが、問題の具体的な内容を傍から見ていたアーサーは知らない。そこが、今の状況を改善できない一番の原因だと再確認した彼は、直ぐ様、隣で茫然と立ち尽くす魔法使いのルアに詰めより、


「ルア、一体何が起きようとしている?」
「………………」


返答を待つ。
だが、その答えは返ってこない。
彼女の瞳はどこか虚空を見つめているように、照準が定まっていないようだった。
アーサーはそんな彼女に対し、眉間を寄せる。
軽い言葉ではダメだと判断し、気迫を言葉に乗せ、さらに言葉を放つ。


「ルア、答えろッ!!!」
「ッ!?」


騎士団長という、上級ハンターが独特に発する気。
瞬間、その気に当てられたルアの体が酷く震えを見せ、やがてゆっくりとした動作で顔を彼へと向ける。
だが、その顔は……、


「アーサー………さま…」


どうしようもないほどに……怯えていた。
避けられない現実に対し、二つある藍色の瞳は今にも泣き出しそうになっていた。
今まで旅を共にしてきた彼でさえ、今の彼女はとても見ていられない程に弱々しくも感じる。
だが、アーサーはそこで、その表情のさらに奥にある………真意に気づく。


もう手がない。
怖い。
恐ろしい。
助けてほしい。


それらの感情。
全てが、アーサーを見た直後。
今まさに、表に出ようとしているのだ。
直後、アーサーの顔が一瞬、複雑なものへと変わる。
インデール・フレイムという都市の中で、上級ハンターからさらに上の騎士団長とまで言われるようになったアーサー。
だが、たとえどれだけその名称を呼ばれ、称えられようとしても、その守るべき人々や一番の傍にいる彼女でさえ、その心にある不安を拭い去ることが出来ない。
夢や野望、それを心に抱き今まで貫き進んできた信念。
彼女の顔を見て、彼は、それらが無駄だったと自覚してしまったのだ。


「っ………」


悔しさが顔に出た。
だが、それがある一つのきっかけを生んだ。


「……ッ!」


ルアの表情が突然と大きく歪んだのだ。
悔しさ、その感情が一瞬ちらりと見えたが直ぐにそれは違うものへと変わる。
その感情は酷く冷酷で荒々しいもの、人なら誰しも持つ一つの感情。
それは、殺意。
一番に見せたくなかった自身の弱みを、今、彼に見せてしまった。そして、その事に対し、彼は自身を責めてしまったのだ。


(…………んな、っ)


後悔。
その言葉がルアの瞳をより鋭い眼光へと変える。
血走ったような瞳は、矛先は空に浮かぶ白狼でもなく、ましてはさっきまでいた男の魔法使いでもない。
それは直ぐ近く。
地面に今も横たわる一人の少女…………町早美野里へ向けられる。




「…………みんな…………みんな、コイツのせいだッ!!」




感情のままに叫ぶルア。
その手に持つ杖先が真っ直ぐと倒れる美野里へと向けられ、殺意の感情が魔力の供給をさらに加速させる。
同時に杖に赤い光が灯り始めた。


「コイツがッ!! あの時、あの罪人を守ろうとしなければ、こんなことにはならなかったッ!!!」


杖の先に溜まった、赤い光の魔法弾が数回の火花を散らし、その魔法の威力を肌で感じさせ、同時にそれが人間に撃ってはならない魔法だと、理解させる。
だが、彼女はその考えを放棄した。
ただ、思うままに、何の躊躇もなく地面に横たわる美野里にその魔法を放ったのだ。




「ッ!!」




だが、次の瞬間。
傍にいたアーサーは、彼女の杖を持つ腕を掴んだ。
そして、素早い動きで後ろに反らし、魔法弾は当てのはずれた上空に撃ち出され、そのまま小さな爆発を残し消滅した。


「っ!? 止めないでください、アーサー様っ!!」
「………………」
「コイツの、コイツのせいでッ………みんな、みんながッ、皆が!!!」
「ルア…………」


いつもは冷静を保っている彼女。
それが今はまるで小さな子供のように胸の内に溜まった感情を爆発させ、泣き出しそうになっている。
アーサーは感情を乱したルアの傍ら、今目の前で起きようとしている事態は深刻なものだということは理解していた。だが、その原因が本当に目の前で倒れる美野里という少女にあるのかという疑問が、彼の心を激しくざわつかせる。


「…………………」


アーサーは今も目を覚まさない美野里を見つめ、手に持つ黄金剣エクスカリバーの柄を強く握り締めた。
その行動が何を示しているのか、彼自身も理解していない。
だが、そんな時だ。






「変な気、起こすんじゃないわよ」






その声は静寂の中、突然と現れた。
何をしようとしていたのかわからない、自身を止めたその声にアーサーは後ろに振り返る。
その先にいたのは……、


「騎士団の癖に、諦めんのが早すぎるんじゃないの?」


手に持つロングライフルを肩に担いだ、普段している頭のバンダナを外す女。
ハウン・ラピアスの受付人、またの名をアルバスターという称号を持つウェーイクト・ハリケーンの元ハンター、フミカだ。


「フミカ…」
「アーサー、アンタ団長なんでしょ? しっかり部下の躾ぐらいしときなさいよ」


今も隣で涙を目に溜めるルアを睨み、アーサーにそう言い放つフミカ。
その瞳は殺気立ち、それが今までの状況を見ていたことを理解させるものだと彼は直ぐに気づく。


「…………すまない、確かに僕の責任だ」
「……………………フン」


本当なら、後一歩でも動けば直ぐにでも撃ち殺していただろう。
美野里に危害を加えかけた両者を睨むフミカは、眉間に寄った皺を残したまま鼻で息をついた。
そして、再び視線を空中に浮く白の球体へと向ける。
最初に比べ、徐々に小さくなる白狼。
直ぐに魔法が実行されないのは、そのありあまる衝光の力を魔法へと変換するのに多大な時間が掛かっているのだろう。
フミカは衝光の力が源になっているとは知らない。
しかし、まだ猶予があることだけが理解していた。
アーサーはそんな彼女の顔付きから今起きている事情を読みこめていると踏み、あえて尋ねる。


「それで、フミカ。君はあれが一体何なのかわかるのか?」
「ええ……、何でも禁断魔法とかいうフザけた名前の魔法らしいわよ。魔法使いじゃどうやっても止められないものみたいらしいけど」
「…………………そうか」


その言葉を聞き、やっと普段から冷静零着なルアが何故こんなにも動揺を露わにしていたのか理解したアーサー。
魔法使いでは止められない。
それは、いうなら何の抵抗もできずに絶望を待てと言われているようなものだ。
抗うことも、逃げることもできない。
だから彼女は泣きだし、その怒りを爆発させていたのだろう。
だが、


(それでも、あれだけは止めなくてはいけない。そうじゃないと、この都市は滅びてしまう……)


白い球体、その周りから漂わせる異様な危機感が彼にそう告げる。
アーサーは何かの策がないかと再びフミカに視線を向けようとした。
しかし、そこで彼はある物に気づく。
それは、フミカが肩に担ぐライフル。
銃身に様々なカスタムパーツを施し、それが重装備だということはわかる。だが、フミカを知る彼が初めて見たというほどにその銃は特殊なフレームで固められていた。


「フミカ、それは?」
「ん、これ?」


アーサーの言葉にフミカは目線をライフルへと向ける。
重装備のロングライフル。その詳細はフミカ愛用の拳銃に追加のカスタムパーツを組み込んでさらに強化した長距離型のロングライフル。しかし、その武器は普通の対物目的に設計されたものではなく、ある一種の弾丸を撃ち出すだけのために作られた特別製の銃だ。
フミカはアーサーの眼差しに対し、口元を緩め、その銃の名を口にする。


「これは、アルバスター・スナイパル。普通の弾丸じゃない、特殊魔法弾を撃ち出すためだけに作ったロングライフルよ。まぁ、今までのもそうだけど、これは全種類の魔法を二年溜め込んだ一弾を装填できる唯一の武器」


そう言って彼女はポケットから一つの弾丸を取り出す。
一指し指程の長さがある虹色の外装で取り作られた特殊魔法弾。
外見からはその凄さを感じられない。だが、もし彼女の言っていることが本当なら、その中には魔法となる全種類の自然の力が一点に込められていることになる。
そして、その言葉と彼女の勝ち誇った表情。
それは一種の期待を抱かせ、同時にアーサーの表情にうっすらと希望が霞んだ。
だが、そこでフミカはきっぱりとその期待を断ち切る。


「だけど、これでアレは壊せない」
「っ?」
「…………でも」


その言葉にアーサーは困惑した表情を浮かべ、同時に傍にいたがルアの体が微かに動く。
壊せないという、その言葉がより絶望を大きくしたのだろう。
しかし、目の前に立つフミカの顔に恐れはなかった。
何故なら、フミカは知っているからだ。
この絶望的な状況を覆せる、その希望を手に持つ一人の少女の名前を――






「美野里なら、アレを何とか出来る」












そこは暗闇にも似た世界。
だが、感覚はまるで水中にいるような、そんな不思議な感覚だった。


<オキテ、オキテ>


重力の感じない中で永遠と漂っていた美野里はその中で、その声を聞く。
だが、その声は初めて聞いたものではない。
それは前に一度、………あれは闘技場での一件で聞いた声と同じものだった。
あの時は色々な事があって気にすることさえ忘れていたが、美野里自身、あの声が一体何なのか知りたい気持ちは確かにあった。
だから、もう一度聞けて良かったと思っている。
………………だが、そこで不意に美野里は気づく。
今、聞こえるその声。あの時のように鮮明とした声じゃない、その声は、どこか――弱々しい。


「ッ……」


やっとのこと、動くようになった瞼を開ける。
始め視界は、ぼやけた。
だが、次第に視界は正常なものへと戻っていく。
そして、美野里は………………そこで初めて知ったのだ。
声の正体。
今までこの世界に来て、生きて行く中で彼女を一番の傍で守り続けてくれていた存在――




美野里を囲うように宙に浮く、武器。
どれもが刃にヒビを残して半壊しかけた六本のダガー。




























緊迫とした状況の中でのフミカの言葉。
だが、それを聞いた直後に、一人の少女、ルアは心が発狂した。
瞳孔を見開き、歯を向きだしにさせながら、その場から立ち上がりフミカを睨みつける。
気品あった顔が涙で崩れ、怒号の声も鳴き声に似ていた。だが、それでも彼女の口にした言葉が許せなかった。
何故、こんな状況に追いやる原因を作ったあの女に手を貸してもらわなければならない。
何故、その名が今、ここで出てくるッ!!
ルアはフミカを睨み、その声で怒りを吐き出す。


「ふざけるなッ!!! 何故、そこでこの女の名前が出る!!!」
「それしか方法がないからよ」
「ッ! コイツさえいなければこの都市は平和だった! 何十者被害が出ることも、あの男が来ることも!!」
「そんなの、ただの感情論でしょ。…………アンタこそ、ふざけたこと言ってんじゃないわよ。美野里がいたから? 全部あの子のせい? ッ!! ロクに目の前にいる人すら守れない奴が、勝手なことほざくなッ!!」
「ッ!? き、貴様に…何がッ!!」


フミカの言葉についに頭に血をのぼらせたルア。
その手に握る杖に再び魔力を注ぎ込もうとした。だが、その矢先で、彼女の前にアーサーが立つ。


「フミカ。そのぐらいで許してやってくれないか」
「ッ!! アーサー様。…な、なんでっ!?」
「ルア、彼女が言っていることは確かに正しいよ。………僕は君が頑張っている間、何もしていなかったし、今ここに倒れる人々を助けれてもいない」
「それはっ、そん」
「でも、だからこそ、これ以上の被害を広がせるわけにはいかないんだ。もう、繰り返してもいけない。………だから、教えてくれ、フミカ。本当に、彼女ならこの状況を覆すことができるのかを」


真剣な眼差しでフミカを見つめるアーサー。
その言葉には嘘はなく、それは彼の本心だろう。
だが、昔から彼を知っているフミカにとって、そんなことは言われるまでもなく理解していた。ただ、確認したかったのは、その気持ちが今の彼にまだあるかという事だけ。
小さく口元を緩めるフミカはアーサーを見つめ、


「………ええ、美野里なら出来る。っていうか、私がこの状況で嘘を言うと思う?」
「ははっ、……確かにそうだね」


そう言って、再び口元を緩めるフミカにつられ、アーサーも同じように口元を緩める。
それが和解の合図でもあるかのように、彼らはそこで再び視線を白狼に戻しこれからすることを確認する。


「僕たちはどうしたらいい」
「あれの反撃魔法の足止め、道は私が作る」


アルバスター・スナイパル。
全種の魔法を一点に込め、撃ち出すその特殊魔法弾での道の開口。
彼らのやる事は重々と理解した。
後はただ一つ。
地面に横たわる少女、美野里。
彼女が眠りから覚めることだけが、その絶望を希望に変える鍵だと――――
だが、その時だった。


ガタン、と岩が落ちる音がその場に響く。
その場にいた者たちがその音の先に視線を向け、そこは空から一人の少年が落ちた地点だった。
そして、瓦礫を押しのけボロボロの羽織を揺らし現れたのは…………………額から血を流す、ルーサーだった。


「ルーサー!!? 大丈夫なの」
「待って」


アーサーは直ぐ様に彼の元に向かおうとする。
だが、それをフミカが言葉で押しとどめる。
視線が交わらない。顔を伏せる彼に対し、フミカは静かに口を動かす。


「ルーサー」
「………………」
「アンタが何を隠してるかはしらないけど、もう美野里に頼むしか方法がないの」
「………………」


ルーサーが彼女のために今まで動いてきたことは知っていた。
だから、今回のことも彼が自分で終わりにしようとしていることも理解している。
しかし、もうそんな優しさで解決できる問題はとうに超えてしまった。フミカは目の前で顔を伏せるルーサーを見つめ、その口であえて尋ねる。
もう、隠している猶予はない。
ここでその答えを言い、皆の不安を取り除く。
それが、今を解決し、これから先の………彼女の一生を守るために必要になるとフミカは踏んだからだ。
だが、ルーサーは…、






「ルーサー。美野里は一体何なの? 答えな」
「………うるせえよ」
「!?」






声色を落とした、その言葉。
今まで伏せていた顔を上げ、前髪の間から覗かせる鋭い真紅の眼光を光らせ、彼は……、


「あれは、俺が潰す。テメェらは手を出すなッ!!」


ルーサーは、そう宣言した。
しかし、自身の力ではどうにもならないことはその体でもう味わっているはずだ。
セルバースト、衝光を組み合わせた一撃でも倒せなかった白狼をどうやって倒すというのか。
アーサーはそんな疑問を頭の中で抱いていた。
だが、フミカは違った。
頬の表面から一筋の汗を垂らし、その言葉の意味を理解した。
そして、直ぐ様、止めに掛かろうとする。
そうしなければ、この都市は――――


「まさかっ…………ルーサー! やめっ」


だが、もう既に…………遅かった。
ルーサーは大口を開け、その力の名を発する。同時にそれが、自分が何の混ざり人かということを明かすと知っていながら。




大切な、存在を守るために、………彼は都市を滅ぼす力を使う。














「ッ!!!! ドラゴンバーストォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」












セルバースト。
セルとは違う、バーストの力は強大だ。
ウイングやクロウといった力はその生物の力、その一端に過ぎない。
だが、たとえ完全にその力を出せたとしても、今、彼が発する力には到底勝てないだろう。




何故なら、ドラゴンバーストの元となる生物。
ドラゴンはこの世界にとって脅威であり地上最強の生命体だからだ。




彼の混ざり人たる由縁。
そのドラゴンの名は、エンヴァスター・ドラゴン。全てのドラゴンの中でも、最強と言われる、全武器を全身に武装した、武装神龍だ。




「がぅ、っッツグガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」




ルーサーの周囲に炎が巻き上がり、その体はその赤き光に覆われる。
人間の発する声は何時しか竜の咆哮へと変化し吐き出される。
今やろうとしているのは、バーストをその身に宿すのではない。
バーストの力を完全開放し、彼は武装神龍、エンヴァスタードラゴンになろうとしているのだ。
それは混ざり人であるからこそできる荒業に近い技だ。
しかし、ドラゴンがもたらす、その最悪はこの世界にとって災いとして記録されていた。
ドラゴンの戦った場所は、必ず荒野へと変わる。
ルーサーがドラゴンとの混ざり人だということを、フミカは密かに知っていた。そのドラゴンの力も、その後に残る被害の大きさも……。
確かに、このまま完全体になれば上空に浮かぶ白狼は壊せるかもしれない。
だが、同時にもう一つの災厄がこの地に落ちる。
それは、都市の滅亡。
何も残らない、荒野……。


(っ、やるしかないの……)


フミカはアルバスター・スナイパルの見つめ、歯噛みした。
これは一回きりしか使えない。
仮に、もしルーサーを止めることが出来たとしても、その後、白狼はどうなる?
どちらを選んだとしても、残るは…………、


「くそっ!!」


フミカはその声を吐き捨て、意を決した瞳でライフルの銃口を目の前で変化しようとするルーサーへと向ける。
このまま、彼を変化させるわけにはいかない。
フミカが決心した理由は数あった。
一つは後悔させないため、二つは彼を知る者たちのため、そして、三つ目は、彼の守りたい存在の美野里のため、そのために絶対に止めなくてはならなかった。
フミカは震える指を、そのトリガーに振るえる指を掛けた、そして―――――――――――
















「そこまでだ、ルーサー」
「ッ!?」


















事態は一瞬で一変した。
突如、上空から高速で差し込まれた三つの光。
頭上から柱のように落とされたそれは変化の兆しを見せようとしていたルーサーの両腕と首根っこを突き、そのまま地面へと押し付けた。
地面はその力によってヒビ割れ、同時に大きな音が響き渡る。さらに、その直後に異変は持つ一つ起きた。
それは、今まで燃え上がっていた炎が一瞬にして消えたのだ。
ルーサー自身も事態の変化に頭が追いついていない。
一体何が起きたのか、理解できなかった。
しかし、その場に上空から三つの影が着地する。それはどこから現れたのかわからない、だが、彼らの顔がその場に出た直後、空から差し込まれた三つの光の正体が判明する。






それは、美野里の使う力と同じ、衝光の光。
そして、突然と現れたのは三人の存在。
男二人と女一人。
上級ハンター、Sランクの資格を持ち、各地へ討伐依頼をこなし続ける、インデール・フレイムの代表とも言える黒のローブを纏う三人の衝光使い。
軽装の装備に加え、細剣を手に持つ男の名は、アルガ。
重装備に加え、腰に携える巨大な短剣。右肩から手までが義手の男、ガルバ。
そして、大剣と背に背負い、髪を一括りにする女、チーダ。




「あ…アルガ、て、テメェ……………ッ」




自分の力が三人の衝光によって封じられたことを知り、歯切りを走らせるルーサー。だが、細剣を手に持つアルガはそんな彼の殺気に動じることなく言葉を発する。


「悪く思うなよ。お前にその姿になられては、………この都市は間違いなく終わる」
「黙れッ! どっちみちこのままじゃ、ここが終わるだろうが!!」


ルーサーはそう吠え、自身を封じる光を突き離そうとする。
しかし、ドラゴンバーストの不発。その力を使った代償が彼の力を奪い消失させる。筋力は急激に落ち、腕に力が入らない。
強大な力に伴う、対価が大きかった。
抵抗は空しく、ただ睨むことしかできないルーサー。
だが、そんな彼に二人の衝光使い達が歩み寄る。


「ルーサー」
「チーダ、ガルバ…………なんでお前らが、…一緒に」
「そうおかしいことでもないだろ、あれほどの衝光の力が感じて危機を感じるなというほうが無理だ」


ガルバはそう言って大きな息をつく。
対して、傍にいたチーダがルーサーの元にしゃがみ込む。その眼はどこか、悲しげで、怒りとは違う複雑な表情をしていた。
だが、その顔がよりルーサーの不安を駆りたてることになる。
そして、…………そんな彼女は、ゆっくりとした口調でただ淡々と尋ねた。














「ルーサー、何で裏切ったの?」
「!?」














その瞬間。
あきらかにその場の空気が変わった。
フミカたちが困惑した表情を浮かべる中、ルーサーは目を見開き、目の前にいるチーダの顔を睨む。


「貴方が言ったことじゃない。それなのに、なんで」
「だ、黙れッ!」


言わせてはいけない。
ルーサーは拘束の解けない体を無理やりに動かし、彼女の口を塞ごうとする。
だが、どれだけやったとしても、その行動は無に等しかった。
チーダは、何故こんなにも彼が動揺を露わにしているのか十分に理解していた。その言葉を言ってしまえば、今まで彼が隠し続け、守り続けたものが確実に壊れてしまうからだ。
だが、それでも…、


(……おかしいよ)


それでも、言わずにはいられなかったのだ。何故、彼だけがこんなにも傷を負わなければならない。
ソイツはのうのうと生きて、何不自由なく生きているのに。
どうして、ソイツのために、ルーサーがこんなに苦しまなくてはならない。


「…おかしいよ、ルーサー」
「黙れ、チーダッ!!!」


ルーサーはそう怒鳴る。
だが、それでも、もう止められない。
どうやっても、止める者がこの場に誰もいないからだ。
チーダは視線をルーサーから、ある者へと移す。
それだけで、彼の顔が必死な物へと豹変した。目は血走り、歯を向きだしに変え、獣のように叫ぶ。
だが、それでも、言わなければならなかった。
この都市を守るため。
人々を守るため。
…………そうしなければ、この事態を納める手段を提示できないから。




「ルーサーが言ったんだよ? …………シンクロアーツ」




そして、彼女は言う。
今までルーサーが隠し続けていた、その真実を。


















「…………あの女がこの世界に現れたら、それを私たち衝光使いで」
「黙れ、黙れッ!!?」
「――こ」
「黙れえええええええええええええええええええええええええええええええええええッ!!!!」






















「殺そう、って」














その時。
彼の叫びが、その場にいた者たちの視線を集中させることになる。
しかし、ルーサーにとってそれはどうでもいいことだった。
ただ、その真実が、その場で明かされたこと。
そして、




















「…………、ルーサー」
「!!!!?」




















ルーサーがその声を聞き、声を詰まらせる。
一瞬、心臓が止まったかさえも思った。
彼は、まるで小刻みに動く人形のように視線を動かす。
側にいるフミカやアーサー、ルア、と視界に入ったが、それでも視線はその声の元へと向かい動き続ける。
そして、彼がやっとの思いで留めた、その視線の先に…………眠りから覚めた一人の少女がいた。
その顔は、驚愕に染まっていた。
その顔は、まるで捨てられた子犬のような顔をしていた。
ルーサーは、震えた声で、………その彼女の名前を口にする。




「み、……美野里…」






その言葉を口にし、彼は実感した。
今の言葉を、チーダが言った言葉を…………。
美野里は、聞いてしまったのだ。








彼女自身が――――
衝光が守るべく存在。シンクロアーツ、だということを―――
そして、彼女自身が殺されるべき存在だったと言われていたことを――――――











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