異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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スザク・アルト







荒れ狂う大嵐。
ウェーイクト・ハリケーンを囲うように周りを吹いていたその風はどの都市でも道を塞ぐとして有名なものだった。
嵐の原因は王嵐蠍と呼ばれる生物である、セヴァグルスコーピオンが食事を行うために起こしているのだ。
だが、ここ数か月して突然と大嵐はまるで初めからなかったかのように消えたのだ。
ウェーイクト・ハリケーンに住むハンター達に聞いても、誰も討伐しに行ったものはいないという。
確かに嵐は銃使いにとっては天敵といってもいいものだ。
銃弾を撃つも、敵に命中する手前で風によって起動が変えられてしまう。
そのため、道行を困難とさせる嵐の原因であるセヴァグルスコーピオンを誰も倒そうとする者はいなかった。




「……これはどういう事かな」
「わかりません」




嵐がなくなったおかげで立ち話ができるようになった道中、大きな羽織型のローブを着た男女二人はその現状に対し互いの考えを言い合っていた。
実際は、男が尋ね女は簡潔に答えるだけなのだが。
ウェーイクト・ハリケーンで調査を終えた二人は何も問題がなければ、そのまま自分たちの住む都市に帰るだけだった。
しかし、女とうって変わって男はというと、なんともめんどくさそうに、


「帰るの嫌だなぁ…」
「何を言ってるんですか? 元々ウェーイクトの一件が片付いたら直ぐに戻ると言ったのはあなたじゃないですか!」
「いやぁ、だって…」
「後、今日からスザクアルトの開催なんですよ? 早く帰って、上に報告してないと」
「…………………」


いつまでたっても行く気無しの男。
ビキィ、と女は額に青筋をたてるとそのまま腰に携えた一つの小さな杖を取り出し、男の頭に向けてソレを突きつける。


「さっさと、どっちか決めてください。炎で丸焼きになるか、水で溺れるか、それと」
「ん? 炎?」


ビュン! と背筋を伸ばす男。
わっ!? と突然の行動に対し驚く女だが、当の本人は全く聞いていない。


「そうだ、スザク・アルトの最中なら、アイツに会っても大丈夫だよね!」
「ん、アイツ?」
「あー、そう思ったら早く帰らないと! ルア! 早くインデールに帰ろう!」
「っなな、何なんですか! もう、分かりましたからそんなに顔近づけないでくださいっ!?」


至近距離まで近づいた男の顔に赤面する女、ルア。
その表情から何かを察してもいいのだが、その男もまた鈍感なのか全然彼女をを見ない。
前開きとなったローブ。
その腰に納めた金色の柄を、チャリと慣らしながら空を見上げる男は口元を緩ませ言う。






「久しぶりに会って驚くかな、ルーサーのやつ」






















第四十話 スザク・アルト




ドン、ドン! と大きな音が上空から聞こえる。
それは世界の各地で行われる二年に一回の祭り、スザク・アルトの開催の合図でもあった。そして、地上に建つ都市インデール・フレイムもそれに含まれている。
きめ細やかに飾られた街に都市の大門からハンターや一般人が入ってくる。討伐した生物の角や毛皮などが展示され、他方のハンターはそれを眺め大いに賑わう。
一般の客もまた食事などをして楽しみの中にいる。
ただ、その中で、




「はぁ―………………」




マチバヤ喫茶店。
店内のカウンターに両肘をつく少女、町早美野里は大きな溜め息を漏らす。
喫茶店の客入りはというとそこまで良いわけではないが、普段のこの時間帯なら客の数人が入ったりと少しばかりバタバタしているはずなのだが、今はまるでもぬけの空の状態。
というのも、彼女はスザク・アルトあるということを祭り前日まで知らなかったのだ。


(あの後、直ぐに外出たらなんかどこも飾りつけ凄いし、一日で間に合うわけないじゃない……)


闘技場の一件から、その翌日に目を覚ました美野里。
ただ、そのせいで祭りの準備ができなかった。というわけではなく、ウェーイクト・ハリケーンの一件から周りの変化に気を止める暇すらなかった。
つまりは、言い訳なのである。
ガタン、とカウンターに頭を落とす美野里。
しかし、そうこうしている間に時間は無駄に過ぎていく。スザク・アルトは通常通りなら三日行われるのだが、それまでずっとこうしているわけにはいかない。
ゆっくりと顔を上げる頬を赤らめた美野里は、色々と頭を巡らせ数分と考え込み……………、




「べ、別に祭りを楽しみ行くわけじゃないし…………ないし……………………」




チリン! と、その手で店を閉めた。
そして、ハンター衣装に着替えた美野里は他の店を偵察という名目で祭りを回るために街へと足を運ぶのだった。















クンクン、と鼻を動かす姿はまるで犬のようだ。
街中の通りを歩く魔法使いことアチルは今まで稼いだ依頼達成の金を手に現在食べ歩きの真っ最中である。ただ、周りから多くの視線が向けられているが当の本人は全く気付いていない。
皆の視線の先にあるのは、アチルの片手に抱えられた山程の食料が入った紙袋。
彼女は星を輝かしたような瞳で、その食料の山を見つめる。


「これと、これ…………おいしそう。 あ! でも、あっちのも……」


香ばしい匂いや甘い匂い、鼻についた物にあちこち視線を向ける彼女だがそれも無理もないのだ。何故なら彼女の故郷である魔法都市、アルヴィアン・ウォーターは何故かわからないが料理が壊滅的に不味い。
何でもそのまま炒めたり煮たりとして、さらに味付けは魔法でつくった薬でつけるのだ。


(うぅぅ……インデール・フレイムに来てよかったぁぁ!!!)


目じりに涙を溜め、アチルは故郷で泣きながら食べた半焼きの赤み肉を思い出す。そして、今買った香ばしい匂いの串焼きの味を噛み締める彼女。
ちなみに串焼き今ので十本目である。
だが、そんな彼女の幸せの時間は……そう長く続かなかった。




「あ…」
「むぐっ?」




現在偵察中であった美野里は目の前で涙溜めつつ串焼きにかぶりつく魔法使いのアチルと遭遇する。
そして、その直後に無言の静寂が訪れた。


「…………………………」
「…………………………」
「ちょっと」
「………はい」
「アンタ、確か大変な野暮用があるからって私の手伝い断って見捨てたわよね?」
「…………………………」
「何、大変ってもしかして食べること? それとも買い物とかすること?」
「…………………………」
「ねぇ、……………………ちょっと、話しようか?」
「っん!!」


次の瞬間。
全速力で逃げるアチルとその後を鬼の形相で追いかける美野里。
だがその数分後、荷物の差で捕まった少女の悲鳴が都市の裏路地で響き渡るのだった。





















ある時はハウン・ラピアスの受付人。
そして、またある時は店内にある飲み屋の看板娘。
銃使いのフミカは、普段つけている三角巾を外し、その代わりと外の生物であるウサギ、ラブチの耳を加工して作ったウサ耳を頭につけ店内を走り回っていた。


「フミカちゃん! 酒二つ!」
「あ、俺もさらに追加で」
「ワイも!」
「っちょ、一気に言わないでよ!!」


酒の注文があれば、皆が便乗するように注文してくる。
目じりに涙を溜め、せっせと走り回るフミカ。しかし、何故このような状況になったのかというと、それは数時間前のことになる。


ドン! ドン! と。
スザク・アルトの開催する音が聞こえて一時間が過ぎた依頼所、ハウン・ラピアス。
普段なら、ハンターたちが依頼を受けようと満員とまではいかないが店内は人々で盛り上がっているはず、なのだが……。
カランカラン、と音がなるようにそこはもぬけの殻といった状態。
頭の髪に対して悩み募らせるハゲ頭店長のレグは隣にいる三角巾をつけた銃使いフミカにそっと尋ねた。


「フミカちゃん」
「……はい」
「これ、どうするの?」
「え、いや……そう言われましても…」


店内がこんな状態になる、そのきっかけを作ったのはまぎれもないフミカだった。
一体何をしたのか、というと祭りが開催された数分で、


『くたばれ、クソが!』


酒に酔っぱらったオヤジに尻を触られた直後。肘、拳、回し蹴りを決め、オヤジのノックダウンを店内客に公開したのだ。
しかも、一番賑やかになってきた頃合いにその鎮痛的な大惨事。
店内にいた客がその一部始終を見た直後、皆が逃げ帰り、それ以降誰も来なくなってしまった。




「フミカちゃん、確かに触った客も客だと思うよ。………でもね、いくら何でもやり過ぎはやり過ぎなわけで」
「で、でも普通はあれぐらいしません! 最後に銃弾を撃ちまくったりとかっ!!」
「それするのってフミカちゃんだけだからね!?」




レグとフミカが言い合うも、事態は改善しない。
どうしようもない結果を作ってしまったフミカ自身も、実際は悪いことをしたと思っている。
はぁー、と溜め息を吐くレグはゆっくりとした足取りで部屋の奥へと歩いて行き、そこから数秒して帰ってきた。
そう、手にあるものを持って…、


「ちょっ、それって!?」
「仕方がないんだよ、フミカちゃん。いくら君が嫌だって言っても今回だけは…」
「む、むむ無理です!!! そそ、そんな!?」
「本当なら衣装も変えてほしいんだけど。………これでも可愛い方だよ?」
「ぅぅうう……」
「やってくれるね、フミカちゃん!」


ずぃ! と渡されたソレ。
白いふさふさの毛がついた二本の耳。
通称、ウサギ耳。
………………………………………………………………………………。




かくして、フミカは自分の失態を戻すべくウサ耳フミカとして働くこととなった。
ウサ耳の効果か、客もまた入り始め絶賛増加中だ。
これで何とかなった、と心中で一息つくフミカの顔にも笑顔が戻る。
と、そんな時だった。


「店員さーん」
「は、はーい! ッ!?」


声のした方向に振り向くフミカ。
だが、そこにいたのはテーブル前の椅子に座る一人の少年、鍛冶師ルーサー。
しかも、まさかの対面に体を震わせる彼女を見つめ対し、口元をニヤつかせながら不敵な笑みを見せる。


「る、ルーサー……」
「店員さん、俺にも酒一つ」
「は、はい……」
「あ、後」
「?」
「ウサ耳さん、頑張れよ」


歯を見せ、してやったりと顔を見せるルーサー。
はっきり言って、彼なりの今までの仕返しなのだろう。
顔を赤面にさせるフミカは震える拳を何とか堪え、口元を引きつった笑顔を彼に返した。
そして、早々に人目のつかない部屋奥に行くや否や、




「アイツ、後で覚えてなさい………」




ドゴッ!! と一撃。
店長であるレグが今まさに声を掛けようとした間近で、拳を繰り出したのだ。
そして、フミカの給料が穴の開いた壁の修復台で三分の一消えたのは言うまでもない………。













インデール・フレイム正門前。
昼時まで時間が経っても外から来たハンター達の出入りは止まる事をしらない。門を少し抜けた大通り、人が行きかう中で大きなマントを着た一人の少女が変わらないインデールの街並みに対し口元を緩ませる。


「久しぶりに帰ってきた……」


頭に被るブーケを脱ぐ、少女。
脱いだそこには、ツインテールの髪に子供のような顔立ちがあり、その背中には地面すれすれまで長い刃の大剣が背負われている。
少女、ワバルは胸の高鳴る鼓動を抑えつつ、独り言を呟く。




「ライザムさん。……ワバル、帰ってきましたよ」




それはかつての自分の師匠。
この街で、高ランクのハンターだった男。
ワバルは、その叶えられるはずのない、再会を胸に足を動かすのだった。














それぞれの歩き出し。
彼らはその時、まだ知る由もなかった。
二年に一回のスザク・アルト。
その祭りでまさか、インデール・フレイムという都市を大きく揺るがす大事件が起きるとは……。













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