異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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タクティリガ討伐と御礼の報酬 A

 
 第十話 タクティリガ討伐と御礼の報酬 A




 剣の都市インデール・フレイムにはハンターたちの溜まり場となる場所がある。
 都市の中央広場に佇む一店、その名はハウン・ラピアス。通称、ハンター専用の依頼所だ。


 その名の通り各都市に設置されたハンターが依頼を受ける際に訪れる場所なのだが、インデールは他都市とは違い、依頼所とバーが合体した異例な場所となっていた。
 多くのハンターたちが壁に貼られた依頼書を眺めたり、またその他の者たちは陽が浅いにも関わらず酒を飲んだりと賑やかな雑談を交わしながら楽しんでいる。
 また壁に貼られる依頼書には、各色に分かれた三つの種類の紙があり、物の回収や動物の討伐、捕獲等といったものが適用ハンターランクと一緒に書き記され、そのランクに応じてハンターたちは依頼を見定めているのだ。
 そして、そんな壁に貼られた一枚の紙を眺める一人の少女。


「うーん……」


 町早美野里もまた、そんな彼等と同じハンターの一人だった。
 今彼女は喫茶店での仕事着から戦闘着に着替え、武装装備を整えた上でさっきから睨めっこする様に一枚の紙に対し、頭を悩ませていた。


 先に説明したように色分けされた依頼書には三つの種類が存在している。
 青色の紙の場合だと採取クエスト。
 赤の場合は討伐クエストで、後の緑はというと捕獲クエストだ。
 そして、美野里が目を向けているその赤い紙の依頼書。つまりは討伐クエストだ。
 さらにいえば、その紙に書き記された内容はというと
 、


『討伐クエスト タクティリガ討伐。
 四足移動に加え二本の角での突進を得意とする巨体モンスター。
 背中には備わった硬い甲羅があり、防御の役割を持つ。転がりながら突進してくることもあり、超重量の武器が必要とされる』




 簡単に言うなら、硬い甲羅を持つモンスターとの討伐クエスト。
 相対する際には超重量の武器が必要とされる、とそう書かれている。
 美野里は小さな唸り声を漏らしながら、自身の持つ超重量には到底及ばない軽量型ダガーに視線を落とす。
 確かにタクティリガは防御の際、体をボールのように丸まわせ回転しながら突進してくる習性を持つ。
 軽い攻撃は跳ね返される事を考慮して、超重量の武器は必須条件なのだろう。
 だが、モンスターの隙をつく攻撃方法を得意とする美野里にとって、決め手となる最大火力の攻撃方法は近接戦闘しかない。
 例え打ち勝てたとしても、無傷とまではいかないだろう。あまりにも危険度が高すぎる。


 やっぱり厳しいなぁ‥‥、と美野里は重い溜め息をつく。
 いつもならそこですんなりと諦めていただろう。しかし、美野里にとって今回の依頼で出される報酬はどうしても欲しいものだった。
 それも、この機を逃すと滅多なことがない限りは手に入らないだろう代物だった。


 しかし、現実は甘くなく、今の戦闘スタイルではクエスト自体クリアーするのが難しい。
 やっぱり無理なのかなぁ……、とガックリと肩を落とす美野里。
 と、そんな彼女の背後から突如、


「みーのり!」
「っきゃあ!?」


 ガシッと両肩を掴まれ美野里は叫び声と共に、ビクッ!! と肩を震わせる。
 店内には多くのハンターもいた分、その叫び声は注目の的になり、視線が集まる中で美野里は顔を真っ赤に染まる。
 対する、そんな彼女の後ろに立つ一人の女性はイタズラ顔で手を振りながら皆の視線をあしらっていた。美野里は頬を膨らませつつ後ろに振り返り、三角巾を巻く一人の女性。
 ハウン・ラピアスのカウンター受付人でもある彼女、フミカに声を上げる。


「もう! 驚いたじゃない!!」
「ごめんごめん。でも、珍しいわね、美野里がここに来る何て」


 まるでグラビアアイドルか、と言いたいほどの美肌を持つフミカはこの店ではアイドル的存在である。
 さらに言えば、目の前にぶら下がるその二つの大きな塊には、美野里もたじろぎつつ顔をそっぽ向けたくなるほどだ。


「っ、た、たまにはいいでしょ。ちょっと、欲しかった物があったのよ‥‥」
「欲しい物? いつもは自分で取ってくるのに?」
「う、うるさいわね!!」


 美野里は声を上げ、動揺丸わかりの表情を浮かべる。
 フミカから見た目線からも、どうにも彼女はそれ以上詮索されたくない様子がみて取れた。
 もう‥‥、と呟きつつ美野里は壁に貼り付けてあった一枚の依頼書を取ろうと手を伸ばす。
 だが、その一瞬をつくように、フミカは口元を緩ませながら瞬時にそれを奪い取ってしまった。


「あ、っちょ!?」
「へぇー、タクティリカ討伐ねー。ん……あれ? これって確かアイツが」
「ちち、違う!? わ、わ私が欲しかったものなのっ!!」


 確信に近づかれ慌てる美野里の口から、ボロが出る。
 ははん、と不敵な笑みを浮かべるフミカは何かを察したのだろう。
 だが、そんな彼女はもう一度依頼書に視線を向けて、


「なるほどね。……でもこれは無理でしょ? 美野里の武器じゃキツイだろうし」
「ううっ…」
「行くならタッグか、もしくはギルドね。やっぱり斧とかハンマーくらいは欲しい所だろうし、後それから‥」
「魔法ですね」
「そうそう、後は魔法って…………誰?」


 フミカの会話に突如として第三者の声が入ってきた。
 一方で、その声に聞き覚えのある美野里は嫌そうな表情を浮かべながら、ゆっくりを視線を横に向けると、そこには青色の剣を持つ少女が立っていた。
 きょとん、とした顔色を浮かべる魔法使いことアチルだ。


「どうしたんですか、美野里?」
「‥‥ううん、何でもない。……もう慣れたから」


 げんなり、とした様子の美野里。
 対するフミカとアチルは、顔を見るや突然と仲良くハイタッチをし始め‥‥……ハイタッチ?


「え?」
「よっ、賞金泥棒。また稼ぎ?」
「はい、今日は結構高めを行こうと思ってます」


 仲よさそうに話す彼女たちに美野里は目を点とさせる。


「え? フミカって、………アチルと仲良かったの?」
「うん、だってアチルってここじゃ結構有名だし」
「有名? 何の?」
「何って、その名の通り賞金泥棒よ。依頼書の端から端までをその日の内にクリアーしちゃうってら結構有名人よ、この子?」


 えへへ……それほどでもー、と褒められ照れながら頭をかくアチル。
 対する美野里は内心でその話に驚いていた。
 この街に来てそう日が経たない内にこうも皆と馴染んだアチル。美野里自身、この街に溶け込むのにそれなりの時間が掛かったというのに、それをいとも簡単にしてしまう様に少し負けた気持ちがこみ上げてくる。


「それで、美野里がやりたい依頼っていうのはどんなの何ですか?」
「え? ああ。これよ、これ」
「あれ? これって確か」
「そうなのよねー、以外よねー」


 とか何とかしている内に、フミカと話し込んでいたアチルもまた察しがついたように美野里に対し口元を緩ませる。
 ヤヤコシイのがまた増えた!? と顔を引きつる美野里。
 フミカに続き、アチルはそんな彼女をからかおう詰め寄っていく。だが、次第に近づいていくにつれて、


「……………ぅぅ」


 羞恥が限界を迎えたらしい。 
 涙目になり始める美野里は、まるで小動物を見ているような、可愛らしい生物に成り下がってしまった。
 グサッ! とその瞬間、アチルは自分の心臓に何か見えない矢が突き刺さったように心音が激しくなっていく。
 隣にいたフミカもまた頭を頷かせ、アチルの心中を理解しているようだ。


 目をウルわせる美野里の顔がまた可愛らしい。
 こほん、と一咳をつくアチルは一度気を落ち着かせながら、そんな彼女に口元を緩ませ、


「一緒に行きましょう、美野里」


 そっと、アチルは手を差し伸べる。
 その裏のないその笑顔に対し、美野里は顔を伏せ、その頰にも熱が籠る。
 この世界に来て同世代の少女と、こう親しげに仲良くなることがなかった。
 だからこそ、美野里もその対応に困るわけだが、


「ぁ、ぁりがとう……」


 美野里は狼狽えながらも、アチルの手をゆっくりと掴む。
 こうして、剣術と魔法。
 二つのスタイルを持つ少女たちは、討伐クエストであるタクティリガ討伐へと出発することとなるのだった。







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