異世界での喫茶店とハンター ≪ライト・ライフ・ライフィニー≫

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ウォルトリーと魔法使い

 

 第三話 ウォルトリーと魔法使い


 声の反響から大体の位置を予測した美野里は洞窟内部を駆け走り、直進の次にある曲がり角に滑り込むようにして現場となった場所に辿り着いた。
 ………………のだが、

「…ぅ!?」

 美野里はその瞬間………正直な感想として、嫌な物を見てしまった、と思ってしまった。

    というのも、まずそこにいたのは初めてハンターになったばかりの者たちに支給されるであろう初期装備を身につけた一人の少女。
    どうやら腰を抜かして座り込んでしまったいるらしいが、それは特に問題ではない。

    では、何が問題であるのかと尋ねられれば、それは新米ハンターが今まさに敵対していた人の背丈を悠に超えた巨大なモンスターに対して。



 ヌメヌメとした液体を身に纏った肌色のモンスター。その名は、ミヌカルゴ。
    もといーーーーーーーーーー巨大ミミズに対してだ。


『ブシャァ!』

   ミヌカルゴは奇声を上げながら、そのヌメヌメとした体をクネクネと動かしている。

   奴の技はそのヌメッた体でハンターに巻きつき獲物を頭から捕食する、と美野里は以前、店に来ていた客がそう口にしていたことを思い出していた。
だが、それ以上にその外見含め動きを見るだけでも、色々とヤバかった。

(ぅぅーっ!?  こっち見ないでよーっ!?)

 美野里の気配に気付いたのか、ミヌカルゴは向きを変えつつ首を傾げる仕草を見せる。
    だが、全然可愛くない!! と内心で叫びつつも、標的がこちらに変わった事に対し、美野里はそっと構えた短刀に力を込めた。


   しかし、その直後だった。

   ミヌカルゴは、フェイントをかけるかのように、美野里から再び標的を新米ハンターへと戻し、そのまま未だ動けず怯える少女に襲いかかったのだ。
   だが、その時。




「やらせないわよッ!!」



   その場にいた美野里だけは、モンスターの動きに騙されてはいなかった。
   モンスターが少女を襲おうとした直後、美野里は両手に握っていた短刀を再び構え直し、それはまるでダーツを矢を投げるかのように、ミヌカルゴに向けて武器を振り放ち、


『グャツツッ!!!』


 グサッ、という不気味な音がその場に放たれた。
   音の通り、鉄の刃がミヌカルゴの肉面を切り裂いたのだ。

「………ぇ」

 蹌踉めきながら倒れるミヌカルゴに対して、腰を抜かした少女はいったい何が起こったのかわからず目を見開いていた。
   だが、その直後に、

「うぐぅっ!?」

   少女らしからぬ声が、彼女の口から漏れた。
   その原因は、受け答えをするまでもなく美野里が少女の襟首を無造作に掴み上げ、後ろに突き飛ばす形で退避させた為だ。

「後ろに下がってて!!」

    とは言われても、一瞬息が詰まって返事もロクにできない少女。

 
    その一方で、傷口から緑色の血液を流すミヌカルゴは敵意を美野里に移し、奇怪な鳴き声を上げながら襲い掛かってきた。
 だが、そんな状況でも落ち着いた表情を見せる美野里は左足を前、右足を後ろに変え、攻撃の構えを取る。

   そして、重心を意識しつつダガーを持つ手に力を込め、美野里が認識する間合いにミヌカルゴが入った、その次の瞬間。



「ッ!!!」

   
 美野里が放った斬撃がミヌカルゴの頭部を縦一閃に斬り裂いた。
 それはまさに急所を狙った、必殺の一撃だった。
    緑の血液が地面に飛び散り、こびり付く。
 一瞬にして戦いは終わり倒れるミヌカルゴ。だが瀕死にも関わらず、残った体が今もうねうねと動き続けている。

「っ!? い、行くわよ!?」
「わっ、は、はい!?」

 見るに堪られず、声を上げた美野里は未だ目を点にする少女の手を掴みながら、いそいそと洞窟の出口へと撤退するのだった。






 何度か雑魚モンスターを退治しつつ、洞窟の外へとたどり着いた美野里たちは地面に座り込みながら共に大きなため息を漏らした。
   そして、そんな中で美野里に助けられた少女は、

「た、助けていただき、ありがとうございました!!」

 そう声を上げながら頭を下げる、彼女の名前は、アチル。


 どうやら洞窟に入ったはいいものの、迷った挙句に攻撃手段をなくした所でミヌカルゴに遭遇したと彼女は言う。
   というのも、レイスラグーンには実は初心者ハンターの練習の場でもある一方で、未だ全体図が把握されていない迷宮洞窟という一面を持っているのだ。

   だから仕方がなかったのか、と話を聞いてそう思った美野里。
   だが、ふとアチルの腰部分に視線を向けた時、そこに短剣が納められたホルダーがある事に気づいた。

「って、武器ならそこにあるじゃない?」
「あ、これは護身用です。って言っても、私自身はあまり剣を使えないので」
「?」

 その言葉に首を傾げる美野里。
    対し、アチルは苦笑いを浮かべながら、

「えーっと、だから言うと…私はインデールから来たハンターじゃなくて、その…この洞窟の向こう側にある、アルヴィアン・ウォーターから来たんです」
「……………あー………なるほど、アルヴィアンから…」
「はい」
「………………え?」

 アルヴィアン・ウォーター。
 それはインデール・フレイムから離れた、南の地域を管轄する大都市の名でもある。
 だが、剣を主体としたインデールと違い、その都市には魔法を使う者達――通称魔法使いたちがハンターをして生活しており、インデールでもたまに魔法使いが来ると、町中に噂が立つほど。

  それほどに、魔法使いは珍しい存在でもあるのだ。

   そして、美野里自身、アルヴィアン・ウォーターの魔法使いを見たのは初めてでもあり、

「魔法使い…」
「え、えーっと…」
「うーん…、うーん…」
「あ、あの……な、なんですか? あの…何でそんなにまじまじと見るんですかっ!?」

 恥ずかしげな様子のアチルを見つめる美野里は正直な話、魔法使いなどテレビや漫画の話でしか見たことがなかった為、実際に目の前にいると気になって仕方ない気持ちで一杯だった。
 さらにいえば、美野里はそんな彼女の胸にある大きな塊が凄く気になった。
    自身の小さな塊を見つめても、うなり声を上げながら敗北感を感じずにはいられなかった。

 だが、そんな時。

「ん? あれ、確かアルヴィアンって…」
「?」

 美野里は不意にあることを思い出し、対するアチルは、目をキョトンとさせながら首を傾げる。
 だが、その次の瞬間。

「ね、ねぇ!!」
「ひゃ、ひゃい!?」

 ガシッ、とアチルの両肩を力強く握り締め、詰め寄った美野里に変な声を上げてしまったアチル。
    だが、そんなことを気にする様子もなく、美野里は期待に満ちた瞳でその口を動かし、

「アルヴィアンってことは、もしかしてウォルトリーとか持ってない!!」
「えっ、え! え!?」

 ウォルトリーとは、アルヴィアン・ウォーターの周辺でしか取れないとされたアストリーと同種の鉱石だ。
    そして、その効力は何も無いところから水を出す事のできるといったもので永続とは行かなくとも保つ期間は長く、とても古い物では約百年持つ代物もあるという。

「い、一応、持ってますけど、そそ、その、ただの石で」
「タダって、何言ってるの!? 無茶くちゃ良いものじゃない!!」

 そんか本気か声を上げる美野里の眼は真剣そのものだった。
 本音を言えば、若干怖い…と、顔を青くさせるアチルはオドオドとした様子でポーチから数個のウォルトリーを取り出し美野里に見せた。
 
  その直後、美野里の眼にこの日一番の輝きを放ち、

「ねぇねぇ!! それちょうだい!!」
「あ、え、…い、いいで」
「お金、それとも獲物! どっちでもいいから!!」
「いやっ、ただで渡しますからッ!?」


 チャララン! 美野里はウォルトリーをゲットした!

「やったー! やった!!」

 アストリーに加えウォルトリーを手にすることが出来た美野里はその場で飛び跳ねながら、嬉しさを隠せなかった。


 ただ、端から見ているアチルにとってはどうにも気が滅入る気持ちにもなったのは言うまでも無い。
 何故なら、道中に転がっていた石をあげた、ただ、それだけなのだから……。

「…………ぅぅ」

 だからアチルは、もう苦笑いを浮かべるしか出来ないのであった。



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