みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです

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67.弓月と桜のきもち


 少しの肌寒さを感じながら並木道を歩く。風に舞う枯葉たちがカサコソと、まるで私達を見て内緒話をしているような音を立てる。


 気温の低さとは対照的に、体温が上がっていくのが分かる。繋いだ手から、私の熱が彼女に伝わっているだろうか? それとも……


「だいぶ寒くなってきたねー」
「そうですね」


「枯葉の掃除って大変だよねー」
「そうですね」


「……」
「……」


「今年は雪、どれくらい降るかなー?」
「交通機関が麻痺しない程度にして欲しいですね」


「雪は好き?」
「はい」


「……」
「……」


「あれ? こんな所に公園あったんだ……」
「はい」


「ちょっと寄って行こうよー!」
「はい」


「あ、あのベンチに座ろうー」
「はい」


「……」
「……」


「いや……桜ちゃん緊張し過ぎ!!」
「ごご、ごめんなさい!! し、心臓が……いたた」


「全くもう……そんなに緊張されるとこっちまでドキドキしちゃうじゃん!」
「ごめんなさ……ん? 弓月、ドキドキしてるんですか?」


「そ、そりゃ……するでしょ! 普通!」
「意外です」


「意外? どういう意味?」
「だって……弓月は、なんていうかこういうの慣れてるのかなって……」


「えっ?! 慣れてるわけないじゃん! どうしてそう思うの?」
「だって……弓月は友達が多いでしょう? なんて言うか、その、スキンシップとか普通なのかなと……」


「それはまぁ、そうと言えばそうだけど……私達って友達なの?」
「っ!? そ、そんな……も、もう私とは友達ではないと……う、うぅ……」


「あっ! 待って、違うって! その、友達よりは一歩先に進めたかなって私は思ってたんだけど……」
「えっ……?」


「な、なんて言うのかな? 友達以上、恋人未満みたいな? よく分からないけど!」
「弓月……うぇーん」


「もー、桜ちゃんすぐ泣くんだから。私だってこんな経験ないんだから、よく分かんないんだよー!」
「うん、ごめんね」


「だから謝らないでってばー」
「はい……」


 あのベンチに座っている女子高生二人、とても仲が良さそうだなと、向かいのベンチで私達と同じ様に日向ぼっこしているおじいちゃんとおばあちゃんは思っているかもしれない。それとも、女の子同士で手を繋いでほのぼのしている光景に違和感を感じているだろうか。

 別に付き合っている訳でもないし、結局お互いこれから先どうしたいのかとか、どれくらい相手の事を好きなのか、とか……全てが曖昧なままだ。でも、何も焦ることはないんだ。先のことなんて誰にも分からないんだから。

 
 まあ、これから先ゆっくり自分の気持ちに整理をつけて、どうすればいいか決めていけばいいか。他の人からどう見られたって不思議と今は気にならない。

 人生はどうやったって思った通りにはいかない。でも上手くいかないから楽しいんだ。そんな風に考えるしかないじゃない。じゃないと皆んな不安に押し潰されてしまうから……


 桜ちゃんと……
 弓月と……

 二人の物語はここで終わりなのか、それともこれから始まるのか。
 今はまだ、誰にも分からない。


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