みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです

名前はまだない

第2章 33.ほんの一握り


「それでは次の大会のベンチメンバーを発表する」

 そう言って美鈴コーチがユニフォームを一枚づつ渡しながら名前を読み上げていく。


#4    皇 真琴(すめらぎ  まこと)
三年  SF  164cm

#5    高橋  桜(たかはし さくら)
三年  SG  153cm

#6    佐藤  奏  (さとうかなで)
三年  C  175cm

#7    夕凪  花火  (ゆうなぎはなび)  
三年  F  160cm

#8   小鳥遊  奏音(たかなしかのん)  
三年  SF  155 cm

#9    倉田  心夏(くらたここな)
三年  PF  167cm

#10  八重樫  優  (やえがしゆう)
三年  PG  150cm

#11   富田 美優(とみだみゆ)
三年  S  153cm

#12  五十嵐  日向  (いがらしひなた)  
三年  S  157cm

#13  矢野  たより(やのたより)
二年  F  160cm

#14  加賀美  芽衣  (かがみめい)
二年  C  176cm

#15  井口  えみる  (いのくちえみる)  
二年  PG  151cm

#16  小坂  桃(こさかもも)
二年  PF  159cm

#17  冨樫  色葉  (とがしいろは)
一年  S  155cm

#18  月見里  二葉(やまなしふたば)
一年  SG  150cm

※PG=ポイントガード
    SG=シューティングガード
    SF=スモールフォワード
    F  =フォワード
    S  =シューター
    PF=パワーフォワード
    C  =センター


 うちの学校の女子バスケ部は県内では強い部類に入る。最近では選手のコンバートにも力を入れていて、県外から入学してきた子もちらほらいるくらい。

 さらに言えば、練習の厳しさも県下トップクラスで、沢山入ってきた新入部員は練習のきつさに耐えかねて、毎年半数以下まで減ってしまう。そんな厳しい練習を乗り越えても、試合でユニフォームを貰えるのはほんの一握りといっていい。  

 そして、ベンチ入りできたとしても試合に出られる人数は限られている。大会の規模にもよるけど、基本的には1クオーター10分間×4クオーターで一試合あたり40分しかない。

 そう、たったの40分。毎日、毎日必死になって練習をしてきた成果を表現するにはあまりにも短いと思わない? そして一度にコートに立てる人数は たったの5人。その5人は普通ポジションが違うから、大袈裟に言えば各ポジションで一番上手くないと試合には殆ど出ることが出来ないってことになる。

 幸い、私は一年生の時から試合に結構出してもらえていたし、フォワードというポジションなので、得点する場面も多くなって結構目立っていた。

 ただそれは、全て私の実力なんてことは勿論なくて、先輩たちのアシストやチャンスをくれた監督やコーチのお陰という部分がかなり大きい。

 うちのチームは県大会以上で考えた時、決して平均身長の高いチームではない。むしろ全国レベルで考えたらかなり小柄なチームだ。小柄なチームが勝つためにやらなければいけないのはどのチームよりも強固なディフェンスと誰よりも早い速攻。
要するに走って走って走りまくるという事だ。そんなチームのスタイルが、私の好むプレースタイルとがっちり噛み合ったことも、今まで結果を残せてきた要因として大きい。

 この秋から始まる地区予選は、最終的に三年生最後の大会であるウインターカップに繋がっている。でもウインターカップに出場できるのは県大会で優勝した1校だけだ。つまりは、県の代表、県で1番強い高校であることが、ウインターカップに出場できる条件になる。

 負ければ即終了のトーナメント戦。そんな緊張感の中で勝ち続けるのは容易なことではない。因みにここ数年で県大会でうちが優勝できた事は一度もない。最近ではベスト4には確実に入る程の実力を身につけた我が校だが、うちの県には絶対的王者と言える高校があるのだ。

 その高校は他のベスト4と比べると頭二つ分くらい飛び抜けて強くて、全国大会の常連さんだ。
いわゆる強豪校というやつだね。
だけど、次こそは……絶対に勝つという強い意志を持ってみんな日々の練習に励んでいる。 

 特に三年生は毎回その高校に苦汁を舐めさせられてきたから、このまま終わってたまるかと、今までで1番の気合の入りようだ。その分練習は過酷さ増し増し、雰囲気ピリピリな場面も結構あるんだけど、私はこの雰囲気が嫌いじゃない。部員全員が一つの目標に向かってひた走る。
正に青春というやつだ。

 青春といえば、先日の文人への告白からこれといって進展がないのはひとつ悩みでもある。あの夏休みの謎の合宿からロクに話も出来ていない気がする。近所に住んでいて、同じ学校に通っているというのに情けない限りだ。遠距離恋愛をしている人を本当に尊敬する。会えなくて寂しいとか、今後どうなるんだろうというやり場のない不安を、みんなは一体どうやって消化してあるんだろう。

 今の私は完全に消化不良だ。それでも私の文人への恋心は消火されていない。むしろ自分の気持ちを伝えたことで昔より燃えさかっているとすら感じる。

 えっと、今のは消化と消火をかけてみたんだけど……などと、くだらない事を考えている暇はない。

 そして今は恋愛にかまけている暇が無いのも事実だ。気にならないと言ったらそれはまるっきり嘘になってしまうけど、二つの事を同時に出来るほど私は器用な人間ではない。

 別にうちの部活が恋愛禁止だとかそういった制限があるわけでは無いんだけど、みんなが必死に頑張っている中で一人色恋沙汰で集中力を欠くのは失礼に値すると私は考えている。とにかく今はバスケを頑張ろう。精一杯頑張って、今回の大会が終わったら、文人にもう一度告白をするんだ!


「矢野先輩。今、完全に死亡フラグが立ちましたよ」


「えっ?  フラグって何?  と言うか人の心を読まないでくれるかな?」


「先輩ゲーム好きなんじゃないんです?  フラグって元々ゲーム用語じゃないんですか?」


「難しいことはよく分からないよ。別にゲームが上手いわけでもないしね」


「そうなんですか。もしかして一三先輩と話を合わせたいからやってるだけとか」 


「べ、別にそういう訳ではないけど。というかずっと気になってたんだけど、こないだの合宿……どうだったの?」


「何がですか?」


「何って……その、一緒の部屋で寝たじゃない。文人と」


「先輩が心配しているようなことは何もありませんでしたよ。お互い疲れていたのですぐに寝ましたし」


「ふぅん。そっか」


「そんな事より先輩、試合に向けて体は仕上がっていますか?」


 勿論。そう答えて私は練習に戻るためにコートへ戻る。

 正直言うと二葉が文人に惹かれつつあるのは気が付いている。別にそれをどうこう言うつもりもないし、そもそもフラれた私が何かを言う権利なんて初めからないんだけど、それでも私はあえて二葉に一言、言っておかなければならない。

 そう思いコートへの道中で一旦振り返り二葉に声を掛ける。


「二葉。私、絶対負けないから」








「え、それってバスケの事ですか?   それとも一三先輩の事ですか?」


「いや、カッコよく締めたんだからついてこないでよ!!  」


全く……空気の読めない後輩には困ったものだよね。三千字超えたあたりから次話への繋ぎに入るでしょ普通。

 でもなんでだろ。そんな後輩のことをどうしても憎めない自分がいる。私は案外、心の広い人間なのかも知れないな。

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