みんなは天才になりたいですか?僕は普通でいいです

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22.ワードウルフ第一回戦

[第一回戦]
 スマホを廻しながらそれぞれのワードを確認する。僕の引いたワードは[失恋]だった。

 え、何?  いきなりなんで傷跡えぐるようなワードなの? 少し泣きそうになりながらゲームはスタートした。

 さて、まずは自分が[多数派]か[少数派]かを探っていかなければならない。

 第一声を発する瞬間がこのゲームの肝になるのは先程の模擬戦で学習済みだ。ゲームスタート直後は全員自分がどちらの立場なのか分からないので迂闊に喋れば即アウトになり兼ねない。

 全員慎重になっているのか、誰も口を開こうとしない。と、言うかみんな真剣になりすぎじゃないか?!

 たかがゲームなのに目がマジだよ……。本気と書いてマジだよ。


二葉「皆さん、様子見といったところですね。でもこのまま何も話さずにいてもゲームは進みませんよ?」


 しびれを切らしたように月見里さんが口を開いた。確かに会話をしない事にはゲーム自体が成り立たない。このままタイムアップとなれば完全に当てずっぽうで[少数派]を指定することになる。


二葉「仕方ないですね。では私から質問しますね。みなさんはこれ、経験ありますよね?」


文人「まあ、あるな」

たより「あるねー」

詩歌「ないです」

二葉「私もないですね」


 たよりの失恋って相手僕ってことになるんだよな。くそ、なんてお題をぶち込んで来やがる……。


たより「えっと、じゃあこれを経験した時どんな気持ちだった?  経験したことない人は想像で答えてー」


二葉「そうですね…やっぱり落ち込むでしょうね」

文人「そうだな。目の前が真っ暗になる感じかな?」

詩歌「この世の終わり……」


この世の終わりって……詩歌らしいと言えばらしいけど。でも詩歌って好きな人居たりするのかな? もし居たとしたら一体どんな奴なんだろう。

……ん? なんだろう。このモヤモヤ感は。いやいや、気のせいか。今はゲームに集中だ。


たより「あはは。そうだよね。確かにこの世の終わりって感じかもねー」


 さてと、まだ第一回戦だし僕も積極的に発言をしていこうと思う。

文人「じゃあそれを経験した後、自分ならどういう行動をとる?」


たより「あー……まあ、時と場合によるけど、諦めちゃう時とそうじゃない時があるよね」


二葉「そう……ですね。私はたぶん諦めないと思いますけど」


詩歌「……その状況になってみないと正直よく分からないかも」


文人「はは。確かにワードがワードだけになかなか想像で答えるのは難しいかもな。ちなみに僕はすぐ諦めたけどな」


たより「やっぱり姫城さんに甘い気がする……。確かに文人すぐ諦めちゃうよね」


文人「う、うるせーなー」


詩歌「じゃ、じゃあ経験した事ある二人に聞いてみるんだけどね……これを最後に経験したのはいつ頃の事…かな?」


たより「割と最近かなー?  そんなに昔じゃないよ」

文人「僕はかなり前だな。最近はしてないぞ」


たより「じゃあ逆にしなかった二人はなんでしなかったの?」


二葉「そうですね、何故と言われても……そもそもそう言う状況にならなかったとしか」

詩歌「……私は、そう言う状況になる事を今までは全力で避けて来たから……」


 ここら辺で一旦自分の考えを整理しておくか。たよりは経験したことがある、それも最近だ。これは僕に告白して振られている訳だから嘘ではない。更に諦めちゃう時とそうでない時があると……ま、相手にもよるか。

 詩歌は経験なし。この世の終わり。諦めるかどうかはその時になってみないと分からない。

 月見里さんは経験なし、諦めない。

 僕の中でなんとなく見当は付いたんだけど決め手に欠けるんだよな。
何か打開策はないか。

 ただ、これだけ会話を重ねれば[少数派]も自分が[少数派]である事に気付いて話を合わせ始めている可能性もあるからな。

 そうなるといくら話し合っても[少数派]にたどり着くのは難しいかも知れない。いったい誰が少数派か。

 いや、今の時点では確証は無いから、僕が少数派って可能性もゼロでは無いんだけど。


たより「じゃあ皆んなはこれをしないためにどんな努力をしてるー? 姫城さんは全力で避けてきたって言ってたけど」


 一斉に詩歌に視線が集まる。たより、なんだか質問にトゲがある気がするんだけど……ゲームを利用して個人的な質問をしていないか?


詩歌「……えっと、それは……なんて言うのかな……」

詩歌「……守りに入ってた……みたいな」


たより「守り……ふーむ。二葉は?」


二葉「そうですね。私は特に努力はしていないですよ。その必要が無かったと言う方が正しいかも知れませんけど」


文人「因みに僕は努力と言えるかは分からないけど、無理矢理自分を抑えるって感じかな?  そうならない様に事前に要因を潰すみたいな」


「ピピピピピ」


文人「おい、たより。どうしたんだ急に鳥の鳴き真似なんかして」


たより「ばか! 私じゃなくてスマホのアラームでしょ!」


文人「ははは。冗談だよ」


 僕が答え終わったところでスマホからアラーム音が鳴ったのだ。どうやら3分間が経過して狼(少数派)当ての時間が来た様だ。僕が指名する人物は既に決めてある。

 [少数派]のワードが何か結局検討もつかなかったけど恐らく自分が[少数派]ではない。と、思う。


 どちらにせよまだ1回戦だから、外したところで大したダメージはない。ゲームの感覚は大方掴めたから、次のゲームに繋ぐことが出来ればそれで良しとするか。


二葉「それでは皆さん、せーので狼『少数派』を指差しながら指名しましょう。準備はいいですか?」


文人「オッケー」


たより「いいよ」


詩歌「うん……」


二葉「では、せー……」







文人「さて読者の皆さん、見ての通り今、僕とあなた方以外の時間は停まっています。いやー、これは難しい事件でした。ですが皆さんは狼が誰だかもうお分かりですね。狼は致命的なミスを犯した訳では無いですが、他の三名とほんの少し噛み合ってない場面があるんですね。
じっくりと読み返せば謎が解けてくるはずです。古畑任三郎でした。」


二葉「いや、古畑任三郎って今の若い人知らないでしょ」


文人「あ、ああ。話の腰を折ってすまなかったな。続きをどうぞ」


二葉「はあ。別に良いですけど答え合わせは次話ですからね」


たより「え?  そうなの?  怒られないかな?」


詩歌「???」


文人「……大丈夫だろ。では次話でお会いしましょう。シーユーネクストウィーク」

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