まるくまるく

あるまたく

第28話

※場面は、接敵した場所から次の街方面へ移動し、森を抜けた所へ。
読んで頂きありがとうございます。


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「じゃあ……この子、持ち帰ろうかしら。」


笑顔でメイは言い切った。手は未だに俺の腹を撫でている。アルフは数秒の間ポカーンとしていたが、メイに詰め寄る。俺も体を起こして聞く方が良いだろう。いそいそと起き上がる。


「だ、だめだよ!」
「何がダメなの? あなたを隣町に送れば良いんでしょ?」
「それは……その……。」
「決まりね、この子は貰っていくわ。」
「……ぅぅ。」


アルフがメイに言い負かされている。面倒くさそうなメイは、事実を言っただけだ。俺とアルフはたまたま・・・・出会い、隣町へ行ってみようという程度の関係だ。俺は誰の物でもないし、アルフと交流が深いわけでもない。メイが俺を物扱いしている点が気にかかる。言い返せず悔しそうなアルフを横目に、メイを見据みすえ言ってやる。黒球が俺の前に陣取る。分かってるじゃねーか。小声で命令して仕込みは済んだ。


「俺はアルフを送り届ける。」
「……うん!」
「その後、どこに行くか決めてるの?」
「その時、決める。」
「……はぁ、あきれた。」


眉間みけんにしわを寄せたメイが腹立たし気に立ち上がる。メイの表情は、先ほどとは大違いだが割愛する。仕込んだ手の方に魔力が集中しており、狼どもを殲滅せんめつしたアレだろうか。撃たれてはかなわない。さっさと終わらせよう。


しつけてあげるわ……わた」
「魔力をごっそり奪え!」
「え? なっ!?……あぁ、まりょ……きゅぅ。」
「ふっ、奪ってしまえば俺のものだな。」
「うわぁ……悪いキツネだぁ。」


メイが言い終わるまで待つ義理もなく、黒球から伸びた極細の手・・・・がメイの手からゴッソリと魔力を奪った。おそらくだが、メイは魔力を体内にためる必要があるのだろう。俺の腹を撫でながら少しずつ吸収していたからな。風船がしぼむように小さくなった元メイ・・・は地面に突っ伏して目を回している。そして、


「いてて、いひゃいーっ!」


まったく、ヒトが思考している時に。俺を悪いキツネと言いやがったアルフは絶賛お仕置き中だ。と言っても尻尾でつついているだけなので、それほど痛くはないだろう。


「魔力を貯められそうな石でもあるか?……あるんだな。」
「きれーだね。」
「よし、少しずつ込めていって……これを置いておこう。」
「え? メイさん起こさないの?」
「起きて欲しいのか?」
「とーといぎせーだったよ、さぁいこー。」(尊い犠牲)


アルフは難しい単語を知ってるようだ。それにしても俺が気絶してる間に何があったんだ……。
金属光沢のある軽めの石は魔力を吸い、紫外線ランプのような青い光を放つ石になった。夜の明かりに使えそうだ。魔力の込め方で明るさを調整できるみたいだ。テントでもあれば野宿が少しは楽になるだろう。
大きさの異なる石に魔力を込めていく。大きいほど多量の魔力を込められるようだ。
幼女体型にまで縮んだメイの顏の横に、石を一つ置いていく。吸った量とトントンだ。


「すまんな。」
「おーい、行くよー?」
「悪い悪い、さぁ行こう。」
「夕方には着くかなぁ。」
「アルフ次第だが、走ったら早く着くぞ? ほれ、これでも食いながら歩け。」
「ありがと、ちょうどお腹空いてたんだー。」


俺を呼ぶアルフに追いつき、一緒に街道を歩く。左側の森に入らなくても、黒球が色々と吸い込んでいる。緩やかな左カーブの先は、まだ見えない。



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「……ふぅ、行ったみたいね。」


地面から顏を離し、上体を起こす。軽い痺れの残る右手を振りながら考える。魔力を吸われる感覚は好きになれない。魔力を制御し、右手から吸われ魔力が尽きたように見せかけたのだ。とはいえ、1割ほど持っていかれた。少しでも遅ければ、致命的だった。


「ん?……これ、は?」


地面に着いていた左手から魔力を感じる。目を落とすと、あの黒いの・・・が置いていった光る石があった。温かみを感じるほどの魔力がそこにある。


「驚いた、これ……その辺の石よね。ここまで込められるなんて……。」


興味は尽きないが、減ってしまった魔力を補うには丁度良い。ゆっくりと頂くことにする。


「んくっ……はぁ……。」


十分な魔力に満たされ、思わず吐息が漏れる。輝きを失った石を改めて観察するが、どこにでもある丸い石だ。魔力を貯めておくには脆いはずなのに。体の調子を確認し、目に魔力を集中させる。魔力を失ったとしても、使われた魔法の痕跡が残っているはず。


「外側を魔法で覆っているのね……興味深いわぁ。」


この小さな石の興味深い点は二点ある。


一つは込め過ぎて漏れてしまうはずの魔力を循環させ、漏れないようにする。簡単なことではない。魔力の扱いに慣れている種族でさえ、少なからず漏れてしまう。だからこそ魔力の補給が必要なのだ。しかし、この石に込められた魔力は循環している。循環させる魔法は外部から魔力を補給しているようだ。こんな短時間で、しかも道端の小石に施すものではない。下手をすれば暴発の危険性さえあったはず。
もう一つは今もなお周りから魔力を吸収し、蓄積し始めていることだ。痕跡から魔法が使用された事は分かる。これほどの魔力を込めた場合、脆い媒体では魔法発動後に崩壊してしまう。だから連続使用・・・・などという考えは生まれない。しかし、握れば割れてしまうはずの小石は欠けてすらいない。


おかしい、とメイは思う。目の前にあるにも関わらず理解できない。だが有用だということは分かる。興味が湧いた。


「もっと、欲しくなっちゃう。……でも一旦戻らないとね。」


できる事なら今すぐ追いかけたい。後ろ髪を引かれる思いだったが、戻らねばならない。


「必ず探し出して手に入れる、待っていなさい……黒犬っ!」

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