天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第259話 勇者を名乗る者。

ーーーーーー

  あれから、隣国である『クリス』へ向かう連絡船に乗って揺られる日々が続く。


  船着場では、王女やリュイ、ミルトなどの特殊異能部隊の面々が俺達を無事に送り届けてくれた。

  立ち上がれない程に涙を流して崩れ去るリュイやミルトを横目に、キャロリールは凛とした表情で俺達を送り出す。

  小さな拳を握りしめている辺り、グッと気持ちを堪えているのがよく分かった。


  そんな様子から、どれだけこの国に愛されていたのかを実感させられて感傷に浸ったのである。

  少しだけこの世界にやって来てからの日々を回帰しながらも、俺は真夜中の船内のデッキにて息を吸い込んだ後で、「よし」と小さく呟くのであった。

  部屋では、みんなが寝ている。

  誰もいないその場所で広がる海を最後に一望すると、俺はひとり決意を固めると、眠りへ就く為に戻ろうとしたのであった。


ーーだが、そんな時、背後から声が聞こえた。


「「その選択が、貴様らを破滅へ導くあろう......」」


  卑しく、憎たらしく、悪意に満ちた低い男の声が頭全体に響き渡った時、俺は慌てて振り返る。

  だが、そこには誰もおらず、只、波音と風の音だけが船上を支配しているのであった。


  その声の張本人。


  俺は、次第に上がっていく鼓動を感じつつも、誰であるか直感で理解したのである。

「シュワール国......」

  そう呟くと、全身に戦慄じみた身震いが起きる。

  あれだけ決意を固めたつもりでいたつもりであった。
  絶対に世界を救おうと決意した筈だった。


ーーだが、今はこの世界に来て最も強い『恐怖』を感じたのである。


  あの得体の知れぬ声からですら、只ならぬオーラを孕んでいた。その力は強大で、実物はどれだけのものかは全く想像すらつかない。


  それだけ、強い相手と戦わねばならぬ事を痛感させられたのであった......。


「今、シュワール国と言っていただろう! 」


  立ち止まり俯く俺に対して、まるで深夜の静寂をかき消すかの様な声が聞こえる。


ーー同時に、俺の両肩からは自由が奪われて目の前にはラフな格好をしたスラッと背の高い男前が視界に飛び込んできたのである。


「お前は......? 」

  俺が見上げてそう問いかけると、彼は深刻そうな表情を浮かべてこう返答をした。

「実は今、君の口から出た『シュワール国』という言葉を聞いて、ピンと来たんだ。今の言葉、聞こえたのか......? 」

  彼は相変わらず怪訝な顔つきをしたまま、探り探りそう問い直す。


ーー彼は、いつ現れたんだ......?


「ああ。耳元でしっかりと、『破滅へ導く』と言っていた。その声、オーラを聞いた時、間違いなくシュワール国の者であると理解できたよ」

  俺がまだ恐怖心を拭えずに小さく怯えていると、その男前は真っ直ぐにこちらを見つめて、ほんの少しだけホッとしたのか、こんな事を口にした。

「僕も、たった今耳にしたんだ! それから、慌てて船内から外へ出たら君がいた。君の話から、今の声を聞いた者に共通して言える事を理解したよ。つまり、シュワール国に危害を加える人すべてに聞こえる声なんだな。そう察するならば、君は僕の仲間だよ」

「ということは、お前も......」

  そんな二人のやり取りの中で、探る様にして俺がそう問いかけると、彼は自信満々な口調でこう答えたのであった。

「ああ、そうさ。僕の名は、ドリー。『勇者』を名乗って世界を救う為に戦っているものさ。僕もたった今、あの心の奥から恐怖心を掻き立てられる様なあの声を聞いた。同じ志を持っているならば、話は早い。共に、倒さないか? 『シュワール国』を......」


  彼は、そう宣言すると、ゆっくりと俺の前に手を差し伸べてきた。


ーー真夜中の船の上で、俺は自称『勇者』を名乗る者に出会った。


  果たして、彼は何者なのだろうか。

  俺は、そんな疑問を頭の中に抱えながらもドリーの声に耳を傾けるのであった。


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コメント

  • ノベルバユーザー229308

    主人公すぐ泣きすぎ。心弱すぎてイライラする。もう読みません

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