天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。
第255話 デートの終わり。
ーーーーーー
気がつけば話が飛躍して婚約が決まってからというもの俺とキュアリスの間には微妙な空気が流れ、結局観覧車を降りてから帰路までの間、一切の会話は無くなってしまっていた。
ーーだが、常に不安ばかりが先行する俺は、その状況においてもあまり心配を感じなかった。
むしろ、安堵すら覚える。
その理由は、やはり例の婚約の一件である。
なによりも、彼女はあの時、こんな事を言った。
ーー『気持ちはずっと変わらない』
その一言だけで、俺が想像しているよりもずっと先にある幸福な未来がボンヤリと想像出来た気がしたから。
俺はまだ未熟だ。先の事を考えようとする程の年齢ではない。
きっと、この世界で普通に生き、普通に生活出来ていたのであれば、そんな楽観的な選択など出来なかったに違いない。
現に、俺は今も何処かで自分が子どもであると自覚しているのだ。
でも、俺は感情を優先した。
だってこれから先、もし大切な事が言えないとしたら、それが一番辛いと思ったから。
ーー人はいつか死ぬ。
その時は何十年も先かもしれなければ、明日かもしれない。
ましてや、俺は最もその未来に近い存在なのだから......。
だからこそ、俺は彼女の本当の気持ちが聞けた事に喜びを感じる。
本来ならば、両腕を突き上げて喜びを表現したいところなのだが......。
今は、隣で頬を赤らめながら歩くキュアリスの右手から感じる温もりさえあれば充分だった。
ーー俺は、キュアリスと婚約した。
きっと世界を救った時、幸せに暮らすんだ。
今日、俺の目標はより鮮明な物になった。
ーーキュアリスを守る。この命に代えてでも......。
俺はそう思うと、転移の為に辿り着いた『霞神社』の前でふと視線を合わせた彼女と訳もなく微笑んでみたりしたのであった。
「それじゃ、帰ろうか。『ベリスタ王国』に......」
「うん......。あ、後、婚約した事は二人だけの秘密だよ。みんなに言うと、うるさそうだし......」
「分かってるよ。それにしても、まだ一切の実感が湧かないよ」
「私だってそうだよ。只、すごく嬉しいって事だけは事実かな」
「俺だってそうだよ。そ、そんな事より、早く帰ろうぜ! 」
「もしかして、照れてる? 」
そんなやり取りをしていると、気がつけば目の前には大きな歪みが現れた。
「じゃあ、これからも宜しくな、キュアリス」
「うん、こちらこそ、末永くよろしくね」
その会話を最後に、二人は歪みの中へと身を投じたのである。
多くの思い出を残して、俺達は『ベリスタ王国』へと戻ったのである。
ーーーーーー
あまりにもショッキングな出来事があった事により、キュアリスは宿舎に戻るとすぐにベットへ飛び込んで眠りについた。
俺はそんな寝顔を見て少し微笑むと、ある事に気がつく。
こんな深夜にも関わらず、桜の姿が見当たらない事だ。
確か、ミルトとリュイに彼女を預かって貰っていた筈だった。
それならばと考えた俺は、とりあえず彼女らの部屋へ向かったのだった。
ーーだが、二人の部屋を幾らノックしたところで、反応は無かった。
ーーもしかしたらもう寝ているのかもしれないな......。
俺はそう思うと、何となく自分の行動に恥じらいを感じてトボトボと自室へ戻ろうとした。
すると、俺の騒ぎに気がついたのか、寝ぼけ眼でミルヴィールが俺の元へやってきた。
「帰られたのですね、隊長殿。ところで、こんな深夜にどうしたんですか......? 」
そんな彼女の様子を見ると、俺は取り繕いながらこう返答する。
「いや、帰って来たので、もし起きてたら桜を迎えに行こうかと思っただけだ! 」
俺がかなり動揺しながらそんな事を口にすると、ミルヴィールは首を傾げた。
「えっ? そうだったんですか......? 私はてっきり、キュアリスさんや隊長殿と共に皆さん異世界へ旅行へ行くものだと思っていたのですが......」
ーーえっ......? 何言ってるの?
だって、間違いなく俺は桜にお留守番を頼んだ筈だったから......。
そんな風に動揺を隠せない俺が真夜中に状況が理解出来ずにいると、廊下の奥の方から三つの影が現れた。
「あっ! 雄二だ! 」
純粋無垢な口調で俺に駆け寄って来たのは、桜だった。
俺はそんな彼女の体を抱き上げると、神妙な顔をした。
「もしかしてだけど、つけられてたとか無いよな......? 」
それを聞いた桜は、あからさまに慌てふためいていた。
「ゆ、雄二! 何を言っているのか! 確かに、アイスクリームもすき焼きも美味しかったけど、二人のデートをこっそり見ていたなんてあり得ないから! 」
ーー桜の動揺を聞いた俺は、全てを理解した。
ーー俺とキュアリスは、ずっと見られていたんだ。
それに気がつくと、途端に恥ずかしくなった。
「お、お前ら......」
俺がそう呟いてリュイとミルトの方を睨み付けると、二人ともわざとらしく目を逸らした。
ーーきっと、婚約については密室だったから見られていないであろう。
ーーしかし、ぎこちない俺の振る舞いとか見られていたと思うと、めちゃくちゃ恥ずかしい......。
俺はそう思うと、大きくため息をついた。
「お前ら......」
桜はそんな風に膝をついて顔を隠す俺を見ると、肩にポンと手を当てて、にこやかな表情でこう言った。
「でも、遠くから見た二人の様子、すごく幸せそうだったよ! だから、心配しないで! 」
桜のそんな一言に、俺は更に羞恥心を覚えた。
その様子に苦笑を浮かべていたリュイは、話しづらそうにこんな事を口にした。
「そういえば、先程王宮に赴いた際、王女殿下が『重要なお話があるから』と仰っていました。隊長殿とキュアリス様は明日の昼に訪問する様にとの事です」
ーー俺はそれを聞くと、何となく王女が言わんとする事を理解しながらも、「ああ、分かったよ......」と乱暴に返事をした後で桜を連れ、自室へと戻っていったのであった。
ーーそんなこんなで何となく、嬉し恥ずかしな一日は終わったのであった。
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