天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。
第149話 初めての感情。
ーーーーーー
  森山葉月は、あの日あった出来事を、決して忘れない。
  彼女は佐山浩志と公園で別れてから、自宅までの道のりをゆっくりと噛みしめる様に歩いていた。
ーー明日は、どんな人助けが出来るでしょうか......?
  そう、考えながら。
  更に、森山葉月は思う。
  最近の浩志は、輝いて見えると。
  元々正義感の強かった彼は、『町のお助け隊』として人助けに没頭からというもの、生き生きとしている。
ーーそれはまるで、今まで溜め込んでいた衝動を全て吐き出している様にも思えた。
  彼女はそんな彼の姿を後ろから支えているのが、心地よかった。
  でも、時折少しだけ、切ない気持ちになる。
ーー物凄い不安になる。
  浩志がその行いを続ければ続ける程に、段々と町で噂になって行き、気がつけば彼は、ちょっとした町の有名人になっていた。
  その度に彼の周りには友達が増えて行った。
 
  今の所は、『町のお助け隊』の行動は森山葉月と佐山浩志の二人で行っている。
  だが、いずれはもっと仲間が増えて行くかもしれない。
「そうなった時、私は見捨てられてしまうのでしょうか......。」
  森山葉月は、いつも隣にいる浩志が離れて行ってしまうと考えると、胸の奥がジンジンと騒めき出すのを強く感じた。
ーーこの感覚は、一体何なのでしょうか......。
  そんな風に、初めて感じるその不思議な感覚に違和感を覚えながらも、自宅に帰るために、住宅街の建ち並ぶ坂を登っていた。
  すると、その坂を登りきった先で、彼女の目に、そこにある事自体に違和感のある小さな神社が目に飛び込んできた。
  その場所は、彼女の自宅からすぐにあるにも関わらず、森山葉月はそこの存在に気がつく事は無かったのだ。
ーーあれ、こんな所に、神社なんかありましたっけ......?
  そこで彼女は、そんな疑問を抱えた。
  だが、それ以上にその場所は魅力的に思える。
ーーいや、その違和感に対する好奇心かもしれない。
  そんな事を考えていると、森山葉月はその神社の中へと進んだ。
「どうせ、家に帰ってもパパやママは仕事でいませんし、少し寄って行くくらいなら、平気ですよね......。」
  彼女はそう呟くと、そのまま神社の中へと足を踏み込んだ。
  ほんの少しの不安を胸に抱えながら......。
ーーーーーー
  辺りがすっかり暗くなった時間帯、森山葉月はその不思議な神社に足を踏み込んだ。
  鳥居をくぐり境内の中に入り込むと、小さい本殿があるだけで、特に何か特別な場所だという感覚は覚えなかった。
「少し、期待してしまったのが間違いでしたね......。」
  彼女はそんな風にため息をつくと、賽銭箱にお参りをした後で、その神社を後にしようと鳥居のある出口の方へと振り返った。
  そんな時、彼女の背後から幼い少女の声が聞こえた。
「クソ!! また、『魔法』に失敗してしまった!! 」
  彼女はその、全く聞き覚えのない声を聞くと、全身に鳥肌が立つ。
ーーもしかしたら、幽霊の類ではないかと......。
  だが、その時も彼女は好奇心に負けてしまい、ゆっくりとその声が聞こえる背後を振り返ったのであった。
ーーすると、そこには同い年くらいの前髪がぱっつんの少女がいた。
  その少女は、森山葉月が振り返ったと同時に彼女の存在に気がついた様で、それから暫くの間、二人は空いた口が塞がらないまま、時間が過ぎて行く......。
ーーこれは、まずいです......。
  森山葉月は本能的に彼女に対しての恐怖感を覚えると、ゆっくりとその場所から振り返り逃げようとした。
  すると、その少女は大きな声で、逃げようとする森山葉月に対して、
「待てっ!! 」
と叫ぶのだった。
  それを聞いた森山葉月は、逃げるのをやめてそこに立ち止まる。
  その後で彼女は、もう一度少女の方へと体を向けて、今にも泣き出しそうな口調でこう問いかけた。
「あなたは一体、何者なんですか......? 」
  そんな彼女の問いかけに対して、ぱっつんの少女は真剣な口調でこう答える。
「そんな事はどうでもいいんだ。それよりも今、問題なのは、あんたがこの場所にいる事なんだよ......。」
  森山葉月は、そんなトンチンカンな答えを口にした少女に、再び恐怖感を覚える。
  何を言っているんですか? この人は......。
  そんな風に、小刻みに震えている森山葉月を見たその少女は、大きくため息をついた。
「まあ、これはあたしの『魔法』がちゃんと作用しなかった事が原因だから、あんたに罪は無いな。でも、この場所を見られた以上、この世界に残る事は許されない。」
  少女は森山葉月を睨みつけながらそう言うと、手元から何色とも形容できない『歪み』を作り出した。
  その『歪み』は次第に大きくなって行き、森山葉月の体全体を包み込む。
  そんな状況に彼女は危機感を感じ、その場から逃れようと暴れ回った。
  だが、彼女が暴れれば暴れる程に、その『歪み』は彼女の体に絡まって行く。
「な、何をするのですか......? 」
  森山葉月はそんな苦しみの中で、その少女に蚊の鳴くような声でそう問いかけた。
  すると、相変わらず手から『歪み』を出し続ける少女は、無表情で、
「心配するな。死ぬ事はないよ。只、別の世界で生きてもらうだけだ。」
と、意味不明な事を口にする。
  そして、その『歪み』が彼女の右手を除く全てを包みこんだ。
  私は、どうなってしまうのでしょう......。
  浩志、助けてください......。
  彼女はそんな事を考えながら、『歪み』の中で目を瞑る。
  どこへ行ってしまうのか分からない恐怖を胸に抱きながら......。
ーーしかし、そんな時だった。
  彼女の右手は、誰かの手に掴まれて、凄い勢いで『歪み』の外に出されるのを感じた。
  そして、そのまま引っ張られる様にしてその神社の外まで引っ張られて行く。
  何が起きたのでしょうか......?
  彼女はそんな疑問を感じながら住宅街の中を走り抜ける。
  ーその中でふと、目の前に目をやった時、彼女は安心感から泣きそうになった。
  何故なら、その手の主は、紛れもなく佐山浩志だったからだ......。
  手を繋いで走っている最中、森山葉月は息を切らしながら彼にこう問いかける。
「なんで、浩志が......? 」
  そんな彼女の問いに対して、浩志は焦りの表情を見せながら、
「今は、そんな事どうでもいい!! それよりも、あの女から逃げなきゃ!! 」
と、必死な口調で叫んだ。
  それから暫く、体力が限界になるまで走り続けた。
ーー彼とがっしり手を握りながら......。
ーーーーーー
  すっかりと遠くの公園まで逃げて、ベンチに腰掛けた後で、息を切らしながら浩志は森山葉月にこう問いかけた。
「大丈夫だったか......? 」
  彼女はその言葉を聞くと、大きく頷く。
「はい......。凄く怖かったですけど......。でも何故、私があそこにいると分かったのですか......? 」
  森山葉月がそう質問をすると、浩志はポケットからピンク色の髪飾りを取り出した。
「お前、これを忘れていただろう......? それを届けようと思ったら、たまたま葉月が神社の中に入って行くのが見えたんだよ......。それで......。」
  彼がそう言って髪飾りを彼女に渡した時、森山葉月は先程の体験を思い出して恐怖を感じる。
  あれは一体、何だったのだろうかと......。
  そんな風に森山葉月が震えていると、浩志は彼女の頭を勢いよく撫でた。
「さっきの事は、二人だけの秘密にしておこう。もし、それが原因で何かあったとしたら大変だからな......。それよりも、助かって良かったよ。」
  そんな浩志の優しい笑顔を見た森山葉月は、安堵の気持ちから、その場で大声で泣いた。
「怖かったです......。もしも、浩志が助けに来なかったら......。」
  そんな事を口にしながら......。
  すると、その状況を見かねたのか、浩志は思い切り森山葉月の事を抱きしめた。
「俺にとって、葉月は誰よりも大切なんだ。だから、これからも、もしお前がピンチになったら、その時は俺が助けてやるよ!! 」
  それを聞いた彼女は、浩志の胸にしがみつく様にきつく抱きついた。
ーー嗚咽を漏らして泣きながら。
  そしてその時、彼女はあの胸の騒めきの理由に気がついた。
  それは、森山葉月が佐山浩志に対して恋をした瞬間だという事に......。
  そんな事を考えていると、浩志は彼女を抱きしめる腕を解いた後で、頬に手を当て、顔を赤らめて目を逸らしながらこう言った。
「まあ、明日もちゃんと来いよ。お前は、たった一人の『町のお助け隊』隊員なんだから......。」
  それを聞いた森山葉月は、涙を思い切り拭った後で、ニコッと笑顔を作り、
「そうですね!! 」
と、元気良く答えた。
ーーその後で森山葉月は、ふと空を見上げると、蒸し暑い夏の夜空には、満月が二人を優しく見守る様にして輝いていた。
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