天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。
第130話 最悪の事態。
ーーーーーー
  森山葉月は、今、目の前で悠然と戦うキュアリスを見ると、確信した。
ーー彼女の強さは、本物だと......。
  空から闇の『異能』の雨を降らせて『特殊異能部隊』を苦しめていた、『ヘリスタディ帝国』の兵たちをいとも簡単に倒してしまうと、地上からも続けて現れた千人規模の敵兵すらも風の『異能』に雷を散りばめた竜巻によって相手に攻撃の隙を与える事なく一瞬で勝負をつけた。
  彼らが闇を使っている辺り、どうやら、『異世界人』達を相手にしているのは、すぐにわかる。
  きっと、『ヘリスタディ帝国』も、ある程度の戦力を持ってしてこの戦いに挑んでいるのだろう。
ーーしかし、この世界の人間である『聖騎士』を前にすると、そんな中途半端な力は無意味であったのだ......。
  森山葉月は、圧倒的な戦いっぷりを見せたキュアリスの姿に少しだけ衝撃を受けると、一度地面に降り立った彼女にこう言った。
「まさか、あなたがここまでの力を持っているとは思いませんでした......。」
  森山葉月がそんな風に驚くと、キュアリスは精悍な顔つきで広場の方向に目をやる。
「そんな事はないよ......。それに、私には時間制限があるし。葉月はよく知っていると思うけど......。その前に、全てを助けなくちゃ......。」
  キュアリスのそんな発言を聞くと、森山葉月はそれに頷いた。
「確かに、あなたは長く戦えませんからね......。それにしても、私は甚だ疑問に感じる事があります。迎え来るのは、主要な戦力とは思えない者ばかりな気がして......。」
  森山葉月はそんな事を口にすると、キュアリスは小さく首を傾げた。
「確かに、これだけの大規模な侵略の割には、戦力が薄すぎる......。」
ーー幾ら、『異世界人』とは言え、戦闘慣れしている者が少なすぎて......。
ーーだが、そんな時だった。
  先程、『特殊異能部隊』が闇に感染した広場から轟音が轟く。
  キュアリスはそんな何かあらぬ事が起きたと気がつくと、もう一度そちらの方向に目をやった。
  そして、足に風のオーラを纏いながらそのまま広場へと進んで行った。
ーー森山葉月の「今は危険です!! 」という忠告を聞き入れる事もなく......。
  煙渦巻く崩壊しかけた街の中で、どんどんと小さくなって行くキュアリスを見た森山葉月は、大きくため息をつきながら、
「キュアリスさんは、佐山雄二さんと一緒で、感情で動きすぎですよ......。」
と、文句を口にした後で、同じく風のオーラを纏って、彼女の後ろを追いかけるのであった。
ーーーーーー
  遺憾無く破壊された『ロンブローシティ』とは対照的に、街から少し離れた場所に位置する、綺麗な花が辺りを包み込む一軒の家のリビングにある椅子に腰掛けている大河原悠馬は、キュアリスの攻撃によりボロボロになった一人の兵士からの報告を受けた。
「今のところ、順調に事は進んでいます......。『特殊異能部隊』の者達も、どうやら闇の雨により精神崩壊を起こしている模様です......。」
  それを聞いた悠馬は、不敵な笑みを浮かべた。
「やはり、作戦は成功だった様だな......。後は、このまま奴らが仲間割れの挙句に共倒れしてくれればいいのだが......。」
  悠馬がそう発言をすると、向かいで下品な笑い方をする一人の少年は、こんな事を口にした。
「いやあ、やっぱりあいつ馬鹿だよ!! だって、幾らこの家が思い出の場所だからってスルーして街に向かうなんて、あり得ないでしょ!! 」
  そんな少年の発言に対して、隣にいる女性は、無表情で答える。
「まあ、それも全て彼の助言が無ければ成り立たなかったのですが......。」
  女性はそう呟くと、無機質な表情をしたフリードの方へと目をやった。
「『魔法』に精通している彼を操るのは骨でしたが、やはり、悠馬様の目論見通りでしたね。」
  そんな言葉を受けた悠馬は、ニターッといやらしい表情を浮かべた後で、こう締めくくった。
「あちらの方も、そろそろ始まるな......。念のため、『魔法』で操作に取り掛かるとしよう。」
  
  それを聞いた皆は、不敵な笑みを浮かべる。
ーーその後で、窓から見える『ロンブローシティ』に目をやるのだった。
ーーーーーー
  広場へと辿り着いたキュアリスと森山葉月は、その光景を見て絶句した。
  その空間には、二十個ほどの闇のオーラが点在している。
  しかも、その闇同士はぶつかり合っているのだ。
ーーそして、その闇の元を良く見ると、そこで殺し合っているのは、『特殊異能部隊』同士なのだ......。
「遅かった......。」
  キュアリスはそんな風に自我が無くなり仲間割れを起こす彼女達を見て、唇を噛みしめるのだった。
  彼女達は黒いオーラを纏いながら、各々の得意な『異能』を用いて火花を散らし合っている。
  闇の副作用によって、完全に精神崩壊起こして、殺し合いをしているのだ......。
ーーだが、まだ生憎死んでいる者は居ないようだった。
  それを確認したキュアリスは、空から大きな声で叫びをあげた。
「みんな!! 正気に戻って!! 」
  それを聞いた『特殊異能部隊』の面々は、一度攻撃の手を止めて空に浮くキュアリスを眺めた。
  まだ、完全に伝染していない事を信じて......。
  しかし、そんな彼女の期待とは裏腹に、リュイやミルト、それに皆も続々とキュアリスに向け、攻撃の構えを見せた。
ーーもう、自分が誰かすら分かっていない状態で......。
  そんな皆を見ると、先日まで共に勤しんだ訓練の時間を思い出し、キュアリスは涙ぐんだ。
ーーみんな、本当にごめん......。
  そう考えていると、火、水、草、土など、各々の武器としている『異能』が一斉に彼女の元へと放たれた。
  それに対して、悲しみから動けなくなっているキュアリスを、森山葉月は掴んだ後で急いで避けたのだった。
「何をしているんですか!! このままでは死んでしまいますよ!! 」
  森山葉月がそう注意をすると、キュアリスは泣きながらこう答えた。
「この状況は、全て私の責任なの......。」
  それを聞いた彼女は、もう一度言う。
「今は悲しんでいる暇は無いです......。早くどうにかしないと、みんな死んでしまいますよ!! 」
  森山葉月はそう伝えると、空にキュアリスを残した後で、地面へと、闇の『異能』を纏った上で降りてきた。
「悪いけど、みんなには眠ってもらいますよ......。」
  それに対して、先程まで上を向いていた『特殊異能部隊』の面々は、彼女の方へ顔を移した。
ーーそんな様子を空から見ているキュアリスは、頬を伝う涙を拭った後で、精悍な顔つきをして、森山葉月のいる場所へと同じく降りたのだ。
ーーみんなは、私が守って見せる。
そんな気持ちを抱きながら......。
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