天才過ぎて世間から嫌われた男が、異世界にて無双するらしい。

暗喩

第5話 不穏な動き。

ーーーーーー

  日が傾き始めている頃に洞窟へと戻って来た俺達は、暗くなった後で火を起こすのはドラゴンに気づかれる可能性がある為、危険だと考え、早めに夕食の準備をしていた。

  普段日常的に火を扱っているキュアリスは、俺が拾ってきた木の棒に手際良く点火していた。

  そして俺は、キュアリスに鞄から食材を持ってくる様に頼まれた。

  促されて鞄を開けると、中には野菜と思しき植物と、何かの肉、調味料の入った袋、そして、米に似た穀物が入っていた。

  俺がそれを持って行くと、

「ありがとう。後は私の腕の見せ所だね!ちょっとだけ待ってて!」

などと、彼女は意気込んでいた。

  その間、俺は退屈なので、少し離れた所でもう少しだけ自分の能力を試す事にした。


ーーーーーー

「さっきは、火属性のみしか試せなかったが、もし仮に、他の属性を試してみたらどうなるのだろうか......。」

  俺は小さく呟きながら、考えていた。

  本来なら、『異能』という物は、一人の体に一つの属性と言うのが定説らしい。

  だが俺は、何となく、今までの経験から自分がその定説からはみ出している予感がしていた。

  もし、他の属性の『異能』が使えるのならば、これから多くの猛者達と戦う上で有利に働くのではと......。

  そして俺は、早速その実験を試してみる事にした。

  先ずは、水属性だ。

  俺の体内から押し寄せる水を感じてみる。

  更に、掌を広げ、その上に水を押し出すイメージを膨らます。


ーー暫くすると、俺の掌の上には、球体の形をした水の塊が現れたのを確認した。


  この実験は成功だったのだ。

  その後、同じ要領で、土、草属性に関しても成功した。

  やはり、俺にある『度が過ぎる才能』は、この世界でも有効な様であった。

  そして最後に、一つだけ気になっていた事があった。

「それだけの属性が扱えるのならば、風属性という物もあるのではないか...?」

  実は先程のキュアリスの説明の中で、俺は風属性についての質問をしていた。

その時の言葉を思い出す......。ーー


ーー「風属性もある事はあるみたいなんだけど、あれは、都市伝説の範囲の物だから......。話によると、あの能力だけは、数万人に一人の割合でしか扱える人がいないらしいし......。」ーー

  風属性は、非常に希少種である事は明確だった。

  ましてや、都市伝説級の話......。

  だが、物は試しだと思ったので、俺は体の中から風を感じて見る事にした。

ーーと、その時だった。

「そこにいたんだ! もうご飯出来たから、早く戻ってきて! 」

  食事の支度を済ませて俺を呼びにきたキュアリスがそこにはいた。

「ああ! 今戻るよ! 」

  俺はそう言うと風属性の実験をやめて、夕暮れを背にしているキュアリスの元へ歩いて行った。


ーー風属性はまた今度試してみよう。


  そう考えて......。


ーーーーーー

  洞窟に戻ると、美味しそうな匂いが漂っていた。

  その先を見ると、鍋に温められた、おじやとも似た物が完成していた。

  中には先程俺が渡した肉や野菜、穀物が入っていて、見ている内に、俺は自身の食欲が押し寄せているのがわかった。

  そしてそれは、音となって現れた。

「グゥ~~~。」

  何とも間抜けな音を出してしまった俺は、顔を赤らめながら、

「い、今のは俺ではないからな!ほん、本当なんだからな!」

と、聞かれてもいないのに取り繕った。

  するとキュアリスはニコッと笑って、

「そうだね。私は何も聞いていないよ。じゃあ、食べよっか。」

  そう言って俺に鍋から少し分けた器を差し出した。

「あ、ありがとう...。」

  俺は小さく呟いた後で、それを受け取った。

  そして、スプーンを使ってそのおじやの様な物を食べた。


ーーこれは美味い。


  こんなに美味しい物を作れるキュアリスは、天才だ、そう素直に思った。

  俺がガツガツと食べている様子を見て、彼女は嬉しそうな顔で見ていた。


ーー食事の最中に、俺はキュアリスの使う『異能』について聞いてみた。

「キュアリスも、『異能』が使えるだろう。もし、戦う事になってしまったら、その能力を活用出来るのか?」

  その質問に対し、キュアリスは少しだけ俯いた後、

「私は戦いとかは、嫌いだからな。自分を守る程度だったら使えるかもしれないけど、人を助ける事なんか出来ないよ...。」

と、悲しそうな口調で呟いた。


ーー昔、何かトラウマになる様な事があったのかもしれない。


  俺は、直感でそう思った。

  だから、それ以上踏み込んだ質問をするのをやめたのだった。

  そうすると逆に、キュアリスの方から俺に対して質問をしてきた。

「あなたは、何が原因でそんなに悲しみを抱えているの?」

  俺は、彼女が聞いてきたその質問に答えるかを躊躇した。


ーー才能があり過ぎて、疎まれた事を悩んでいるなんて、聞いてしまった方がどう思ってしまうだろう。


  逆の立場ならば絶対に嫌な思いをするだろう......。

  だが、目の前のキュアリスは、真剣な顔をしている。

  これは、キュアリスだけには話しておかなければいけない、そう思ってしまった。

  だからこそ、意を決して、

「これは、人に初めて話す事だ。俺は、前の世界の時、何をやるにも才能があり過ぎたんだ。その『度が過ぎる才能』のせいで、世間から嫌われ、疎まれ、結果、誰とも関われなくなってしまったんだ。親とすらも...。」

と、頭を抱えながら答えた。


ーー多分、引くだろう......。


  もし嫌われた、また一人ぼっちだ。

  折角出来た仲間だったのにな......。

  そしてそれを聞き終えたキュアリスは、おもむろに口を開いた。

「そうだったんだね...。でも私、料理だけは絶対に負けないからね!それはあなたがどんなに才能があっても!」


ーーなんて、拍子抜けな返事だよ......。


  だが、それを聞いた時、俺は少しだけ自分の悩みが馬鹿らしくなった。

「ああ......。それに関しては、お前の足下にも及ばないよ......」

  俺は微笑を浮かべながらそう呟くと、お代わりを貰うためにキュアリスに器を差し出したのだった...。


ーーーーーー

  食事を終えた後、片付けや火の始末を終えた時、辺りはすっかり暗くなっていた。

  明日は早起きをするという事もあり、今日の所は早めに寝る事にした。

  そう決まれば、と、洞窟の内部に二つの毛布を用意して、眠る準備をしていた。


ーーと、その時だった。


「ドカンッ!!!!!!!!」


という大きな音がしたのだ。

  俺達は眠る支度をするのをやめて、慌てて外へ出た。


ーーすると、目の前には、逃げ惑う兵士達がいた。


「早く逃げろ!全員やられてしまうぞ!」

  そう叫びながら......。

  そして、その奥に.......。


  怪しく煌めく影があった。


ーーそこにいたのは、体長五十メートルはあるドラゴンだった......。ーー



  よく見ると、付近で逃げ遅れた兵士の者達が体を焼かれて、丁寧に口の中へ運ばれていた。

「何故ここに......。」

  キュアリスは、その惨劇を震えたまま、ただ見ていた。

  すると、一人の体格の良い兵士が、

「早く逃げろと言っただろ!このままでは、お前らも死んでしまうぞ!」

と、俺達に向かって叫んだ。


ーーだが、俺は動かない。


  何故なら、俺はあのドラゴンに負ける気がしなかったからだ。

「悪いが、キュアリス。俺は、あいつを倒す事にしたよ。ここで待っていてくれ......。」

  俺がそうやって伝えると、

「そう言うと思ったよ。でも、絶対に死んじゃダメなんだからね!」

そう言って震える手を隠した後、ニコッと笑ってみせた。

  俺は、キュアリスの話が終わると、その根拠のない自信を基に、ドラゴンに向かって走り出し、先程覚えたばかりの炎の塊を放った。

  それは、見事にドラゴンの左脇腹に命中した。


ーーすると、ドラゴンは、兵士を口へ運ぶ事をやめ、俺に睨みを利かせてきた。

  そして、

「ギャーーーー!!!!」

という怒りとも取れる叫び声を上げながら、俺に向かってきたのだ。


ーー俺は、今日、この世界に来て初めての戦いを始める。ーー

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コメント

  • ポムニー

    主人公のキュアリスに対する猜疑心は喋り始めて2日で0なのか。
    目の前にドラゴン来ても慌てない、驚かない、ハート弱いのは人間関係だけなのかな?
    キュアリスも主人公の事、理解しすぎでは?「そういうと思った」…
    弱音と世界救うしか言ってない主人公なのに。

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