金髪、青目の美人エルフに転生!

鏡田りりか

第七十二話  街の長とアニーシャ

 そこからは、特になにも起きなかった。なにせ、シナモンの件で物事が集中しすぎたから。本当にあるべき不幸は全てそちらに行ってしまったのだろう。


 あれから、一週間掛けて次の村に行き、一週間程度そこで過ごして次の村へ、を繰り返し、今着いたのは、最初以来の『街』だ。


「ふう。久しぶりに大きなとこね。ずっと村ばかりだったもの。二ヶ月ぶり?」
「もうあっつくなってきたわねぇ。もうすぐ七月かぁ」


 こちらに来たばかり、つまり転生したての時、この世界には季節がないのかと思ってた。
 というのも、私の魔力に誘われた精霊が守ってくれていたそうで、暑いも寒いもなかったから。
 が、大きくなるにつれてそれもなくなっていった。魔力を表に出さないようにしだしたからかもしれない。


「この街の特徴は?」
 私が聞くと、ジェイドが答えた。
「この街の長は剣士のようですね。で、住民はこの長が一番だと信じているので、外のことに疎いそうです」
「じゃあ、私たちのこと知らないかもね」
「そうですね。動きやすいんじゃないですか?」


 そりゃそうだ。よかったなぁ。こういう街の方が楽だ。エベリナがくるっと振り向き行った。
「じゃ、宿とって散策しましょ」










 何故か例の衣装を着て街の散策。こっちのほうが聞きやすいというのは、エベリナが言ったことだ。意味は……なんとなくわかるでしょ? 特に、男の人からの情報は沢山手に入ることだろうね?


「あの、この街の長に会うことって、出来るのですか?」
 エベリナがギルドの人に聞いた。すると、やはり彼も私たちのことを知らなかったようで、普通に答える。
 いや、普通ではないか? だって、エベリナ……。そんな可愛い顔しちゃダメだよ? 攫われそうで怖いな。


「ま、まあ、出来るんじゃないですか? 大怪我しても知りませんが」
 で、家の場所を教えてもらった。ふうん、街の中心部か。
 ここなら、顔を隠す必要もない。ただ。別の意味で注目を集めているようだが。


「行ってみる? この街にも確かハナさんの友達、いるのよね?」
「うん。聞けばわかるかな?」










 門番の人に話しかけると、怪我しても文句言わないなら入っていいですよ、とだけ言った。ギルドの人といい、異常だな。
 扉を開けて中に入る。リリなんかだったら何かの拍子にあっさり死にそうなので、私が一番で入った。
 まあ、当然のように小さなナイフを胸の前で構える。


 金属音が響く。少し辛いけど、これ位なら、何とかならなくもない。
 パラパラと小さなかけらが宙を舞うと、相手はさも驚いたような顔をした。


「ソ、ソフィ……? 何かあったの?」
「ううん。気にしないで」


 私たちはその相手の顔をじっと眺める。青い髪をした、美しい少女。


「あなたたちは誰?」


 強い口調で聞いてきたが、目は動揺の色でいっぱいだ。
 今の剣は、渾身の一撃だったのだろう。止められると思っていなかったみたいだ。


「私はソフィアだよ。ソフィア=レルフ。見てわかるけど、エルフ」
 言ってから、みんなの顔を見た。自己紹介、してね? と。


「私はぁ、リリアーナ=カリディ。私もエルフだよぉ」
「私もエルフ。エベリナ=ララっていうの」
「私も、同じく。マリア=クリスティションだ」


 当然、ジェイドもだよ? 見ると、えっ、と驚いたように私を見た。
「私はソフィア様の使い魔の悪魔、ジェイドです」
「ふうん。エルフと、悪魔ね」
 彼女は、まあ、人間の国だから当然だけど、人間。エルフは珍しいようだ。


 彼女はもう一発仕掛けてきた。今度はマリアが剣を一瞥すると、剣は粉のようになっり、宙を舞った。


「なっ……?! どうして……!」


 逃げてしまった。ところで、彼女は誰だろう。そう思っていると、奥から声が聞こえてくる。
「お母様! 誰か来たよ!」
「わかってるわよ。聞こえてるって。とにかく下がりなさい」


 少女にそっくりな、長い青い髪をした女性が出てきた。う、笑ってるけど、すごい殺気……。
「私はライラ。さっきの子は私の娘、ラウラよ。次の長なの」
 こんなに笑顔で殺気を出せる人っているんだ。しかも初対面。なんか、長年のライバルと会ったみたいだ。


「娘さん、強いですね。びっくりしましたよ」
 私は言いながら、四人に念話で話しかける。
『一歩下がりなさい』
 顔を見合わせながらも従ってくれた。


「それにしても、あなたたちも強いみたいね。今まで、私に会えた子はいないのよ」
「みんな怪我しちゃったんだ?」
「そういうことね。死んだ子もいたわ」


 私は目で小さく命令を出した。


「えっ?!」
「うふふ……。どうかな?」
「なんてことなの? どうして……」


 別に、大したことをしたわけではない。ライラの動きをすべてしっかり見て、剣を振り下ろすタイミングに合わせてバリア魔法を張っただけ。学校でもやったレベルだ。
 それだというのに、此処まで驚くという事は。今まで、誰もそんな事をした人はいなかったのだろう。
 確かに、ライラの剣は速い。けれど、彼女には大きな弱点がある。


「ふふ、あはは! だって、すごい殺気。隠さないと、何かしてくるだろな、って」


 ライラは困ったように手を挙げた。


「そうね。あなたたち、確か、エルフの国の勇者の子孫?」
「そう。さすがに、長なら知ってるんだね」
 私が笑うと、ライラも釣られてそっと笑った。


「ええ。ラウラは知らないけれど。要件はなんなの?」
「あ、うん。この国に、自然に依存しないで生きるニンフを知らない?」
「ああ、アニーシャのことかしら。いるわ」


 アニーシャ。確か、本当の名前はアーニャって言ってたはず。エーヴァの言ったとおりだ。


「お願い、家を教えてくれる?」










「へぇ、エリヴェラとへレーナの紹介? そっかぁ。勇者さんね。アニーシャだよ。本名はアーニャ」


 ビンゴ! 彼女。この子が、一番遠くにワープした子だ。
 ふわっと軽そうな白い髪の女の子。ピンク色の目をしている。


「あ、そういうこと。えっとね、変わったのは、十年くらい前からね。でも、大して変わってないのよ」
「なんだ。じゃあ、そのこと、少しでもいいから教えてくれない? みんな、ちょっと曖昧なところがあって」
「うん、もちろん。じゃあ、ハーブティーでも入れるね。待ってて」


 そう言うと、ぴょん、と椅子から飛び降りる。ハーブを摘みに行くのだろう。
 ピンク色のフリフリエプロンを揺らしながらアニーシャは駆けていった。

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