金髪、青目の美人エルフに転生!

鏡田りりか

第十話  シナモンとサウル

 もう七月の中旬だ。
 最近、シナモンの言葉がわかるようになった。
 いや、『だいたいこんなこと言ってるんだろう』、とかじゃなくって、「ねえ、散歩行こ!」って。


 ……、疲れてるのかもしれないな。最近は学校の練習もハードになってきたし。
 私が入学したての時は、私に合わせて、少し優しくしてあった。それが解除された今、ものすごく厳しいのだ。


「ハナ、甘いアップルティー……」
「かしこまりました。ソフィアお嬢様」
 私は椅子に座ってウトウトしながら言った。今日は土曜日だし、明日はゆっくり休もう。


 無理だな。力の強くなったシナモンは、すごい距離散歩するんだ。それこそ、十キロも。
 今は、八時。さっさと寝てしまおうか。


「お嬢様? 大丈夫ですか?」
「ん……。なんか、シナモンの成長が異常な気がする」
「あ、お嬢様はこちらの犬を知らないのですか? 立ったら三メートル、とかくらいになりますよ。」


 そりゃ、どうりででかくなるわけさ。3メートルって、もう乗って移動するしかないじゃん。
 って、それだ!










「シナモン、私載せて散歩とか行ける?」
(もちろん!じゃあ、乗れる?)
 怖いな。乗るのもだけど、しゃべるのも。


 シナモンは私を載せて、すごいスピードで走り出した。周りの景色が早く流れすぎて見えない。掴まっているのがやっとだ。
 やっと止まると、もう十キロ近く進んでいる。それを、五分くらいで進んでしまった。分速二キロ? 時速百二十キロ?! 車かよ!


「し、シナモン、速い。死ぬかと思った」
(ん? 何が?)
 ああ、この子怖いよ。ほんとに……。


(ねえ、ボクね、魔法の練習したの)
 私がなにか反応するより早く……、シナモンは十匹になっていた。
「うわあ?!」
(分身だよ。すごいでしょ)


 すごいことにはすごいけど、無茶苦茶だ。何がしたいんだ、この子。
 ふと、目を向けた先には、見覚えのあるラベンダーアッシュの髪の男の子がいた。


「サウル!」
「ソフィア? こっちに住んでたんだ」
「うん、いや、この子に連れてこられちゃって。もうちょっと向こう」


 指さした先、さっきまでシナモンが立っていたところに、シナモンはいなかった。
「あれ?」
(ばあ!!)
 何もなかったところから飛び出してきた、フサフサのもの。私は驚いて悲鳴を上げるまもなく……。










「目、覚めたみたいだね」
「ん、ここは?」
 サウルが私の横に座っている。そして私は、ベッドの中だった。


「もう、いきなり脅かしちゃダメだろ?」
(ごめん、次からはもうやんないよ)
 シナモンがしゅんとして言った。相変わらず、長毛の毛はつやつや。


「それとソフィア。ちょっと風邪気味? 熱あるよ」
「うそ。ごめん、なんかありがと」
「ちょっとまって」


 サウルは私の肩を掴んだ。
「今動いちゃダメ。ほんとに倒れられたら困る。うちのメイド呼んだから、待ってて」


 すると、ガチャっと扉が開いて、メイドが入ってきた。
「フェリア。この子を家に届けて。それから、親に熱があるから休ませるように言っておいて」
「かしこまりました。若様」


 ん、んん? 若様って? 私、サウルが有名な家の御曹司だなんて、聞いたことないよ?
「聞きたいこともあるだろうけど、話は後で。もうすぐ夏休みでしょ? ちゃんと治してね。」
 確かに、夏休みは遊びたい。私はフェリアさんに連れて行かれたわけだ。










 私はその日一日寝て過ごすことになった。気づかなかったけれで、結構こじらせていた。
 月曜日も学校に行けず、シナモンの毛並みを撫でながら横になっていた。


 五時ごろ。チャイムが鳴って、子供たちの声が響く。そのあとまもなく私の部屋の扉が開いた。
「大丈夫? ソフィア」
 みんながお見舞いに来てくれたわけだ。










「じゃあ、ソフィア、早く治しててね」
「うん。でも、治癒魔法で楽になるの。そんなに心配しないで」
 みんなは、林檎に似た果物を持ってきてくれた。こっちで病気になるとよく食べるらしい。


 みんなが帰ると、隠れていたシナモンが出てきた。
 可愛いい仕草で私の心を癒したあと、また寝た。よく寝る子だ。すごい大きくなったらどうしよう?










 みんな、その場にいない私の心配をしていた。前は、私の事を、影でみんな馬鹿にしていた。知ってた。ずっと。
 私の事を心配してくれるのは、妹だけだった。


 妹は、私の妹だということだけでいじめられていた。そんなやつらを、何回叩きのめしたか。運はなくとも、わりと力は強かった。
 いま思えば、どうしてそれで普通だと思ってたんだろって感じだ。ずっと、普通の高校生だと思ってたなぁ……。


 私が妹を助ける度に、妹はどんどんべったりくっついてきた。何かあるごとに、一緒に後始末してくれた。
 仲が良かったんだろうか。そういえば、彼女はどうしているだろう。まだいじめられてるの……?


「会いたい。会いたいよ」
 呟いた声が、悲しげに反響した。

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