金髪、青目の美人エルフに転生!

鏡田りりか

第四話  生活魔法と回復魔法

 シナモンは、まだ子供らしい。
 ちょっと待て、とついつい言ってしまった。だって、考えてよ。大人の大型犬くらいの大きさがあるんだよ?! これで子供って、どんな大きさの犬?!


 ともかく、どこにでも付いてくるし、無駄吠えも一切ない。完璧な犬だ。
 そういえば、私は最近『雲球クラウドボール』で影を作って、その下を歩くという技を身に付けた。今はいらないが、夏はいいかな、と思う。シナモンとの散歩も楽かもしれない。


 さて。 
 無駄な話はいいから、学校はどうなったのか聞きたいのでしょう? 違くても、いいんだけどね。


 学校、という次元の話をするのには、森全体、という次元の話が必要になるから、少し待ってほしい。


 ヨーロッパの面積って、知ってる? 約千十八万平方キロメートルだ。この森は、それくらいあるって、母が言ってた。


 ……いくらなんでも馬鹿げてる。しかもそんな大きな森に、エルフだけが住んでいるらしい。それぞれ小さな集落を作って。
 この村もそれの一つ。でも、そんなに広いのに、この森の中に百個しか学校がないって。


 だから、みんな親が送り迎えだそうだ。移動系の魔法での。つまり、私たちが移動系魔法を覚えるまで親が送らなくてはいけないらしい。
 そして、ここから学校まで、何故だかすごく遠い。


「はあ、移動系の魔法、早く覚えたいなあ」
 そう言いつつ、魔法の練習と称した洗濯を行っていた。


 今は、生活系魔法の練習をしていた。洗濯もそのうちの一つなのだ。
 たらいに水魔法で水を貯め、生活魔法で洗うのだ。機械のない洗濯にしては楽すぎる。


「ハナ、いる? ちょっと確認して?」
「はい、お嬢様」


 どこからともなく現れる。ほんとにどこにいたのかわからない。気配を消すことができるのかもしれない。


「ええ、大丈夫でしょう。干すのは自力で、やってくださいよ?」
「わ、わかってるって……」
 シナモンをもらってからもう二週間くらい経っているのだけど、その間のことをお話しよう。


 まず、生活魔法を身に付けるため、家事の半分以上を請け負うことになった。ずるい、ずるい!
 駄々こねたって仕方がない。心はもう大人だし! 


 それで、あるとき、面倒になって、火の魔法で乾かそうとしたわけだ。
 我ながらアホだと思う。いや、おおごとにはならなかった。すぐに鎮火したから。別に、何かなったわけでもない。
 ほら、前に、リナルドさんに服、乾かして貰った事があったわけで。あれがやってみたかったの。……そのうちまた試してみる。


 ただ、ハナが見ていたわけで、こうやってからかわれているわけだ。
 ともかく、さっさとやってしまおう。じろっと監視するような目を見たところ、逆らえるはずもないのだし……。










「あいた!! うぅ、回復魔法が欲しい……。」
 うちは広いから、掃除魔法は一度で効かない。一部屋ずつ――といっても、使っている部屋だけだけど――を、回りながら魔法を使う。


 母は、小さい時から魔法を使うと、魔力が増えるといっていた。小さい時は、成長が盛んなので、便乗、といったところか。
 そんなわけで、毎日毎日大量の魔法を使っている。そんなにする必要が……なんて言ったらまずいことになる。


 で、そんなことを考えていたせいで、瓶を割って、片付けようとしたところ、手を切ってしまった。
「ソフィアお嬢様、どうされましたか?」
「あ、ハナ……」


 せっかく隠そうとしたのに、手を切って見つかるとか、損しかしてないじゃん。
 とはいえ、ハナは黙々と破片を片付けてくれた。さっきの瓶は、父の飲んだ栄養飲料的なものの瓶。べつに割ったって怒られないけど、ちょっと嫌だな。
 ちなみに、瓶といってもちょっと違う。薄い石? 割と高いそうだけど、うちには普通にあるからなぁ……。


「ありがと。なんか……」
「疲れているようなら、休んでいてもいいのですよ?」
「は?」
「だから割ったのでは?」


 あ。そういうことか。確かに、そう取れないこともない。ちょっと嬉しいけど、別に疲れてなんかないし、考え事のせいだ。
 というか、サボることばっか考えているせいだ。うん、私のせい。


 気がつくと、部屋の外からわんわんと声がする。相変わらず、キャンキャンといった小型犬っぽい鳴き声だ。


「シナモンだ。なんだろ?」
「遊びたいだけではないでしょうか。少し遊んであげたらどうでしょう。仕事は、私がやっておきますから」
「そうする。じゃあ、あとはよろしく!」


 外に出ると、やっぱりそこにいたのはシナモンだし、もっと言えば、口にボールをくわえている。なんでわかったんだー、というのは置いておく。メイドのカンだ、そうだそうだ。


 きっとまた庭で走り回りたいんだろう。でも、私より体力あるから、途中で引きづられたりするしな……。


 でも、シナモンはボールを私に押し付けて、キラキラした目で見ている。
「仕方ないなぁ。いこうか」


 すると、嬉しそうに走っていってしまった。そんなに急いだって、私が追いつけないのに。
 まあ、そこまで考えてはいないのだろう、犬だし。でも、時々私より賢い気がするのはなんで……。










 案の定、最後の方は飛びかかられてズルズルコースだ。ドロドロになったローブに適当に掃除魔法をかけてみた。あれ、意外と落ちた。
 ……解せぬ。だって、考えてみて、何のための洗濯魔法だろうか。


 とりあえず、シナモンは満足そうだし、私は疲れたけど、まるで疲れた様子がないのが不思議だ。なんて体力なんだ。


「って、寝てるの?」


 気がついたら、寝ていたようだ。この子犬、疲れていないようで、意外と疲れていた?
 なら、やめればいいと思うのは、大人の発想なんだろう。遊びたいから遊ぶ。それだけだ。


「ソフィアお嬢様。さっき、回復魔法が欲しいって、言ってましたよね?」
「ん?うん。」
 ハナが私の手を見ていった。
「でも、治ってますよね? 出来てますよ? 才能だかなぁ。」


 あ……。確かに、いつからだったかわからないけど、全然痛くなかった。
 まあ、ハナはそんなことを言いながら部屋を出ていった。薄い紅色のメイド服を着ていたので、何か仕事だろう。


 回復魔法なんて、使ったこともないのに。心から本当に願うことで、使えたりするのだろうか。
 まぁ、考えるだけ無駄か。分からないものは分からないし。


「ふう、そろそろおやつの時間かな。」
 クッキーがいいな、なんて適当なことを考えながら、キッチンから流れてくるいい匂いに目を細めた。

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