剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第69話 魔王戦 その3
「シミオン! どうなんだ!」
「・・・。ああもうっ!」
「?」
「だったらいいよ、僕、本気になるよ?」
「ま、マズイ、ユリエル、気を付けて!」
フェリシアさんは慌てた様な声を出す。なんだろう、とシミオンを見ると・・・。
魔力を全て解放し、もはや、人とは思えない姿になっていた。
頭からは羊の様な角が生えている。背中からは黒く大きな羽。蛇の様な尻尾もある。
目はギラギラと光り、口からは牙が見えている。これが、シミオン・・・? あり得ない。
「あ、ああ・・・。やっちゃった」
シャロンちゃんが目を大きく開いて呟く。
「これは・・・。ユリエル、本気で行かないとシミオンは倒せないわよ」
フェリシアさんが小さく歯ぎしりするのが聞こえた。
まあ・・・。これくらいは想定内。俺は鮮紅を構える。
みんなもそれを見てまねをする。大丈夫、此処まで来れたんだから。
「いいか、殺さないでくれよ?」
「分かってるわよ、大丈夫」
「じゃ、行くぞッ!」
俺はいつものように剣を構え、シミオンに向かう。
シミオンの持っているのは、いつの間にか、槍から剣に姿を変えた暗紫。
ためしにバインド。え、嘘だろ、こんなに力が強いなんて・・・。少し後ろに下がる。
ふとシミオンの方を見ると、後ろから攻撃しようとしていたエドが、シミオンの尻尾に襲われている。蛇みたいだ、と思ったが、本当に蛇だった。尻尾に意思があるらしい。
そんな事をしていると、シミオンは翼で宙に浮いた。もう、攻撃が届かない。仕方なくみんなのもとへ戻る。
結構強そうだ。普通にかかっても勝機はない。なら、工夫して勝てばいい。今のシミオンは、どうやら普通ではないらしい。幼稚なフェイントにもかかるんじゃないだろうか、ってくらい、おかしい。
という事で、ディオネの作ってくれた通信網を使い、みんなと連絡を取り合う。
この状態になったのは、多分、魔力を解放したせいだ。シミオンの中には魔王の才能が眠っていた。それが目覚めた姿がこれなのだろう。つまり、もう一度封印できれば元に戻るはず。
前に、嫁たちが言っていた封印の魔法。それを、禁断の、『稲荷・宇迦之御魂之舞』に乗せれば、多分。封印、出来るという事になった。
とにかく魔力を使うらしいその封印の術は、これ以上減ると厳しいらしい。だから、此処は封印に専念させ、シミオンは他のメンバーで引きつける。
メリー、エディ、リリィで封印の魔法。ティナとテルシュさんで舞を行う。
残り、俺とリーサ、エド、ルナ。それからアリスにシリル、ディオネの友達と、シャロンちゃんにフェリシアさんが、封印の魔法の準備が整うまで、シミオンを相手にする。
『夫神は唯一にして。御形なし。虚にして。霊有』
ティナとテルシュさんの、息のあった祝詞が聞こえてくる。流石は姉妹。
それを聞きながら。俺たちは武器を持ってシミオンに向かっていく。
まず、リーサとエドが。二人掛かりでも、シミオンの剣は抑えられない。が。其処に、アリスが吹雪を放つ。意識がそれ、二人は攻撃を入れることに成功する。
その後、グリフィンとセドリックが行く。グリフィンは、シミオンの払った手によって吹き飛ばされる。その隙に、セドリックがハンマーでシミオンを殴る。けれど、大したダメージに放っていない。
『天狐地狐空狐赤狐白狐。
稲荷の八霊。五狐の神の。光の玉なれば。
誰も信ずべし。心願を。以て。空界蓮來』
シリルとアリスが、タイミングを合わせて氷魔法を放つ。それに合わせてシャロンちゃんとフェリシアさんが掛かる。
フェリシアさんの剣は、大したダメージにならない。けれど、シャロンちゃんの斧は。左肩を切断。
でも、すぐに生えてきた。やっぱり、人ではなくなっている。
『七曜九星。二十八宿。當目星。有程の星。
私を親しむ。家を守護し。年月日時災無く。
夜の守。日の守。大成哉。賢成哉』
あと少し。鮮紅が赤く輝く。大きく振りかぶると、剣の先に、魔力が集まる。
思い切り振り降ろす。と、同時に魔力が放たれ、シミオンに赤い魔力が襲い掛かる!
『稲荷秘文慎み白す。
稲荷・宇迦之御魂之舞!』
『封印の魔法・改!』
三匹の大きな白狐に跨るのは、修道女の格好をした人。狐の仮面に隠れ、顔は見えない。
彼女(?)たちが杖を取り出すと、狐たちはシミオンを取り囲む。それと同時に、シミオンは魔力に襲われ、膝を着く。彼女たちは、杖をシミオンに向けた。
「な・・・?!」
杖に紫色の魔力が吸い込まれていく。シミオンの中から出たものだ。
その時、仮面が外れ、その顔が露わになる。メリー、エディ、リリィに良く似ていた。けれど、少し違う。もっと、神々しい感じがするのはなんでだろう。
わかった。両目が金色に光っているから。魔力の吸収が終わると、瞳の色は戻り、狐も、修道女たちも消え去った。
とさ、と音を立ててシミオンはその場に倒れる。角も、羽も、尻尾も。全て元に戻っている。
俺たちが恐る恐る駆け寄ると、シミオンは片目を開ける。俺たちを見て、軽く笑った。
「ああ、勝てない。一対一だったら、勝機、あったんだけどね」
「本当に、負けを認めろ。こうやって仲間がいるのも、俺の力だ」
「知ってるよ。この期に及んで言い訳なんてしたくもない」
シミオンは寝転がったまま呟く。
「そうだよ。知ってる。君の仲間は本当に強いよ」
「?」
「特にメリッサちゃんなんて、能力付与使えるでしょ?」
「え?」
「あれ、知らないの?」
能力付与? 他の人に能力を与えられるのか・・・?
ん、でも、確かに、メリーと会ってから召喚魔法が使える様になったんだっけ・・・。
「多分、自覚はないんだね。不安定みたいだし。何か言われた事とかない?」
「お母さんが、あなたは凄い魔法の才能があるけれど、誰にも言っちゃだめ、って。凄く魔法の才能がある、って意味だと思ってたんだけど、『凄い魔法』の才能があるってことだったんだ・・・」
メリーはそう言って自分の掌を見つめる。そのままキュッと握って、視線を戻す。
と、シミオンに向かって微笑む。
「他の人は?」
「そうだね・・・。知ってる通りだと思うよ」
「そっか」
となると、俺の身の回りには結構変わった人が多かったのか。
能力付与の魔法使いだったり、ホムンクルス作りの天才だったり、未来から来た人だったり。後方支援の得意な白魔族に、舞の天才白狐の二人。雪女まで居るし。
「ああ、やっぱり、魔王って良い事ないや。でも、だから、シャロンには、なって貰いたくなかったんだけど」
「・・・え?」
「僕が必死にシャロンに負けない様にしてた理由だよ」
「そ、そんな・・・」
シャロンちゃんは大きく目を開くと、シミオンに駆け寄って泣き出した。
シミオンは体を起こし、シャロンちゃんの頭を撫でる。
「あと・・・。僕、エディナちゃんには、やっぱり、勝てないんだね」
「ん? どういう事よ」
「アルファズールでさ。僕、本当は魔法で入ろうと思ってたんだよ。でも、エディナちゃんの方が強かったから・・・。ちなみに、勉強の方も、僕、エディナちゃんには勝てたこと、ないらしい」
「え? ああ、そうね。勉強の方より、魔法の方が地位がいくらか高いから、私、魔法の方になったらしいわね」
「そう・・・。どれにしても。僕、エディナちゃんには勝てなかった」
それは初めて聞いた。確かに、エディは相当頭が良い。まあ、教えるとなると鬼だけど。
一人が両方に入る事は出来ないから。だから、シミオンが入ったのか。
「あと、リリィちゃん。君ほど良い悪魔、僕には召喚出来なかった」
「それは、ユーリ様を褒めて貰いたいなぁ」
「いいや。リリィちゃんも、ユリエルくんを大切に思って、鍛えてきたんでしょ? そうじゃないと、其処までは達しない」
「そうかな。ルシファーとか、強かったよ」
「いや・・・。あれは、僕が魔法で強くしたから」
「そっ、か・・・」
シミオンはその場に立ちあがって言った。
「ユリエルくん・・・。今度こそ、負けを認めるよ」
「わかった。じゃあ、仲直りな」
「・・・え?」
シミオンは驚いたように俺を見た。
「ん、なんか変だったか?」
「だ、だって・・・。ユリエルくんって、僕を殺そうと思ってたんじゃ・・・」
「倒そうと思ったけど、殺そうとは、なぁ」
シミオンは俯くと、目に涙を溜めて俺を見た。
「ごめんね・・・。ユリエルくん、とっても素敵な人だね。もう、こんなことはしないよ」
魔王討伐は、こうして幕を閉じた。
「・・・。ああもうっ!」
「?」
「だったらいいよ、僕、本気になるよ?」
「ま、マズイ、ユリエル、気を付けて!」
フェリシアさんは慌てた様な声を出す。なんだろう、とシミオンを見ると・・・。
魔力を全て解放し、もはや、人とは思えない姿になっていた。
頭からは羊の様な角が生えている。背中からは黒く大きな羽。蛇の様な尻尾もある。
目はギラギラと光り、口からは牙が見えている。これが、シミオン・・・? あり得ない。
「あ、ああ・・・。やっちゃった」
シャロンちゃんが目を大きく開いて呟く。
「これは・・・。ユリエル、本気で行かないとシミオンは倒せないわよ」
フェリシアさんが小さく歯ぎしりするのが聞こえた。
まあ・・・。これくらいは想定内。俺は鮮紅を構える。
みんなもそれを見てまねをする。大丈夫、此処まで来れたんだから。
「いいか、殺さないでくれよ?」
「分かってるわよ、大丈夫」
「じゃ、行くぞッ!」
俺はいつものように剣を構え、シミオンに向かう。
シミオンの持っているのは、いつの間にか、槍から剣に姿を変えた暗紫。
ためしにバインド。え、嘘だろ、こんなに力が強いなんて・・・。少し後ろに下がる。
ふとシミオンの方を見ると、後ろから攻撃しようとしていたエドが、シミオンの尻尾に襲われている。蛇みたいだ、と思ったが、本当に蛇だった。尻尾に意思があるらしい。
そんな事をしていると、シミオンは翼で宙に浮いた。もう、攻撃が届かない。仕方なくみんなのもとへ戻る。
結構強そうだ。普通にかかっても勝機はない。なら、工夫して勝てばいい。今のシミオンは、どうやら普通ではないらしい。幼稚なフェイントにもかかるんじゃないだろうか、ってくらい、おかしい。
という事で、ディオネの作ってくれた通信網を使い、みんなと連絡を取り合う。
この状態になったのは、多分、魔力を解放したせいだ。シミオンの中には魔王の才能が眠っていた。それが目覚めた姿がこれなのだろう。つまり、もう一度封印できれば元に戻るはず。
前に、嫁たちが言っていた封印の魔法。それを、禁断の、『稲荷・宇迦之御魂之舞』に乗せれば、多分。封印、出来るという事になった。
とにかく魔力を使うらしいその封印の術は、これ以上減ると厳しいらしい。だから、此処は封印に専念させ、シミオンは他のメンバーで引きつける。
メリー、エディ、リリィで封印の魔法。ティナとテルシュさんで舞を行う。
残り、俺とリーサ、エド、ルナ。それからアリスにシリル、ディオネの友達と、シャロンちゃんにフェリシアさんが、封印の魔法の準備が整うまで、シミオンを相手にする。
『夫神は唯一にして。御形なし。虚にして。霊有』
ティナとテルシュさんの、息のあった祝詞が聞こえてくる。流石は姉妹。
それを聞きながら。俺たちは武器を持ってシミオンに向かっていく。
まず、リーサとエドが。二人掛かりでも、シミオンの剣は抑えられない。が。其処に、アリスが吹雪を放つ。意識がそれ、二人は攻撃を入れることに成功する。
その後、グリフィンとセドリックが行く。グリフィンは、シミオンの払った手によって吹き飛ばされる。その隙に、セドリックがハンマーでシミオンを殴る。けれど、大したダメージに放っていない。
『天狐地狐空狐赤狐白狐。
稲荷の八霊。五狐の神の。光の玉なれば。
誰も信ずべし。心願を。以て。空界蓮來』
シリルとアリスが、タイミングを合わせて氷魔法を放つ。それに合わせてシャロンちゃんとフェリシアさんが掛かる。
フェリシアさんの剣は、大したダメージにならない。けれど、シャロンちゃんの斧は。左肩を切断。
でも、すぐに生えてきた。やっぱり、人ではなくなっている。
『七曜九星。二十八宿。當目星。有程の星。
私を親しむ。家を守護し。年月日時災無く。
夜の守。日の守。大成哉。賢成哉』
あと少し。鮮紅が赤く輝く。大きく振りかぶると、剣の先に、魔力が集まる。
思い切り振り降ろす。と、同時に魔力が放たれ、シミオンに赤い魔力が襲い掛かる!
『稲荷秘文慎み白す。
稲荷・宇迦之御魂之舞!』
『封印の魔法・改!』
三匹の大きな白狐に跨るのは、修道女の格好をした人。狐の仮面に隠れ、顔は見えない。
彼女(?)たちが杖を取り出すと、狐たちはシミオンを取り囲む。それと同時に、シミオンは魔力に襲われ、膝を着く。彼女たちは、杖をシミオンに向けた。
「な・・・?!」
杖に紫色の魔力が吸い込まれていく。シミオンの中から出たものだ。
その時、仮面が外れ、その顔が露わになる。メリー、エディ、リリィに良く似ていた。けれど、少し違う。もっと、神々しい感じがするのはなんでだろう。
わかった。両目が金色に光っているから。魔力の吸収が終わると、瞳の色は戻り、狐も、修道女たちも消え去った。
とさ、と音を立ててシミオンはその場に倒れる。角も、羽も、尻尾も。全て元に戻っている。
俺たちが恐る恐る駆け寄ると、シミオンは片目を開ける。俺たちを見て、軽く笑った。
「ああ、勝てない。一対一だったら、勝機、あったんだけどね」
「本当に、負けを認めろ。こうやって仲間がいるのも、俺の力だ」
「知ってるよ。この期に及んで言い訳なんてしたくもない」
シミオンは寝転がったまま呟く。
「そうだよ。知ってる。君の仲間は本当に強いよ」
「?」
「特にメリッサちゃんなんて、能力付与使えるでしょ?」
「え?」
「あれ、知らないの?」
能力付与? 他の人に能力を与えられるのか・・・?
ん、でも、確かに、メリーと会ってから召喚魔法が使える様になったんだっけ・・・。
「多分、自覚はないんだね。不安定みたいだし。何か言われた事とかない?」
「お母さんが、あなたは凄い魔法の才能があるけれど、誰にも言っちゃだめ、って。凄く魔法の才能がある、って意味だと思ってたんだけど、『凄い魔法』の才能があるってことだったんだ・・・」
メリーはそう言って自分の掌を見つめる。そのままキュッと握って、視線を戻す。
と、シミオンに向かって微笑む。
「他の人は?」
「そうだね・・・。知ってる通りだと思うよ」
「そっか」
となると、俺の身の回りには結構変わった人が多かったのか。
能力付与の魔法使いだったり、ホムンクルス作りの天才だったり、未来から来た人だったり。後方支援の得意な白魔族に、舞の天才白狐の二人。雪女まで居るし。
「ああ、やっぱり、魔王って良い事ないや。でも、だから、シャロンには、なって貰いたくなかったんだけど」
「・・・え?」
「僕が必死にシャロンに負けない様にしてた理由だよ」
「そ、そんな・・・」
シャロンちゃんは大きく目を開くと、シミオンに駆け寄って泣き出した。
シミオンは体を起こし、シャロンちゃんの頭を撫でる。
「あと・・・。僕、エディナちゃんには、やっぱり、勝てないんだね」
「ん? どういう事よ」
「アルファズールでさ。僕、本当は魔法で入ろうと思ってたんだよ。でも、エディナちゃんの方が強かったから・・・。ちなみに、勉強の方も、僕、エディナちゃんには勝てたこと、ないらしい」
「え? ああ、そうね。勉強の方より、魔法の方が地位がいくらか高いから、私、魔法の方になったらしいわね」
「そう・・・。どれにしても。僕、エディナちゃんには勝てなかった」
それは初めて聞いた。確かに、エディは相当頭が良い。まあ、教えるとなると鬼だけど。
一人が両方に入る事は出来ないから。だから、シミオンが入ったのか。
「あと、リリィちゃん。君ほど良い悪魔、僕には召喚出来なかった」
「それは、ユーリ様を褒めて貰いたいなぁ」
「いいや。リリィちゃんも、ユリエルくんを大切に思って、鍛えてきたんでしょ? そうじゃないと、其処までは達しない」
「そうかな。ルシファーとか、強かったよ」
「いや・・・。あれは、僕が魔法で強くしたから」
「そっ、か・・・」
シミオンはその場に立ちあがって言った。
「ユリエルくん・・・。今度こそ、負けを認めるよ」
「わかった。じゃあ、仲直りな」
「・・・え?」
シミオンは驚いたように俺を見た。
「ん、なんか変だったか?」
「だ、だって・・・。ユリエルくんって、僕を殺そうと思ってたんじゃ・・・」
「倒そうと思ったけど、殺そうとは、なぁ」
シミオンは俯くと、目に涙を溜めて俺を見た。
「ごめんね・・・。ユリエルくん、とっても素敵な人だね。もう、こんなことはしないよ」
魔王討伐は、こうして幕を閉じた。
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