剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第67話  魔王戦 その1

 王城から大きな鐘の音が聞こえてくる。
 それは、魔王が来たという事だ。その瞬間。戦闘は開始される。


「よし、行くぞッ!」
『おーっ!』


 王女様が兵士を準備してくれた為、多少の戦力は集まっている。
 黒魔族と悪魔が大量に迫ってきている。結構な数が居るけれど、その方が戦いやすい!
 まず最初、戦うのは、援護の兵士と俺、リーサ、エドだ。
 彼方此方でバインドの音がする。そんな中、真っ赤な剣を構え、舞うように攻撃する・・・、というのはエディが言っていたのだが。ともかく、辺りの敵を蹴散らしていく。


 第一陣は突破。第二陣が向かって来ているが、此処でメリーとエディの準備が終わった。俺たちは後ろに下がる。
「よし、みんな、気を付けて! 『血塗られた宴ブラッディ・パーティー』!」


 メリーの必殺技、『血塗られた宴ブラッディ・パーティー』。それは、ブラッド属性で、敵の体を切り刻み、辺りを真っ赤にする技だ。当然、名前を付けたのはエレナ。
 風が、砂が。全てが刃となり。敵の体を傷付ける。


 次はエディ。
「行くわよ、『積乱雲キュモロニンバス』、『豪雨ヘヴィ・レイン!』」


 雲が一瞬で形成され、大量の雨が降り始める。俺たちの位置までは水は来ない。大量の雨に振られ、息も出来ない状態だろう。
 暫くして、エディが水平に上げた右手を、さっと右側に動かすと、雨を何処かに消えさった。


「ふふ、第二陣は突破だわ!」
「やったね、エディちゃん」


 次。ティナの準備が整った。
稲荷いなり悪祓あくばらいまい白狐ティナ!」


 そういうと、兵士たちの周りに大きな白狐が現れた。白狐たちは聖の妖気で出来ている。黒魔族と悪魔を祓う力があるのだ。狐たちは強い光を放ち、兵士にダメージを与える。
 ティナの隣に舞い降りたのはエリー。カッと目を見開く。


「光属性、必殺魔法。『天使のエンジェル・レイ』」


 カッと強い光が現れる。空から、光線のようにまっすぐと。
 それらが黒魔族と悪魔に当たると。肌は焼け、魔力は奪われ。まあ、死ぬな。


「よし! 良い感じだな!」
「あ、ほら、来たよッ!」


 次。ルナが円月輪チャクラムを投げ、トマホークを投げ、ボーラを投げ。もう、大放出だ。
 その後、セーラー服のリボンを解くと、下に落ちていた石を一つ拾う。まさか。


「これ、スリングなんだ!」


 リボンの中央に石を乗せ、グルングルンと回し始める。スピードに乗ったところで。
 リボンの片端を離すと、石が勢いに乗って飛んで行くのだ。パチンコなんかの仲間だな。
 石は見事頭に命中し、兵士は吹き飛び、他の兵士を押し倒しながら消えて行った。


 次にアナ。エレナが、好きにさせてと言っていた為、止める事は出来ない。
「鏖殺魔法其之零! 必殺奥義! 人命舞華!」


 アナの両目が黄金に光る。黄金の魔力が。兵士たちを襲い、赤い血が飛び散る。
 この技の前では、人の命も舞い散る花のごとく弱く儚いものである。
 それと、舞う血を花と例え。エレナが改良した、アナの必殺奥義。


 次の兵士も倒し終えた。が、まだ沢山の兵士が残っている。
 みんな、全力で敵を倒してきた。おそらく、残りの兵士より、倒した兵士の方が多い。


 そして。残りはリリィ!
「魔封じの術・version黒魔族!」


 リリィがカッと目を見開くと、辺りが緑色に染まる。それは、黒魔族の魔力である紫の反対色だ。
 その空間では。黒魔族は、魔法が使えないのだ。
 正確には、紫の魔力が動かせなくなる。つまり魔法が使えない。昔戦った、あの蝶と同じだ。
 ただし、メリーとリーサ、それからエリーには効かない。リリィは調節が上手で、ちゃんと制限できるのだ。


「それと。魔封じの術・version悪魔! 御主人様、後は頼んだよ!」
「ああ・・・、?!」


 呼び方・・・。俺が驚いていると、それに気が付いたリリィがニッと笑った。
 何だ、すっごく懐かしくて、なんでか嬉しい。俺も微笑み返し、魔法が使えないと狼狽えている黒魔族へ向かって突っ込んでいく。


 その瞬間。
「みんな、集まって!」
 テルシュさんの声だ。白い狐がポンポンと現れる。何の効果があるのかはよく分からない。けれど・・・。何かの術の準備のようだ。


「グリフィンくんと、セドリックくん、ヘーゼルちゃんを向かわせています!」
 ディオネの声だ。そう言えば、連絡系の魔法が使えるって言ってたっけ。
 この子たちは、修学旅行で助けた子供たち。手伝いに来てくれるのか、ありがたい!


大吹雪ブリザード!』
 この声、アリスにシリル! 二人も来てくれたんだ。
 魔封じの術を掛けられた黒魔族や悪魔の、もっと後ろの兵士に向かって吹雪が吹き荒れる。流石雪女と・・・、雪男は違うな、なんだろ。まあ良いか。流石だ。


「必殺奥義! 剣神・鮮紅の一撃!」


 黒魔族と悪魔の居る場所の、もうちょっ手前で大きく剣を振る。
 と、それに合わせて真っ赤な、剣の形をした魔力が敵を蹴散らしていく。
 横に薙ぎ払えば、剣の届かない様なところまで魔力が倒してくれる。


「凄い!」
「流石ご主人様!」


 エディとリリィが同時に声を上げる。
 俺はすぐに後ろに下がる。次の攻撃者が分かったからだ。
 白い狐たちが急に光りはじめる。光が消えたとき・・・。それは、狐獣人になっていたのだ。


「ふふ・・・。みんな、いくよ? じゅんびはええかいな?


高天原たかあまはら神留座かみづまります 皇親神すめむつかみ漏岐神ろぎかみ漏美ろみみこともち
天津祝詞あまつのりとことれ 如此宣かくのらばつみ罪咎つみとが不在物あらじをと
祓賜はらいたま清賜きよめたまうもうことよし
もろもろ神等かみたち 左男鹿さおしかやつ御耳おんみみ振立ふりたて 聞食きこしめせともう


 最要祓さいようのはらい!」


 狐獣人たちは、テルシュさんの祝詞に合わせて舞う。美しい。流石、テルシュさん・・・。
 最後、唱え終わった時。カッと強い光で辺りが覆われる。メリーとリーサが体に力を入れて小さくなったが、何もないので、驚いたように自分の掌を見つめていた。


「こん術は、敵以外にはなんかて起きへん。凄いでしょ?」
「はい! びっくりしましたぁ」
「テルシュさん、流石ですね」


 なんか・・・。ずっと、自分で魔王を倒そうって思ってた。でも、違う。みんなで協力して、初めて。魔王を倒す力が手に入る。そして、協力して貰えるかどうかは・・・。今までの、自分の行いにかかっている。
 こんなに沢山の人が協力してくれる。それが、とても嬉しい。エディが小さく笑って言う。


「そうそう。これは、紛れもなく、ユーリの力なのよ」
「ああ。だから、みんな、俺に協力してくれる。感謝しきれないな」


 その時、ディオネから連絡が来た。どうやら、三人が到着したらしい。
 茶色い毛の猫獣人が一人。ハンマーを持った小人が一人。濃いグレーの髪の黒魔族が一人。
 グリフィン、セドリック、ヘーゼルだ。
 グリフィンは爪を、セドリックはハンマーを、ヘーゼルは杖を構えて戦闘に加わる。


「みなさん、ヘーゼルちゃんは黒魔族ですから、光属性は注意して下さい」
『了解』


 強い。動きがとても良い。随分訓練したようだ。
 特にグリフィン。両手に付けた爪で、敵を倒しまくっている。耳と尻尾のせいで可愛く見えてしまうけれど。


 よし、もうひと頑張り! それぞれ武器を構える。エリーをちらと見ると、そっと微笑んで頷いた。ちゃんと替えの短剣あるよ、ってな。
 エリーは短剣を良く折る。いや、折りたいわけじゃないだろうけどな? まあ、替えが無いと困るわけだ。


 俺が鮮紅を高く持ち上げると、周りに居た、俺の味方である人たちがみな、赤く燃える様に光った。
 えっ・・・? 一体、これはなんだ・・・? でも・・・。リリィの補助魔法を受けた時の様な感じだ。


「大丈夫、行くぞ!」
『はいっ!』


 メリーのトライデントも、エディのメイスも、リリィのウィップも、リーサのバトルアックスも、エドのグレートソードも、エリーのダガーも。全て、鮮紅を作って貰った武器屋のものだから、相当強い。ちなみに、ルナは基本投擲武器を使っているから、こういう時の為に短剣を一本、作っておいた。


 グリフィンやセドリック、ヘーゼルだけではなく。テルシュさんも金属で出来た、扇の武器を両手に一つづつ持ち。アリスとシリルも腰から剣を抜く。
 みんなが兵士たちの中に入って行き、敵を蹴散らす。


 こうやって、俺の言った事に素直に従ってくれるみんなだから。俺も、みんなに安心して命令が出せる。
 何だ、助けて貰ってるのは俺ってことか。まあ、それでも良い。そう思える。


「さあ、ご主人様!」
「ああ、残りは魔王だ、準備は良いなッ?!」
『もちろん!』


 よし! 大きく地面を蹴って走り出す。信じてくれる仲間がいる。だから、信じたい。
 俺を信じてくれるから。だから、俺は頑張れる。いつもいつも、そうだったのだ。
 待っていろ、魔王、シミオン! 絶対に、お前に分からせてやるからな!

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