剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第65話 魔王の正体
『Ira』と書かれた扉は、固く固く閉ざされている。
「・・・。って、え?」
触れても全然開く気配がない。おかしいな、全部、触れる前に開いたのに。
考えるのは面倒になった。まどろっこしい。俺は思い切り扉を蹴破った。
その先に会ったのは、さっきまでのに比べたら小さな部屋。不思議に思いながらも其処に入る。
全員が乗った途端、ガコン、という音とともに上昇していく。エレベーターだったのか。
とても長い。何時になったら目的地に着くのだろう・・・。
着いたのは、青い部屋だった。青銅の様な、くすんだ青だ。青銅よりは青みが強い。
床には魔法陣の様な模様か刻まれていて、壁という壁はほとんどない。柱が数メートルごとに立っているだけだ。唯一、正面は、部屋につながっているらしく、扉があり、少しだけ壁がある。
柱と柱の間から。強い風が吹き込み、髪を、服を、揺らしていく。
誰も居ない。けれど、何となく分かっている。魔王って、『いかにも魔王です』、という感じを大切にするだろ。この、ほら。登場するまでの間とか、そういうの気にするタイプっていうか。
俺が一歩踏み出すと、綺麗な声が聞こえてきた。
「ようこそ、魔王様のお城へ。楽しんでもらえた・・・?」
この声は知っている。まあ、俺の記憶の中のより、ずっと大人っぽくなってはいるが。
「シャロン!」
「覚えてて、くれた・・・。こんにちは」
コツリ、コツリと音を立て、奥の部屋から出てきたのは、一人の少女。
やっぱり。ずっと大きくなって、さらに美しくなった。けれど、ミルクティーの色をしたセミロングの髪と、紫色の、ぼんやり何処かを眺める様な目は変わらない。
「悪いけど、魔王様には、会わせてあげない」
「そういう訳にもいかない。シャロンを倒せばいいのか?」
「ううん・・・。シャロンかお姉ちゃん、どっちか選んで」
なら・・・。俺たちはちょっと顔を見合わせて。
「フェリシアさんが良いな」
「わかった」
なんでかって、フェリシアさんも見たかったからなんだけどな。
トン、と舞い降りてきたのは、間違いなくフェリシアさん。ミルクティーの色をしたポニーテールがふわんと揺れる。けど、何処から来た? 上から降ってきたように見えたんだけど。
殺気の籠った瞳で俺たちを見て、大きな剣を構える。
「久しぶりね。再会を喜びたいところだけど、そういう訳にもいかないみたい」
「です、ね。本気で行かせてもらいます。良いですね?」
「もちろんよ」
そう言い、どちらからともなく走り出す。戦闘の合図になった。
俺たちの剣はバインド。そのままぐるりと百八十度、立ち位置を変える。
と、フェリシアさんは、俺以外の敵に背を向ける形になる。が、流石と言うべきか。すぐに俺の剣
を外向きに弾き、魔法を全て打ち消した。
でも・・・。俺の剣を、いとも簡単に弾いた。結構な力を込めていたはずなのに。フェリシアさん・・・。なんて力なんだろう。
フェリシアさんの剣を俺が捕らえると、後ろからエドが仕掛ける。
と、フェリシアさんは魔力を放ち、エドを吹き飛ばす。一瞬で対応できなかった。が、柱にぶつかった為、落ちなかった。
このまま落ちたら、まあ、死ぬだろう。相当の高さがあるからな。
俺がトン、と後ろに下がると、大量の魔法が襲い掛かる。
が、フェリシアさんは冷静に、魔法で撃ち落としていく。
今の行動。何か引っかかる。
わざわざ撃ち落とさなくても、避ければよかったんじゃないのか? さっきの行動を見る限り、容易なはずだ。
という事は・・・。この城を、壊したくない、のか?
なら、ちょっとやってみるか。
リリィに近づいて、そっと命令をする。リリィは頷くと、聞いた事を他の人へと伝えていく。
魔法の使えるみんなが魔力を溜め、魔法の準備をする。
一斉に放つが、狙うのは、フェリシアさんに見せかけて、後ろ。柱だ。
「あっ?! ダメっ!」
大爆発とともに。大きな警報が鳴り響き、フェリシアさんは焦ったような顔をする。
警報は止まない。大きな音が鳴り続く。聞き続けていたら、狂いそうな音だ。
そんな事をしていると、部屋の向こうからフェリシアさんを呼ぶ声がした。
「はっ、魔王様、すみません!」
「・・・。もういいよ」
「い、嫌っ、許して下さいっ!」
「あー、いや、そうじゃなくてね。戻っていいよ」
「すみません」
フェリシアさんを見ながら。今、気が付いてしまった事を、信じない様に。嘘だと思い込もうと必死だった。
懐かしい、よく知っている声だった。俺の知っている黒魔族の数なんて、たかが知れている。
そんなの、信じられない。まさか、魔王が・・・。
「久しぶり、ユリエルくん」
「な、なんで、シミオンが・・・ッ!」
魔王というのは、シミオンだったのだ。
信じたくなくて。目の前の状況をはっきりと理解する事が出来ない。
俺は茫然と、綺麗なマントを纏ったシミオンを眺める事しか出来ない。
なんで、なんで・・・。どうして、シミオンが。
「どうしてと言ってもね。ほら、僕はもともと魔王の家に生まれたんだ、当然だよ」
「だ、だって、なんで、学校に・・・」
「そりゃ、ユリエルくんを観察する為に決まってるでしょ」
眩暈がして、俺はふらふらと数歩後ろに下がる。じゃあ・・・。
「友達のつもりは、なかったんだな・・・?」
「まあね。信じても、いなかったし」
全部全部、嘘だった。演技だった。
俺の分からない所を教えてくれて。分かるようになった時、一緒に喜んでくれた。
実戦で一緒にとても強い敵を倒したとき。みんなで泣くほど喜んだ。
何でもない話で討論になって。でも結局、どっちも良いね、で笑いあった。
家族の話で、心配かけて、心配して。最終的には、笑い飛ばせた。
俺は、シミオンを信じていた。でも、あれは、全部嘘で、演技だった。
そんなの、信じられるか、信じてたまるか。でも、現実はこうだ。
「さあユリエルくん、僕に罵声を浴びせてよ。魔王の事、ずっと憎んでいたでしょ?」
「あ・・・。そ、それは・・・」
「何だ、大して恨んでなかったんだ?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
言葉が出てこない。確かに、魔王の事は、嫌いだった。メリーと俺を引き離してしまったのが一番だけど、それだけじゃない。黒魔族を介して街を破壊したり、本当に、何でこんなことをするんだ、って思ってた。
でも、シミオンは、嫌いになれない。
「なんで、なんで」
「ん?」
「何で、街を、壊した・・・?」
シミオンはそっと目を閉じる。と、狂ったように叫び出した。
「そりゃあねぇ! 昔から、魔王は嫌われていたさ。だから、僕が魔王になった時! みんな、僕を警戒した。分かっていた。僕が何もしなくても。魔王ってだけで討伐される事くらい!」
そうかも、しれない。魔王が復活した、と言うだけで。それだけで、俺たちは随分と警戒をした。
魔王は昔、黒魔族を介して街を壊した。同じ事をすると思って、黒魔族を差別した。
「魔王になんて、生まれたくて生まれたわけじゃない! 勇者に殺されたくない、普通に生きたい! だったら・・・。自分で、自分の身を守るしかないでしょ・・・。僕の事を恐れさせるのが、一番だとおもった」
シミオンは俯き、杖をキュッと握りしめた。俺の事を見て、キッと睨むと、話を続ける。
「剣神が倒しに来る事は、分かっていた。昔、そうだったからね。だから、君の事を観察した。なんてことだ、強い。僕でも勝てないかもしれないじゃないか。だったら、僕に不老の術を掛けて。勇者となる剣身が死ぬまで待てばいいと思った。それまで、なんとか足止めをすれば・・・。
なのにさぁ! リリィちゃんの魔法が誤作動? 知らないけど、ユリエルくんが不老になんてなった。もう、他に方法はない、レリウーリアを使い、アルファズールを倒すしか。でも、それも失敗したね」
はぁ、と溜息をつき、視線を落とす。瞳には諦めの色が浮かんでいる。
別に、こんなこと、したいわけじゃなかったのか。悪い事を言ったな。
「そしたらさ・・・。僕に残された道は一つしかなかった。ユリエルくんに勝つ。その為に、悪魔も準備したし、僕自身も強くなった。でも、結局勝てそうにない。僕よりもベルゼブブのほうが強いかも。昔はルシファーだったし」
「?」
「ああ、あれは称号みたいなものでさ。僕の下に、ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、レヴィアタン、ベルフェゴール、アモンって感じ。最近入ってきたルシファー結構強くてね」
シミオンは笑みを浮かべ、仮面を一つ取りだした。
「みんな、ユリエルくんに倒されちゃった。あの体、結構傑作だったんだけどね」
「あれは、エレナのやっていたものと、同じ、だろ?」
「そうそう! リリィちゃんと一緒。結構上手いと思わない?」
相当。なんでわからないけれど、心を奪われる何かがあった。
それを、仮面で隠しているというのがまた良い。本当に、趣味が良いと思う。
「特にベルゼブブなんてよかったでしょ? あり得ないくらい白い肌も、切れ長で澄んだ紫の目も、薄く整った形をした桃色の唇も。全部、傑作」
「ああ」
正直・・・。神々しさすらも感じた。この世にいてはいけない存在の様で。俺の手に届いてはいけないようで。でも、見ていたい。離したくない。なんだか、不思議だった。
「ま、ともかくだ。僕は今、ユリエル君を倒さなくちゃいけない」
「ああ。俺もだ」
「そうだよね。じゃ、行くよ?」
見ていられなくて、そっと目を瞑った。黒魔族っぽくない。そう思っていたその顔が、ニタリと不気味に笑うのが。どうしても、見たくなかった。
シミオンは魔王だ、倒さなくちゃいけない。でも、シミオンは友達だ、殺しちゃいけない。
二つの矛盾する気持ちが混在し、俺の頭を掻き乱す。
もう、どうすればいいっていうんだ・・・。
とにかく。シミオンは戦う気で居るのだ。もしかしたら、途中で、気が変わってくれるかもしれない。
俺はそっと息を吸い、目を開ける。大丈夫、あれが嘘だなんて、信じない。本当のシミオンは、学校の、あの時のだ。だから。
絶対に、元に戻してやるからな!
「・・・。って、え?」
触れても全然開く気配がない。おかしいな、全部、触れる前に開いたのに。
考えるのは面倒になった。まどろっこしい。俺は思い切り扉を蹴破った。
その先に会ったのは、さっきまでのに比べたら小さな部屋。不思議に思いながらも其処に入る。
全員が乗った途端、ガコン、という音とともに上昇していく。エレベーターだったのか。
とても長い。何時になったら目的地に着くのだろう・・・。
着いたのは、青い部屋だった。青銅の様な、くすんだ青だ。青銅よりは青みが強い。
床には魔法陣の様な模様か刻まれていて、壁という壁はほとんどない。柱が数メートルごとに立っているだけだ。唯一、正面は、部屋につながっているらしく、扉があり、少しだけ壁がある。
柱と柱の間から。強い風が吹き込み、髪を、服を、揺らしていく。
誰も居ない。けれど、何となく分かっている。魔王って、『いかにも魔王です』、という感じを大切にするだろ。この、ほら。登場するまでの間とか、そういうの気にするタイプっていうか。
俺が一歩踏み出すと、綺麗な声が聞こえてきた。
「ようこそ、魔王様のお城へ。楽しんでもらえた・・・?」
この声は知っている。まあ、俺の記憶の中のより、ずっと大人っぽくなってはいるが。
「シャロン!」
「覚えてて、くれた・・・。こんにちは」
コツリ、コツリと音を立て、奥の部屋から出てきたのは、一人の少女。
やっぱり。ずっと大きくなって、さらに美しくなった。けれど、ミルクティーの色をしたセミロングの髪と、紫色の、ぼんやり何処かを眺める様な目は変わらない。
「悪いけど、魔王様には、会わせてあげない」
「そういう訳にもいかない。シャロンを倒せばいいのか?」
「ううん・・・。シャロンかお姉ちゃん、どっちか選んで」
なら・・・。俺たちはちょっと顔を見合わせて。
「フェリシアさんが良いな」
「わかった」
なんでかって、フェリシアさんも見たかったからなんだけどな。
トン、と舞い降りてきたのは、間違いなくフェリシアさん。ミルクティーの色をしたポニーテールがふわんと揺れる。けど、何処から来た? 上から降ってきたように見えたんだけど。
殺気の籠った瞳で俺たちを見て、大きな剣を構える。
「久しぶりね。再会を喜びたいところだけど、そういう訳にもいかないみたい」
「です、ね。本気で行かせてもらいます。良いですね?」
「もちろんよ」
そう言い、どちらからともなく走り出す。戦闘の合図になった。
俺たちの剣はバインド。そのままぐるりと百八十度、立ち位置を変える。
と、フェリシアさんは、俺以外の敵に背を向ける形になる。が、流石と言うべきか。すぐに俺の剣
を外向きに弾き、魔法を全て打ち消した。
でも・・・。俺の剣を、いとも簡単に弾いた。結構な力を込めていたはずなのに。フェリシアさん・・・。なんて力なんだろう。
フェリシアさんの剣を俺が捕らえると、後ろからエドが仕掛ける。
と、フェリシアさんは魔力を放ち、エドを吹き飛ばす。一瞬で対応できなかった。が、柱にぶつかった為、落ちなかった。
このまま落ちたら、まあ、死ぬだろう。相当の高さがあるからな。
俺がトン、と後ろに下がると、大量の魔法が襲い掛かる。
が、フェリシアさんは冷静に、魔法で撃ち落としていく。
今の行動。何か引っかかる。
わざわざ撃ち落とさなくても、避ければよかったんじゃないのか? さっきの行動を見る限り、容易なはずだ。
という事は・・・。この城を、壊したくない、のか?
なら、ちょっとやってみるか。
リリィに近づいて、そっと命令をする。リリィは頷くと、聞いた事を他の人へと伝えていく。
魔法の使えるみんなが魔力を溜め、魔法の準備をする。
一斉に放つが、狙うのは、フェリシアさんに見せかけて、後ろ。柱だ。
「あっ?! ダメっ!」
大爆発とともに。大きな警報が鳴り響き、フェリシアさんは焦ったような顔をする。
警報は止まない。大きな音が鳴り続く。聞き続けていたら、狂いそうな音だ。
そんな事をしていると、部屋の向こうからフェリシアさんを呼ぶ声がした。
「はっ、魔王様、すみません!」
「・・・。もういいよ」
「い、嫌っ、許して下さいっ!」
「あー、いや、そうじゃなくてね。戻っていいよ」
「すみません」
フェリシアさんを見ながら。今、気が付いてしまった事を、信じない様に。嘘だと思い込もうと必死だった。
懐かしい、よく知っている声だった。俺の知っている黒魔族の数なんて、たかが知れている。
そんなの、信じられない。まさか、魔王が・・・。
「久しぶり、ユリエルくん」
「な、なんで、シミオンが・・・ッ!」
魔王というのは、シミオンだったのだ。
信じたくなくて。目の前の状況をはっきりと理解する事が出来ない。
俺は茫然と、綺麗なマントを纏ったシミオンを眺める事しか出来ない。
なんで、なんで・・・。どうして、シミオンが。
「どうしてと言ってもね。ほら、僕はもともと魔王の家に生まれたんだ、当然だよ」
「だ、だって、なんで、学校に・・・」
「そりゃ、ユリエルくんを観察する為に決まってるでしょ」
眩暈がして、俺はふらふらと数歩後ろに下がる。じゃあ・・・。
「友達のつもりは、なかったんだな・・・?」
「まあね。信じても、いなかったし」
全部全部、嘘だった。演技だった。
俺の分からない所を教えてくれて。分かるようになった時、一緒に喜んでくれた。
実戦で一緒にとても強い敵を倒したとき。みんなで泣くほど喜んだ。
何でもない話で討論になって。でも結局、どっちも良いね、で笑いあった。
家族の話で、心配かけて、心配して。最終的には、笑い飛ばせた。
俺は、シミオンを信じていた。でも、あれは、全部嘘で、演技だった。
そんなの、信じられるか、信じてたまるか。でも、現実はこうだ。
「さあユリエルくん、僕に罵声を浴びせてよ。魔王の事、ずっと憎んでいたでしょ?」
「あ・・・。そ、それは・・・」
「何だ、大して恨んでなかったんだ?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
言葉が出てこない。確かに、魔王の事は、嫌いだった。メリーと俺を引き離してしまったのが一番だけど、それだけじゃない。黒魔族を介して街を破壊したり、本当に、何でこんなことをするんだ、って思ってた。
でも、シミオンは、嫌いになれない。
「なんで、なんで」
「ん?」
「何で、街を、壊した・・・?」
シミオンはそっと目を閉じる。と、狂ったように叫び出した。
「そりゃあねぇ! 昔から、魔王は嫌われていたさ。だから、僕が魔王になった時! みんな、僕を警戒した。分かっていた。僕が何もしなくても。魔王ってだけで討伐される事くらい!」
そうかも、しれない。魔王が復活した、と言うだけで。それだけで、俺たちは随分と警戒をした。
魔王は昔、黒魔族を介して街を壊した。同じ事をすると思って、黒魔族を差別した。
「魔王になんて、生まれたくて生まれたわけじゃない! 勇者に殺されたくない、普通に生きたい! だったら・・・。自分で、自分の身を守るしかないでしょ・・・。僕の事を恐れさせるのが、一番だとおもった」
シミオンは俯き、杖をキュッと握りしめた。俺の事を見て、キッと睨むと、話を続ける。
「剣神が倒しに来る事は、分かっていた。昔、そうだったからね。だから、君の事を観察した。なんてことだ、強い。僕でも勝てないかもしれないじゃないか。だったら、僕に不老の術を掛けて。勇者となる剣身が死ぬまで待てばいいと思った。それまで、なんとか足止めをすれば・・・。
なのにさぁ! リリィちゃんの魔法が誤作動? 知らないけど、ユリエルくんが不老になんてなった。もう、他に方法はない、レリウーリアを使い、アルファズールを倒すしか。でも、それも失敗したね」
はぁ、と溜息をつき、視線を落とす。瞳には諦めの色が浮かんでいる。
別に、こんなこと、したいわけじゃなかったのか。悪い事を言ったな。
「そしたらさ・・・。僕に残された道は一つしかなかった。ユリエルくんに勝つ。その為に、悪魔も準備したし、僕自身も強くなった。でも、結局勝てそうにない。僕よりもベルゼブブのほうが強いかも。昔はルシファーだったし」
「?」
「ああ、あれは称号みたいなものでさ。僕の下に、ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、レヴィアタン、ベルフェゴール、アモンって感じ。最近入ってきたルシファー結構強くてね」
シミオンは笑みを浮かべ、仮面を一つ取りだした。
「みんな、ユリエルくんに倒されちゃった。あの体、結構傑作だったんだけどね」
「あれは、エレナのやっていたものと、同じ、だろ?」
「そうそう! リリィちゃんと一緒。結構上手いと思わない?」
相当。なんでわからないけれど、心を奪われる何かがあった。
それを、仮面で隠しているというのがまた良い。本当に、趣味が良いと思う。
「特にベルゼブブなんてよかったでしょ? あり得ないくらい白い肌も、切れ長で澄んだ紫の目も、薄く整った形をした桃色の唇も。全部、傑作」
「ああ」
正直・・・。神々しさすらも感じた。この世にいてはいけない存在の様で。俺の手に届いてはいけないようで。でも、見ていたい。離したくない。なんだか、不思議だった。
「ま、ともかくだ。僕は今、ユリエル君を倒さなくちゃいけない」
「ああ。俺もだ」
「そうだよね。じゃ、行くよ?」
見ていられなくて、そっと目を瞑った。黒魔族っぽくない。そう思っていたその顔が、ニタリと不気味に笑うのが。どうしても、見たくなかった。
シミオンは魔王だ、倒さなくちゃいけない。でも、シミオンは友達だ、殺しちゃいけない。
二つの矛盾する気持ちが混在し、俺の頭を掻き乱す。
もう、どうすればいいっていうんだ・・・。
とにかく。シミオンは戦う気で居るのだ。もしかしたら、途中で、気が変わってくれるかもしれない。
俺はそっと息を吸い、目を開ける。大丈夫、あれが嘘だなんて、信じない。本当のシミオンは、学校の、あの時のだ。だから。
絶対に、元に戻してやるからな!
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