剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第62話  置いて行かないで

「お兄ちゃん!」
「ん、どうしたんだ?」
「ねえ、シャロンって名前、知ってる?」
「・・・。どういう事だ?」


 ある日の夕方。ユーナが泣きながら家に駆け込んできた。
 シャロンって、あの、シャロンちゃんだよな? そりゃあ知ってるけど・・・。


「あ、あのね・・・」
 ユーナは、シャロンちゃんに騙されたと言った。


 シャロンちゃんは、魔物の巣に足を踏み入れてしまったユーナを助けてくれたらしい。
 それで話してみると、同い年の兄がいる、という事で話が合い、友達になったらしい。
 随分仲良くなり、情報をだいぶ交換したところで。


「これ!」
 ユーナは俺に一通の手紙を渡してきた。


『ユーナ、お兄さんの情報どうもありがとう。これで、魔王様にいっぱい褒めて貰えるかな。
 騙した? そんな事を言われても、シャロン、困るなぁ。友達になろうっていったのは、ユーナだもんね?
 何でもいいけど、お元気で!
                       魔王の使い シャロン・アディントン』


「ああ・・・。シャロンちゃん、黒魔族だもんな」
「そんなの関係なかったんだ、あの時は・・・」
「だろうな」
「どうしよう、お兄ちゃん」


 ユーナは泣きながら俺を見る。全く、そんな顔するな。
「取り敢えず、もうどうしようもない。きっと大丈夫だから、心配するな」
「う、うん・・・」




「ユリエルくん!」
「ど、どうした・・・?」
「ねえ、フェリシアって名前、知ってる?」
「・・・。あぁ」


 またか・・・。今度は姉さん。ユーナと状況が驚くほど似ていた。
「それ、ユーナも同じ事やってる」
「え・・・。ごめん、ユリエルくん」
「大丈夫。そんなに気にするほどでもないと思う」
 何喋ったかにもよるけど。




「え、シャロンちゃんとフェリシアさん?」
 エディは驚いたように訊き返す。
「ああ。そうなんだ」
「・・・。じゃあ」


 そう、すぐに浮かぶのはシミオン。一体、どうしているんだろう。二人がこうやって使われているってことは、シミオンも・・・。
 頭が良くて、優しくて。黒魔族っぽくなかったシミオン。一体今、何してるだろう。無事だと、良いんだが。


「え、どうかしたの?」
「どうも、シャロンちゃんとフェリシアさんに、ユーナと姉さんが騙された」
「・・・。魔王?」
「ああ」


 リリィは悲しそうな顔をして俯いた。シミオンとは仲良かったけれど、一度も連絡していないし、会っていない。今、何処で何をしているのか、全く見当もつかない。
 それこそ、もう死んでいた、としてもおかしくないくらい・・・。


「シミオン、無事だと良いんだけれど」
「ああ・・・」




 次の日、エレナの家に行った。賢音に呼ばれていたからだ。
「あれ、ユリエルさん、どうしたんですか?」
「賢音に呼ばれたんだが」
「ああ、もしかして」


 其処で賢音がやってきて、俺をリビングに上げる。
 俺は、気が付いてしまった。エレナの指に、ダイアモンドの指輪がはまっている事に。
 なるほど、そういう事か。でも、それじゃあ、さっきの反応はなんで・・・? とりあえずはいいや。


「俺たち、結婚する事に、なりました」
「家も建ててます」
「・・・。そうか。おめでとう」


 だが、なんで今? だいぶ魔王の攻撃、激しくなって来てるんだけど・・・。
「いつ死んじゃうか分かんないから、だよ」
「その前に、結婚、したいなって」
「ああ・・・。なるほど」


 ちなみに、さっきのエレナだが、誰かに報告するとは聞いていだが、具体的に誰なのかは聞いていなかったらしい。
 その後、少し話し、例の、ユーナとの姉さんの話が出た為、シミオンの事を知っているか聞いてみた。


「私は知らないですね・・・」
「シミオン?」
「ああ。同じクラスだったんだ」
「・・・。今、何してるか。知らない方が、良いと、思う。調べないで」
『・・・え?』


 賢音はちょっと困ったように笑うと、
「何でもないよ。でも、知らない方が良い事もあるんだ」
 と言う。なんだろう、凄く気になるけれど・・・。でも、賢音が言うんだから、無理に調べない方が良いんだろう。


 ちょっと雰囲気が暗くなった所で、ホムンクルス達が来た。
「おお、久しぶりだな」
「はい!」


 だいぶ雰囲気復活。また、少し楽しく喋って、家に帰った。
 シミオンの事は、家族に言わない事にした。調べるなと言ったら、余計に調べそうだからな。




「ん・・・。ユーリ・・・」
 ベッドの中。メリーは俺の胸に顔をうずめて、うとうととする。
 メリーの髪を撫でながらそれを見ていると、急に顔を上げて言う。


「ねえ・・・。もうそろそろ、行こうとか、思ってる?」
「魔王、か?」
「うん。ボク・・・。何も言わないで言っちゃうんじゃないかって、不安で」


 うぅ・・・。凄いやりそう。メリーは目に涙浮かべて俺を見た。
「置いて行かないで・・・。ボク、ユーリが居ないと、生きてけない」
「メリー・・・」
「ボクだけじゃない。エディちゃんも、リリィちゃんも、ティナちゃんも。子供たちだって、そうだよ」


 そうだろうか。案外、俺がいなくてもやっていけそうな気がするんだけどな。
「だめ・・・。ユーリが居ないなんて、耐えられない」
「そうか?」
「ユーリが居ると・・・。なんだか、安心するんだ。ユーリが無茶したりすると、本当に辛い。ユーリが怪我したり、辛いときは、ボクも、胸が苦しいよ」


 メリーは俺をぎゅっと抱きしめる。スッと一粒、涙が落ちる。
「ユーリとボクは、繋がってる。エディちゃんたちだって、そうだよ。だから・・・」
「わかってる。でも、一緒なんだ。俺も・・・。みんなが痛い思いをするのは、嫌なんだ」
「そっか・・・。そうだよね。最終判断は、ユーリに、任せる・・・よ・・・」
 メリー、そのまま寝ちゃった。




「ユーリ様、ユーリ様」
「・・・。あ。何だ、リリィ」
「いやいや、今寝てたよね? 大丈夫?」


 仕方ないだろ、メリーの言葉、考えてたら眠れなくなって。まあ、そのメリーはずっと寝てたわけだけど。
 なかなか難しいのだ。俺の気持ちと、みんなの気持ち。同じ気持ちだからこそ、難しい。


「あ、メリー? 難しいこと言われた?」
「な、なんで・・・」
「昨日、メリーの日だったでしょ?」
「ああ、そうだ、なかなか難しい問題だ、本当に」


 でも、そろそろ行かないとな。もう時間だ。
「気をつけてねー!」
「ああ、行ってくる」
「あの・・・。置いて行かないよね?」


 え・・・? 今、なんて・・・。訊き返す前に、リリィはいつも通りの笑顔に戻ってしまったから、俺も聞かなかった事にした。
 今日の仕事は何だろう。みんなの幸せを守るためなら。なんだって出来る気がするな。




「あ、アリス」
 最近よく会う。それで、俺の仕事を聞いてくる。こんな感じに。
「剣神様。今日のお仕事は?」
「また悪魔だ」
「面倒な感じだ」
「そうなる」


 悪魔、相性悪いんだよな・・・。空飛ばれたら攻撃当たらないし。でも、ディオネの居る、あの村の近くだから頑張るけど。近くじゃなくても頑張るけどさ。ちょっと気合いが違うというか。
 アリスと分かれ、女王様から貰った地図を頼りに悪魔討伐へ向かう。




「おかえりなさぁい!」
「・・・。どういうことだ」
「え、なんか問題あった?」
「ある。なんでユーナが家にいる!」


 しかもみんなあまり気にしていない。居ても居なくても一緒か?
「ああ、いや、お兄ちゃん待ってたんだよ。ちょっと良いかな」
「?」


 ユーナはリビングで、大きな地図を広げた。
「シャロンと色々話したからね・・・。分かった事もあるの」
「それ、嘘じゃないのか?」
「多分本当。調べてみたから」


 ユーナは地図の一点を差す。
「此処。多分、魔王の住んでる島」
「・・・。え?!」
「シャロン、なんというか、お兄ちゃんを誘ってる感じだったよ」


 来て欲しいのか? 良く分からないな。
 まあ、シャロンが本当はこういう事をやりたくなくて、助けを求めているんならそうかもしれないが、罠かもしれない。


「で、どうも、魔王も同い年みたいよ、お兄ちゃんと」
「そう、なのか?」
「うん。で、六人の手下が魔王の住むお城を守ってる」
「へえ・・・」
 どうもそれだけらしい。


「実は・・・。喧嘩しちゃって逃げて来たの」
「ああそう。仲直り、しろよ?」
「分かってるって!」


 ユーナはニッと笑うと家を飛び出して行った。全く・・・。
 そう言えば俺、喧嘩なんて、した記憶がないな。


「だって、ユーリさん、私たちが怒る様なことしないでしょ?」
「そうか?」
「無茶する事はあるけど・・・。怒るどころじゃないわ、ほんとに」
「それは悪かった」


 ティナとエディは苦笑いすると、俺の持っている地図を見て不安そうな顔をする。


「一人で、行かないでしょう?」
「え?」
『置いて行かないで』
「・・・。それ、メリーにも言われた」
 あとリリィも?


 うん、分かってるんだけど・・・。ごめん。
 やっぱり、一人でいくかもしれない。

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