剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第60話 エリーの友達
「ふ、ふええええんっ!」
ギルド内に、泣き声が木霊する。
今年で子供たちは十歳になる。ちょっと暑くなってきた七月。それを目撃した。
可愛い白髪の少女。瞳は淡い水色をしている。真っ白な着物を着ている。年は・・・。分からないけれど。
ただいま、男の人たちに絡まれております。
が、まあ。泣き声に驚いて、男の人たちは居なくなってしまった。
偶々一人出来ていた為、その子に駆け寄る。多人数だと怖がられるだろうからな。
「大丈夫か?」
「ふぇ・・・? あ、あの・・・」
「怪我してないか?」
「は、はい・・・」
近くで見るともっと可愛い。年はうちの娘たちと同じくらいだろうか。
こんなに暑いというのに、着ている布の量が随分多い。暑くないんだろうか。
それはともかく、名前を聞こう。
「あ、アリス、です」
「アリス、か。因みに・・・。暑くないか?」
「あ、触ってみてください」
滅茶苦茶冷たい。
どうやら、アリスは寒い地方の出身らしい。これは魔法の布で出来た着物。暑いのが凄く苦手でこうしているらしい。逆に、冬は薄手の着物一枚。
「えへへ・・・。私、雪女だから・・・。捕まえたいの、分かるけど」
「へ? 雪女?」
「うん。本当にちょっとしかいないけど・・・。ちゃんと、種族」
ゆ、雪女・・・。物語の中だけじゃなかったのか。
「雪女に会った?! 本当ですか?!」
アンジェリカ先生が驚いたように叫んだ。
「え、あ、はい」
「雪女。まだ存在していたんだ・・・」
どうやら、絶滅したと思われていたらしい。まあ、こうやって存在していたわけだが。
白い髪と、白い着物が特徴。冬、薄手の着物を着ていて、夏、厚着をしているのも特徴。あの着物は雪女に代々伝わる方法で作られた服の様だ。
ちなみに、テルシュさんはまだ家にいる。あれ以来、もう襲われてはいない。そうでなきゃ困る。
そう言えば、今年の元旦は、ティナの、例の舞を見た。テルシュさんと同じもののはずなのに、何だか温かい感じだった。
「どんな感じだったの?」
エディは興味があるらしく、身を乗り出して聞いて来た。
「そうだな・・・。見た目と年齢が一致するなら十歳くらい。白い髪と水色の目をした少女だったな」
「結構小さいのね。綺麗な大人の女性を想像してたわ」
まあ・・・。御伽噺とかだとそうだろうな。俺も、雪女なんて小さい時に呼んだ絵本くらいしか分からない。所詮は作り話ってことか。
でも、雪女は存在するんだよな? ああもう、わけわかんなくなった。止めよ。
「ねえ、も、も、もしかして、そ、その子、アリスっていったり、す、する・・・?」
「?! そうだが・・・。どうしたんだ? エリー」
「やっぱり・・・。う、ううん、何でもないの」
・・・? 何だろう?
エドとルナに訊いてみた。
「え? エリーが隠し事してるの?」
「うーん、心当たりないな・・・」
そっか。でも、アリスの名前を知っていた。という事は、エリーはアリスの事を知っていたのだ。
例えば。アリスはエリーの友達だ。無くはない。ただ、友達になるまでにどれくらいかかる事か・・・。まあそんな事はどうでもいい。
そう言えば、最近良く一人で出かけてるかも・・・。まさか。
「ア、アナさん」
「エリーちゃん。どうかしましたか?」
「あ、明日・・・。外、行くの。お菓子、何か・・・」
「分かりました。例の、皆さんには秘密、ですよね?」
「そ、そうなの」
「任せて下さい。何時ですか?」
「一時くらい・・・?」
「午後ですね、問題ありません」
こんな会話を聞いてしまった。どうしよう、聞いちゃいけないもの聞いた気分になった。
とにかく、明日、午後、エリーの後を付けてみよう。仕事が入らなければ、だが。
エリーは機嫌が良い。クッキーの入ったバスケットを抱え、スキップしながらどこかへ向かう。
俺とメリーが会っていた、あの森。其処がエリーの目的地だった。
「シリル・・・。居る?」
エリーは大樹の近くで、そう、名前を呼んだ。
シリル・・・? シェリルならともかく、シリルってことは男性名だな。男の友達なんていたのか? エリー、男の人の方が苦手なのに。
「ごめん、エリー」
「え・・・。シ、リ、ル・・・?」
「こっちに来ないで!」
驚いたようにその場に立っていたが、すぐに声の方向へ走る。慌てて俺も付いて行く。
木の間を縫って走る。ちょっと広くなった場所で、エリーは足を止める。
「エリー! 来ないでと言ったのに!」
「シリルを、いじめないで・・・」
え、ちょっと待って、どういう状況なんだ? 位置を移動し、エリーから見えないけれど、エリーの見て居る位置が見えるようにする。
一人の男の子がいる。それだけだったらよかったのに。
魔物に、囲まれていた。
とはいえ、エリーが居るんだぞ? わざと自分に注目を集め、短剣を取り出し全て倒した。
「シリル・・・。怪我、してる」
「え、これくらい大丈夫だよ?」
「だめ・・・。治癒」
それから、持って来たバスケットに掛かった返り血を見て俯く。
「あ・・・。ごめん、これ・・・」
「え? いいよいいよ。助けてくれたの、嬉しかったよ」
「ほんと・・・?」
多分大丈夫だと思うけどな。アナ、随分丁寧に、何重にも包んでたから。何処まで事情を知っているのかは知らないけれど。
二人は大樹の所まで戻り、並んで座ると、包みを開いた。
「あ、大丈夫そうだよ、エリー」
「ほんとだ・・・。よかったの」
「いっつもありがとうね」
「つ、作ったのは、私じゃないの」
「でも、僕はエリーにしかお礼、言えないから」
結構仲良さそうだな・・・。いつから友達なんだろう。
というか、忘れてたけど、アリス。なんで知ってたんだろう。アリスと友達、という訳ではなかった。
「あ、そうだ・・・。シリル、お父さんが、アリス、見たって」
「ほんと?! 何処で?」
「え、えと、ギルド。今、何処に居るかは、分からないの」
「そっか。でも、やっぱりこの辺りに・・・」
シリルがアリスを探しているのか。なるほどな。それで知っていたのか。
エリーは水筒から紙コップに紅茶をいれ、シリルに手渡す。それも、アナが入れたもの。アナはエリーの協力者という訳か。
「・・・。アリスに会ったら。シリル、どう、するの?」
「そ、それは・・・。それは、分からない」
「で、でも、あ、いや、何でもない、の」
「ごめん、エリー」
「ううん・・・」
な、何だろう、ただ単にアリスを探してる、ってわけじゃないのかも。
其処で、ふと、シリルの白い髪と水色の瞳が目に入った。え、もしかして・・・。
「あ、この前はありがとう、ユリエル」
「アリス。俺の名前・・・」
「流石に、剣神の名前は分かるよ」
ギルドで、またアリスと遭遇。両端にリボンが付いた、水色のカチューシャを付けている。
「アリスって、この辺に住んでいるのか?」
「あ、ううん。旅人だから」
「そうか。じゃあ、ちょっと来てくれ」
「え?」
アリスの腕を掴む。俺が歩きだすと、アリスも仕方なくついて来た。
確か、今日は家にエリーが居るはずだ。家の門を開けようとすると、丁度エリーが門に手を掛けていた。
「お父様、その子は?」
「お前の友達が探してるんだろ? アリスだ」
「な、な、なんで、それを・・・?」
「話は後だ。今から何処へ?」
「シリルの所」
あんまり事情は分からない。けれど・・・。何かあったら、俺が出来る限りの行動をする。取り敢えず、この子をシリルのもとへ。
「シリル、ちょっと来て!」
「エリー、どうしたの?」
「この子」
シリルとアリスは、目を合わせると、そのまま数秒間フリーズした。
「シリル」
「アリス」
アリスは後ろに後ずさり、シリルは一歩前に出る。
「アリス・・・。なんで僕から逃げてたの?!」
「逃げてなんか・・・。タイミングが悪かったのかな?」
「そんなわけない! アリスは、まだ・・・。あの事、恨んでるんだ?」
シリルがそういった途端。アリスは両手を握りしめ、シリルを睨みつける。
「そうだよ! 悪い?! 大体、シリルが悪いんでしょ!」
「そんなわけないでしょ! アリスが悪い!」
な、なにこれ。どうなっているんだ? もしかして、悪いことした?
どうも、エリーは知っていたらしく。溜息を吐いて「やっぱり」と呟いた。
「悪いのはシリルだ!」
「悪いのはアリスだ!」
『お前がお母さんを殺したっ!』
・・・・・・。え?
強い風が吹き、木の葉がざわざわと揺れる。一体、この二人の言っている事はどういう意味なのだろう。母親を殺した? そんなわけ・・・。
「シリルのせいでしょ! あの日、いじめられてる、なんてお母さんに言うから!」
「違う、アリスのせいだ! あの日、お母さんと喧嘩して、あんなこと言うから!」
エリーは俺に、縋る様な眼を向ける。
「お父様・・・。助けて」
ギルド内に、泣き声が木霊する。
今年で子供たちは十歳になる。ちょっと暑くなってきた七月。それを目撃した。
可愛い白髪の少女。瞳は淡い水色をしている。真っ白な着物を着ている。年は・・・。分からないけれど。
ただいま、男の人たちに絡まれております。
が、まあ。泣き声に驚いて、男の人たちは居なくなってしまった。
偶々一人出来ていた為、その子に駆け寄る。多人数だと怖がられるだろうからな。
「大丈夫か?」
「ふぇ・・・? あ、あの・・・」
「怪我してないか?」
「は、はい・・・」
近くで見るともっと可愛い。年はうちの娘たちと同じくらいだろうか。
こんなに暑いというのに、着ている布の量が随分多い。暑くないんだろうか。
それはともかく、名前を聞こう。
「あ、アリス、です」
「アリス、か。因みに・・・。暑くないか?」
「あ、触ってみてください」
滅茶苦茶冷たい。
どうやら、アリスは寒い地方の出身らしい。これは魔法の布で出来た着物。暑いのが凄く苦手でこうしているらしい。逆に、冬は薄手の着物一枚。
「えへへ・・・。私、雪女だから・・・。捕まえたいの、分かるけど」
「へ? 雪女?」
「うん。本当にちょっとしかいないけど・・・。ちゃんと、種族」
ゆ、雪女・・・。物語の中だけじゃなかったのか。
「雪女に会った?! 本当ですか?!」
アンジェリカ先生が驚いたように叫んだ。
「え、あ、はい」
「雪女。まだ存在していたんだ・・・」
どうやら、絶滅したと思われていたらしい。まあ、こうやって存在していたわけだが。
白い髪と、白い着物が特徴。冬、薄手の着物を着ていて、夏、厚着をしているのも特徴。あの着物は雪女に代々伝わる方法で作られた服の様だ。
ちなみに、テルシュさんはまだ家にいる。あれ以来、もう襲われてはいない。そうでなきゃ困る。
そう言えば、今年の元旦は、ティナの、例の舞を見た。テルシュさんと同じもののはずなのに、何だか温かい感じだった。
「どんな感じだったの?」
エディは興味があるらしく、身を乗り出して聞いて来た。
「そうだな・・・。見た目と年齢が一致するなら十歳くらい。白い髪と水色の目をした少女だったな」
「結構小さいのね。綺麗な大人の女性を想像してたわ」
まあ・・・。御伽噺とかだとそうだろうな。俺も、雪女なんて小さい時に呼んだ絵本くらいしか分からない。所詮は作り話ってことか。
でも、雪女は存在するんだよな? ああもう、わけわかんなくなった。止めよ。
「ねえ、も、も、もしかして、そ、その子、アリスっていったり、す、する・・・?」
「?! そうだが・・・。どうしたんだ? エリー」
「やっぱり・・・。う、ううん、何でもないの」
・・・? 何だろう?
エドとルナに訊いてみた。
「え? エリーが隠し事してるの?」
「うーん、心当たりないな・・・」
そっか。でも、アリスの名前を知っていた。という事は、エリーはアリスの事を知っていたのだ。
例えば。アリスはエリーの友達だ。無くはない。ただ、友達になるまでにどれくらいかかる事か・・・。まあそんな事はどうでもいい。
そう言えば、最近良く一人で出かけてるかも・・・。まさか。
「ア、アナさん」
「エリーちゃん。どうかしましたか?」
「あ、明日・・・。外、行くの。お菓子、何か・・・」
「分かりました。例の、皆さんには秘密、ですよね?」
「そ、そうなの」
「任せて下さい。何時ですか?」
「一時くらい・・・?」
「午後ですね、問題ありません」
こんな会話を聞いてしまった。どうしよう、聞いちゃいけないもの聞いた気分になった。
とにかく、明日、午後、エリーの後を付けてみよう。仕事が入らなければ、だが。
エリーは機嫌が良い。クッキーの入ったバスケットを抱え、スキップしながらどこかへ向かう。
俺とメリーが会っていた、あの森。其処がエリーの目的地だった。
「シリル・・・。居る?」
エリーは大樹の近くで、そう、名前を呼んだ。
シリル・・・? シェリルならともかく、シリルってことは男性名だな。男の友達なんていたのか? エリー、男の人の方が苦手なのに。
「ごめん、エリー」
「え・・・。シ、リ、ル・・・?」
「こっちに来ないで!」
驚いたようにその場に立っていたが、すぐに声の方向へ走る。慌てて俺も付いて行く。
木の間を縫って走る。ちょっと広くなった場所で、エリーは足を止める。
「エリー! 来ないでと言ったのに!」
「シリルを、いじめないで・・・」
え、ちょっと待って、どういう状況なんだ? 位置を移動し、エリーから見えないけれど、エリーの見て居る位置が見えるようにする。
一人の男の子がいる。それだけだったらよかったのに。
魔物に、囲まれていた。
とはいえ、エリーが居るんだぞ? わざと自分に注目を集め、短剣を取り出し全て倒した。
「シリル・・・。怪我、してる」
「え、これくらい大丈夫だよ?」
「だめ・・・。治癒」
それから、持って来たバスケットに掛かった返り血を見て俯く。
「あ・・・。ごめん、これ・・・」
「え? いいよいいよ。助けてくれたの、嬉しかったよ」
「ほんと・・・?」
多分大丈夫だと思うけどな。アナ、随分丁寧に、何重にも包んでたから。何処まで事情を知っているのかは知らないけれど。
二人は大樹の所まで戻り、並んで座ると、包みを開いた。
「あ、大丈夫そうだよ、エリー」
「ほんとだ・・・。よかったの」
「いっつもありがとうね」
「つ、作ったのは、私じゃないの」
「でも、僕はエリーにしかお礼、言えないから」
結構仲良さそうだな・・・。いつから友達なんだろう。
というか、忘れてたけど、アリス。なんで知ってたんだろう。アリスと友達、という訳ではなかった。
「あ、そうだ・・・。シリル、お父さんが、アリス、見たって」
「ほんと?! 何処で?」
「え、えと、ギルド。今、何処に居るかは、分からないの」
「そっか。でも、やっぱりこの辺りに・・・」
シリルがアリスを探しているのか。なるほどな。それで知っていたのか。
エリーは水筒から紙コップに紅茶をいれ、シリルに手渡す。それも、アナが入れたもの。アナはエリーの協力者という訳か。
「・・・。アリスに会ったら。シリル、どう、するの?」
「そ、それは・・・。それは、分からない」
「で、でも、あ、いや、何でもない、の」
「ごめん、エリー」
「ううん・・・」
な、何だろう、ただ単にアリスを探してる、ってわけじゃないのかも。
其処で、ふと、シリルの白い髪と水色の瞳が目に入った。え、もしかして・・・。
「あ、この前はありがとう、ユリエル」
「アリス。俺の名前・・・」
「流石に、剣神の名前は分かるよ」
ギルドで、またアリスと遭遇。両端にリボンが付いた、水色のカチューシャを付けている。
「アリスって、この辺に住んでいるのか?」
「あ、ううん。旅人だから」
「そうか。じゃあ、ちょっと来てくれ」
「え?」
アリスの腕を掴む。俺が歩きだすと、アリスも仕方なくついて来た。
確か、今日は家にエリーが居るはずだ。家の門を開けようとすると、丁度エリーが門に手を掛けていた。
「お父様、その子は?」
「お前の友達が探してるんだろ? アリスだ」
「な、な、なんで、それを・・・?」
「話は後だ。今から何処へ?」
「シリルの所」
あんまり事情は分からない。けれど・・・。何かあったら、俺が出来る限りの行動をする。取り敢えず、この子をシリルのもとへ。
「シリル、ちょっと来て!」
「エリー、どうしたの?」
「この子」
シリルとアリスは、目を合わせると、そのまま数秒間フリーズした。
「シリル」
「アリス」
アリスは後ろに後ずさり、シリルは一歩前に出る。
「アリス・・・。なんで僕から逃げてたの?!」
「逃げてなんか・・・。タイミングが悪かったのかな?」
「そんなわけない! アリスは、まだ・・・。あの事、恨んでるんだ?」
シリルがそういった途端。アリスは両手を握りしめ、シリルを睨みつける。
「そうだよ! 悪い?! 大体、シリルが悪いんでしょ!」
「そんなわけないでしょ! アリスが悪い!」
な、なにこれ。どうなっているんだ? もしかして、悪いことした?
どうも、エリーは知っていたらしく。溜息を吐いて「やっぱり」と呟いた。
「悪いのはシリルだ!」
「悪いのはアリスだ!」
『お前がお母さんを殺したっ!』
・・・・・・。え?
強い風が吹き、木の葉がざわざわと揺れる。一体、この二人の言っている事はどういう意味なのだろう。母親を殺した? そんなわけ・・・。
「シリルのせいでしょ! あの日、いじめられてる、なんてお母さんに言うから!」
「違う、アリスのせいだ! あの日、お母さんと喧嘩して、あんなこと言うから!」
エリーは俺に、縋る様な眼を向ける。
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