剣神勇者は女の子と魔王を倒します
第58話 ラティマーの舞
テルシュさんが、誘拐された。
まあ、テルシュさんはティナの姉。同じ舞も、出来なくはない。
なんでか知らないが、魔王は随分ティナを欲しがっていたからな。今も一人にはさせていない。いつ襲われるか分からない。
まあ其処はともかく。午前二時くらいに、違和感を感じて目を覚ますと、一緒に寝ていたはずのティナが消えていた。
慌てて下に降りると、靴も消えている。つまりどこかに行ってしまったという事。
ただ、普通に考えて。こんな時間に出かけるか? んなわけない。何かあったんだろう。が、ティナにスマホに電話を掛けても反応がない。一体どうすりゃいいんだ?
とりあえず、もう秋で、外は少し寒い為、きちんと上着を選んでから外に出る。
少しすると、向こうから電話が掛かって来て、気付かなかった、と言ってから本題に入る。
その内容が、テルシュさんが誘拐された、というものだったのだ。
ディオネからメールが入り、急いで外に出てしまったらしい。で、今、ディオネに連絡を入れようとして不在着信に気づいたらしい。
で、何でディオネに連絡しようと思ったのかと言うと。
「ちょっと道に迷ってしまって・・・。ユリエルさん、本当に悪いのですが、迎えに来てくれますか?」
「ああ。どの辺に居る?」
「ええと、そうですね・・・」
ちょうど近くだったのでティナと合流。一緒に村を目指す。
ちなみに、ティナは相当薄着だった。寒そうにしていた為、俺の着てきた上着を貸しておく。
この時間は少し強い魔物が出るな。まあ、ティナもだんだん強くなって来ているし、一人で此処まで来れても不思議ではないのかもしれない。
そんな事を考えていると、ティナが不安そうに俺の顔を覗き込んだ。
「? どうしたんだ?」
「怒ってます? 一人で出て行って」
「え? あ、いやいや違う。ちょっと考え事をしていたんだ」
「なら、良いんですが・・・」
本当に、怒ってなんかいない。俺だって、姉さんが誘拐されたなんて言われたら家飛び出していくだろうし。
ただ、ちょっとびっくりした。置き手紙でも置いて行ってくれれば・・・、そんな余裕はないか。
「あ、ティナさん! と、ユリエルさん?」
「御姉様が誘拐されたんですよね」
「はい・・・。本当に困りました」
ディオネが泣きそうな顔で俺たちを見る。とはいっても、俺もそんなに色々な事が出来るわけじゃないしな。
大体、取り返すにしろ、テルシュさんが何処にいるのか分からない事にはどうしようもないのが現状だ。
「ん・・・? ってことは、何処にいるのか分かれば、取り返せますか?」
「状況に寄るけどな」
「じゃあ、それを探す事に専念すればいいんですよね」
まあそうだな。武力で解決、で良いなら取り返せる。こんな状況だ、誰も文句言えないけどな!
いつの間にか周りは明るくなっていた。時間は五時くらい。
ちょっと早いが、動くには問題ないな。じゃあ、まず魔王について纏めるか。
・どうやら剣神(俺)を毛嫌いしているらしい。(昔、魔王が剣神に封印されたから。本人じゃないけど)
・黒魔族を操り干渉してくる。悪魔の召喚も出来る。
・レリウーリアは魔王信仰なので、剣神側のアルファズールを嫌っている。(ので、こんなふうに戦争になる)
・ティナ、もしくはテルシュさんの舞を手に入れたい。
なんで舞が欲しいんだろう。何かあるんだろうけど、分からない。
ティナを見ると、暫く視線を彷徨わせていたけれど、ちょっと俯いて言った。
「妖狐、それも白狐の芸妓。それは、人を操れる」
「え?」
「元々、誘惑が得意な種族です。其処から、人を操るのが得意になりました」
「人を、操る」
「その気になれば、自由自在に。禁止された、禁断の秘術ですが」
人を自在に操る、禁断の秘術。なるほど、それか。魔王が欲しがっているのは。
という事は、急がないと。魔王なら、どんな手を使ってでも、その術を行わせようとするだろう。
「ちなみに、どんな技だ?」
「ラティマーしか、知らない技です。呪歌を歌いながら舞をします」
「・・・。それは、ラティマーなら、誰でも教えられるものか?」
「違い、ます。難しい舞だから」
難しいもの。という事は、魔王はテルシュさんが舞をやっていた、という事を知って・・・。
でも、何で禁断の秘術が、今だに伝えられているのだろうか。
「使っちゃいけないって言うけれど、一年に一度、必ずやらなくちゃいけないんです」
「・・・それは、どうして?」
「私たちの神様に、捧げる舞だから・・・。もしやらなかったら、神様は怒って、大災害になるので」
どうも、実際に、やらなかった年には災害が起こっているらしい。すぐにあの飢饉の事を思い浮かべた。
ら。どうもあの時、ティナは舞を失敗したらしい。けれど、舞をやる日は決まっているし、体力を使うもので、そう何回も出来るものではないんだとか。
「それは、もともとその場にいる全員の心を集め、神様に忠誠を誓うものでした。それが・・・。人を操る事が出来ると良ことに気が付いたのは、一体だれなのでしょう」
つまり、舞を踊っている間、その人は近くにいる人の心を全て自分に集める事が出来る。そうしてそれを捧げ、忠誠を誓う。昔の人は、何も疑わなかったのだろう。
集めた心は、その人の自由に扱える。だから神に捧げられるのだろうが、心と体は結びついているから・・・。
「私たちは、舞を踊ると、完全に、人を自由に操れます」
「ラティマー以外の人物が、同じものをやったら?」
「それは無理です。神を鎮めるのは、代々ラティマーの役割ですから。神との、混血で」
「・・・。え・・・?」
今、なんていった?
「ラティマーは、妖狐と神の、混血です」
ああ、そうだったのか。白い髪と、赤い目が。偶に、神々しいと思う時があった。それは、そういう事だったのだ。
神の子・・・。それって、差別対象に、なるんだろうな。みんなより頑張ってうまく踊れる様になったのに、神の子だから、って・・・・。
「大丈夫ですよ、気にしないでください。それより、御姉様です」
「あ、そうだ。急がないと・・・、?!」
こんな話をしていたから。ほら、遅かった。
覇気の無い人たちが、此方に歩いてくる。そして。頭の上に、白い狐耳が生えているから。つまり。
「お、御姉様ぁ・・・」
だろう、な。
「まずいな・・・。どうすりゃいいんだ」
と、向こうから、綺麗な声が聞こえてくる。
「天に次玉。地に次玉。人に次玉」
一体何処から・・・。あたりをきょろきょろと見回す。
「天狐 地狐 空狐 赤狐 白狐。
稲荷の八霊。五狐の神の。光の玉なれば」
わかった。上空。浮島の様な物があって、其処に青紫の着物を着た女性が一人。遠くてよく分からないけれど、髪は白いし、多分、テルシュさん。
ええと、で、これは、どうするのが一番良いんだ? 良く分からないんだが・・・。
「御姉様、洗脳・・・」
「え?」
「オーラが違うんです。これは・・・。相当マズイです」
徐々に迫ってくる狐耳の人たち。それに合わせ、俺たちはじりじりと後ずさっていく。
何となく。この人たちの周りに、黒い霧が掛かっている様に見える。黒い魔力・・・。なんだ、これ。
「夜の守。日の守。大成哉。賢成哉。
稲荷秘文慎み白す」
ティナが「あっ」と声を漏らす。すぅっと血の気が引いて行き、怯えた表情をする。目線をテルシュさんから離す事無く。手探りで俺の腕を見つけ、両手で抱きかかえるようにした。
「稲荷・宇迦之御魂之舞」
何か、紫色の物が弾けて降ってきた。咄嗟に危険なものだと思った俺は、ティナとディオネを抱えて遠くまで逃げる。けれど、ダメだ。相当上空から放っただけあり、射程距離が広い。
まずい逃げ切れない! そう思った時、ティナが大きく息を吸う。
「掛巻も 恐き 稲荷大神の大前に
恐み恐みも白さく
大神の 厚き弘き恩頼に依て 家門を
令起賜ひ 令立栄賜ひ
夜の守日の守に 守幸へ賜へと
恐み恐みも白す !」
ティナが叫ぶと、透明な壁が出来、俺たちの所まで紫色の物は到達せず、溶けて無くなった。
俺がティナを離すと、その場にすとんと座り、静かに涙を流す。
「どうしよう・・・。みんな、魔王の言いなりに・・・」
「これは・・・。大丈夫じゃないみたい、だな」
「は、はい。御姉様が意識を失えば効果は消えますが・・・」
どうやって・・・。俺の攻撃、届かないじゃないか、あれ。ティナだけで倒せるとは思えない。
誰か呼ぶか? 結構時間掛かるだろうから、それまでは俺たちで何とかしないと・・・。
「よし、祝詞を唱えます」
「・・・。え?」
「その間、私を守って下さい」
ティナはじっと目を瞑り、カッと開く。瞳がキラキラと光っている。
「絶対ですよ。私、無防備ですからね? ただ、多分、何とかなります」
「分かった。賭けてみようか」
「お願いします」
「高天原に 神留り坐す 皇神等鋳顕給ふ
十種瑞津の 宝を以て
天照国照彦 天火明櫛玉 饒速日尊に
授給事誨て曰」
軽やかな足取りで舞い始める。いつの間にか。服が、さっきまで来ていたワンピースではなく、赤い着物に変わっていた。
で、俺はゆっくりと眺めている暇はない。まわりの操られた人を、殺さない様に倒していく。
絶対に、ティナには近づけない!
「甲乙 丙丁 戊己 庚辛 壬癸
一二三四五六七八九十瓊音
布瑠部由良由良如此祈所為婆」
ティナの舞は、それは綺麗だ。俺が暇だったら、見てられるんだが、そういう訳にもいかないから残念だ。ちなみに、殆ど何を言っているのか分からない。
次に頭に浮かんだのは、その浮島の上に居る女性。
テルシュさん・・・。もう、芸妓の道には行けないだろうな。こんなことになってしまって。それどころか、家を追放なんて事も・・・。
操られた人は、ずいぶん弱かった。どうしてだろう、操られると、強くなるんじゃないのか? もしかして、テルシュさん、加減したんじゃ・・・。完全に操られているわけじゃないのかもしれない。
もしくは、ティナの祝詞が効いているか。これも無くはないだろう。どちらにしろ、数はだいぶ減っている。
「甲乙 丙丁 戊己 庚辛 壬癸
一二三四五六七八九十瓊音
布留部由良と 由良加之奉る事の 由縁を以て
平けく聞食せと
命長遠 子孫繁栄と
常磐堅磐に 護り給ひ 幸し給ひ
加持奉る
神通神妙神力加持」
「稲荷・悪払之術・十種大祓!」
辺りが、強い光で覆われる!
まあ、テルシュさんはティナの姉。同じ舞も、出来なくはない。
なんでか知らないが、魔王は随分ティナを欲しがっていたからな。今も一人にはさせていない。いつ襲われるか分からない。
まあ其処はともかく。午前二時くらいに、違和感を感じて目を覚ますと、一緒に寝ていたはずのティナが消えていた。
慌てて下に降りると、靴も消えている。つまりどこかに行ってしまったという事。
ただ、普通に考えて。こんな時間に出かけるか? んなわけない。何かあったんだろう。が、ティナにスマホに電話を掛けても反応がない。一体どうすりゃいいんだ?
とりあえず、もう秋で、外は少し寒い為、きちんと上着を選んでから外に出る。
少しすると、向こうから電話が掛かって来て、気付かなかった、と言ってから本題に入る。
その内容が、テルシュさんが誘拐された、というものだったのだ。
ディオネからメールが入り、急いで外に出てしまったらしい。で、今、ディオネに連絡を入れようとして不在着信に気づいたらしい。
で、何でディオネに連絡しようと思ったのかと言うと。
「ちょっと道に迷ってしまって・・・。ユリエルさん、本当に悪いのですが、迎えに来てくれますか?」
「ああ。どの辺に居る?」
「ええと、そうですね・・・」
ちょうど近くだったのでティナと合流。一緒に村を目指す。
ちなみに、ティナは相当薄着だった。寒そうにしていた為、俺の着てきた上着を貸しておく。
この時間は少し強い魔物が出るな。まあ、ティナもだんだん強くなって来ているし、一人で此処まで来れても不思議ではないのかもしれない。
そんな事を考えていると、ティナが不安そうに俺の顔を覗き込んだ。
「? どうしたんだ?」
「怒ってます? 一人で出て行って」
「え? あ、いやいや違う。ちょっと考え事をしていたんだ」
「なら、良いんですが・・・」
本当に、怒ってなんかいない。俺だって、姉さんが誘拐されたなんて言われたら家飛び出していくだろうし。
ただ、ちょっとびっくりした。置き手紙でも置いて行ってくれれば・・・、そんな余裕はないか。
「あ、ティナさん! と、ユリエルさん?」
「御姉様が誘拐されたんですよね」
「はい・・・。本当に困りました」
ディオネが泣きそうな顔で俺たちを見る。とはいっても、俺もそんなに色々な事が出来るわけじゃないしな。
大体、取り返すにしろ、テルシュさんが何処にいるのか分からない事にはどうしようもないのが現状だ。
「ん・・・? ってことは、何処にいるのか分かれば、取り返せますか?」
「状況に寄るけどな」
「じゃあ、それを探す事に専念すればいいんですよね」
まあそうだな。武力で解決、で良いなら取り返せる。こんな状況だ、誰も文句言えないけどな!
いつの間にか周りは明るくなっていた。時間は五時くらい。
ちょっと早いが、動くには問題ないな。じゃあ、まず魔王について纏めるか。
・どうやら剣神(俺)を毛嫌いしているらしい。(昔、魔王が剣神に封印されたから。本人じゃないけど)
・黒魔族を操り干渉してくる。悪魔の召喚も出来る。
・レリウーリアは魔王信仰なので、剣神側のアルファズールを嫌っている。(ので、こんなふうに戦争になる)
・ティナ、もしくはテルシュさんの舞を手に入れたい。
なんで舞が欲しいんだろう。何かあるんだろうけど、分からない。
ティナを見ると、暫く視線を彷徨わせていたけれど、ちょっと俯いて言った。
「妖狐、それも白狐の芸妓。それは、人を操れる」
「え?」
「元々、誘惑が得意な種族です。其処から、人を操るのが得意になりました」
「人を、操る」
「その気になれば、自由自在に。禁止された、禁断の秘術ですが」
人を自在に操る、禁断の秘術。なるほど、それか。魔王が欲しがっているのは。
という事は、急がないと。魔王なら、どんな手を使ってでも、その術を行わせようとするだろう。
「ちなみに、どんな技だ?」
「ラティマーしか、知らない技です。呪歌を歌いながら舞をします」
「・・・。それは、ラティマーなら、誰でも教えられるものか?」
「違い、ます。難しい舞だから」
難しいもの。という事は、魔王はテルシュさんが舞をやっていた、という事を知って・・・。
でも、何で禁断の秘術が、今だに伝えられているのだろうか。
「使っちゃいけないって言うけれど、一年に一度、必ずやらなくちゃいけないんです」
「・・・それは、どうして?」
「私たちの神様に、捧げる舞だから・・・。もしやらなかったら、神様は怒って、大災害になるので」
どうも、実際に、やらなかった年には災害が起こっているらしい。すぐにあの飢饉の事を思い浮かべた。
ら。どうもあの時、ティナは舞を失敗したらしい。けれど、舞をやる日は決まっているし、体力を使うもので、そう何回も出来るものではないんだとか。
「それは、もともとその場にいる全員の心を集め、神様に忠誠を誓うものでした。それが・・・。人を操る事が出来ると良ことに気が付いたのは、一体だれなのでしょう」
つまり、舞を踊っている間、その人は近くにいる人の心を全て自分に集める事が出来る。そうしてそれを捧げ、忠誠を誓う。昔の人は、何も疑わなかったのだろう。
集めた心は、その人の自由に扱える。だから神に捧げられるのだろうが、心と体は結びついているから・・・。
「私たちは、舞を踊ると、完全に、人を自由に操れます」
「ラティマー以外の人物が、同じものをやったら?」
「それは無理です。神を鎮めるのは、代々ラティマーの役割ですから。神との、混血で」
「・・・。え・・・?」
今、なんていった?
「ラティマーは、妖狐と神の、混血です」
ああ、そうだったのか。白い髪と、赤い目が。偶に、神々しいと思う時があった。それは、そういう事だったのだ。
神の子・・・。それって、差別対象に、なるんだろうな。みんなより頑張ってうまく踊れる様になったのに、神の子だから、って・・・・。
「大丈夫ですよ、気にしないでください。それより、御姉様です」
「あ、そうだ。急がないと・・・、?!」
こんな話をしていたから。ほら、遅かった。
覇気の無い人たちが、此方に歩いてくる。そして。頭の上に、白い狐耳が生えているから。つまり。
「お、御姉様ぁ・・・」
だろう、な。
「まずいな・・・。どうすりゃいいんだ」
と、向こうから、綺麗な声が聞こえてくる。
「天に次玉。地に次玉。人に次玉」
一体何処から・・・。あたりをきょろきょろと見回す。
「天狐 地狐 空狐 赤狐 白狐。
稲荷の八霊。五狐の神の。光の玉なれば」
わかった。上空。浮島の様な物があって、其処に青紫の着物を着た女性が一人。遠くてよく分からないけれど、髪は白いし、多分、テルシュさん。
ええと、で、これは、どうするのが一番良いんだ? 良く分からないんだが・・・。
「御姉様、洗脳・・・」
「え?」
「オーラが違うんです。これは・・・。相当マズイです」
徐々に迫ってくる狐耳の人たち。それに合わせ、俺たちはじりじりと後ずさっていく。
何となく。この人たちの周りに、黒い霧が掛かっている様に見える。黒い魔力・・・。なんだ、これ。
「夜の守。日の守。大成哉。賢成哉。
稲荷秘文慎み白す」
ティナが「あっ」と声を漏らす。すぅっと血の気が引いて行き、怯えた表情をする。目線をテルシュさんから離す事無く。手探りで俺の腕を見つけ、両手で抱きかかえるようにした。
「稲荷・宇迦之御魂之舞」
何か、紫色の物が弾けて降ってきた。咄嗟に危険なものだと思った俺は、ティナとディオネを抱えて遠くまで逃げる。けれど、ダメだ。相当上空から放っただけあり、射程距離が広い。
まずい逃げ切れない! そう思った時、ティナが大きく息を吸う。
「掛巻も 恐き 稲荷大神の大前に
恐み恐みも白さく
大神の 厚き弘き恩頼に依て 家門を
令起賜ひ 令立栄賜ひ
夜の守日の守に 守幸へ賜へと
恐み恐みも白す !」
ティナが叫ぶと、透明な壁が出来、俺たちの所まで紫色の物は到達せず、溶けて無くなった。
俺がティナを離すと、その場にすとんと座り、静かに涙を流す。
「どうしよう・・・。みんな、魔王の言いなりに・・・」
「これは・・・。大丈夫じゃないみたい、だな」
「は、はい。御姉様が意識を失えば効果は消えますが・・・」
どうやって・・・。俺の攻撃、届かないじゃないか、あれ。ティナだけで倒せるとは思えない。
誰か呼ぶか? 結構時間掛かるだろうから、それまでは俺たちで何とかしないと・・・。
「よし、祝詞を唱えます」
「・・・。え?」
「その間、私を守って下さい」
ティナはじっと目を瞑り、カッと開く。瞳がキラキラと光っている。
「絶対ですよ。私、無防備ですからね? ただ、多分、何とかなります」
「分かった。賭けてみようか」
「お願いします」
「高天原に 神留り坐す 皇神等鋳顕給ふ
十種瑞津の 宝を以て
天照国照彦 天火明櫛玉 饒速日尊に
授給事誨て曰」
軽やかな足取りで舞い始める。いつの間にか。服が、さっきまで来ていたワンピースではなく、赤い着物に変わっていた。
で、俺はゆっくりと眺めている暇はない。まわりの操られた人を、殺さない様に倒していく。
絶対に、ティナには近づけない!
「甲乙 丙丁 戊己 庚辛 壬癸
一二三四五六七八九十瓊音
布瑠部由良由良如此祈所為婆」
ティナの舞は、それは綺麗だ。俺が暇だったら、見てられるんだが、そういう訳にもいかないから残念だ。ちなみに、殆ど何を言っているのか分からない。
次に頭に浮かんだのは、その浮島の上に居る女性。
テルシュさん・・・。もう、芸妓の道には行けないだろうな。こんなことになってしまって。それどころか、家を追放なんて事も・・・。
操られた人は、ずいぶん弱かった。どうしてだろう、操られると、強くなるんじゃないのか? もしかして、テルシュさん、加減したんじゃ・・・。完全に操られているわけじゃないのかもしれない。
もしくは、ティナの祝詞が効いているか。これも無くはないだろう。どちらにしろ、数はだいぶ減っている。
「甲乙 丙丁 戊己 庚辛 壬癸
一二三四五六七八九十瓊音
布留部由良と 由良加之奉る事の 由縁を以て
平けく聞食せと
命長遠 子孫繁栄と
常磐堅磐に 護り給ひ 幸し給ひ
加持奉る
神通神妙神力加持」
「稲荷・悪払之術・十種大祓!」
辺りが、強い光で覆われる!
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