剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第54話  ヴァナー戦 version東区域

「さって、リーサ、いこっか」
「うん。頑張るねぇ」
「緊張、してなぁい?」
「なんで緊張するの? とっても楽しみ!」


 リーサが大きなバトルアックスを構えるのを、ボクはトライデントを確認しながら眺める。
 用心しながら進んで行ったけれど・・・。あれ? 何だろ、こんなのあるのは聞いてないんだけどなぁ・・・。えっとぉ、城壁? コンクリート?


「うーん、壊せばいいのかなぁ?」
「じゃないと戦えないよね~。リーサ、壊せる?」
「ええと・・・。うん、大丈夫そうだよぉ」


 リーサは魔力を操ってコンクリートにぶつけた。本当に、魔力をぶつけただけだよ。
 それだけで、煙を上げながら崩れていく。そんなに脆かったのかなぁ? それとも、リーサが強かったの? 何でもいいけど、こんな大きな音立てちゃだめだって言われてたような・・・。


「ま、まあいっか。行くよ、リーサ、かま・・・」
「うん、大丈夫だよぉ!」
「もう構えてるね。うん、行こう!」


 ああでもぉ、やっぱり用心されちゃったなぁ。人っ子一人居ないよ? エディちゃんの言ってた通りだ。
 じゃあ・・・。あんまりこういうのはやらないんだけどねぇ・・・。この際仕方無いもんねぇ?


「誰か、助けて! 此処は一体どこなの? きっと乗る船を間違えたんだわ! 歩きまわっても誰も居ないし、訳が分からないわ! 私は何処に向かえばいいの?!」


 ボクも一応、黒魔族なんだよねぇ。存分に使わせて貰うよぉ? 兵士と同じ属性ってことをねぇ。
 リーサが驚いてるけど、無視無視。そんなこと、いちいち説明している時間はないんだぁ、ごめんね、リーサ。悪いけれど、もっと向こうに行っててね。
 家からそっと扉を開けて一人の兵士が現れた。大丈夫、黒魔族語はバッチリだよぉ?


「黒魔族・・・。一体、どうしたというのだ?」
「そんなの私が聞きたいわ! まず、此処は何処なの? どうしてこんな場所に来てしまったの?」
「・・・」


 あ・・・。やっぱりボクじゃダメかな。エディちゃんとかだったらもっと上手くやれるんだろうけど・・・。ユーリによく嘘が下手、とか言われるしねぇ。凄く怪訝そうな顔で見られてて、ああ、ちょっと怖いよ。
 うーん、失敗かなぁ。あんまり案はないんだよねぇ。場合によっちゃ、まあ、最終手段使うけどね?


「お前、何処出身だ?」
 あ、やっぱり疑われてるんだ。もしこれで嘘だったら、結構慌てるもんねぇ。
「――というところなのだけれど」
「貴族の町だな。となると、お前は・・・」
「人には言えない名前でしてね? こっそり家を抜け出してみればこの始末よ」


 軽く笑みを浮かべる。自傷の、だね。
 よかったよ、レリウーリアの地図見といて。危なかったぁ。あと、黒魔族語も勉強しといてよかった。エリーちゃんが教えてくれたんだけど、後でお礼言わなきゃね。
 その兵士が驚いたように何か叫ぶと、他の所からもわらわらと兵士が出てくる。ボクの事を誰と勘違いしたのか分からないけれど、チャンスだね? 何処かに隠れて貰っているから、呼ばなくっちゃ!


「リーサ!」
「はぁい」
『?!』


 あ、そういえば、何処に隠れてたんだろ。何処でも良いけどね。まあともかく。何処からか飛び出してきたリーサはバトルアックスを構えてる。さ、行くよぉ!
 ボクはリーサに持っていて貰ったトライデントを受け取る。先の方に魔力を纏わせて・・・。
 よし、準備は万端!


「さぁて、みなさん、お相手願います?」
『な・・・?!』
 どうやら飽きて来たらしいリーサが、人間の言葉で私に話しかける。
「お母さん、早く倒してリリィさんの所いこぉ?」
「もちろんだよ」


 返事ももちろん、リーサが分かるように。ボクだって早くリリィちゃんの所に行きたいよ。ちょっと不安なんだもん、アナちゃん。その為に、さっさと終わりにしないとね?
 早く終わりにするよ、でもね・・・。少しくらいは楽しませて貰えるんだよねぇ?
 ボクだって黒魔族、戦うのは好きなんだよぉ。あんまり弱かったらお仕置きしてあげるから。


 トライデントと剣がぶつかり、金属の重なり合う音が響いていく。ああ、この音! ゾクゾクするよぉ。無意識に口角が上がっていく。ふふ、こういう時、とっても幼い気分になるよ。
 ・・・リーサって、本当に豪快だなぁ。子供って、本当はああなのかも。バトルアックス振り回して笑ってる。うぅ、楽しそう・・・。


「あはははは! これじゃあつまらないよぉ? もっと、もっと!」
「リーサ・・・。ボクも、もっと楽しませて貰おうか!」


 あはは、みんな、騙してごめんねぇ? まだ動きがぎこちないよぉ? でもでも、隠れてたのが悪いんだもん。一人を串刺しにして、その人を外さず薙ぎ払うと・・・。沢山の人が倒せるねぇ? 一石二鳥って、こういう事で良いんだよねぇ?


 ほらほらほら! 戦いは、強い人とやるから面白いんだもん! もっともっと楽しませて!
 ああ、だから黒魔族は頭が悪いって言われるのかなぁ? でも、関係ないよ。楽しい事は思い切り楽しむ、こんなの常識だもん!




「ふぅ。リーサ、大丈夫?」
「うん。全然元気だよぉ」
「なら良かった。って、あ、援軍が来たみたい」
「あ、ほんとだ・・・」


 リーサの口元が三日月形に。本当に楽しいみたい。私も大して変わらないのかもしれないけれど。
 ああ、さっきの兵より強そうだねぇ。だって、纏った魔力が違うんだもん。これは、強い人の魔力。


「ふふ・・・。リーサ、そっち頼むよ?」
「任せて!」
「じゃ、行こうかなぁ」


 くるくるとトライデントを回す。ピタッと手に合う位置を確認して、両手でキュッと握りしめる。
 さあ、来た来た~。ユーリと一緒に色々試して、歩法はバッチリだよぉ。剣とはちょっと違うけど、やりやすい方法を、基本の歩法を基に練習したんだぁ。
 接近戦の基本は位置と距離と時間。自分の武器と相手の最短距離に当たる位置で、危なくない一番近づける距離で、時間は最短! これが本当は、一番良いんだよねぇ。


 後はうしろに気を配っておけば問題なし。ボク、いっつも前だけになっちゃって危ないんだもん。ユーリが指摘してくれたんだ。
 鎧を貫くこの感触、堪らない! やっぱりこの武器、結構いいものなのかなぁ。鎧が弱いって可能性もあるけれど。
 それと、この、トライデントを抜く時に舞う鮮血! ああ、ゾクゾクするねぇ! もっともっと! ちょっと、中毒性があるなぁ。虜になっちゃうよぉ?


 とん、と後ろに飛ぶと、誰か蹴っちゃったみたい。まあ気にしないけど。ボクは、だよ。
 だって、ほら。リーサが真似してるもん。ま、ボクはわざと蹴ったわけじゃないけどね?
 リーサがこっち見て笑ってるけど・・・。違うんだって、まさかこっちに動くと思わなかっただけだよぉ。ごめんね、誰かさん?


 気が付くと、背中合わせになってた。小声でリーサに話しかける。
「良いよ、好きにしても。どうする?」
「! じゃあ、お母さん、ちょっと避けてね?」


 ボクは魔法を駆使して屋根の上に上がる。ちゃんと丈夫そうなの選んだつもりだけど、大丈夫かなぁ?
 リーサはニヤリと笑うと、魔力を動かし、大きな斧を作り出した。巨人だって持てないよ、こんなの。家くらいあるもん。


 それを、一切触れずに動かす。魔力だもん。でも、それは凄く丈夫な刃を持っててね?
 まわりの兵士がみんな薙ぎ倒されていく。血だらけになったその斧を、リーサは楽しそうに眺めている。その時、向こうの方から何かがこっちに来た。ええと、あっちの方向は・・・。南! エディちゃんたちだぁ!


 って、えええ?! これ、光属性だよ、ボクたちにも効果あるよぉ! 急いでリーサを抱きかかえ、屋根の上に連れていく。ほら、兵士倒れてくし・・・。ああ、どうしよう!
 慌てて判断力の欠けたボクは、思い切り魔法を放った。


落雷サンダーボルト!」


 思ってたより、ずっと強い音が鳴った。

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