剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第46話  戦いの傷

 目が覚めた時、自分が何処に居るのか、何をしていたのか、朝なのか、昼なのか、夜なのかさえも、本当に、何も分からなかった。
 けれど、心配そうではあるが、其処にあるエディの顔を見ると、何となく、安心した。


「ユーリ? ユーリ、起きた、の?」
「エディ、今、此処・・・」
「ユーリ! 何か飲むものでも持ってくるわ。動いちゃだめよ!」


 よく分からないがバタバタと出て行ってしまった。随分熱があるようで頭が上手く働かない。頭痛もあるし。一体、どういう状況だ? ああ、考えられない。ええと、ええと・・・。
 そうこうしているうちにエディが戻って来た。隣にはリリィとメリー、ティナ。


「今、夜だから子供たちは起こさなかったわよ。賢音もね」
「お水、飲める?」
「ああ、大丈夫だ」


 リリィからコップを受け取る。みんな、随分安心したようだった。
 ちゃんと辺りを見回してみれば、間違いない、俺の部屋だ。時刻はあれから二日経った、夜十一時らしい。じゃ、もうすぐ三日目だったのか。流石に不安になるかもしれない。


「良かったです・・・。もう、起きないんじゃないかって思ってましたぁ・・・!」
 ティナが涙を溢す。手だけ伸ばして手を握ってやる。笑みを向けてくれた。
「まあ、ボクたちも流石に心配したよ。あんまり起きないんだもん」
 メリーがうっすらと涙を浮かべる。けれど、ニコッと笑って俺の頭を撫でた。
「うん、ほんと、心配したよ。ご主人様、無事でよかった。ね、エディ」
「・・・いい加減起きなさい! とは思ったわ」
 ああ、エディらしいな。リリィもエディも・・・。うん、まあ、心配してくれたんだな。


「でもまだ絶対起きない事。また熱上がったら、今度こそ対処できないかもしれないわ」
「そんなにか?」
「四十度越えてたからね。今は落ち着いたけど」
「これも、エレナが症状見ながらお薬出してくれた御蔭だね」
「もう、本当に良かったです・・・」


 どうやら、明確に病気の種類が分からなかった為、根本治療は出来なかったらしく、症状に合わせての対処治療だったらしい。
 エレナが付いていたとはいえ、二日以上も目を覚まさなかったら・・・。怖いだろう。何時急変して死んでしまうか。


「どうも、ほら、あの時相当体力消耗してたでしょ? 免疫力下がって、なんかの病気に罹ったらしいわ。ちなみに、それに加えて麻痺魔法。ほんと大変だったのよ」
「ボクたち、よく分からないんだけどね」
「とりあえず、無事だという事が確認できて安心しました。今日は寝させていただきますね。明日、もう一度来ますから」


 みんなが出ていくと、あれだけ寝たというのにな、すぐに眠る事が出来た。




「ユーリ、おはよう」
「メリー・・・?」
「起きられそうかな」
「あ。平気そうだ」
「なら良かった。じゃ、下に居るからね?」
「ああ」


 昨日よりもずっと体調が良い。熱もなさそうだ。下に降りると、子供たちが駆け寄って来た。
 やっぱりみんな心配していたらしい。頭を撫でてあげていると、エディが俺を座らせるよう子ども達に言う。


「元気そうで良かったわ」
「ああ。もう大丈夫みたいだ」
「そう。無理してまた倒れないでよ?」
「大丈夫だって」


 なんだかんだ言いつつ、昨日は久しぶりによく眠れたらしい。いつ誰が倒れててもおかしくなかったかもな。
 俺はリビングを見回してみる。エディ、メリー、リリィ、ティナ。リーサ、エド、ルナ、エリー。それから、賢音(なんでちゃっかり家にいる!)とエレナにアナ。
「クリスタ・・・」
 気が付いたら、呟いていた。みんながびくりと反応する。


「クリスティアネは、その・・・」
 エレナが俯き、小さな声で喋り出す。
「いや、分かってる。紅華散舞、使ったんだろ?」
「おそらく・・・」
「体は?」
「何とか、回収、出来ました」


 俺が起きるのを待っていたらしい。じゃあ、氷漬けにでもしていたのか? 俺のせいで、クリスタ、寒い思いしたよな。もっと早く起きてやれれば良かったかな。
 小さくても良いから、ちゃんと、墓を立ててあげたい、というのがエレナの考えだった。その為に、わざわざリリィが魔法を駆使して持って帰って来たらしい。
「あんまり、お金、持ってないですけれどね」
 この中で、一番悲しんでいるのはエレナだろうに。少し笑みを浮かべたが、やっぱり、すぐに涙で濡れていく。


「クリスティアネ・・・。自ら、犠牲になって・・・。とっても、強い子だと、思います」
 一緒に逃げてしまっても、よかった。ただ、それだと、俺たちの立場が悪くなると考えたのだろう。なんだかんだ言っても、クリスタは俺たちの事が大好きだった。


「それもあるんですが、多分・・・。アナスタシアの残りの魔力量を見て、じゃないでしょうか」
「え?」
 あの戦場から脱出するのに、クリスタはアナに一つの魔法陣を使わせた。それは、術者と、術者に触れている人、それから賢音を連れて俺の家へ向かうというものだった。
「相当無理しないと、全員は厳しいとみたのでしょう。確かに、アナスタシア、結構いっぱいいっぱいでした。まあ、もう一人位、いけたでしょうが・・・」


 アナに無理をさせないため? アナはそれが分かっていたらしく、小さく頷くと、両手で顔を覆った。
 何て優しい子なのだろう。いつも、大変な仕事だって嫌な顔一つせずこなしてくれた。誰よりも先に起きて朝食の準備をし、何があっても準備が出来ていた。その上、こんなところで・・・。


「これ、返すよ、ユーリ」
「あ・・・。使えそう、かな」
「え? 新しいのにしようよ」


 俺のバスタードソード。真っ赤な、剣神の証。確かに、もう、使えないだろう。
 でも、持って来てくれてたんだ。嬉しい。俺が剣を首の高さまで持ち上げると、エディが慌てだした。いや、そんなつもりじゃなかったんだが。


「ユーリ・・・。クリスタ、私たちに生きていて欲しいから、逃がしたのよ。だから」
「分かってる、分かってるよ・・・。クリスタの事、沢山褒めてあげないとな」
「そうだね。クリスタ、ボクたちの事、好きだったもんね」


 今、何処に居るのか分からないけれど・・・。なんだか、見ていてくれている様な気がしたから、精一杯笑顔を作って呟いた。
「ありがとう、クリスタ」




 真っ白で、綺麗な墓石。エレナが選んだものだ。其処には、クリスタの名前と功績が刻まれている。
『クリスティアネ
  黒魔大陸との戦争で、自らを犠牲にし、敵を全滅させた』




「ねえ、ユリエルくん、教えて欲しい事がある」
「? なんだ?」
「エレナちゃんを慰めたい! 何が一番だと思う?」


 ああ、それな。俺もずっと考えてるよ。
 エレナ、笑っているけれど、絶対、無理をしている。あの時の、女王様と一緒だ。
 だから、何とかしてやりたいとは思ってる。けれど、どうするのが一番だろう。


「じゃあ、そうだな。ユリエルくんが嫁の中の誰かを慰めるとしたら、何する?」
 え・・・。それは、その、状況が違うぞ? 俺が嫁にしてやる事を、賢音がエレナにやった問題にな・・・、って、いやいや違う! 真面目に考えるぞ。


「え、ええと・・・。そうだな。話を聞いてやるか、思い切り喜ばせるな」
 まあ、よくやるのはこんなもんだろ。今回はこの程度で何とかなるレベルの問題じゃないんだがな。


「うーん・・・。まあ、何とか頑張ってみるよ」
「あ、そうか。賢音、エレナに気があるんだったか?」
「え、や、ま、まあ、そうなんだけど・・・」
 そういう事だったか。上手く行くと良いな。




 剣神になってから初めての功績を挙げた時。それが、大陸中に剣神が変わった事を知らせるタイミングだと言われている。御蔭で今知った人たちが押し寄せて大変な事になっている。王城に避難させてもらった。


「病み上がりなのに大丈夫ですか?」
「ああ、俺は大丈夫です。あれの収拾が付けばいいんですが」
「何とかなるようにはしますよ。でも、ちょっと時間がかかるかもしれません」


 その時、急に使いが来て、俺の家が大人しくなったと言った。不思議に思って家に行くと、確かに静かで。
 ただし、一人だけ。その場に立っていた。


「エレナ?! どうして?」
「ちゃんと、帰しておきましたよ。『ユリエルさんは怪我を負って療養中です、それと、一人亡くしてしまいまして。悲しんでいるのです、放っておいてあげて下さい』と」
「・・・。其処までじゃない」
「え? 嘘は言っていませんよ?」


 というか、ずいぶん明るくなったな?
「賢音が、慰めてくれたんです、体張って」
 ・・・。
「ケントーッ! おま、エレナに何したんだ?!」
「え、ちょ、ユリエルくん?! 誤解だよーっ!」




「私、近づく人を問答無用で攻撃してたんで、それで、そういう意味です」
 賢音、戦い出来ないと言っても大袈裟じゃない位弱いっていうのに、エレナの鏖殺魔法を受けながらも近づいて抱きしめたらしい。
「『話、聞くよ。何でも言って』って」


 うん、だからか、明らかに前より仲良くなっている。もう、恋人にしか見えない。
 俺の顔を見ていたエレナは、急に「あれ」、と呟いて、首を傾げる。


「もしかして、賢音から聞いてませんか?」
「なにを?」
「ああ、言ってないよ。エレナの許可が居ると思って」
「じゃあ、話してあげて。お願いしてもいい?」
「うんいいよ」


 あ、エレナ、賢音に敬語使ってないんだ? 相当仲良くなったな?


「俺とエレナ、故郷が一緒なんで」
「・・・。は?」
「私、転生者なんです」


 おい、ちょっと待て・・・。そんなこと言われても、すぐには理解できないぞ・・・?
「じゃ、ちょっと遡って話しましょう」

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