剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第44話  剣術勝負

 後ろから凄い勢いで魔法が飛んでくるのだが、一体どういう状況なんだ?
 まあそれはともかく。俺も剣をしっかりと握りしめて戦う。黒魔族の鎧は弱いな。魔族だし、接近戦は想定外なのかもしれない。


 と、俺の剣が動かなくなる。理由は簡単。バインドされた。誰だろう、と剣の先を辿っていく。
 紫の目が綺麗な、中性的な男の子。まだ十四とか、それくらいなんじゃないだろうか。子供だ。


「なんだか分かりませんが、あなたに無双させる気はありませんよ」
「へぇ? 言ってくれるな。ってことは、俺を止められる、と」
「と思いますよ」


 名前を名乗るつもりはないらしい。なら、此方も名乗らなくて良いだろう。
 綺麗な剣だ。クレイモア、いや、グレートソードだな。持ち手に美しい装飾が施されている。
 二人で人の居ない位置まで移動し、構えを取る。すぅ、と静かになり・・・。


 先に動き出したのは向こうだった。受け流してやろうか。
 本当だったらここで突きを入れなくてはいけないのだろうが、それが出来なかった。ま、仕方ないな。バインド。
 あちゃ・・・。剛い。こいつ、結構力があるようだから、押し切られる。即座に解いて、反対の方向から左足を踏みこみつつ、頭に向かって! まだ防ぐか。そこそこの実力者、だな。


 じゃあ、次。バインドからのハーフソード。左足を踏みこんで少し近づく。その時、剣の位置を移動する。相手の剣を越えて反対側に。其処で柄から手を離し、刃を握る。そうすると、相手の剣を逸らす事が出来る。このまま突く。
 はずだったんだが、カウンターだ。同じ動きをされた。俺の攻撃線から外れ、相手の攻撃線に俺は完全に入っている。ハーフソードに入り、突かれる。
 その前に、後ろに下がっておいた。攻撃線に入っていようが、届かなくちゃ意味がない。相当後ろまで下がっておいた。


 うーん、他の方法か。って、考えているうちに走って来てる。じゃあ、そうだな・・・。
 右足を踏み出し剣を捻る。振り降ろされる剣を受け、それを更に左側に押し込む。これで剣は俺に当たらない。素早く手だけ動かし、裏刃で肩を。


「ああっ・・・」
 当たったな。力を入れ過ぎてそいつはその場に転んだ。御蔭でもう一撃が入れられなかったじゃないか。
 怪我はすぐに治癒魔法で回復された。厄介。致命傷を与えなくては。


 じゃあ、致命傷・・・。って、考えている暇があまりない。とりあえずこの振り降ろされる攻撃を防ごう。あ、そうだ! 右足を斜め右方向に出し、剣を打ち込み始める。
 左足も移動。攻撃線の外へ。手を捻って振り降ろす。俺の振り降ろした剣を少し上げる事で、相手の剣を受け流す。左足を踏み出しながら相手の頭を目掛けて。


 しぶとい。全然倒せない。一瞬で攻撃線から外れていた。当たるはずがない。
 とはいえ、俺もそろそろ終わりにしたいのでな。斬りかかって来たタイミングを見極めつつ、俺は剣を頭の上で旋回させる。相手の剣を左に払いつつ鍔で斬撃をブロック! そのまま頭部を切りつける。
 ああ、外れた。けれど、相手の剣は俺がバインドしている。反撃はない。突きに移行!


 ふぅ・・・。剣を染める血を拭きとり、他の人の戦っている方向へ歩いて向かう。あの子は残念だった。まだ小さいし、もっと経験があれば・・・。こんなところで死ぬ事になってしまうなんて。名前くらい、聞いておけばよかった。って、ん?


「お父様、助けて!」
「エリー! どうしたんだ?!」
「あ、ありがとう・・・」


 ああ、なるほど。エリーの短剣が折れている。このままでは勝ち目がないと判断したのだろう。確かに、こいつはロングソードを使っている。短剣では少々分が悪い。俺は後ろから頭を目掛けて剣を振った。


「大丈夫か? 怪我は?」
「平気なの」
「剣の代わりはあるか?」
「うん。大丈夫」


 エリーの頭を撫でてやる。エリーが微笑むのを見てから、俺は戦闘に戻る。
 さっきの子くらい強い人はいない。鎧の隙間を狙えば一発で倒せるような、そんなもんだ。
 そんな事を思っていると、ハルバードを持った奴にバインドされた。
 ハルバードなら簡単だ。左斜め前に踏み込んでハルバードを逸らす。右足を左に移動させて首を切る。


 向こうから何かが飛んできた。あ、円月輪チャクラムだ。これ、刃が付いてるんじゃなかったか?! 俺の顔すれすれの位置ででUターンをして、ルナの手に収まる。
 向こうでルナが焦ったような声を出す。流石に驚いたぞ・・・。死ななかったからいいけど。


「ごめん! 失敗しちゃって」
「い、いや、当たってない、大丈夫だ」
 もうちょっとで死んでたけどな。
「ごめんなさい。って、わ」
「ルナ、大丈夫か?!」
「エド兄、ありがとう」


 ルナは接近戦に向かないからな。が、エドは相性がいい。二人は一緒にいた方がいいだろう。
 エドもなんだかんだ言ってルナの事を可愛がっている。中の良い双子だ。
 さて、俺ももうちょっと頑張るか! みんなを成長させるにはいい機会かもしれないが、疲れさせても仕方ないしな。




 夕方。大きな爆破魔法を使ってその戦いを終了させた。まあ、また明日には新しい人が来るだろうな。
 船に戻ると、賢音が沢山の料理とともに待っていた。誰も欠けていない事を見ると、安心したようにニコッと笑う。


「よかった。みんな無事みたいだね」
「ああ。賢音、こっちは何もなかったか?」
「うん。ええと、一回兵士が近くまで来たんだけど、相当眼が良いんじゃなければ見つかって無いはず」


 そうか。少し不安だが大丈夫だろう。子供たちは料理を見て嬉しそうに声を上げる。久しぶりの和食だもんな。
「これ、賢音さんが作ったのか?!」
「うん。ま、美味しいかどうかは別だね」
「食べて良いの?」
「うん。召し上がれ」


 ああ、そういえば、この船に残っていたのは賢音だけだったな。どう考えても賢音が作ったとしか考えられない。料理、出来たんだ。なんか器用そうだしな。美味しいかどうかは別って言うのは・・・。まあいいか。


「わあ、美味しい」
「賢音さん、凄い!」
「ありがとう。みんなも食べて」


 俺たちも椅子に座って料理を食べる。おお、普通に美味しい。料理上手い部類だな。ティナまでもが嬉しそうな顔をする。和食が大好きなティナが此処まで喜ぶという事は相当だ。ただ、エディが少しおかしいんだが。


「どうかしたか?」
「・・・。え、あ、ごめん。ううん、何でもないわ」
「エレナお嬢様?」
『え?』


 アナの呟いた声に、みんなが驚いて声を出す。声を出した本人は慌てたように俯く。
「あ、その・・・。なんでか、分かりませんが。エレナお嬢様の顔が思い浮かんで」
「・・・。悪いけれど、私も同感よ」


 その言葉にびくりと肩を揺らしたのは賢音だった。顔色を覗うようにみんなの顔を見ていく。
 賢音の顔を見ていると、はぁ、と溜息を吐いていつも通りの表情をする。


「ま、そうだね。だってほら、俺、エレナに料理教えて貰ったんだもん」
「へ? でも、エレナ、和食なんて・・・」
「追々話すっていうか、ほら、本人の許可なく話せないし。あとでね」
 一体どういう事なんだろう。エレナが? 和食を知っている? うーん・・・。まあ、話してくれるというのなら、今考えなくてもいいか。




「賢音、良いか?」
「何?」
「二人きりになりたい」
「・・・。分かった。こっち来て」


 本当は、こういうこと言っちゃいけないって、分かってるんだけどな。でも、一応。
 この戦いは、結構大変なものになりそうだ。だから、賢音に言っておこうかと思って。


「賢音、もし、此処で、俺が死んだら・・・」
「ユリエルくん、そんな事言っちゃだめだよ」
「でも、一応。嫁に伝えて欲しい事があるんだ」
「・・・。分かったよ。何?」




「子供たち、もう寝たわよ」
「ああ、そう。ありがとう」
「紅茶飲みますか?」
「お願いしようかな」


 ティナが紅茶を入れてくれた。一つの花が浮かんでいる。白い花弁の小さな花。
 確か・・・。カモミール。安眠効果があるとか。ティナが恥ずかしそうに笑う。


「少し、鉢植えに植え替えて持って来たんです。どうぞ」
「ありがとう。カモミールだよな」
「そうですよ。覚えてて、くれたんですね」


 美味しい。クリスタの入れる紅茶は美味しいけれど、ティナの紅茶もまた美味しいな。
 よし、明日も頑張るか。出来れば、怪我人を出さないで勝ちたい。

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