剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第42話  アルファズールVS黒魔族

 三ヵ月後、アルファズールに帰って来た。その事を伝える為に王城に行くと、女王様は何故だか疲れ切った表情だった。俺を見て微かに笑う。


「ああ・・・。お帰りだったのですね」
「だ、大丈夫ですか? だいぶお疲れのようですが・・・」
「それは・・・。ああ、もう、私の手には負えませんよぉ!」


 女王様、壊れかけてる。一体、この三ヶ月の間に何があったのだろう。
 泣き崩れる女王様を慰めるには・・・。え、どうすればいいんだろう。こんなことなら、誰か連れてくればよかった。


「アゼレア女王様! 一体、どういう事なんです?! 戦争だなんて、どんなつもりで!」
 賢音がだいぶ怒った様子で入って来た。が、生憎、その女王様は今大泣きだぞ。
 ・・・って、戦争って言った? え、どういう事?!




「はぁ・・・。すみません。私、まだ十歳なものですから、政治に関してはほとんど干渉出来ていないんです。だから、黒魔族の大陸から宣戦布告が来て・・・。私、何が起きているのか分からなかった、というか、気付いていなかったんです。気が付いた時には、戦争する事になっていて・・・。どうしていいのかわりません」


 何とか落ち着いた女王様。さらっとヤバいこと言ったぞ。黒魔族の大陸からの戦争?! 今? やってるの?!
 もう・・・。これは流石に女王様の手に負える問題じゃないな。っていうか、どうしたらこんな事になるんだよ。
 確か、黒魔族の大陸には、随分前から船が出来ていたらしいな。それに比べて、アルファズールはこの前和の島から入って来た技術で、ようやく船を作り出せるようになったのだ。海上戦では、何をどう頑張っても勝てるはずないだろ。なんでこんな戦争を・・・。
 大体、黒魔族の大陸では、最近まで無い線が起こったりしていたから、みんな強いんだぞ?


「だから私も悩んでいて。もう嫌になってしまいしました・・・」
「とりあえず、何とか陸上戦にしましょう。そうしたら、もうちょっと戦いやすいはずです」
「・・・。でも、どうやってですか?」
「分かった。じゃあね、ユリエルくん、黒魔族の大陸に侵入。向こうで暴れれば、戦争の地は動くと思うよ」
「・・・って俺がやるのかよ!」
「そりゃそうでしょ! ユリエルくんが行かなかったら誰が行くの? 剣神様、頼むよ!」


 ぐ・・・。賢音め・・・。俺が断れない様に言葉を並べたな。
「わ、わか・・・」
『ちょっと待って!』


 入って来たのは俺の家族。クリスタとアナも一緒だ。
「私たちも行くよ、良いでしょ?」
「ダメに決まってるだろ、馬鹿! ・・・俺がみんなを危険な目に会わせたくないって思ってる事、分かってるだろ?」
「でも、ユーリだけ死んじゃったら・・・。ボクたち、そんなの堪えらんない」
「守ろうとしたのか、全然関係なかったのか。私たちの気分は全然違うのよ。一緒に行かせて頂戴」


 ダメだ、と言い切れるはずがない。みんなの良い分、凄く分かるんだから。俺がみんなの立場だったら、何が何でもついて行くと思う。だから・・・。
「もう・・・。分かったよ、その代わり、無茶するなよ?」
『はい!』




「黒魔族の大陸まで約二週間。戦争地を避けるから、一カ月くらいかな」
「わかった。準備は良いな?」
『うん』


 船酔いする子もいるけど・・・。そのうち慣れると賢音が言っていた。大丈夫だろう。
 という事で船に乗り込む。戦闘用ではなく、もっと小型のものだ。


「ユリエルくん、ちょっと良いかな」
「ん、なんだ?」
「こっち来て」


 誰も居ない部屋に二人きり。そして完全に閉じ込められた。扉の前に立つ賢音。
「えっと、どういう事だ?」
「話の途中にユリエルくんに逃げられたら困るからね、いいかい、真面目な話なんだよ?」


 いや、賢音のノリで言われると真面目な感じしないから。でも、目は真剣だな。
 賢音は一枚の紙を俺に見せる。其処に書かれているのは、なんだろう、文字な事には間違いない。


「実はさ、黒魔族の大陸、レリウーリアっていうんだけど、いま、病気がはやってるっぽいんだよね、感染症」
「え? 感染症?」
「うん、あ、いや、罹ること、ないと思うんだよ。一部の農村だけみたいだから。だけど、一応ね。エレナちゃんに調査して貰ってる」


 エレナ、どうやって調査してるんだろう。罹ったりしないのか? まあ、賢音は随分エレナを可愛がってるし、きっと安全な方法なんだろうけど。
 でも、どうしてそれを俺に? 賢音の真剣な目。何か、理由があるんだろうけど・・・。


「ほら、一応ね。罹らないと思うよ? でも、分かんないんだよ、何から感染するのか。だから、完全に罹らないとは言い切れない。罹っても、エレナちゃんが居るし、大丈夫だと思うよ。でも・・・。致死率は、一応、高い」


 そうか。賢音は、俺が家族を溺愛していると知っている。その為に、一応、言っているのか。
 みんな・・・。そんなこと、知らない。俺だけに言うのも、余計な心配をかけないで、と俺が言う事を想定してだろう。
 エレナを連れてこなかったのも、そのせい。でも、なんで今・・・。


「まだ、引き返せるんだ。どうする、家族を置いてくる事も、出来る」


 ああ、そういう事だったのか。


「・・・。分かったよ、万が一の時。ちゃんと、心の準備はしておく」
「うん、ありがとう。ごめんね、こんな事。ユリエルくんがそう言ってくれて嬉しいよ。本当は、アナちゃんとクリスタちゃんも、置いて行きたかったんだけどね」
 アナとクリスタは着いて来ている。ナディアカティアはアルファズールに戦力が全く居なくなってしまうと困るので置いて来た。
「ほら、あんまり言うと・・・。な。大丈夫だ」
「そうだね。じゃ、戻ろっか」




「ちょっと、ユリエルくん! 帰って来たなら言ってよ、今何処に居るの?」
「ごめんな姉さん、もう携帯繋がらなくなるぞ」
「え、ちょ、何処に居るの!」
「船の上」
「えええ?! また出てるの?」
「ああ、電波が、じゃあまた」
「ユリエルくん!」


 ごめん、姉さん。本当はこんなことしたくないんだけど、今はゆっくり話してられないし、本当に電波がダメだ。詳しい事はエレナにでも聞いてくれ。
 はぁ、と溜息を吐くと、エディが頭をポンと撫でた。そっと微笑んで隣に座る。


「大変みたいね、剣神様?」
「・・・ははっ、剣神様、か。・・・大変なのは、エディも一緒だと思うぞ?」
「そうかもしれないけれど、私たちよりずっと頑張ってるように見えるわ」


 どうだろう。少なくとも、こうやって家族を巻き込んでしまっている以上、結構助けて貰っている部分が多いと思う。それでも、頑張ってる、のか?


「そういう事じゃないのよ。いろいろ努力してる、それだけで頑張ってる、と思うわ」
「そうか? 俺は・・・。本当は、もっと・・・」


 やりたいこと、やらなきゃいけないこと、もっと沢山ある。でも、全部中途半端だ。
 ああ、自虐的になってるのかも。もうちょっとよく考えよう。じゃないと、家族に迷惑を掛けてしまう。


「わ、私的には、もっと頼ってくれて良いっていうか、その、もっと弱い部分見せてくれてもいいっていうか・・・」
「全く、エディは。分かったよ。ありがとう」
「な、何でお礼?! ユーリってよく分かんないわ」
 俺も、よく分かんないよ。




 賢音が船の一番上に俺を呼んだ。双眼鏡を使うと戦場が見えるらしい。見てみて、という事だった。
 確かに見える。黒っぽい赤の船と、青紫の船。何処からどう見ても青紫の船の方が大きい。


「っていうか、こっちから見えるって、向こうからも見えるんじゃないか? 大丈夫か?」
「うん。小さな船だし、軍艦とは形が違うから、目にも止められないはず」
「はずって・・・。まあいいか」


 黒魔族の船、大砲と爆弾と、それから魔法を使って攻撃してるな。こりゃ、勝ち目はない。
 大きな水柱が立って、この船もぐらりと揺れる。「大丈夫」。賢音が呟いた。一瞬不安になったんだが、分かったのか?
 なんか・・・。ちょっと嫌だな。この爆発で、一体何人の兵士が命を落としたのか。ギュッと胸が締め付けられる。見てられなくて、双眼鏡から目を離す。


「大丈夫? でも、一応見ておいて欲しくて。ユリエルくん、人の事を考えて動く時の方が、明らかに強いから」
「ああ・・・。勝つぞ。負けるつもりは一切ない。大体、向こうから仕掛けてきた戦争だ」
「そ。全面戦争だから、何しても文句は言われない。ユリエルくん、頼みます!」


 賢音はバッと頭を下げた。彼にとって。この戦争は・・・。
 和の島は小さい。攻め込まれた時、絶対勝てる、とは言い難い。だから、できれば此処でアルファズールに潰して欲しいのだろう。


「任せろ。後方支援は頼んだぞ」
「うん!」
 大丈夫。負けはしない。きっと勝てる。黒魔族なんかに、負けるものか!

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