剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第40話  家庭教師

 さて、春になって、俺が一番心配していた季節がやって来た。子供たちの入学になる。
 という事で、王城に足を運んだ。一人で。


「王女様、お願いがあるんです。エリーを入学させないでも良い様にして下さい」
「え? ああ、エリーちゃんですか。確かに、ちょっと厳しいでしょうね」
「あと、ルナもお願いしたいです」
「ルナちゃん? 何でですか?」
「ルナ、酷い人見知りなんですよ」


 そう。どう考えてもエリーもルナも学校に行かせられない。引き籠りになること間違いなし、だからだ。二人とも、人と全く喋れない。友達なんて無理だし、まず、人の多いところに行くだけでストレスになる。
 という事で、女王様に許可を取った。家に帰り、家族に伝える。


「よかった・・・。心配、してた」
「ありがとう、お父さん。私もどうしようかと思ってたんだ」
「代わりに俺たちで勉強教える事になるけどな」




 入学式の二日後。また王城に行く事になった。
「あれ、ユリエルさん、どうしました?」
「リ、リーサとエドの許可もください!」
「ど、どうしてですか?」
「今日、喧嘩になったそうです・・・」


 全く容姿の違う姉弟。いじめられる要因にはなる。それで、メリーをいじめた子をとした子をエドが止めようとし、いじめの矛先がエドに向いたところでリーサがキレた。もう、そりゃあ大変な事になったらしい。リーサは相当強い。怒ったら、さらに。もう、エドにも止められない。先生たちを巻き込んで、大変だったらしい。


「・・・良いでしょう。その方が良いと思います」
「ありがとうございます」


 という事で、家に帰る。
「ほら、リーサ、エド、泣かないで。もう学校に行く必要はない。な。大丈夫だ」
「で、でも・・・。ごめんなさい、あんな事に、なっちゃって・・・」


 気にする必要はない。寧ろ、俺が悪い。此処まで考えていなかったのだから。
 で、そうなると、必然的に勉強を教えるのは俺たち、という事になる。メリーとティナはともかく、エディもリリィもアルファズール武術学院Sクラスの問題を難なく解ける。先生としては相当良いだろう。


「違うって、だからっ!」
 鬼教師でした、ええ。そりゃそうだよ、他人の子じゃなくて自分の子だもん、うん。そうなっちゃうのも分かるさ。まあ想定内だよ、気にしない・・・。
 いや、滅茶苦茶気になる。他の事が手に付かない。ったく、失敗だったな、これ。


「エディ、リリィ。もうちょっと優しく教えてやってくれ」
「え? あ、ごめん」
「あ、うん。ごめん」


 無理そうだな。新しい教師を探すか、いや、でもな・・・。
 その時、スマホに着信音。ん? あ、丁度良い。連絡してみよう。




「初めまして。アンジェリカといいます」
『アンジェリカ先生』
「そうそう。元々アルファズール武術学院の先生してたんだけれど、ちょっと色々あって辞める事になって」


 アンジェリカ先生がこっちに来る、という連絡が入った為、ダメもとでお願いしてみたところ、すんなり引き受けてくれた。元々教えるのが好きなんだろう。
 ・・・辞めた理由というのが「飽きた」だから、どうなんだか。


「仕方ないでしょう? 私、白魔族なんですよ。もう何十年も同じ学校の先生やってたから、飽きちゃったんです」
「でも、姉さんのカウンセラー、やってましたよね?」
「ああ、あの時も飽きたって言って辞めたんですけれど、先生が足らないから入ってくれって、もう一度行く事になったんです」


 アンジェリカ先生は姉さんに会いたくなって此方に来たとか。家に住ませて貰うんだ、と言っていた。
 ちなみに、さっき俺の家を見た時に「こっちにも泊まれたかも」と呟いたのが聞こえた。ちょっと時間が掛かったがもう大きい家に引っ越し済み。外観は城そのもの。屋根が淡い桃色。エドが「可愛すぎる」と文句を言っていた。部屋数は十二くらい? 相当大きい。本当に城の出来上がりだ。


「ユルシュルさんが是非、というので。さっき会って来たんですが、大きくなりましたね」
 まあ、随分前だしな。そりゃあ、大きくなるに決まっている。アンジェリカ先生は姉さんの事を子供みたいに可愛がっていたから、久しぶりに会って嬉しいのだろう。


「エレナさん、凄いですね。この大陸のホムンクルス、殆どエレナさんの作ったものじゃないですか」
「ブランドもだいぶ有名になりましたよね」
「ええ。みんなの成長がとても嬉しいです」


 アンジェリカ先生は嬉しそうに微笑んだ。やっぱり、俺たちの事、好きでいてくれたんだな。
 まあ、うちの子供たちの家庭教師として来てくれる事になった。格安で。先生はもう大量の貯金があるからいいんだ、と言っていたけれど・・・。やっぱり優しい人だなぁ。




「わあああああ!」
 よし、これで最後だな。全く、手古摺らせやがって・・・。
 王城からの依頼で、秘密の資料を盗んだ魔王の使いを全員捕まえるという任務を完了。女王様への連絡も終わった。じきに迎えが来るだろう。


「っはぁ。ったく、疲れたじゃねえか、お前ら、おい」
「ひっ、な、何でしょう」
「お前ら、気になってたんだけど。魔王の使いだろ? どうやってここまで来たんだ?」


 気になっていた。どうやって海を渡って来たんだ? 魔王を封印したのは、小さな島のはずなのだ。
「そりゃ、船で。和の島より、もう、ずっと、何百年も前に、俺たちの出身地では船が出来てたんだ。もちろん、隠されてたが」
「へぇ。それ、言って良かったのか?」
「・・・、あ」
 その時、王城からの迎えが到着し、魔王の使いたちは悲鳴を上げながら引き摺られて行った。あーあ。




 帰り道を急いでいると、アンジェリカ先生と子供たち、ついでに俺の嫁全員と会った。武術の練習に来たらしい。ちなみに姉さんも一緒だ。姉さんは、パーティで集まらない日は、子供たちに勉強を教える手伝いをしてくれている。ただで。本当に親切だ。


「ユーリ。今日の任務は、ええと、なんだっけ」
「極秘資料を持ち出した奴の確保、よ。ちゃんと捕まえられたみたいね」
「ああ、当然だろ。ちょっと手古摺ったけどな」


 と、急にルナがポケットから円月輪チャクラムを投げた。くるくると戻って来て、ルナの指に収まる。外れたか。もう一回。今度は返ってこなかった。当たったらしい。


「よし、当たった」
「何処に居るって?」
「エド兄見えない? ほら、あそこ」


 ずーっと遠くに魔物が見えた。ルナは射程距離を見極め、ボーラを投げた。沢山の紐の先に鉄球が付いた様な、当擲武器。相手の武器を絡めとって落したりするのに使ったりするらしい。
 凄い。よく当たったな。動きを完全に封じた。マントの裏に隠した短剣で止めを刺す。


「へえ、凄いじゃないか」
「今は私の番だったんだ。みんなと協力すれば、もっと早く倒せると思うよ」
「ルナ、強い・・・」
「へへ、ありがとう、エリーちゃん」


 ジャラジャラと出てくる当擲武器、一体どこから?
「ああ、円月輪チャクラムは幾つかポケットだけど、異空間に仕舞ってたりするよ。私、空間魔法得意なんだ」
「じゃあ、本当に投擲武器が向いてるな」
「うん!」


 ルナの笑顔が可愛い。円月輪チャクラムとボーラのほかにも、ブーメランやトマホークあるとか。トマホークは、投擲用の斧だ。ボーラもサイズや玉の数が違うものを幾つか。全部使いこなせるのだから凄い。


 まあ、そんな感じで魔物を倒していると、すぐに家に着いた。姉さん、アンジェリカ先生と別れる。
 今日は少し疲れたな。意外に使いの数が多かったからな。見失って大変だった。ま、全員確保した事を確認したが。すぐに女王様から報酬が届くはず。


「今日は外に出てたんだな」
「うん。アンジェリカ先生が、行ってみよう、って」
 リーサが笑う。どうやら、姉さんが一緒だから外に出る事にしたらしい。
「私も楽しかったです。あまり外に出たこと、ないですから」
 ティナも頬を紅潮させて言う。相当楽しかったのだろう。


「お帰りなさいませ、みな様。お風呂も、食事も用意が出来ます」
「じゃあ、先にお風呂入っていいかな。汗かいちゃったし」
「畏まりました。アナ」
「え? ・・・あ、お帰りなさいませ」


 相変わらずアナは・・・。まあ、しっかりしてるのはクリスタで、そういう面ではバランスが取れているというか・・・。
 まあ、みんな違うのだから、比べても仕方ないしな。アナはこれで良い。


「どうやら楽しかったようですね。御土産話、聞かせて下さい」
「もちろんだよ、クリスタさん!」
「ルナ様、ありがとうございます」


 この反応は、相当話す事が多いだろうな・・・。まあ、クリスタもそれを望んでいるのだからいいのだろう。
 クリスタがだいぶ心を開いてくれている。最近よく、そう思うのだった。

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