剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第33話  エリーの家出

 一月のある日。リリィと共にリビングに降りた俺は、違和感を感じて立ち止まる。
 何かが足りない。何かがおかしい。ええと・・・。
 すぐに分かった。エリーが居ないのだ。


「アナ、アナ、居るか?」
「何でしょうか?」
「今日、エリー見たか?」
「い、いえ・・・」


 嫌な予感がする。俺は子供部屋の扉を開ける。
 二段ベッドが二つ。一つの下段にルナ、上段にエド。もうひとつの下段にリーサ。そして・・・。


「リリィ・・・。エリーが、居ない」
「!」


 玄関を見てみれば、エリーの靴が一つ無い。ただナディアカティアの見回りについて行っただけならいいのだが・・・。
「・・・。エリー、家出したか・・・」
 おそらく、こう考えるのが妥当だろう。




 俺たちは総出で街中を駆け回った。本当は、ナディアカティアが居るからこんな必要はない。だから、二人のやらない聞き込みもして、見ていないか確認した。
 見つからず、集合場所に集まると、ナディアカティアがその場に来た。簡単に事情を説明し、見ていないのか確認した。


「み、見てませんよ、私たち」
「エリーちゃん、居ないんですか?!」
「ああ・・・」


 ナディアもカティアも見ていないらしい。となると、もっと早くから居なくなっていたのだろう。何処まで行ってしまったか・・・。とりあえず外で話しているのもなんだか変なので家に戻った。
 さて。リリィはさっきから放心状態で、何かを考える余裕などない。俺たちで何とかするしかない。


「とりあえず、子供部屋に行ってくる」


 俺は一人でこの部屋に来た。あまり多人数に荒らされたくもないだろう。
 俺はエリーの机を見てみる。一冊の本が開いていた。その隣には真っ白なページが一番上になったメモ帳と、シャープペン。
 その本は、風景の写真集、だろうか。上に桃色の付箋が貼ってあるページだ。海の写真が載っている。下には住所なんかも書かれている。


「此処に・・・? でも、なんで?」


 エリーの机の引き出しを開けて行く。と、一冊の大きく厚い本が出てきた。表紙には綺麗な飾り文字の筆記体で『Tagebuch』と書かれている。ターゲブーフ。黒魔族語で『日記』だ。
 文字の書いてある一番後ろのページを開いてみると、二日分書かれている。昨日と、一昨日だ。
 一昨日の分から読んでみる。


 どうして私などが生まれて来てしまったのだろうか。人にはみな役目があり、その役目を果たす為に生れてくる。そう言う人が居るけれど、私の役目とはなんなのだろう。結局、家族を困らせるだけなのかもしれない。
 未だに、どう過ごしていいのか分からない。私は人間なのか、悪魔なのか。お父様もお母様も大好きで、比べる事は出来ない。天秤に掛けたら、釣り合う事だろう。人間も悪魔も、どっちも嫌いだ。比べる事は出来ない。天秤に掛けたら、釣り合うことだろう。だから、分からないのだ。
 もう嫌になってしまったの。私なんかがこの世に居ても、意味なんて無いんじゃないかって。そう思ったら、死んでしまえって思って。でも、結局、それも怖くて。何も出来なくて、ただただ時間だけが過ぎて行く。
 私に役目があるというのなら、誰か私に教えて欲しいの。私は一体、何を頑張ればいいの? お願い、答えが欲しい。


 これが、昨日の分だ。


 昨日、夢を見たの。昨日の日記の答えみたいだった。私の家族がみんな、私から逃げて行く。結局私は、邪魔ものだったのか。
 もう、この世に居る意味はない。その方が、私の為でもみんなの為でもあるんだろう。みんなに邪魔者扱いされる位なら、命を断った方がましだと思う。
 私が死んで悲しむ人なんているのだろうか。きっとみんな、すぐに忘れてしまうのだろう。いや、生きていても、きっと、私の事を忘れてしまう・・・。


 この後にも何か書いてあった形跡はあるけれど、消されていて分からない。これが昨日の夜書いたものだとしたら。書いているうちに益々思いが強くなって、このまま・・・。
 エリーお気に入りの鞄とコート、それから財布が無い。そのほか、家族で撮った写真も、此処に飾ってあったはずなのに。


「エリー・・・」
 家出の線が、確実になった。




「嘘・・・。エリー、家出しちゃったの・・・?」
「まさか・・・。ど、どうしましょう。このままだと、次に会うときは・・・。いえ、会えるならまだマシよ、でも・・・」
「とにかく、一つだけ宛はある。これが机に置いてあった」


 俺は写真集をみんなに見せる。
「ただし、何時此処を出たのか分からない。もしかしたらもう遅いかもしれない。でも、俺は追いかけようと思う」


 これは、俺が何とかするべき問題だ。本当なら、リリィと一緒にやるべきだろうけれど、この状態のリリィを連れていく気には到底ならない。だから、一人でいこうと思う。
 そう伝えると、みんなは黙って頷いた。エリーが悩んでいる理由も、分かったわけだし。




 目的地は、家から距離がある。二時間は掛かると思う。間に合うだろうか。そんな心配ばかりが募る。
 俺たちの使える移動手段といえば徒歩、自転車、自動車、バス、電車、新幹線だ。水上を渡る術は無い。だから、他に大陸があるのかすらも分からないのだ。なんでないのか。そんな事は知らん。とにかく、今、研究が進められている。荒れ狂う海に耐えられるものが作れず、作ったとしてもそんなものを動かす技術が無いらしい。


「隣、良いでしょうか」
「! ああ」


 紫の髪をした女の子だった。彼女は俺をじっと見つめる。瞳の色が・・・。オッドアイ、だ。
「ホムンクルス・・・」
「! 何で、分かったのですか?」
「目の色がオッドアイだろ? ホムンクルスはみんなオッドアイだからな」


 にしても、淡い紫の髪って・・・。あんまり居ないだろ。普通に考えて、人間ではない。
 髪の色も、種族によって少し異なるからな。大体区別は出来る。
 人間なら、茶色、金髪あたりか。あまり派手な色の人はいない。金髪が一番派手だと思う。
 獣人は、その獣人の動物による。ティナは白狐だから白。茶色い動物なら茶色だし、黒い動物なら黒い。そんなに派手な子はあまりいない。
 黒魔族なら、暗い色が多い。黒、紺、暗いグレーなど。
 白魔族は、薄い色の事が多い。ディオネは例外だが。白、淡い金髪、淡いグレー、淡い桃色など。
 小人と巨人は人間に近いと思う。そんなに派手ではない。
 あまりに派手な色の髪をした人は、悪魔なんかが多い。あと黒魔族も真っ赤とか青だったりするか?


「そうですか、知り合いに、ホムンクルスが?」
「いや、まあ、それもそうなんだが、ホムンクルス作りが趣味な子が居るんだ」
「! ま、まさか、エレナお嬢様では?」
「おお、そのまさかだ」


 どうやら彼女は、エレナに派遣されたエリー捜索要員らしい。
 探してたんですよ、と喜色満面で言われた。見つかってホッとしたらしい。
 彼女の名前はカステヘルミ。また変わった名前だ・・・。なんて呼ぶのが良いだろう?


「ステ・・・、テヘル・・・、、ヘル・・・、ルミ?」
「? どうされました?」
「ルミにしよう。よし、ルミ、よろしくな」


 ルミはキョトンとしたが、すぐに自分の愛称だと気が付き頷いた。
 にしてもエレナ、わざわざホムンクルスを派遣してくれるなんて。優しいよなぁ。
 ・・・、え、一体あと何時間、これに揺られているんだ?




「・・・。居ない」
「です、ね」


 切り立った崖の上。此処が、あの写真に載っていた場所だろう。住所でも、間違いがない。でも、この周辺をくまなく探したが、エリーらしき人影は無い。
 遅かったのか、違う場所に行ってしまったのか。とりあえず街に戻り、写真を見せながらエリーを探した。


「ああ、この子・・・。見たわよ、朝早く。崖を椅子の様にして座って海を見ていたから・・・。落ちたら危ないわよって言ったんだけれど。軽く頭を下げて、何処かに行ってしまったわ」
「そう、ですか。ありがとう、ございます」


「さっき見たぞ、この子。コンビニで買ったみたいなサンドイッチ食べながら、あの灯台の方に向かって行ったぞ」
「あ、ありがとうございます! 捜してみます」


 灯台に向かってみた。随分と高い。もう使われていない様な、古いものだ。下に人はいない。
 勝手に入れるようなので、中に入ってみる。埃だらけだが・・・。エリーが好みそうだ。
 下に厚く積もった埃に、真新しい足跡が付いている事に気がついた。この足跡が、本当に新しくてエリーのものだと良いんだが。外に出る足跡はなさそうだな。まあ、エリーなら飛んで出て行くことも可能だが。


「登ってみるか」
「えぇ・・・。私、待っていても良いですか?」
「・・・。この中に入るの、嫌か?」
「ちょっと埃アレルギーが・・・」


 そう言うとルミはくしゃみをする。それでは可哀想なので、外で待っていて貰う事にした。
 階段を上っていく。十時だというのに、中は涼しく、暗かった。
 一番上まで登り終え、その先の扉を開ける。と。眩しくて、俺は思わず目を瞑る。
 エリーの姿はない。かわりに、窓が大きく開け放たれている。やはりか。
 其処で、俺は小さく声を上げた。さっきまで俺たちの居た崖に、小さな人影が見えたのだ。
 急いで階段を駆け降りる。埃の積もった階段は滑りやすいな。何とか転ばずに下まで行けたが。


「あれ、居ませんでしたか」
「ルミ、来い! 向こうに人影があった!」
「え、あ、えぇ、はい」


 その人影が、エリーだといいのだが・・・。

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