剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第31話  リディア

「な、なんで此処に来た!」
「俺たちも戦う為だ!」


 入ってきたのは、子供たち。エド、ルナ、リーサにエリーだ。
 今日、このパーティに出かけたのは夜九時。その前に、もうみんなは寝ていた。つまり。後で起きてここにくる為に早く寝た、という事か。


「本当は、来るつもりはなかったんだ。でも、エリーが『邪悪な者、二匹。お城に向かってる』って。父さんたちに伝えようと思ってここまで来たんだ。遅かったみたいだけど」
「悪魔・・・。狂ってる・・・?」
「なんだろぉ・・・。何か変だなぁ。何でかなぁ・・・」


 ナディアカティアはゆっくりと子供たちを見つめる。すぐに俺たちと似ている事に気がついた様子。
「お前らも敵? ディラン様を殺そうとした?」
「お前らも戦う? 私たちを殺そうとしてる?」
『殺してやる。こいつらも敵だ敵だ敵だ敵だ!』


 ルナが怯えたように「あっ・・・」と声を漏らす。と、エドがルナの手をしっかりと握る。ルナが驚いたように顔を上げる。エドは無言のまま。ナディアカティアから目を離さない。でも、ルナは落ち着いたようだ。流石お兄ちゃん。


 真っ先に動いたのはカティアだ。S字型の剣――ハラディという――を振り回して子供たちに向かって行った。なんて速い。追いつかない!
 心配はいらなかったようだ。エドが一瞬で、背中に背負っていた盾を取り出し、その剣を受け止めていた。カティアは狂っていながらも一筋縄ではいかないと理解したようで、元の場所までゆっくり戻る。


「どうすればいいんだ、これ・・・」
「ええと、一応、光魔法の大きいのを撃ち込めれば・・・」
「そうだな。エリー! 頼めるか?」
「えっ・・・! わ、私?」


 名前を呼ばれたエリーは驚いたように目を見開いて俺を見た。俺が頷くと、「やってみる・・・」と呟いた。この中で、光魔法が一番得意なのはエリーなのだから。それに、自信をつけるため、というのもある。いつも自虐的だからな。だから、任せたい。


「じゃあ、俺が合図するまで、魔力を溜めて、準備だ!」
「わかった・・・。でも、私・・・、それじゃ、無防備」
「大丈夫だ! 俺が守ってやるから」
「エド・・・。うん」


 王様が死んで、王女様まで死んだら。此処は、なんとしてでも勝つ。ただし、条件。
「絶対に犠牲は出さないからな!」
『うん!』
 味方が誰も死なない事が、条件だ。


 前衛は当然俺になる。二人相手だと少し厳しい。が、飛んでくる魔法の数は多い。危ないと思ったら少し後ろに下がれば、魔法使いのみんなが攻撃をしてくれる。
 少女たちの周りには、不気味なオーラが充満しているようだった。この距離だからこそ、分かる。じわじわと、心が侵されていく感じが。まあ、この程度の時間なら、完全に狂わされるほどではない。一時も離れず、何年も一緒にいたら。それは当然・・・。


「そ、そういえば、こいつら、どうして主人の傍に居ないのに?!」
「長く生きてると、本当の体が貰えるんだよ!」
「そうなのかッ!」


 ナディアの斧にヒヤリとしながら、二人を相手に攻防を繰り広げる。俺の目的は、二人の体力を削る事。エリーの魔法を確実に当てるためだ。
 って、あ! ナディアに気を取られているうちに、いつの間にかカティアが! 


「ユーリ! 大丈夫?!」
「エディ! 助かった!」


 カティアは俺に到達する前にエディに後ろ向きに突き飛ばされた。エディがナディアと向かい合っていたので、俺は吹き飛ばされたカティアに向かう。
 エディはメイスでナディアと戦うようだ。ただ、ナディアは相当強い。魔法を主に使っているエディに勝ち目は・・・。
「お母さん!」
「っ! ルナ!」


 ルナが円月輪チャクラムを投げる。円月輪チャクラムというのは、薄い鉄製の円盤で、外側に刃が付いている。ドーナツの様に真ん中に穴があいていて、其処に指を入れて回し、投げているようだ。目標から外れたそれは、ルナのもとへ戻っていく。どうやって受け止めているんだろう、あれ。相当の速さだが・・・。


 ナディアは沢山の敵に、どう対処していいのか分からないようだ。そうやって無駄な動きばかりしていると・・・。
「くっ・・・。なんで・・・」
 凄く疲れるんだぞ? 俺がエリーの方を向くと、エリーは黙って頷いた。


「本気で・・・、行くの・・・。日光サンシャイン
 カティアもそれに当たるよう誘導したつもりだったが、逃げられてしまった。が、ナディアは掛かった。
 ナディアは声にならない悲鳴を上げてその場に倒れる。


「ナ、ディ、ア? ナディア? ナディア?!」
 カティアがナディアを揺する。反応はない。が、死んではいない。けれども、カティアにはそれが理解できない。
「ナディアを殺した・・・。人なんて、人なんて、許さないいぃぃ!」


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 敵は残り一人。こうなれば、俺たちの勝ちは近いといえる。みんながカティアに掛かっていく中、俺はリリィを呼び、戦いの輪の中から外す。当然俺も戦いには参加しない。
「何? ユーリ様」
「ちょっと聞きたいんだ。どうしてあそこまで狂ったか。原因でも、あったのか?」


 リリィは頷く。
「うん。昔ね、二人は仲のいい友達だったの。もう一人、仲の良い女の子が居てね、三人で仲良く過ごしてた。ナディアとカティアは主人がいなかったんだけど、その子は主人がいたんだ。
 ・・・。二人は知らなかったんだけど、その子の主人は残酷な人でね、あんまり酷くて、その子は自殺を図ったの。でも、失敗して。二人はその子にもうこんなことはしない、って約束させた。それで、終わるはずだったんだよ。なのにね、そのすぐあと、その子、主人に殺されちゃったんだよ。
 それから、二人は狂って、人を嫌う本当の悪魔になっちゃったんだ」


 リリィの目が微かに潤む。その主人って誰だったんだろうな。そんな酷い事をする人が・・・。
 戦いの方に目を向けると、カティアに勝ち目はありそうにない。


「その、女の子の名前は?」
「リディア」
「!」


 カティアの動きがぴたりと止まる。それに合わせ、俺の家族も全員動きを止め、後ろに下がる。
 リリィはカティアに近づいて行く。カティアの目は大きく見開かれ、リリィをしっかりと捕らえていた。


「リ、ディ、ア? リディア、なの・・・?」
「久しぶりだね、カティア」
「リ、リディア!」


 カシャン、と何かが割れるような音がして、カティアの様子が変わる。肌の色が正常に戻り、髪に色が付き、潤んだ瞳が露わになる。髪の色は水色、瞳の色は青。
「リディア、無事だったの・・・?! で、でも、どうして?」
「あの時私、魔法駆使して、主人から逃げたの。でも、魔法使い過ぎて、体を持っていられなくてね。体を置いて魔界に返ったんだけど、それで死んだって思われちゃったのかな、って考えてる」


 え? リリィは死んだはずのリディアで、ナディアカティアの友達、ってことか?!
 カティアは泣きながらリリィを抱きしめている。リリィはそれを見て、優しい顔で頭を撫でる。


「それと、ナディアを起こさなくっちゃね。ナディア、起きて」
 リリィはそういった後、小声で起こす為の魔法を唱える。
「ナディア、私だよ。リディアだよ」
「?! そんなは・・・。え、え、え、リ、リディア・・・?」


 まだ、同じ音とともに、同じ現象。髪は桃色に、瞳も桃色だ。
「リ、リディアぁ・・・。もぅ、心配したんだからぁ!」
「ふふ、ごめんね・・・。ああするしか、なかったから」


 だからだろうか。リリィが俺の事を好きでいたのに、一線を踏み越えない、というか、踏み越えようとしなかったのは。嫌だったのだろう。俺に嫌われるのが。そう考えていたら、鮮明にイメージ出来た。
『嫌なの、嫌われるのが。このまま幸せな気分でいられるなら、私は、それでいいの!』
 前主人にやられた事がトラウマになっているのだろう。


「ごめん。私のせいでこんなことに・・・。接触、しようと思ったの。でも、怖くて。私、殆どの力を失ってたから。もし、私の事が分からなかったら、絶対、殺されちゃうと思って」
「いいよいいよ、そんな事! 世界中の全ての人が私たちを嫌ったとしても、リディアが生きてる、それだけで良いの」
「そうだよ。よかったぁ。今、すっごい幸せ」


 リリィは右腕にナディア、左腕にカティアが抱きついている為、動きたいように動けない。それでも、滅多に見ないくらい嬉しそうだからいいのだろう。
 と、リリィが急に「あっ!」と大きな声を出すものだから、その場にいた全員が驚いてリリィを見る。


「あ、いや、ごめん。子供たちが居るのに、遅くまで此処に居たらダメだなぁ、と思って」
「ああそうだな。二人も一緒にくるだろ?」
『・・・迷惑でなければ』


 迷惑なわけがあるか。寧ろ、上機嫌のリリィから二人を引き離すとかできるものか。
 という事で、黙ったままの王女様に声を掛ける。反応がないので少し心配だが、途中警備の兵士にその事を伝え、向かって貰った。
 さっき、
「そっか、リリィさんに似てたんだ」
 とリーサが呟くのが聞こえた。


「エリー、さっき、偉かったな」
「そんな事ないの・・・。きっと、偶然・・・」
「いやいや、あれは紛れも無い、エリーの実力だ。もっと自信を持って」
「う・・・」


 エリーは俯いてしまった。本当に、どうしてこういう性格になったんだろうな。
 家に着くと、ナディアカティアは「広い」と一言呟いた。


「え?」
「あ、いえ。大きいな、と思って」


 慣れてしまうとそう感じなくなるんだよ。あんまり広い、と思った記憶がない。が、確かに、今までホムンクルスを含めて十一人で住んでたのか。そう考えたら、結構大きいのかもしれない。


「お帰りなさいませ」
「こんな時間なのに悪いな」
「いえ。お風呂の準備はできております。では」


 クリスタは本当に気が利く。パジャマを着ていて、少し髪が乱れてはいたが、俺たちを出迎え、風呂の準備が整っている、というのは・・・。やり過ぎかもしれない。
 アナは寝てるだろうな。別に、来なくてもいいと思う。今二時だしな。
 ・・・ああ、こんな時間か。とりあえず、話したい事は全て明日に回す事にしよう。

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