剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第29話  VSディラン その2

「逃げずによく来てくれたな」
「逃げるって、そんな事をするとでも?」
「思っていない。が、この言葉を言うというのは暗黙のルールだ」
「・・・何の?」
「敵キャラの」
「あんた馬鹿か」


 ディランがイメージと違って戸惑っている。が、そんな場合じゃないな。俺何やってるんだよ。
 約束の日、約束の場所に王室の馬車でやってきた俺たちは、前回とは違う服装のディランと対峙している。本気で戦うってことだろう。


「別に、人がどんなキャラだろうとお前には関係ないだろう?」
「いやそうだけど・・・」
「ともかく、ティナ、今度こそお前を奪う」
「嫌です。全力で抗って見せます」


 ティナはそこそこの魔法が使えるレベルになった。最悪、一人でも逃げ切れるだろう。それまでは、魔法を使わせない。体力の使わせない。本当に、俺たちが使い物にならなくなった時、疲れたディランに精一杯抗う為に、その力の全てを温存して貰う。今戦うのは俺とメリーだ。


 それより気になるのは、さっきからディランの殺気があり得ないほど強いことだ。これは・・・。本気マジりに来てるな。俺たちもあっさり殺されるつもりはないが。
 こんな状況だというのに。何故だろう、ディランとの戦いが、とても楽しみでしかたない。最近、同レベルの者との戦いがなかったからだろう。
 ――命を掛けて、本気を出して。
 そして、強い相手と戦うのは、一番燃える戦いだ。やはり、勝負はこうでないと。


「ユーリ? 巻き込まないでよ?」
「それは大丈夫。メリーの事は愛してるからな」
「・・・。もう、知ってるよ!」


 メリーの瞳がギラッと光る。戦闘モードだな。メリーだって黒魔族。戦いが好きな種族なのだ。楽しみでないはずがない。その証拠に、メリーは微かに笑っていた。
 俺が剣を抜くと、ディランも剣を構えた。え・・・?


「何故、ブロードソードを?」
「ショーテルは使い辛いからだ。何を使っても良いだろう」
「そりゃ良いに決まってる」


 なんにしても、黒魔族なのに剣を使うなんて珍しいよな。魔族ってだけあって、魔法がとても得意なのだから。ああでも、全員が全員得意なわけじゃないか。
 ただし、魔族の持つ魔力は他の種族とは比べ物にならない。量も、質も。その魔力を纏わせた剣での攻撃は・・・。正直、想像がつかない。
 ま、最初から何もかも分かっていたらつまらないだろ? ディランが一歩踏み出したとき、戦闘は始まった。




「あっ!」
「・・・剣神の息子も、この程度か」


 なんだろう、昨日と比べ物にならないほど強い。一度落ち着いて、距離を取る。剣は俺の方が長い。
 そっと右の頬に触れると、思いの外、傷は深いようだ。掠っただけだと思ったんだが・・・。すぐにメリーが回復を掛けてくれた。


「メリー、大丈夫か?」
「ユーリ、ご、ごめん」
「大丈夫だ、大丈夫。ただ、危なくなったら、ティナを連れて逃げろ」
「だ、ダメだよ、そんなの! ・・・って言う権利、ボクにはないのかな」


 メリーの魔力はもうほぼない。俺を回復する為、少しは残しているようだが、攻撃は出来ないな。しっかりしないと。
 とはいっても、俺も余裕があるわけではない。って言うか、寧ろピンチだ。それでも平然を保っているのは、ティナを慌てさせないため。何があっても、ティナとメリーは守り抜かないといけない。


「ほぉ、まだやる気か」
「死ぬまで、戦いは終わらない」
「それだけは、剣神と変わらぬようだな」


 剣と剣が重なり合い、金属音が何度もする。何で、こんなに遊ぶように剣を振っているのだろう。俺、遊ばれてるのか? 悔しいけれど、今の状況。勝つ方法が思いつかない。
 やっぱり父さん、手加減してたんだろうか。こんなに強い人がまだ居るなんて。楽しいなど、疾うに消え去っていた。
 次のディランの一撃は、今までよりずっと早く・・・。右足に走る激痛。


「っ! う・・・」
「ユ、ユーリ!」
「お前は其処に居ろ」
「あっ?! ああっ、な、なに、こ、れ・・・」


 俺に駆け寄ろうとしたメリーは、首に光の輪の様なものを掛けられた。誰も触れていないから魔法だろう。メリーはふらりとよろけ、その場に蹲った。それを一瞥すると、ディランは俺の頭を掴んで持ち上げた。首元に冷たいものが当てられる。


「さて、どうする?」
「メリーを、助けて・・・」
「だろうな、そう言うと思っていたぞ。・・・だそうだが、メリー?」
「あ・・・、だ、ダメ。ユ、ユーリは、魔王を、倒す、で、しょ?」


 メリーはふるふると震えていた。此方に向かって手を伸ばしている。その手を取れない事が、何よりも残念に思う。メリーの目は潤んでいて、口から涎が垂れる。そんな状態なのに、俺に向かって微笑んだ。
 ディランは俺とメリーを交互に見てもう一度、俺に問いかける。


「時間がないぞ。早く決めろ」
「このまま殺していい! だからメリーの輪を解いて!」
「言ったな? なら・・・、?!」


 俺は宙に放り出された。何が起きたのか分からないが、そのまま地面に落ちる。メリーの方を見ると、首の輪が消えている。そしてディラン。白い狐数匹に襲われている。ま、まさか!
 真っ白で長い髪が風に舞う。手は垂直に上げられていて、赤い瞳がキラキラと輝いている。


「ユリエルさんとメリッサさんが死ぬのは、私が許さない」
「ティナ! どうして・・・」
「なんで勝手に! 私もいるんですよ、見捨てろっていうんですか?! そんなの出来ません!」


 手を勢い良く天に向ける。これだけは、使わせないって、決めてたのに・・・!
「ティナ、ダメだ! それは・・・」
「ごめんなさい、ユリエルさん。宇迦之御魂神さん、ちょこっと力を貸して下さいね。『悪払之術』」


 ティナがカッと目を見開く。ティナを中心に光が現れ、ディランが驚いたような顔をする。と。
「え・・・?!」
 ティナの体が宙を舞う。ティナを抱きとめ、ティナを突き飛ばしたディランを睨むと、ディランは焦ったような声で「一旦引く」というと、また手紙を投げ、去っていった。


「ティナ、ティナ。大丈夫か?」
「だ、大丈夫ですよ。一度帰りましょう。メリッサさん、大丈夫ですか?」
「うん。とりあえず馬車まで戻ろうか」




「ということで、帰ってきました。逃がして、しまいました」
「そうか。・・・何、落ち込むことはない。誰も死なないでよく帰ってきたな」
「はい・・・」


 其処で、俺の家族が入ってきた。全員無事な事を確認して安心したようだった。
「それで、次の手紙には、なんと?」
「ああ、読みますね」
 やっぱり、簡潔に。


 次のパーティで王の命を頂く。


 当然、全員黙り込んで、しん、と静まり返る。だって、次のターゲットはこの場に居るのだ。しかも、この中で一番地位が高い。何と声を掛けていいのやら。


「ええと・・・。次のパーティって、舞踏会でしたっけ?」
 ティナが言う。
「ああ。となると、やはりこの中でユリエルともう一人、だな」
「ボクはもうやったよ。エディ」
「う・・・。文句言えない」


 という事で、次はエディが一緒に来ることとなった。リリィはパーティには向かない。
 さぁて、次のパーティまでに、覚えなきゃいけない事が出来たな。社交ダンス地獄の特訓が始まった。




「はぁ・・・。凄い疲れた」
「エディ、大丈夫か?」
「一応ね。毎日これだと思うと辛いけど」


 やっと家に帰ってこれた。とはいえ、毎日城に通う事になるけれど。時間は、外は暗くなり始めているくらい。
 ついでにティナもうちに来た。少し暮らしてみて、他の人との相性も見る感じになる。


「ティナさん、あ、あの・・・」
「ん? あ、えっと、ルナちゃん、でしたか?」
「はい。あ、あの・・・。例の舞、見てみたいです」
「ふふ、いいですよ。じゃあ、ちょっと着替えてきますね~」


 ティナが着物で登場すると、ルナはわぁ、と声を上げた。確かに、それくらい美しいのだ。
 開けておいたリビングでティナは美しく舞う。此処じゃ狭いから。本当はもう少し綺麗なのだが・・・。まあ、初めて舞を見たみんなは食い入るようにそれを見ていた。


「・・・と、こんな感じで大丈夫ですか? ルナちゃん」
「は、はい! ありがとうございます!」
「喜んでもらえて嬉しいです。よろしくお願いしますね、ルナちゃん」


 ティナは両手を脚の前でそろえ、優雅にお辞儀をした。ティナが家にいたら、その内見に来る人がいるんじゃないか? ティナの舞は大陸中の憧れ。って言うか、ティナを見ること自体が憧れなのだろう。
 まあ、そんな理由で断るはずもない。


「凄いな、ティナさんの舞。髪綺麗・・・」
「エドくん? どうしたのぉ?」
「リーサちゃん、そろそろ空気を読むってのを覚えた方がいいよ?」
「空気を、読む? 空気って透明だよぉ? どうやって読むのぉ?」
「・・・。だめだ、これ」
 ルナは諦めて溜息を吐いた。悪いな、ルナ。リーサは本当に分かってないぞ。どっちもな。


 まあ、ティナは増えたがいつも通りの生活をし、夜はエディとやる予定。ティナにも一部屋与えた。
「にしても、部屋足らなくなってきたな」
「そうね。でも、家族いっぱいで楽しいわよ」
「だな。魔王も・・・」
「みんなで、倒すんでしょう? ユーリ一人だけなんて、許さないんだから!」


 エディははっきりと言い放った。
「・・・。分かったよ。絶対連れて行くからな。だから・・・。助けて、くれるな?」
「もっちろん! でも、その為に、私たちが強くなるの、助けてね?」
「当然だろ! 一緒に頑張ろうな」


 絶対に死なせないから。でも・・・。出来れば、みんなを連れて行きたくは、ない。

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