剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第23話  武器の練習

「お父さん! 俺も戦ってみたい!」
「エ、エド! いつの間に?!」
「お願い、剣教えて!」
「って言ってもお前、まだ五歳だぞ?」
「でもでも! 家、女の子ばっかりだもん! みんなを守りたい!」


 おお、エドはエドなりに考えがあるようで。日の照りつける暑い夏に俺の素振りをじっと眺めているだけあるな(いつの間にとかいいつつ気が付いてた)。そ、それはともかく、エドがやってみたいというのならやらせたい。という事で、俺はその日の夜ご飯のとき、嫁たちに聞いてみることにした。


「良いんじゃない? ついでに私も武器が使ってみたい」
「魔力切れになった時、結構困るんだよ」
「みんなで一緒に武器の練習・・・。楽しそう! ユーリ様!」


 そう言えば、エリーはとっくに魔法の練習をしていて、初級魔法をマスター済みだ。ルナもリーサも、少しずつ魔法の訓練をしていて、幾つか使えるようになってきている。何もやっていないのはエドだけだったか。


「分かった。じゃあ、明日使ってみたい武器を選んで欲しい。武器の図鑑は準備するから」
『はーい!』




 次の日。俺の本棚から一冊の分厚い武器図鑑を持ってきた。みんな興味津々と言った様子でその図鑑を覗き込んでいる。
 結局、全員武器を使ってみることにした。今は武器図鑑を一枚ずつ捲って使ってみたい武器を決めているところだ。
 メリーはトライデント、エディはメイス、リリィはウィップを選んだ。うん、良いと思う。


「俺はグレートソードを使ってみたい」
 エドが言う。
「重いんじゃないか? 平気か?」
「ああ。リーサ姉さんを守れる武器が良い!」
「何でリーサお姉ちゃんなの?! 私は?!」
「ルナは結構しっかりしてるだろ。でも、リーサ姉さんは・・・」


 リーサはマジで天然だ。これは母親であるメリーからきていることだろう。其処に姉さんを足したらこんな感じだろう。姉さんは・・・。天然とはちょっと違うか? 全体的に雰囲気が柔らかくて家族の事が好きなだけ。ん? まあいいか。


「私はぁ、大きなバトルアックスとか、使ってみたいなぁ」
「?! リーサ姉さん?!」
「重いと思うけどな。魔法使う時に邪魔じゃないか?」
「えぇ・・・。でもぉ・・・」
「じゃあ、姉さんに連絡して一つ斧を持って来て貰おう。一回持ってみて決める、で良いか?」
「うん」


 さて、あとはルナとエリーだな。振り返ると、ルナは何処からどう見ても決まっていない。ばらばらと図鑑を捲っていた。ので、エリーに訊いてみる。


「エリー、決まったか?」
「私は、短剣・・・」
「短剣か。持ち運びは邪魔じゃないが、敵に近づかないと攻撃できないぞ」
「それは、分かってる・・・。魔法で近づけるから・・・」
「そうか。ルナ、どうする?」
「投擲全般、じゃダメ?」
「いいぞ。じゃあ、これで決まりだな」


 グレートソードは俺が教えよう。リーサのバトルアックスは・・・。姉さんが引き受けてくれるだろうか。ただ、あとは一切教えられない。となると・・・。
「家庭教師、か」


 俺が武器を教えてくれる家庭教師募集を掛けようかと考えていると、斧を持った姉さんが車を運転し、やってきた。あ、姉さん免許取ったんだ。俺は断られたのに・・・。


「ユリエルくーん。来たよー。えっと、リーサちゃん? は何処?」
「私がリーサだよぉ」
「メリッサちゃんに似てるね。車に乗らないから小さめのを持ってきたよ。バルディッシュだけどね。ほら」


 姉さんは斧を俺に見せた。バルディッシュというのは、柄の長さに対して斧頭が大きい斧。姉さんが差し出した斧を受け取ってみる。・・・重いけれど、其処までではないか? 三~四キロってところだろう。


「リーサ、ほら、持ってみな」
「うん」
 リーサは俺からバルディッシュを受け取った。それから暫く黙っていたけれど、ゆっくりした動作で首を傾げた。
「これ、重いかなぁ?」


 え・・・。背中に背負わせたが、何の問題も無く動けていた。まるで何も持っていないかのよう。
「お父さん、私、大丈夫みたいだよぉ」
「・・だな」


 で、姉さんにリーサに斧を教えてくれないかと頼んでみた。
「私でよければ良いよ。結構独学だったりするけどね」
「いや、それでも良い。触りだけ教えてやってくれ。メインは魔法だから」
「よろしくお願いしまぁす」


 リーサがゆっくりと頭を下げる。黒魔族とは思えないほど雰囲気が柔らかい。へにゃっとしてるっていうか・・・。可愛いことには間違いないが・・・。
 あ、メリー同様パッと見大人しいのに何かの弾みに凶暴に、ってのはありそうだな。メリーは怒ると怖い。


 というのも、数週間前。街の外で魔法の練習をしていたリーサを、俺とメリーは見ていた。
 ら、急に魔物が突っ込んで来て、リーサは宙に体を投げ出された。リーサをキャッチした俺が見たものは・・・。
「あんた・・・。私とユーリのリーサに何をしてくれたっ!」
 って言いながら魔法を乱射するメリーの姿だった。そりゃあもう、俺もリーサも呆気にとられて何も言えなかった。リーサはメリーに聞こえないよう俺に囁いた。
「お母さん、怖いんだねぇ・・・」


 そんな事を考えている間に、姉さんはリーサから斧を受け取って車に仕舞って来ていた。
「あ、ねえユリエルくん。他の子も武器やるの? 誰が教えるの?」
「ん、ああ。家庭教師でも雇おうかと」
「だったら、ギルドに行ってみて。確か武器の基本だけなら教えてくれるはず。私なんかよりいいと思うけれど」
「そうなのか?! じゃあ、今度行ってみるよ」




 という事でギルドに来てみた。いつもの受付のお姉さんに聞いてみると、すぐに教えてくれた。にしても、ギルドって本当に大きいんだな。
 案内された場所に行くと、目の前に大きな扉。みんなでどうすればいいのかと言っていると、すぐに扉が開いて男の人が出てきた。重そうな鎧を着た、背の高い男の人だ。


「おお、これはこれは可愛らしいお譲様方。っと、旦那さんかな、悪いね。もしかして、武器?」
「あ、はい」
「じゃあ、中に入って。マリオン! 手、開いてるかい?」
「ああ。何人だ?」
「えっと・・・。沢山」
「・・・ああそう。まあいい。入れてくれ」


 中は体育館の様だった。高い天井に、広い空間。そのあたりがそう思わせたのだろう。
 其処に、少し背の高い男の人が立っていた。薄めとはいえロングコートを着ているけれど、暑くないんだろうか?


「確かに沢山、だな。俺はマリオン・トランス。此処で武器を教えている」
「あ、初めまして」
 その後自己紹介をし、希望の武器について伝えた。


「そうか、なら・・・。メリッサとエディナ、それからメリリーサはセーファスが教えるだろう。リリィはベル、いや、エディナはベルでも良いな。エリーとエルナーネはサンディだな」
 そう呟きながら携帯を弄っていた。すぐに人が集まり、俺たちは自己紹介を受ける。


「俺はセーファス・ワイルドだ。長柄武器と打撃武器のうち、比較的重くて長いものを扱っているな」
 この人はさっき入口で会った人だ。銀色に光る鎧で物凄く目立つ。
「私はベル。軽めの打撃武器が専門です」
 腰に鞭、ロッドなんかが刺さっている。これが軽い打撃武器、か。
「私はサンディ。暗殺業を得意にしてるから、投擲武器、それから短剣も使うわ」
 暗いグレーの髪をした女の人。全体的に黒っぽい服装をしている。
「剣は俺、マリオンの担当だ。が、おそらく剣神の息子であるユリエルの方が上手いのではないかと思う。だから、任せた」


 軽く自己紹介をした後、練習用の武器を借りて練習を始めた。ちなみに、エドはまだグレートソードだと大きすぎるので軽めのクレイモアを持たせている。
 さっきからブーメランなんかが飛んでくるが、全て俺が剣で叩き落としているから、エドの練習に害はない。・・・みんな凄く楽しそうだな。


 今日は武器の持ち方と、基本的な動かし方で終了した。次回の予約を入れておき、家に帰る。今日は偶々開いていたようだ。
 帰りにベルさんがアイスキャンディーを子供たちにくれた為、みんな機嫌が最高に良い。
 と思っていたけれど、一人例外が居た。


「エリー、どうしたんだ?」
「私・・・。もう、子供じゃ、無い」
「え、いや、エリーは子供だぞ」
「でも、私・・・」


 エリーの成長は本当に早い。けれど、何処からどう見てもまだ子供。何故急に子供じゃないなんて言いだしたのだろうか。
 結局、その意味は分からないままだった。エリーはあまり喋らないし、一度口を閉ざしたらもう何を言っても無駄なのだ。もうちょっと違う言い方をすればよかったと後悔するのはもう遅かった。
 そう言えば、エリーのこの性格は何処から来たのだろう。リリィとは正反対だし、俺にも全く似ていない。ポツリ、ポツリと喋り、いつも無表情。育て方が、悪かったのだろうか。


 その事を、リリィに夜、聞いてみると、リリィは「え?」と呟き、答えを出す為に目を閉じた。
「確かにそうだね・・・。お淑やかでお行儀のいい子に育てよう、って思ってたけど・・・」
「なんだか、ちょっと違うよな?」
「うん」


 リリィは子供が生まれてすぐから言っていた。お淑やかで、行儀が良く、誰にでも優しくできるこにしよう、と。少なくとも俺は、リリィの言葉の通りにしようと接してきたつもりだ。それが悪かったのだろうか。


「あまり考えなくてもいいと思うけどね。何も不具合が無ければ。もし性格の事でエリーが困る様な事があったら、一緒に何とかしてあげよう?」
「そう、だな」


 悪魔の子の事は、俺もよく分からない。だから口出しも難しい。この事は、リリィに任せた方がいいのかもしれない。それに、リリィの言った通り、困る事が無ければ、このままでもいいと思う。ただ・・・。この性格で何か困るんじゃないか、と思うから、こうやって考えているわけで・・・。

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