剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第17話  同棲

「よし、これで良いだろう」
「綺麗になったね」


 一日掛かって、家を綺麗に掃除した。家具は今生活するには困らない程度あった。もう夜ご飯の時間だな。さっきシルヴァニアがこっそりやって来て「ユルシュル様からです」と置いて行ったものがあるから、夜ご飯は問題ないな。


「なあ、この後、どうする?」
「どうするって・・・、ああ、そう言う事。私は良いよ」
「じゃあ、風呂」
「先行くね」
「ああ」


 メリッサが風呂に行っている間、俺は目を閉じて考え事をする。考えるのは、父さんの言っていた女の子たちだ。つまり、エディナとリリィ。
 エディが狂ったというのは、まあ、間違いないだろう。俺の事を相当愛していたようだったし。もしかしたら、あの後、告白する予定だったのかもしれない。胸がチクリと痛んだ。ああ、いけない。
 次、リリィ。引きこもったというのも、まあ、間違いないだろう。ちなみに何処に? 俺の部屋か? まあいいけど。リリィも俺の事を愛していた。おそらく反応から、エディナならいいか、とは思っていたんだと思う。けれど、大好きな御主人様が、『知らない女の子』に取られてしまった・・・。


 どうしていいのか分からない。今、メリッサとヤろうとしているのが馬鹿らしい。だけど、俺は一番メリッサを愛していた。でなければ、わざわざ魔王を倒そうなんて思わなかった。今でも、俺とメリッサに間を作った、魔王が憎らしい。絶対に倒してやるから。
 ともかく。方法は、一つだけ残っている。


「ユリエル、もういいよ~」
「ああ。わかった」


 綺麗なネグリジェを着たメリッサが微笑む。紫色だ。メリッサに、一番似合う色。何故か? そりゃ、瞳と同じ色だし、黒魔族っぽいし、黒髪にもよく似合う。これ以上良い色はない。
 俺は微笑み返し、風呂に向かって歩き出した。話は、この後だ。




「えへへ・・・。ベッド、広いね・・・」
「父さん、業とじゃないだろうな。家具、買い直して迎えに来たんじゃないか?」
「そうかもね。まあ良いよ! 早くして。あんまり我慢できないよぉ?」
「・・・。ふふ、分かった分かった」


 俺はメリッサをベッドに抱き上げようとしたが、メリッサはするりと避け、恥ずかしそうに笑った。
「まず、最初に確認。脱がせて、くれるのかな?」
「・・・。メリッサが望むなら」
「じゃ、じゃあ、お願いしまぁす!」




 一通り愛し終わり、一緒にシャワーを浴びている。メリッサの黒髪が濡れて更に輝く。指通りの良いこの髪は、他の誰のものより上質と思える。そして、ふわぁと香る香水のが、メリッサを更に引き立てる。
 こうやって、幸せな時間を過ごしたい。でも、これだけは、訊かないといけない。
 怒られてしまうかもしれない。嫌われてしまうかもしれない。
 でも、言うって決めた。俺は覚悟を決めて口を開く。


「メリッサ。一つ、訊きたい事がある」
「ん、なぁに?」
「もし、俺が、女の子を連れて来て、『愛し合っているから、仲間に入れてやろう』と行ったら、メリッサはどうする?」


 メリッサは一瞬キョトンとした。それから、「あっ」と小さく声を上げ、考えるように目を閉じた。
 俺がこの状況を切り抜ける方法。簡単だが、難しい。なんというか・・・。そう。俺が妻を三人娶れば済む話なのである。


「えっと、それは、お父さんの言ってた子だよね」
「の、予定だ」
「じゃあ、よく聞いてね。いい? ・・・、私は、別に、構わない」
「ほ、本当か?」
「ちゃんと聞いてよ・・・。まあ良いけど。えっとね、だって、その子たちも、ユリエルのこと、好きなんだよね? それって、私と一緒だよ。だから、きっと、仲良くなれると思うんだ」


 え・・・。そういう、こと? メリッサの顔は至って真面目。知っている。メリッサは超天然で、どこか抜けている。人と考え方が違う。でも、それが俺は好きで、助かる事もよくある。


「だから、気にしない。その子さえよければ、私は良いよ」
「本当に・・・? いい、のか?」
「うん。私が一番だからってわけじゃないよ。二人目でも気にしなかったと思う。その子が歓迎さえしてくれればね。同じ人を好きになるなんて、運命みたい。だからいいよ」


 メリッサはそう言って笑った。こんなに快い返事が貰えるとは思っていなかった。拍子抜けだ。その様子に気がついたのか、メリッサは俺を抱きしめた。柔らかい体が俺に当たる。いや、ダメだ、今ヤったところだろ? こらこら。そんな俺を余所に、メリッサは続ける。
「機会があれば、私の事は気にしないで良いからね」




 朝起きると、メリッサはぐっすり眠っていた。起きそうにない。が、メリッサが起きないと俺が起きあがれない。抱きつかれているから。俺は頭を撫でて囁いた。「メリッサ、朝だぞ」
 すると、メリッサはゆっくり目を開けた。ふわぁと欠伸をして、また寝ようとするところを、俺は揺り起こす。


「なあ、メリッサ。寝ても良いが、手を解いてくれないか?」
「んん・・・。嫌ぁ」
「じゃあ起きてくれ。もう結構遅いぞ」
「えぇ、ほんと? じゃあ起きる。ふわぁ・・・」


 メリッサの首筋には小さな痣。俺が付けたキスマーク。ちょと後悔した。
(こんなところじゃ・・・。見えるよな。どんな目で見られるんだ・・・?)


 とにかく俺たちは身だしなみをある程度整え、キッチンに向かう。この箱入りお嬢様は料理があまり得意ではない。一方の俺も、今まで母さんや姉さんにまかせっきりだったから全くだ。さて、朝ご飯をどうしよう?


「何がある? パンと、卵と、ハムと、レタスと・・・」
「何でもいいか?」
「うん」


 食パンはカリカリに焼き、卵で目玉焼きを作る。半熟。ちょと破けたが、まあ良い。食パンにハムと目玉焼きを乗せる。あとはサラダ。レタスとトマトだ。これでまあ、何とか朝ご飯になるだろ。


「ん、美味しい」
「いや、これでまずくなるってあり得ないだろ」
「そう? まあいいや」


 食べ終わってから、生活用品を買う為に出かけることになった。キスマークをどうするのだろう思ったら、寒くも無いのにマフラーを巻いた。なるほど。隠れる。が、違和感はあるな。
 二人で手をつないで歩きながら、道に出ている露店に目を通す。メリッサはアクセサリーの店で足を止めた。其処にはシルバーのアクセサリーが沢山並んでいる。メリッサは、綺麗な石がキラキラ光っているのに見入っていた。


「綺麗」
「本当だな。・・・どれか買ってやろう。どれが良い?」
「え、いいの? じゃ、これ」


 小さな紫の蜻蛉玉の下にシルバーの髑髏が付いたペンダント。価格は五千ネロ。安くはないが、高くもない。まあ、俺は値段なんて気にしない。メリッサの欲しいもの買ってやる。彼氏として当然である。店の女の人は、そんな俺たちを見て微笑んだ。


「お似合いのカップルね。ちょっと安くしてあげるから、他のどう?」
「え、良いんですか?」
「ふふ・・・。今、ちょっと仕舞ってあるんだけれどね、このペンダントと同じデザインの指輪があるの。これ、二つで五千五百ネロ。さ、どうする?」


 つまり、ちょっと高いだけだから、お揃いのほう買わないか、という事か。同じデザイン、とはいってもペンダントをそのままピアスにするわけにもいかないし、ちょっと違うけれど。真ん中に蜻蛉玉がついて、その左右にシルバーの髑髏が二つ。
 でもなぁ。メリッサはペンダントだから欲しいのかもしれないし。俺だけには決められない。メリッサをちらと見る。


「え、や、やっぱ、高い、かな」
「いや、値段はどうでもいい。どっちが良い?」
「そ、そりゃあ、お揃いの方!」


 俺は財布を取り出して五千ネロ札と五百ネロ玉を取り出した。お店の人は軽く微笑んで「仲良くしてね」と言った。メリッサの顔は真っ赤だ。俺もおそらく真っ赤だろう。
 俺たちはサイズ調節をして貰った指輪をわざわざ交換し、お互いの手にはめた。凄く恥ずかしいけれど、嬉しい。俺たちはまた、手を繋いで歩きだした。




「・・・。ユリ、エル、さん?」
「エレナ・・・」
「? ん、どうしたの?」


 梓桜、澪桜、奈桜を連れたエレナにばったり遭遇した。


「えっと・・・。ユリエルさんの友達、エレナです。あなたは?」
「あ、あの・・・。ユリエルの、彼女? の、メリッサ、です」
「何で疑問形なんだ。俺の彼女、だ」


 まあ、明確にどちらからも告白をしたわけではない。けれど、ヤっておいて、彼女ですらないとかあり得ない。俺とメリッサは恋人同士だ。間違いない。
 エレナは俺をニヤッと見つめ、それから、あ、と呟きちょっと困ったような顔をする。


「そうだ・・・。エディナが。どうしたら、良いのかな」
「俺は、メリッサを愛している。間違いない。けれど、だからと言って、エディナの事が嫌いなわけじゃない」
「? え?」
「私は、良いって、言ったんです。もしその、エディナ、さん? が、良いなら、一緒に・・・」


 エレナは一瞬キョトンとして、それから驚いたようにメリッサを見た。
「良い、の? だって、ユリエルさんが・・・」
「大丈夫。ユリエルなら、きっと二人とも、いや、何人でも平等に愛してくれるはず」
「そう。信頼、してるんですね」
「はい。もちろん、です」


 これは、メリッサの本音なのだろうか? 嘘なのかもしれない、と思ってしまう。
 でも、信頼している、というのは本音だろう。表情でわかる。そんな言葉を掛けて貰えるなんて・・・。とても嬉しい。


「あ、じゃあ、エディナに言っておきます。住所を教えて貰っても?」
「ああ、構わない。いいよな?」
「もちろんだよ。いつでもおいでって言って」




「なあ、あれ、全部本音か?」
「え? あれって、ああ。まあ、そうだね。私の本音は昨日とさっき言った通り。へへ、ほんっとうに信頼してるんだよ」
「・・・。ありがとな。メリッサがそう言ってくれて嬉しいよ」
「えへへ。じゃあ、今日もよろしく!」
「分かったよ。たっぷり愛してやろう」


 メリッサの顔が赤く染まった。その表情が何ともいえず可愛い。いやいやいや、まだ五時だ。寝るまでには時間があるぞ? まだ待て。
 で、今からが問題だ。何があるのかというと、夜ご飯を作らなくてはいけないのだ。昨日はシルヴァニアが、姉さんの作ったほぼ完成形のものを持って来てくれたから、俺たちの調理というのはほぼ温めるだけ、みたいなものだったのだ。が、今日は違う。


「が、頑張ろうね」
「ああ、一応食べれる代物になれば良いな」
「えへへ・・・。レシピ見ながらまずく作れるって結構才能かもよ!」


 その言葉で、俺はある事に気がついた。
 『錬金術』
 ほぼ一緒だと思わないか? これはまずい。絶対まずい。間違いなく失敗するだろう。が、それを今此処で言ったら、この可愛いメリッサのテンションが下がること間違いなし。黙っておこう。


 ・・・最初だし、簡単なものを作ろう、という事で、カレーを作ってみることにした。露店を見ながら、結局スーパーマーケットでカレーのルーを買って。後ろを見れば分量は分かるし、作り方も細かく乗っている。大体、切って煮るだけのはずだ。おそらく簡単だ、という事で、作ってみることにした。さて、失敗する確率は高いが、とりあえずは頑張るか。




「あ、美味しいよ、ユリエル」
「?! 本当だ」
「な、何で驚くの?」
「いや・・・」


 普通に美味しい。ご飯を鍋で炊くのは少し怖かったので、焼いたパンで。にしても、普通に美味しいじゃないか。俺の苦手なのは錬金だけか? 不思議だな。どうしてここまで? ってぐらい何もできないっていうのに。


 そう言えば、エディナは料理得意だったっけ? なんて考えてしまった。そうやって、得意な事を分担出来る家族になれたら、とても良いんだが・・・。


「エディナちゃん、料理、得意なの?」
「え?! なんでだ?」
「何となく。そうなんだ。早く来てくれたらいいな。美味しいご飯、食べたい」
「嫌味か?」
「あ、ごめん! そう言う訳じゃないよ」


 そんな風に話しながら食べ終えた。頑張って自炊できるようにならねば。

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