剣神勇者は女の子と魔王を倒します

鏡田りりか

第8話  フィオン

「久しぶり、シミオン。どうだった?」
「最悪。もう疲れ切ったよ・・・」


 シミオンの為、一週間早く寮に帰ってきた俺たちは、シミオンの愚痴を聞く準備くらい出来ている。


「お姉ちゃん、僕の事散々言うから・・・。もう嫌・・・。お兄ちゃん、どうやら恋人作っちゃったみたい・・・。どうしよう。相手が可哀想だよぉ・・・」
「その相手が俺の姉さんだって言ったら、信じるか?」
「?! ご、ごめんなさい!」
「あ! わ、悪い。シミオンが謝る必要はないよ。いや、ごめん、ほんとごめん。言うつもり、無かったんだが・・・」
 俺が項垂れると、シミオンは慌てたように言う。


「あ、や、そうだね。謝ったら、ユリエルくん・・・」
「はぁ。ただでさえ深い傷があるっていうのに、これ以上何かされたら、本当に自殺されそうだ・・・」
「ユリエルくん、お互い大変だね・・・」


 愚痴を聞くつもりだったのに、言ってしまった・・・。罪悪感に苛まれる。本当だったら、シミオンを慰めてやるつもりだったのに、責めてしまった・・・。情けなくて、涙が出てくる。


「わ、泣かないでよ・・・。気にしないで。僕は大丈夫だから」
「ごめん・・・。こんなこと、言うつもり、無かったんだけど・・・」
「ううん。一人で抱え込んじゃっても。ね? それにほら、知ってたら、何かあった時、対応できるから」
「シミオン・・・。優しいな」
「そうかな。ほら、元気出して。僕は大丈夫!」


 それを、エディナとエレナが困ったように眺めていた。
「えっと・・・」
『あ・・・』
「もういいかな?」
「あ、ああ! もちろん」


 はぁ・・・。本当に、なんでなんだろうな。神様、姉さんに壁を作り過ぎだぞ・・・。
 フィオンさんは、例の、シミオンが言っていた、あの、兄だったのだ。もう、一瞬でも信じてしまった俺が信じられない。シミオンの言葉を聞く限り、相当危ない。
 何かあったら、授業中だろうか駆けつけるつもりだ。




「皆さん、お久しぶりですね! 楽しめましたか?」
「全然・・・」
「最悪だ・・・」
 アンジェリカ先生は俺とシミオンを見て首を傾げた。


「・・・どうしたの?」
「はぁ・・・」
「もう最悪だよ・・・」


 シミオンは家に帰りたくない。俺は家に居たい。正反対だが、家族の事で悩む、という、同じ悩みを抱えている。親近感が・・・。
 ちなみに、今は食堂。其処でアンジェリカ先生と出会ったわけだ。という事で、俺はリリィを召喚し、一緒にお昼ご飯を食べる。


「何の話を?」
「いや・・・。何でもない。ほら、食べよう」
「あ、うん!」




 二週間経った、二時間目が終わってすぐ。まだアンジェリカ先生が教室に居る時。急にスマホが振動した。学校に居ると分かっているのに、電話を掛けてくる奴なんて、誰だろう?
 スマホを取り出し、真っ青になった。姉さんから・・・。


「ね、姉さん?」
「ユリ、エル? 大丈夫・・・?」
『ユリエルくん・・・。あはは・・・。ユリエルくんの、言ってたとーりだねぇ』
「ねえ、さん?」
『あいつ・・・。とんでもない奴だったよぉ! 私の事見捨てたよぉ! もう、誰も信じらんないよ!』
「ね、姉さん! お、落ち着いて・・・!」
『落ち着いてっ?! この状態で誰が落ちつけるって?! もうどうしようもないのよッ! 分かるでしょ! ・・・』
「ねえ、さん?」
『ユリエルくんに当たっても仕方ない。ごめんね、最後まで! あはははははははっ!』


 姉さんは、壊れている。俺はすぐに電話を切り、母さんに電話を掛ける。
「母さん」
『ユリエル? こんな時間にどうしたの? 学校はどう・・・』
「今すぐ姉さんの部屋に!」
『え?』
「今すぐ姉さんの部屋に行くんだ、早くッ!』
『え? え、ええ』


 すぐに階段を上がる音がする。続いて、劈く様な悲鳴。何かの落ちる金属音。予感は的中。凶器はあの時と同じ、ナイフだろう。
『ユルシュル! 一体何をしているの?!』
 姉さんが何と言ったのかは聞きとれない。が、そんな事はどうでもいい。


「母さん・・・。姉さんを見張っていてくれッ!」
『ユリエル?!』


「アンジェリカ先生、早退させていただきます。ついでに、外出許可を」
「・・・分かりました。気をつけて!」
「ごめんな、みんな! リリィ、帰還だ!」


 俺は荷物をまとめて走り出す。寮に一度戻り、ありったけのお金を持って駅へ向かう。幸い、すぐに出発するようだ。切符を買って新幹線に乗る。遠いのが悔やまれる。
 三時間掛けて家のある街に着く。其処から乗り換えれば最寄り駅に着く。もしくはバスを使っても良い。・・・電車の方が早いはずだ!




 鍵を解き、扉を開く。ゾクッとするほど静かだ。姉さんの部屋は防音か? とか冗談を言っている場合ではない。
 父さんはもう仕事に戻っている。この家に居るのは姉さんと母さん呑み。静かなのは当然なのかもしれないが・・・。でも・・・。姉さんはパーティに入って相当鍛えられている。母さん、暴れられたりでもしたら・・・。
 とにかく、姉さんの部屋へ急ぐ。


 怖いが、そういう訳にもいかない。そっと扉を開けた。
「姉さん・・・? 母さん・・・?」
 返事が無かった。びっくりして中に飛び込む。
 ・・・。ああ。大丈夫、ではないけど・・・。姉さんは、目の前にナイフがある状態で蹲っている。怪我はなさそうだが、髪がヴェールの様に覆っていて、顔が見えない。母さんは、ベッドに座って涙を流していた。


「姉さん。母さん」
「! ユリエル?」
「母さん・・・。俺が何とかするから。母さんは下に降りて、紅茶でも飲んで」
「・・・。任せたわよ」


 さて、姉さんか。俺はそっと姉さんの肩に手を乗せる。
「大丈夫か?」
「ユリエルくん・・・。わざわざごめん」
「俺は平気だ。姉さん、大丈夫か?」


 姉さんがそっと顔を上げた。失望に染まった顔で俺を見つめる。俺の顔を確認すると、静かに涙を流す。その状態で暫く迷っていたが、姉さんは俺をぎゅっと抱きしめた。俺は姉さんの頭をそっと撫でる。


「酷いよぉ・・・。もうヤダ・・・。私、どうしていいのか分からない」
「姉さん・・・。大丈夫だ。大丈夫。俺は、絶対に姉さんの味方だ」
「分かってるよ、分かってるけど・・・。フィオン・・・。フィオン・・・。うわあぁッ!」


 姉さん・・・。俺まで泣きそうになっちゃうよ・・・。だから、俺も強く姉さんを抱きしめる。
 どうしていいのか分からない。この状況で、姉さんを慰める術がない。ほんっとうに、俺、情けないな。


「おやおや、どうしたんだい、ユルシュル」
「! フィオン・・・?」
「な、何故お前が此処にっ?!」
「鍵が開いてたから。っていうか、扉も開いてたよ」


 まじかっ?! って違う! そう言うんじゃなくて! 俺は黙ってフィオンを睨みつけた。
 フィオンは笑って両手をひらひらさせた。挑発してるのか? もっと強く睨む。


「何か勘違いしてるんじゃない? 俺が何したって?」
「? どういう事だ?」
「どういう事になってるんだ? まず」
「あ・・・。えっと・・・? お前が、姉さんを、裏切った・・・?」
 あれ、確かによく分からないな。詳細聞いてないし。


「俺は別に、ユルシュルを裏切ったつもりはないよ。ただちょっとからかっただけさ」
「そんなわけ・・・っ!」
「あるよ、君が俺とユルシュルの会話を聞いたわけじゃないだろ?」


 ま、まあ・・・。でも、それなら、なんで姉さんが泣いているんだ。相当発狂してただろ? そう思ってフィオンを睨むと、どうやら隠し通せないと分かったらしく、さっきまでの笑顔を解いて俺たちを睨んだ。


「あぁ、そうだ! ユルシュルにはもう飽きた。ヤらせてくれないし。男ってのはそういうもんだろ?」
「な、何を・・・」
 俺が歯をギリリと鳴らす。フィオンはきっとおれを睨みつける。


「お前だって分かるだろ? 俺はユルシュルの体目的だったんだよ! 最初みたいに、疑ってりゃよかったのになぁ?」


 そうだ・・・。信じてしまった俺が信じられない。今更後悔したところで遅い。涙が出てくるくらい後悔しているが、それでももう遅い。姉さんを守るように前に立つ。
 と、後ろから声が聞こえた気がした。振りかえると、姉さんがボタンに手を掛けていた。


「ふふ・・・。フィオンの理由、それだけ? ヤれば、続けてくれるのね?」
「まあ、そのつもりだ。俺を楽しませてくれるならな」
「そ、そっか。ユリエルくん、部屋から出て」
 ・・・。断れない雰囲気。俺は黙って部屋を出た。


「ユリエル・・・。任せてごめんなさい」
「?! あ、母さん」
「もう仕方ないわね・・・。し、下に降りましょう」




 うーん、何かが違う。上からガタガタ凄い音がする。これ、なんか違うよな? 何やってるんだろう。
 そんな事を考えていると、扉の開く音がして、階段を下りる音。それから玄関から扉の開く音。
 フィオン、帰ったのか? その後、上から階段を下りてくる音。姉さんだ。


「ユリエルくん・・・。わざわざごめん」
「姉さん、大丈夫、か?」
「うん。大丈夫だよ。学校は?」
「休んできた。姉さんが、心配で・・・」
「あ、その・・・。ユリエルくんが来てくれて、助かったよ。じゃなかったら、私、立ち直れなかった」


 姉さんは俺を抱きしめた。また、涙が零れ落ちる。こればっかりはしょうがない。俺も静かに涙を流す。


「もっと強く、注意すればよかったな」
「ううん・・・。私が悪いの。わかんなかった。騙されちゃった・・・」
 もう、姉さんは泣かせない。そう、強く誓った。


「ユリエル・・・。いつ帰るの?」
「すぐ帰らないとな。三時間掛かるんだ」
「じゃあ、お昼ご飯食べていきなさい。冷めちゃったけど」


 食べている間、誰も、何も喋らなかった。喋る事が無かった。もう、今更、何を言っても遅い。
 昼食を食べ終わって少しすると、俺は荷物をまとめた。母さんが俺にお金を握らせた。


「わざわざごめんね。これ、交通費。足りるか分からないけれど」
「ああ。じゃあ。また、何かあったら呼んで。すぐ来るから」
「うん、ユリエルくん、またね」




 学校に帰ると、当然質問攻めにあった。
「どうだった?!」
「お姉さん、大丈夫でしたか?!」
「ちょ、ま・・・っ! ちょっと待って」


 俺は全員を落ちつかせて順を追って説明する。少しマイルドにな。
 特に、シミオンとアンジェリカ先生の落ち込み度が高かった。


「僕のお兄ちゃんがごめん・・・。ほんと、どうしてそうなっちゃうかなぁ」
「シミオンのせいじゃないし・・・。なんか、ごめんな」
「いや、ユリエルくんは何も悪くないでしょ」
「そう言ったら、シミオンだって何も悪くない」


 このままだと終わりそうにないから、俺たちは二人とも黙って話を切る。
 それから、アンジェリカ先生に視線を向ける。アンジェリカ先生は額に手を当てて溜息をつく。


「はぁ・・・。ユルシュルさん、あの時に戻らないと良いんだけど」
「・・・えっ?!」
「ああ、そうだ。ユリエルさん、気付いてないんでしたっけ?」
「何が・・・?」
「私たち、前に会ったことあるんですよ?」


 えっ・・・? ああ、そうだ。この前、もしかして、と思ったが・・・。
「私、ユルシュルさんのカウンセラーとして、ルーズヴェルト家にお邪魔させていただいてるんです」

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